お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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適正温度

暑い夏のとあるジノザキの日常。
これ、多分去年の今頃くらいに書いてて季節外れだなーって放り投げてた記憶はあるんですがその後当時公開してたのかしてなかったのかも忘れてしまいました。というか何これ?(ポエムだなぁー棒)

        ジノザキ

 最近ではなんの声掛けもなくお互いバラバラに自分の家に戻ったのち、当たり前のように赤崎はジーノのマンションに向かう。特段何かをせねばならないような用事や約束事は今の二人には必要ない。取材や友達との約束など、会えない用事が出来てしまったことを逆に伝える形に変化した生活だった。

    *  *  *

 日差しが強く、アスファルトには陽炎のようにゆらめく靄が。歩くたびに遠ざかる逃げ水を追うかのように足早に目的地に歩を進める。

「やあ、いらっしゃい」
「ども」

 開けた玄関のドアが閉まりきらないうちに、ジーノは待っていたよといわんばかりに駆け寄ってくる。よく冷えた室内の空気がジーノと共に赤崎を出迎える。
 赤崎は毎回、嬉しそうなジーノのその姿にこそばゆさを感じた。自分を飼い犬扱いしている男が、まるで飼い慣らされたお利口な室内犬のように見えてしまうからだ。そう思ってしまうほど毎回必ず赤崎の訪問を全身で歓迎の意を表すのがジーノという男だった。日頃は博愛主義を絵にしたような冗談も本気もわかりにくい読めない男の、二人で居る時にだけのぞかせる秘密の顔。
 これは王子の癖なんだろうか?テクニックなんだろうか?赤崎は思う。王子に興味のなかった女でもこんな姿を見せられてはイチコロだな、などとつい苦笑いをしてしまう。

「外、暑かったろう?」

 赤崎の首につたう汗を目にして、ジーノはそれに軽く指先で触れてニッコリと笑った。そして自分でわざわざこの涼やかな環境を整えておきながら、冷えてしまった体の為に赤崎を抱き寄せ暖をとる。靴を脱いですぐの、もうすっかり日常化した甘い戯れの時間。最近、二人きりの時間のスタートはこうして始まる事が増えてきていた。

「王子、クーラー苦手なのに。いつもそんな無理しなくていいンスよ?」
「ン?なんのこと?」

 ジーノはこういった時、殆どまともに返事をする事がなかった。それでも熱気をまとった赤崎の体に纏わりつくジーノの頬や手の平はこんな時やはり氷のように凍えていて、まるで赤崎の熱と汗を食み味わうかのように絡み続けていたりする。
 呆れたような、嬉しいような、そんな溜息が漏れる赤崎の口に、極自然に近づくジーノの色抜けた冷たい唇。当たり前のように服の中に差し入れられる冷えた指先。引き寄せられる腰、まるで全身を使って濃厚なキスをするかのような熱い触れ合い。

   ジーノが肌寒く感じる温度、
   今の二人にとってはそれが適切な設定温度だった。

 太陽の暑さと空調の寒さの温度差が互いの肌の接触を通して均一になっていく頃、ジーノはやっと人心地着いたかのように体を離し、ようやく赤崎を部屋の中に招き入れる。

「ご飯、すぐ出来るから」

 ジーノは今のようにハグやキスをとても必要とする男で、そこには性的な意味がある場合もない場合もあったりした。彼がそういう生き物なのだとしっかりと認識出来るようになったのは最近の話だ。戸惑いだったこの儀式は長い時を経て今、ジーノのみならず赤崎にとってもとても心地よいものになっている。

 リビングへ歩いていく途中、自分達がこんな関係になる前に、ジーノが時々自身の女性関係についてうんざりしているようなことを言っていたのを赤崎は思い出していた。

「あんまりモテちゃうのも困りもの。あらぬ誤解の連発で時には辟易することもあるんだよ……」

 しゃべればしゃべるほど角が立つジーノのモテトーク。これはもうETUの全員が楽しめる鉄板ネタと化していて、未だにその話で下世話に盛り上がる事もあったりするものだ。

「へー、皆そんなにSEXしたいの?うらやましいよ。ボクは寝たくもないのに寝なきゃいけない時が沢山あるんだから」

 大概この話のオチは“王子!あんまりつっこんだ話したら赤崎が可哀そうだろ!”という形で終わる。赤崎は本当に腹が立つだけだったこのネタが、いつしか自分の中でも笑い話になっていくものだったとは思いもしていなかった。笑えるようになったのはジーノの性格や心の構造に触れ続けてきたことで、これらの台詞には自慢や嫌味や悪意が一切含まれてない単なる本音だったことを理解したせいと、ジーノ自身ネタ化することでガス抜きをしながらも本当に心底困っていたのだということを知ったせいだった。それと、今ではそのジーノの困り事と赤崎へのからかいが、本当の意味で全くの冗談と化したせい。

 ジーノは単なるスキンシップを必要とする男なのに、常に性的な空気を感じさせる性分が災いしていた。ジーノの欲する人との触れ合いというのがあまりにも性的なものに酷似していて厄介なのだ。あんな風に触れられてはどんな人間でも肉体関係を求められていると錯覚してしまうは当たり前であり、ジーノの行為で赤崎は性的に煽られ、それを見たジーノもまた赤崎に煽られる形となって、最初の頃の二人はあまりに自然な流れで当たり前の様に体を繋げる行為に発展する頻度が高かった。そして、時にその頻度が上がって過剰になり過ぎ、二人してコンディションを崩してしまった事も一度や二度ではなかった。 

 赤崎が慣らすピ、ピ、という電子音を耳にするとジーノは振り向いて苦笑する。設定温度を上げたのだ。

「ザッキー、暑いの苦手なのに無理しなくていいんだよ?」

 赤崎の行う気遣いに対してジーノが反応すると、

「ン?なんのことッスか?」

と赤崎はさっきのジーノの返事を真似て答えた。そして二人は同時にふきだすように笑った。

   赤崎が蒸し暑く感じる温度、
   それが今の二人にとっての適切な設定温度だった。

    *  *  *

 食事を済ませ、片付けが終わる。リビングの窓から差し込む昼下がりの強烈な日差し。その眩しさは一瞬にして外出する気を失せさせる程の炎暑を物語っていた。
 カウチに移動した二人は再び当たり前のように寄り添いあう。だけどちょっとその前に。ジーノは座る前にリモコンに手を伸ばし、ピ、という音が室内に響いた。

「あ」

 リモコンを持つ手とは反対のジーノの指先がカウチに座る赤崎の唇を這う。何かを言いかけた男の口を塞ぐように。そして、その後、ゆったりとした仕草でジーノは赤崎に身を寄せるような形で腰かけた。

   ジーノがほんの少し肌寒く感じる温度、
   赤崎がほんの少し蒸し暑く感じる温度、
   それが今の二人にとっての適切な設定温度だった。

    *  *  *

 意図なく接触しあう互いの視線、その度、思わず緩んでしまう頬。どちらともなく預け合う体重、組み合わさるように絡み始める指先。寒暖の差にやられてしまったのだろうか、今日のジーノはちょっとした動きが逐一怠惰だ。触れ合う人肌が心地よいらしく、ふわりと生じる睡魔の誘いのそのままに時折物憂げに目を伏せたりしている。ただそれだけの、なんでもない風景ではあった。
 なのに。明るい室内、並んで座るカウチの周りに何故か漂い始める不適切なほどの淫靡な空気。つい先ほど玄関先でしたよりもずっとライトな触れ合いの中、赤崎は背筋にゾクゾクとしたものが駆け上がっていくのをとめることが出来ないでいた。傍ですっかりリラックスしてだらけているのは、よりにもよってあの“ジーノ”という男なのだから。

「ン?」
「……いえ、なんでも」
「そう?」

 小首を傾げる。たったそれだけの仕草が赤崎にはたまらなかった。美しい羽を持った野生の鳥がいるとして、すぐ手が届く場所にのびのびと羽を伸ばして寛ぐ姿を見れば、思わず捉えてしまいたくなるのが人情だ。でも赤崎はなにも言えなかった。自分が欲情し始めていること。ジーノの肌をこんな指先だけではなくもっと沢山、そして自分が壊れてしまうくらい深く深く欲しくなってしまったこと。相手が女性ならば湧き上がる男の本能的な欲望そのまま、強引に押し倒してしまうことも可能だったかもしれない。でも、ジーノ相手にそんなことをしてしまえるわけがなかった。そう、ジーノは人が思うほど旺盛なタイプではない。この場合欲望のままに抱いて欲しいのは赤崎の方であり、男の望まぬセックスをねだり続ける事は一方的にジーノに甘えるだけの行為。

 赤崎が己の欲望と闘い始めて暫く経った頃、眠気を覚ますようにひと伸びしたジーノがこんな風に声を掛けた。

「しつけが行き届いているのも困りものだ」

 ジーノは溜息をつきながら、自分の右手に絡みついていた赤崎の左手をやんわりと自分の肩にまわすように誘導した。

「キミはそうやってずっとボクのお利口な飼い犬をやり続けるつもりなのかい?」

 そう言うと同時にジーノは自分の右手を赤崎の腰回りに這わせてグッと自分の方に引き寄せた。少し乱暴に、冗談めかしながらも少しイラつくように。挑発するような視線。もうあと少しで触れ合うくらいまで近づいた互いの唇。

「わかっているだろ?ボクはもうキミに甘え方までイチイチ教えてなんか……」

 それでも、言葉とは裏腹に、手取り足取りとでも言わんばかりに。

「あらぬ誤解でSEXにつき合わされるのはゴメンだけど」

 ジーノはそのまま少しずつ赤崎を招き入れるように後方に重心を移動させていく。なので赤崎は前のめりに体勢を崩し、思わず覆いかぶさるようにジーノを押し倒す形になった。その拍子に自らの熱い欲情がジーノの腿に触れてしまう。

「恋人に欲しがられて迷惑がる人間がどこにいるんだっていう……」

 これでもかと言わんばかりのジーノの甘える仕草にたまらなくなってしまった赤崎の唇がジーノの口を塞いでしまうまで、そんなに長い時間は必要なかった。

「王子」

 まるで暗示にかけられてしまったかのように赤崎はジーノに深いキスを何度も何度も交わす。

「フフ、キス……随分、上達した、ねぇ?」

 息を継ぐ合間合間に、呟くジーノの言葉。そんなものはもう、無我夢中に貪り始めている赤崎の耳には届いてはいなかった。

 ピ、と再び音がする。ひんやりとした風が室内を巡る。舌が甘い音を立てながら絡むのと同じように、二人の生々しい本能丸出しの熱い吐息や互いの腕や足そのものもまた、それぞれがディープなキスをするかのように縺れあい始めていた。

   互いの欲情のままに汗ばむ熱、
   そんなものがこの上なく心地よく感じる温度、
   それが今の二人にとっての適切な設定温度だった。

      ジノザキ