二人の日常、二人の秘密3
【3155文字】
飼い犬視点に戻ってとりあえず一旦完結。お互い感化されあっちゃって、飼われてる方は少しずつのんきになってきています。ただいっちゃいっちゃしていればいいですよね。というか公式最高ですよね(突然何)
どうも。俺の名前は赤崎遼。この前はチームのキャプテンでした。四の五の言う人もいるけれど、それでも周りに少しずつ認められて嬉しいです。そこに居るのは俺の飼い主。今でも変わらぬ関係です。
「暑そう……スポーツするような気候じゃないよね」
「……」
「うわっ、ナッツを映さないでよ。これって暑さの暴力じゃない?」
同僚の出ているニュースを見ながら、試合と関係ない感想。彼はいつでもこんな調子で、緩いというか、不思議というか、調子が狂ってしまいます。
王子は俺をよく知っていて、多分今のこういう気持ちも、きっと全部わかっています。なんでスルー?と思うと同時に、ありがたくも思います。俺達はそういう関係じゃない、そういう一線が見えるので。
(大丈夫。寂しくない。こういう系の愚痴は俺も言うの嫌だし)
興味なさげな表情ながら、ソファの隣に一緒に座り、試合の中身と関係なくても、雑誌片手に王子は俺に、しょげた犬を励ますみたいに、指を絡ませ座ってるんです。何の話?と笑うでしょう。とぼけた顔で、からかうでしょう。時々、特に気が重い時、そうして傍に居てくれるんです。ひとり思い悩んでいても、それに口出しするでもなく、寧ろどうぞ存分に、なんて、俺の存在丸ごと全部を抱き締められている気がします。
(わー、やべぇ……王子のそーゆーところ、すっげぇ好き……)
「ん?ニュースはもうおしまい?」
ふつ、と消されたテレビに気付いて、覗いこむように俺を見て、ずっと待ってたみたいな顔で、首をかしげてふんわり笑顔。綺麗なのは当然ながら、どこか確かに可愛くて、それでも妖しい卑猥さもあり、なんだかズキンと切なくなります。甘え上手な気まぐれ子猫、彼は同じ成人男性、けれどそうは思えなくって、王子の言葉を思い出します。
(王子、すっかりわかっちまった。抱っこしたいし、触りたい……)
そういう気持ちは自然なことだと何度も何度も繰り返されて、その度あんなに蕩ける笑顔、疑問は疑問じゃなくなって。
「ん……」
俺達は特に脈絡もなく、目と目を数秒合わせるだけで、腕を差し伸べ引き寄せ抱き合い、当たり前にキスをします。俺は王子を随分好きで、触れてキスして味わって、同じ顔をしてるでしょうか?多分随分違うでしょう。王子と俺とは心が違う。可愛い犬がおねだりするので、恋人ごっこをしてくれるんです。
「かわいい」
だとか、
「大好き」
だとか、している時には、
「愛してる」
とか、俺に何度も繰り返し、本当の恋人みたいな気持ちで、ひどく溺れるような心で、その優しさの嘘が悲しく、嬉しく、切なく、息も出来ないくらいに。
「ザッキー、ねぇ、大丈夫?」
一つになる度、気が遠くなる。こういうことにも慣れました。でも王子はあまり慣れないようで、終わると俺の汗を拭うのに、頬擦りをしてキスもします。ごめんね?なんて、きつかった?なんて、俺を慰めているんだろうけど、子供みたいに甘えてきます。
(ああ、王子……たまんない……)
王子は俺を大好きなんです。恋人ごっこもしてくれるんです。なのに時々、最近特に、王子の手掛けた俺の身体に、善さを感じているようです。俺は王子を善くしたく、それには俺が上達をしてもっと王子で、もっと、もっと、善くなれるのが大事なようです。それはとても恥ずかしいこと。善くしたいから、王子のためにも、人前なんかじゃ出来ないことを、寄りにもよって王子の前で、晒す醜態に必死に耐えます。するのが上手な彼だけど、その上俺から情報を得て、される度に善くなります。心も体も自由自在に、俺を幸せにしてしまいます。
(好き、王子、もっとキス……)
くたくたな二人の怠惰な後戯は、過ぎるほどに甘くって、恋人ごっこのそれとは違って、子供みたいなじゃれ合いです。疲れて、眠くて、ぼんやりとして、世界がこの部屋二人きり、膝乗る猫の温もりみたいに、芝生に寝転ぶ獣みたいに。
(好き……王子、好き……好き……)
思っているのか、口にしてるか、それすら自分でよくわかりません。けれど変な意地なく、無理なく、自然に溢れてきてしまいます。
「王子……」
セックスを使った愛玩は、俺にはあまりにぴったり過ぎて、王子が上手に教えるせいで、馬鹿に拍車がかかります。人には言えない、恥ずかしい、スケベなことが大好きなんです。スケベ野郎はこの俺です。
今日も今日とておねだりをして、そんな自分が惨めで嫌で、けれど王子は甘やかすので、ついつい甘えてしまいます。多分王子の性欲は、俺ほど激しくないでしょう。だからこそ俺は思うんです。もっと好きになって欲しいと。少しは俺の思うくらいに、俺が欲しいと、俺が善いと、かわいい、かわいいだけじゃなく、求めて欲しいと思うんです。心も体も全部を捧げて、俺には何ももうないけれど、きっと王子はその材料でいいものを作ってくれるでしょう。思うがままに、気の向くままに、きっと王子自身が気に入る、素敵な俺にしてくれるでしょう。
変なところが多々ある人です。うさん臭くて、いつも笑って、けれどそもそもぞっこんなので、どうにもこうにもならないんです。真っ直ぐ伝える人ではないけど、確かに王子も俺が大好き。
「恋人ごっこはもう嫌だ!」
なんて暴れてみせれば、驚いて、
「本物の恋人にして欲しいんです!」
と泣いて喚けば、飽きれるくらいに戸惑って。
「何が何だかわからないけど、とりあえず」
と、差し出したのがいつかのプリンで、子供だましで、調子っぱずれで、全部わかっているくせに、と。
「君は、その……わかるよ?でも……本当に恋人なんかになりたいの?」
「!!」
なんか、だなんて踏みにじられて、眉尻あげて激怒して、そんな俺に狼狽をして、なんか面白かったです。
「だって、ザッキー、そうだろう?恋人なんて『なんか』だよ……僕はつまり」
そこまで言って、その後は、多分あなたの想像通り。
「あー!何してんだよっ!あんたそれ今俺にっ」
「……だって受け取らなかったじゃない」
「今はいらねぇっつうだけでしょう!?」
「ん、美味しい。面倒くさい時って急に甘い物食べたくなるよね」
「ならねぇよっ!」
「おや、そうなのかい?」
王子は、普通じゃありません。多分、この手の彼の奇行には、意図も意味もないでしょう。プリンを高らか掲げて笑う、マジになんも考えてない!
「だから食うなって、あー、駄目、王子、待っ」
「だって仲間しようと思ったのにいらないって言うし」
「今は!ちゃんと聞けっ、わかった食います!食う、だからっ、んぅ!?」
プリンを追ってる俺を捕まえ、なんなく王子はキスをして、やれやれなんて、また笑うんです。
「君って時々ややこしいよねぇ?シンプルが好き。素直にね?」
「~~~!!」
小憎らしくて、堪らず愛しい。苛立ち、怒り、そして幸せ、悲喜こもごもの全てを含めて、やはり今日も痛感します。俺はやっぱりぞっこんなのだと。
「えー、待ってよそんなに怒る?」
「……」
「ね、やだよ、帰らないよね?ほら、まだ一口残ってる」
縋るみたいな言い方で。
「そんな、プリンごときで」
わざわざ逆撫でする物言いで。どこかふざける人の悪さで。
「ねー、ザッキー、わかったよもう」
「わかったって何がッスか……」
「ザッキーはプリンと僕が大好きなこと」
許さぬわけがないよねと、高慢紙一重の信頼感で。
「……ところでザッキー、そういうのって絶句って言うのかい?」
プリン味の王子のキスは、プリンよりも蕩ける甘さ。だから。
(あー……なんか、どうでもよくなってきた……)
関係なんかはいっそどうでも。こういいう日々がこの先ずっと、ずっと、ずっと、続きますよう。そんなことを思う俺に、王子は笑ってキスをするんです。なんでもかんでも物知り顔で、願う必要すらないことなのだと、愛と信頼をその身に宿らせ、俺を抱き締めてしまうんです。
