【GKワンライ】秋の夜長~ザキ+バキ~
【1224文字】
故郷からも東京からも遠い場所への初遠征でちょっとしたホームシックにかかってしまった椿に対して同室の赤崎がした事は。先輩後輩ものです。GKワンライ2014/10/31「秋の夜長」に挑戦したときのお話。
実は冬に昇格した椿が秋に初遠征とかあり得ない!って事を書いてる途中で気が付いたものの後戻りする時間がなくアワワ。初挑戦にて大破綻もそのうち糧になりましょうか?
試合後の興奮冷めやらぬ秋の夜。
コロコロと鳴くあの音がないと上手く眠れないのだと椿は言う。その表情には明らかに同室の赤崎に対する申し訳なさが浮かんでおり、こんな事なら声など掛けずじっと寝たふりでもしておけば良かったか、と赤崎は気付かれないようにとヒッソリ溜息をついた。
「お、俺その辺ちょっとブラついてきます。だからザキさんは気にせず寝てください」
「ああ、それなら一緒にコンビニ付き合えよ。俺もちょっと小腹空いたって思ってたとこだから」
「え?あの……」
「行くぞ」
その街はトップに上がって間もない椿にとって初めて訪れた場所だった。東京程ではないが夜も賑やかな空間。椿はおずおず赤崎の後をついていく。
(あ、また……)
ズンズンと早目の歩調で歩く赤崎はもう何件もお目当てであるところのコンビニを通り過ぎた。でも椿はその事に触れる事も出来ずに、ただひたすら不機嫌そうな男の後を追う。
「あー、どうかって思ったけどやっぱ駄目そうかな」
赤崎がそう言って足を止めたのは立ち並ぶビルに囲まれた小さな小さな公園だった。その中央に位置する街灯の下にある、たった一つしかないベンチを見ながら赤崎は、ん?と合図をしたのでどうやらそこに行こうという事らしい。
ハッと気が付き何も言葉を発しない赤崎の横顔を見やると、男はどこか遠い目をしてぽつりと椿にこう言った。
「俺は街育ちだからお前とは反対に」
「……」
「ガキの頃に行った林間学校ん時とか、森と虫の声しかねぇ夜がなんか妙に心細くて」
やはりそうだったのか。と椿は思う。赤崎は椿の為の秋の夜を一緒に探しに出てくれたのだ。
「日中賑やかだった分だけ、なんかさ。急に“一人だ”って気がしちまったっつーか」
「ザキさん……」
「ま、少し違うかもしんねぇけど、お前の眠れねぇ感覚は全くわかんなくも。うん」
そう言いながらベンチに座る赤崎の横に、少し離れて椿も座る。気持ちが一杯で何も言えない。ただ、二人並んで黙って、車の行き交う街の音と、ビル風に煽られてざわめく木々の音に耳を澄ませる。
5分もそうしていただろうか?何も言わない椿に向かって、もう一度赤崎が話しかける。
「やっぱいねぇな」
夜も明るい街中の公園。やはり椿の眠りを呼ぶ為の虫鳴く秋はそこになかった。
「しゃーねぇ、帰るか」
立ち上がりかける赤崎に向かって椿は小さく返事をする。
「あ、も、もう少しだけ……」
小さな小さな名もなき公園。椿はそこが街育ちの赤崎と山育ちの自分の接点の世界に思えてきたので。
「あと3分くらい、居ていいですか?そしたら……」
オタオタとしながら必死で思いを伝えようと。するとそれを見ていた赤崎が、フッと鼻で笑ってクシャリと椿の頭を撫でた。
(ああ、ザキさん、ありがとう)
たった1年先輩の。彼のさりげないその優しさと、頼もしさ。この夜があれば、もう眠れぬ夜長は訪れまい。椿は締め付けられる胸の痛みを抱えながらも、今ある音の全てを心に刻み込もうと思ったのだった。
