二人の日常、二人の秘密2
【8745文字】
飼い主目線の続編は前作よりも時系列が過去から始まっています。基本のんき。でも飼い犬があまりに厨二っぽいノリなんでちょっと笑ってんだけど変な意味で影響受けちゃっている的な?日常の細かいのを妄想して書くのは楽しくて、だらだら長くなりがち。
やあ、僕の名前はルイジ吉田。愛称はジーノ、もしくは王子。今日は君達の期待に応えて、可愛いうちの子を紹介するね?
「何スか一人でニヤニヤと」
見て?しゅっとしているこの顔立ちを。全体的にはまだまだ粗野。けれど素材はいいと思わない?可愛い可愛いうちの子なんだ。愛称はザッキー、よろしくね。
「王子?ったく、無視かよ」
それなりに身なりも気にする子でね。綺麗好きだし、おしゃれも好きで、散髪なんかもこまめだよ。頑張ってるのが伝わってくるけど、まあ、いわゆる、そうちょっぴりね?率直に言うとセンスがね。プライドが高いタイプのようだし、上手に褒めつつ学ばせて、のんびり育てていく予定だよ。まだ飼い始めたばかりでね。馴らし飼育の最中なんだ。
「ま、別にいいッスけど」
おや、あくびをしてるね。眠たいのかな?可愛いね。
「お腹膨れたら早速おねむ?」
僕がこうしてかまってあげると、すぐに仏頂面をする。この顔、すっごく面白い。いろんな表情をするんだよ。
「なんなら今日も泊まっていけば?」
明日は練習も午後なので。きっとザッキーもお利口だから、流れを理解し始めてるよ。
「いや、でも」
「ん?」
まぁ、関わり方にはコツがあるんだ。気持ちをしっかり尊重しながら、軽く、そう、極めて軽く、さりげなさが重要なんだ。ほら、そうっと見てごらん?そこからもちゃんと見えるかい?難しい顔をしているけれど、ほんとはすっごく嬉しいんだよ。遠慮があったりするのかな?律儀で固い?礼儀正しい?律する心も魅力のひとつ。僕はそんな風に解釈してる。
「だってこの前泊まったばかりで」
だとか、
「眠いけど運転できないほどじゃない」
とか、この後もあれこれ言い出すけれど、んー、じゃれてるだけなんだ。甘えることが不得手でね?角が立つような失言もする。僕は寛容なタイプだし、笑ってのんびり付き合ってるよ。練習と訓練は積み重ね。不器用なとこ、下手くそなとこ、そういう部分もある意味醍醐味。手間がかかればかかる子ほど、すっかり懐くその日を思って随分楽しい気持ちにもなる。頭脳ゲーム?ジグソーパズル?確かにちょっと似ているかもね。根気はあまりない方だけど。
「ほら、そうと決まったらシャワー浴びたら?それともお風呂沸かそうか?」
「あ、沸かしていいッスか?俺がやるんで」
「そ?じゃあ好きなシャワーボム選んでいいよ」
「マジッスか」
上手に喜びを引き出した時、とても充実した気持ちになれる。立ち去っていくザッキーがほら、聞こえる?小さい可愛い鼻歌。こういうところさ、わかるかい?ふふ、と笑いも漏れてしまう。おっと、
「いってらっしゃい」
も忘れずに。
なんでも自分でやろうとするし、うまくやれればご機嫌で、チャレンジ精神、好奇心、ほんとにいい子と思うんだ。こんなに可愛いの塊なのに、世間にバレてはいないみたい?だから君らも内緒だよ?言いふらかしたりしないでね。
ザッキーの部屋着をあつらえた時、律儀と真面目が災いしてね?実はひと悶着あったんだ。
「意味もなく物貰ったりとか奢られたりとか、俺そういうの好きじゃないんで」
あの日ザッキーはそう言ったんだ。善意を受け取るのも礼儀だし、可愛げがないとも受け取られがち。でも僕はやっぱり好きなんだ。なんでも自分で手に入れたがる、そういうスタンスのこの子がね。だから出世払いにしてあるよ。ご飯は別だよ、物だけね。(だってご飯を与えるのは飼い主の権利で義務だから。そこは僕も譲れないから。頑張って順応させたんだ)
沸いて先に入ったザッキーに、一度はこうして打診する。
「ねぇ、一緒に入っていいかい?」
扉の向こうで慌てているよ。そういうところもとってもキュート。クラブハウスではしばしば一緒で、なのにどうして?不思議だね。まあ、本気で嫌ならパスしてあげる。そうじゃないので普通に入る。
「ちょっ、王子!?なんで?俺さっきちゃんと言っ」
「あれ?シャンプー済んでしまったの?」
シャンプー、ブラッシング、ドライイング、僕はグルーミングが大好きなんだ。ザッキーも絶対好きなくせに、なんで意地を張っちゃうのかな。ぽっかり空いたお口も可愛い。絶句?そうなの?そう言うの?
「ん?」
「や……じゃあ、あの……か、かわりに俺が洗うんで」
「えー?なんか違うけど、まぁ、いっか」
理由がないと近づけないんだ。可愛く思うよ?でも寂しい。少しずつだとわかっているけど、可愛い分だけもどかしい。
「ありがとう、すっごく気持ち良かった」
ほっぺがほんのりピンクに高揚している。僕の喜びが嬉しいんだね。ほんとにいい子。大好きだ。
お風呂からあがったら僕達は、それぞれ体は自分で拭くけど、髪は互いに乾かしあう。会話は他愛無いくらいが丁度いい。大切な二人のくつろぎタイム。ずっとこうしていたいと思う。
ザッキーは飼い犬の自覚がなくて、自分を大人と考えていて、つまり僕の子守りをしているつもりだ。その手の態度が顕著な時は、精神的に疲れている時。だからなるべく合わせてあげる。ちょっと元気が足りない場合、ケアしてあげたい。ひっそりね。
「ザッキー、今日ね?なんだか気持ちが落ちているんだ。だから」
嘘と言うほど大げさじゃない。この子がしょんぼりしている時は、僕の気持ちも確かに沈む。
「え?一緒のベッドにですか?」
「ん、駄目?」
「っつうか、そもそもあんたの流儀は……」
「……流儀?」
「いや、だから……」
なるべく小さな囁きで、無理強い厳禁、意思に任せて。このやり方を僕は学んだ。
「……ま、本人がそうしたいっつうん……なら……?」
「ありがと、ザッキー」
「い、いいッスよ別に。今日が初めてなわけでもねぇし……」
不調はチームの成績に差し障る。あんたの悪趣味(飼い犬ごっこ)にはもう慣れた。色々御託を並べているよ。それでも表情がふわんと綻ぶ。なんともいえないこの表情は、ごめんね、誰にも見せられない。飼い主の特権というものだよね。醍醐味的なものなんだ。
「おやすみ、ザッキー」
「……おやすみなさい」
読書灯をすっかり絞っていくと、徐々に素顔が現れる。
「ほら、目、閉じないと」
警戒心を闇夜に解いて、僕を見る目がとろんと潤む。全く違う子みたいな表情。ドキンとしちゃうこともある。眠るのが惜しいというように、閉じた目は時々薄っすら開き、繋ぐ手を時々ピクンとさせては夢と現実をうろついている。これが今、精一杯の甘え方。胸が痛くなるくらい健気だろう?手のひら経由の体温に、ようやくこの頃慣れてきた。今は自分で指まで絡ませ、慎ましやかに僕を味わう。人馴れしにくい犬種だけれど、見極めようとしているだけだ。信用足りうる相手であるのか。飼い主として相応しいのか。ザッキーに認められていく日々、それはとても素敵な毎日。
