二人の日常、二人の秘密1
【6171文字】
文体は飼い犬が「将来俺が(人気出過ぎちゃって)コラムとかラジオとか動画とか始めることになっちゃったら」と鼻の穴膨らませて日常で練習してみたっていうシチュを想定しています。
流されやすいのすっごくかわいい。意味も分からず抱かれて欲しい。あと飼い主もべろべろになって欲しい。没箱行きだったいろんな部品的ネタを勝手気ままに継ぎ接ぎした連作です。
どうも。俺の名前は赤崎遼。サッカー選手をやっています。
「それでさぁ、ねぇ聞いてるの?」
そしてこれがうちの、あぁ、失礼、日本のプロサッカーチーム『ETU』の10番、ルイジ吉田選手です。周りに王子と呼ばせてみたりと変なところが多々ある人です。
「ねぇー、ザッキー」
ザッキーというのは俺のあだ名で、でもさっき言ったように俺の名前はザキと濁らず……
「……って、あー!ちょっと王子!そのプリン、俺のッスよ!?」
「声でかいよ、そんなに怒鳴らなくても」
「貸してください!嘘だろ、もしかしてもうほとんど?くっそ、俺それ食うの楽しみにしてたのに!」
「だから開ける前に何度も確認したよ?なのになんだかブツブツ一人で喋って、全然返事しないから」
因みにピッチではあまり動きませんが、私生活では機敏な人です。随分歯がゆいことですが、この通り本気の俺を躱すなどお手の……
「ちょっと!王子それ俺にっ……、あーもう!俺、ここ最近それをモチベにっ」
「知ってるよ?紅白戦でアシストかゴール決めたらって感じでしょ?」
(届かねぇっ!あとちょっとなのに!)
「でも今日なんか特別ぐちゃぐちゃだったじゃない?」
「っ!」
「そういうやり方不向きと思うよ?我慢しないで、ほら、食べちゃえばいい」
プリンをプルプルさせながら、あーんと、スプーンを差し出されると、頭にくるやら、涎が出るやら。変な人と関わり合うのは、色々と気苦労があるものなんです。
「美味しい?ふふ、良かったね」
大口空けて頬張れば、ニコニコ笑って上機嫌。王子は奇人なだけでなく、基本、人の話を聞きません。
(うまっ、なんだこれ口ん中で蕩けてく)
そもそも、これは王子の俺へのお土産です。消費期限はたったの五日で、でも残り一日ありました。そういう感じで文句をつけると、再びスプーンを寄越すので、じっくり味わう暇もなく、結局それを食べました。
「あんたのそういう」
「ついてるよ」
「?」
口端を指で拭われて、思わずドキリとしてしまいます。この人は本当に変わっているので、こういうことをするのです。
「ちょ、何スか」
指先のプリンを舐めろと言われて、ほとほと弱ってしまう俺。
「だって、プリン、君のだし」
「いいッスよ、そんな。王子それくらいティッシュで」
薄っすら浮かぶ王子の微笑み、これは頑固の印です。
(くそ……この人いい加減しつこ……)
仰け反り指から逃げますが、王子は微塵も譲りません。是非こういう感じのしつこさをピッチで見せて欲しいのですが。
(ったく、なんだよ……このキモいシチュエーション……)
とても幼稚な人なので、周りの譲歩が不可欠で、大人な俺が折れるしかなく、溜息をつくのも慣れました。
「もう、はいはい。わかりました」
渋々口を小さく開けても、無理強いをしてくることはなく、おずおずぺろりとそれを舐めても、じっとこちらを見ているだけです。
「……」
破れかぶれの気持ちになって、パクリとそれに食いついて、全部舐ってやりました。
「以上!はい、おしまい!」
腹立ち紛れに鼻息荒く言ってはみても、意味がないのはわかっています。だって相手は王子です。
「わっ、何すんっ、王子!!」
なんと、濡れてしまった指先を、俺のシャツで拭きだす王子。あんまりといえばあんまりですが、王子はこういう人なのです。
「……ほんと、そういうとこマジで信じらんねぇ!」
「いいじゃない、どうせ洗濯するんだし」
「そういう問題じゃっ」
「わかったよもう」
バンザーイと言われて服を掴まれ、大暴れしても全てが無駄です。だって相手はry
「あ、ちょっと!やめろって言っ、」
俺をソファに難なく倒して、馬乗りになって笑っています。
「親切だよ。これでもう服は汚れない」
悪ノリにスイッチが入ってしまうと、暴走列車よりもたちが悪いです。ブレーキなんかは効かないし、勢いがおさまるまで待つしかなくて。
「はい、あーん」
二本の指でプリンを掬って、うっとり笑って差し出してきます。カラメルがポトポト落ちていますが、俺が食うまでシカトのようです。それはそれは楽し気で、当然俺は呆れるばかり。
(何がそんなに面白いんだ……)
大切なのは冷静さ。仰向けなので嚥下は慎重。俺は大人で柔軟なので、付き合ってやれるのだと思います。
「美味しい?」
「……まあ。でもそれより自分のペースでゆっくり食いたい」
「仕方ないよ。目標達成ならずだし」
「あのですね。消費期限は明日でしょう?」
「まあね」
「本当なら明日までワンチャンあっ」
「暴れないでよ、ソファが汚れる」
首筋に垂れるカラメルソースを、指でぬぐわれゾクリとします。くすぐったがると嬉しがるので、ここは忍の一文字、必死に我慢。
「あれ?あと一口か」
あと一口の辛抱と、ホッとしたのもつかぬ間のこと。
「っなぁあああああ!?!?!」
最後の一口、大事なプリンはするりと王子の口の中。
「まあまあイケるね。このプリン」
「ひっでぇ!よくそういうこと出来ますね!?俺に買って来たくせに泥棒!」
「怒鳴らないでよ、意地汚いなぁ」
ぺろりと自身の唇を舐め、薄っすら不気味に浮かぶ笑み。
「それとも、おねだり?下手だなザッキー」
「は?何言っ……」
「もっと落ち着きが必要じゃない?サッカーのプレイも、甘え方も?」
「ちょっ……」
彼の名前はルイジ吉田。自称俺の飼い主です。とてもとても変わった男で、その唇はソフトで、そして。
「ん……」
舌先はまるで生き物です。体の力が抜けてしまいます。色々なっていないよ?と、王子は俺を躾けます。
「……んっ」
その指先は息吹のようです。這いまわる感触に総毛立ち、命が芽生える気さえします。押しどかそうにも震える腕は、いつしかその背を掻き抱き、縋るくらいしか出来なくなります。頭の中は真っ白で、王子の笑顔がぼんやり見えて、委ねることを促され、瞼は静かに閉じていき。
「今日はどうする?ここでする?」
こうして王子が耳打ちする頃、俺は既に俺でなく、それを待つしか出来なくなります。
「んー、とりあえず軽くシャワーで流そっか」
「……」
「おいで。それとも抱っこで連れていく?」
