お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鬼交譚1

【29150文字】
ジノザキデーですね(呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン)。MEMOでも書きましたが以前書いてた中編?を今日から連載していきます。はい、まだ全然終わっていないんです。
鬼とか出てきますがオカルトというよりファンタジー寄りの転生ものです。環境は原作のものを使っていますがほぼ創作に近いくらい特殊・虚偽・ねつ造です。ご留意ください。

20200923
投稿単位を考え直しある程度まとめて再UPしてみました。これまでの投稿文は赤崎幼児期~再会、ジーノ幼児期~、新規分が初エチシーン含む今現在

 それは物心ついた頃から、俺の周りに出没していた。お迎えの来ない黄昏時。風邪でうなされるベッドの脇。
(ああ、また。今日はあんなところにいる)
 俺をじっと見ているその存在は、遠くに、近くに、空気のように、楽しい時にはいないというのに、不調の時には必ず見えた。
(またこんな時に……多分、弱みに付け込む悪魔か何かだ)
 ひとりの時ほどいたそれを、いつしか言うのはやめてしまった。人には見えず証拠もなくて、気味悪がられるだけ損だからだ。
(本当にみんなの言うとおり取り憑かれてたりしたら……いや、お、俺はそんなもん、怖くなんか……)
 その割にとても穏やかに微笑む黒髪。
(そう、怖くもなんとも……別に……全然……)
どこかしら違和感のある空気とオーラ。全身に宿す不思議な光。
(なんでそんなに綺麗、なんだ……ろう……)
励ますように寄り添う影。無視しきれない魅惑の存在。

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 あれと意思疎通が出来たのはたった一度。ある日、とうとう気になり過ぎて、思わずそれにこう問うた。
「おい、あんた一体なんなんだよ」
あれは意味を理解して、胸に手を当てて口を開いた。
『~~~』
声は何も聞こえなかったが、確かに口はこう言った。
「……鬼?あんた、鬼なのか?」
『~~、~~~~』
「鬼ってそんなこと……なら証拠に角でも見せてくれよ」
『~~?~~~~、~~~』
「やっぱりそんな顔して虎縞のパンツとか、って……なぁ、おい、待っ……」
話し始めてほんの数秒。みるみる姿が透け初めて、いとも簡単に消えてしまった。
「こらッ、逃げんのかよ、勝手だぞ?」

*

 スクールでプレイがままならなくて、怒った挙句大喧嘩。気持ちがささくれたそんなある日も、出てきた鬼に声を掛けた。
「なぁ、あんたさぁ、ちょっとだけ聞いてくれよ俺の話」
ミュートをかけた動画のように、俺達の回線は繋がらない。俺を見て鬼はただ笑って、何かを口にしながら消えていった。
(……ああ、やっぱり駄目だったか)
 意思疎通は幼児期から何度も試みていた。その度、いつも鬼は消えた。そろそろ低学年の終わる俺は、鬼の正体がいわゆるIF(イマジナリーフレンド)であることをすでに知っていたので、消えた鬼に向かってこう言った。
「迷惑なんだよ。いつまでもそうやって出てこられると。俺はもうそんなガキじゃねぇっつうの」
まるで八つ当たりでもするかのように。そして自嘲するかのように。でも。
「……」
心細さが胸に広がる。俺は鬼に癒しを見ていて、求める思いが消せなかった。
(あれは自分で作る幻の味方。己の弱さと不安の象徴。わかってるよ、そんなこと)
年の割には早熟と言える理性と精神、だからこその俺の唯一の。
「……出て来いよ。もう話しかけたりしないから」
寄る辺ない自分の拠り所に、今日は数年ぶりに声を掛けた。そうして結局悲しみに暮れた。意識的に鬼を出せたことはない。
(まぁ、それが出来れば苦労はねぇよなぁ)
コミュニケートなんて夢のまた夢。そこまで無邪気な子供には、到底なり切れるわけもなかった。ただ求め、待つより術がなかった。無意識の幼さが発動するまで。

*

『~~~?』
(はぁ……だから何度も言ってんだろ?こっちにはなんにも聞こえねぇし、リアクションすればあんたは消えるし)
鬼は自分の胸に手を当て、何かを伝えようと話をしている。俺は滑稽紙一重ながらオペラ歌手の如きいわゆるエレガントな仕草をそれとなく盗み見るのが好きだった。
『~~~?』
子供のように無邪気な笑顔で、俺を見ながら、時々、アーとかイーとか繰り返している。
(だからわかんねぇっつってん……本当にこの鬼って意味不明……)
こんなことで今日も気が晴れてしまう。まだまだママゴト遊びから卒業できない。もうすぐ高学年になるというのに。

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 最近、夢見が悪くて眠りが浅い。成長に睡眠は不可欠と思うと、焦りでますます眠れなくなる。
『~~~~?』
(だから、わかんねぇって……)
トップチームからやってくるすえた空気が、俺の気持ちを荒立たせていた時期。心が急いても成長は徐々で、フロントには俺の信念など届きもしない。
(俺は達海さんのようにでっかく広く生きたいんだ。でも……)
人は反抗期だとか世間知らずだとか、くだらない箱に押し込めたがる。そんな中、言葉も通じない目の前の鬼は毎日のように出現していた。
(どうってことない顔を意地でもしているけど……はっ、あんたってバロメーターわかりやすいな)
『~~~、~~~』
俺は自分が思う以上に、いっそ笑えてしまうほど疲弊していた。
(本物の鬼、いや悪魔とかの類だったとしたら、魂売ってワンチャンとか)
と、おかしなことを考えてしまう程度には。
(取引すんの、本当に待ってんのかな……だから最近毎晩……それともただの夢なのか……)
印象しか残らないその夢の中で、鬼は実体を持っていた。声を持ち、腕を持ち、体を持ち、ふんわり羽毛のようにそれでも鋼のような強靭さで、俺を丸ごと包んでいた。その目はいつもとははっきり違って、身動き一つ出来なかった。
「だから、あんた一体なんなんだ?」
『~~~』
繰り返される俺達の断絶。
(ああ、ほら、やっぱり……なんでだよ)
消えていく鬼に歯ぎしりをしても、なんの意味もありはしない。でも、そうでもしないといられなかった。憤りが噴き出すように毛穴から零れて、俺が俺を潰していく。
(なんで、こんな……)
 日々こんなにも苦しいのに、それを誰にも言えなかった。友にも。親にも。チームにも。そうして今日も鬼は現れて、なのに縋れば消えてしまう。
「意味わかんねぇよ……もう嫌なんだ、こういうの」
最初は小さく愚痴のように。
「んだよ……鬼は出てくるし、居なくなるし?頭おかしいのかって不安になるだろ!?」
気付けば涙が浮かんでいた。
「でも、俺も十分まともじゃねぇけど、みんなも頭おかしくね?くっだらねぇことであちこちもめて。俺達ガキの前で馬っ鹿じゃねぇの!?」
感情の決壊に自分で驚きながら、俺は混乱の中にいた。何故なら俺は俺自身を冷静な人間と思っていたのだ。それが今、子供みたいな文句を言って、涙を零して鼻を垂らす。
「嫌だ……サッカーを嫌いにもなりたくないし、誰かを憎んだりもしたくない……」
子供は何もわからないと大人は思う。それでも、子供には見えないものが見える。
「わかってる。みんな自分の都合で生きている。俺だってそうだ。誰か主犯がいるわけじゃない、わかってるんだ頭ではっ……みんなが被害者で、少しずつ加害者で、でも多分悪意なんかなくそれぞれが一生懸命、だからもう、だから……わかっているから……うっ……」
みんな各々チームを思って、味方の中で傷つけあって。
「違うんだ。そういうんじゃないんだ……歯車が……ただそんだけの……たまたまそういう時もあるってそれだけの……知ってる、俺は、理解している」
必死で自分を説得してきた言葉。
「壊れたままだなんてあり得ない……必ずうちは抜け出して……な、そうだろ?俺は自分を信じて……る」
大事なもの(チーム)が壊れていくここ数年の、無力と絶望とちっぽけな努力と。
「お願いだから信じさせて……なんとかしなきゃいけないんだ……だから……」
そう、こういう時こそ必要な鬼。唯一、弱い俺を知る存在。
(誰か……助けて……これ以上潰さないで、壊さないで……)

*

(朝……?)
 目覚めた時、体は異様に重く、そして不気味なくらいにぎこちなかった。
「夢?どこから……?あれは一体……」
見たこともない目で俺を見つめて、鬼は確かに俺に言った。
「『大丈夫』……?」
鬼は今、ここにいない。
「大丈夫って一体、何がだよ……全然、大丈夫なんかじゃ……ねぇよ」
呪いをかけられたように体が重い。
(ああ、そうか、そういうことか……)
授業で習って知っていた。面倒くさいと舌打ちをした。
「……んだよ、これ。きったねぇ……」
精通を迎えた、そんな気怠い朝のこと。

*

 それきり、鬼は姿を消した。
(成長して……あれを見る力を失った?)
俺の心はゆらゆら揺れた。何故なら、助けてと鬼に掴みかかり、あれが笑った記憶があった。
『ん、〇〇〇〇、わかっているよ』
ぞっとするような美しさだった。見た瞬間、ガチガチに強ばっていた全身の力が、鬼に奪われていったような気がした。崩れる俺を軽々と支えていて、暗示か祈りかはたまた呪いか、深く痺れる声でこう続けた。
『……大丈夫。もう少し待っていて』
見れば消えてしまう綺麗な鬼を、あんなにも見たのは初めてだった。
『聞こえて。お願い、ねぇ、聞こえる?』
燃えるような、凍るような、もどかしく切なく苦しいような。見れば見るほど目が逸らせず、でも警鐘のような耳鳴りはどんどん強まる。
(駄目だ……これ、ガチでヤバい……?)
眩暈でぐるぐると世界が回る。血というよりも命そのものが、逆流しながら駆け巡る。
(やめろ、嫌だ……俺に何をし……)
いわば魂を乱暴に鷲掴みにされるような、身の毛のよだつ明確な恐怖。戦慄の大波に飲まれる中で、無力さに泣きつつ悲鳴を上げる。
(嫌だっ、離せっ!俺を無理矢理こじあけんじゃねぇ!このっ、馬鹿、力……)
『怖がらないで、〇〇〇〇、顔を上げて?』
大丈夫だからと繰り返されて、それももう狂乱の中では聞こえない。
(あ、駄目っ、痛い、やめっ……、これ以上っ、あ、あっ、やっ、怖い、怖い!)
『聞いて、聞こえて、ねぇ〇〇〇〇、信じて……咲く前に枯れちゃう、ねぇ、僕が助けてあげるから』
(お願、あっぁあ!許しっっっ、いやあぁああぁぁぁっ!!)
『ごめんね、少しだけ我慢……して……』

*

 何度も何度も言い聞かせる。
(違う。色々こじつけるな。ただ単にママゴト遊びから卒業しただけ)
それでも感じたものは未だ消えず、ただ歩くにも苦心していた。
(駄目だ、よたつく……くそったれ……)
あの日の不気味な出来事に関して、一日も早い納得と解釈が必要に思った。
(違う。呪われたんじゃない絶対に……最後まで負けなかった、はず……だから……)

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 もともとスポーツ心理学の本をよく見ていたが、二次性徴期関連などそれ以外の文献も色々読むようになった。
(なるほど、鬼の正体が子供の俺であるなら、消えてでっかい穴が開いたと……)
論理的に納得できる記述もあり、でも相変わらず心の座りは悪い。
(どれ読んでも結局は『時間が解決する』ばっかじゃねぇか。それが待てねぇからあれこれ読んでるのに)
行き詰まり、鬼の本も手に取ってみたり。
(へぇ、中国では死んだ霊のことを鬼って呼んだりするのか……うわ、なんだマジかよこれ)
こちらにも不思議と思い当たる記述がちらほらあった。
(人恋しさに情緒纏綿たる美人に化けて情交を求めてくる?陽の気を吸われて最後には死んでしまうこともって、おいおいシャレになんねぇぞ?)
 自慰のやり方と気持ち良さは理解済みだが、あくまでも物理的な感覚だ。
(そうか……鬼交って死んでもいいって思うくらい、そんなに『いい』ものなのか……)
あの夢が一種異様な何かであったのは確かだった。鬼が祟る行為と仮定しても、変に納得出来る夢だった。
(あの鬼、本当に俺を殺そうと……?でも……)
ここでこの本を読んでいる今、鬼は俺の傍にはいない。
(『大丈夫』って、あれ、諦めたっていう意味か?でもそれなら『待て』って一体……待て、待てって、本も鬼も、結局はそればっかりかよ)
ひとりで考えるのは好きだった。そこに鬼がいたからだ。
「ああ、駄目だな、疲れて集中が続かねぇ」
ただひっそりと俺を見ている存在がいるだけで、頭が簡単に整理できた。
(早く今に慣れなくちゃ……多分、あいつは二度と来ない……)

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(あれはいてはいけない存在……それが消えて万々歳、あとは踏ん切り付けて忘れるだけ……結局それ以外ないってこと)
 強くなるために、日々やらなければいけないことが沢山ある。
「チームが壊れて、鬼が消え……だからそれが何なんだ?思い悩むこと自体、ロスでしか」
部屋の時計の秒針を眺め、この一瞬も時が進んでいることを認識する。
(自分の現実から目を逸らすな。悩まず、考え、迅速に行動)
時間は敵でも味方でもある。俺はそんなことを考えながら、入念に寝る前のストレッチをした。

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 俺は随分と変わってしまった。変わったというよりも、まともになった。鬼が消えたことに空虚さはあったが、深く思い悩む時間が随分と減ったのだ。よくも悪くも端的になった。言葉はもちろん、プレイもだった。でもそれはむしろ利点に感じた。すべての反応がシンプルになった。
(なんだ、随分と気楽になったな。心なしか以前よりも自由に動けるようにもなったし)
鉛を飲み込んだような重たさが消えると、反対に体を感じぬくらいに思うとおりに操れた。一皮剥けたように成長したとコーチに褒められることも増えた。大化けしたとさえ時に言われた。
 波乱と動乱の時期が過ぎて、チームは低迷という名の安定を手に入れた。ジュニア世代はもう栄光を知らない。ある意味牧歌的なこの空気は、惰性的なぬるいもがき。静かな蟻地獄の巣のようだ。V東京の勢いはとどまることを知らず、うちのスタンドはガラガラで、全体的に荒廃は進み、それにこそみんなが慣れていく。
「なにが『大丈夫』だよ、あの嘘つきが」
ユースへの昇格はあまりにも当然とも思える結果ではあったが、うんざりすることもなくはなかった。
「『待ってろ』って一体何をだよ」
当然鬼のせいにしながらも、自分に対しての失望だった。この年になって一度も代表招集への声はかからず、思い描く自分の未来と現実があり得ないほど乖離している。痛みは確かに存在するのに、さほど苦しみが感じられない。
(なんだか、随分と俺も強くなっ……いや、鈍感になったのか?)
耐えられないはずのこの現実は、不思議と一切のリアリティがない。
(……そう、きっと『大丈夫』。俺は強くなったんだ。ほら、そのおかげで遠くが見える。日々を重ねて歩くだけだ。そこに一歩が届くまで)
ひとりの孤独に耐えるために、自分で作った自分の友人。迷いと、不安と、弱さの塊。丸めて、固めて、消してしまった。心は常に冷徹で強靭。必要だった喪失の穴。そういう黒歴史も人にはあると、思えるくらいに昔の思い出。

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「あぁ!?」
 いつものユースの練習前。俺は新しく入団してきた選手達の一人に対して、思わず大声をあげてしまった。
(うっそ、だろ……?)
小さくサーセンと頭を下げて、目を疑いながらそれを眺める。並ぶ俺達の前に立って、順に挨拶が始まった。それでも、にわかには信じられず、ただただ立ち尽くして見つめていた。
 男は開口一番トンチキに挨拶。
「ルイジ吉田。愛称はジーノ。でも皆僕を王子って呼ぶよ」
呑気に笑ってウインクをして、どうぞよろしくと両手を広げた。その仕草はオペラ歌手さながらの大仰さで、初見の面子は呆然とし、当然空気は凍りついた。

「なんか強烈なのが入って来たな」
「おう、やべぇよな」
「でもあれが新しい10番なんだろ?」
「おいおい、大丈夫なのかようちのトップ」
ユースのメンバーの反応は当然のものだが、俺はまるきりそれどころではない。
(あいつ、さっきなんて言った?)
背中にびっしょりと汗が浮かんで、息することすらままならない。
(『王子』?違う……!いやあれは確かに……)
滑稽に思えるほどのあの優雅さ。存在の違和、惹きつける魅力。
(あれは……絶対に俺の『鬼』だ)
俺が見紛うわけなどなかった。