お花結び

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Noi due per sempre. ~ずっと二人で

ジノザキ二人がぐだぐだしゃべりながらケーキ食べるだけのお話。ジーノが元カノの話をしています。ニガテな方はご注意ください。

        ジノザキ

「さ、食後のデザートだ」
「あ、それ…」

 上機嫌の男の持ってきたはショートケーキ、そしてティラミスだった。先日一緒にテレビを見ていた時に赤崎が美味しそうだと呟いていたあの店のもの。

「てっきり聞いてないと思ってたのに…」
「いやだな、キミの言葉は全部聞き逃さないようにって常に心がけてるよ?」
「だって王子あん時興味なさそうに雑誌読んでたし…さすがモテる男は抜け目がないッスね」
「なぁに?それって貶してるの?褒めてるの?」
「どっちですかね」
「フフ、ここ、たまたま知り合いの店だったんだよ。いっぺん食べてみてくれって前からうるさかったんだけど、開店時に花を贈ってなんとなくそのままになっててね。延々と不義理し続けるのもなんだし、今回はいい機会だからキミの為にいくつか貰ってこようかな?なんて」
「嘘くせぇ…あの店に知り合いいるとか花贈るとか…マジかよ」
「わ、その言い方可愛くなぁい。ホントだよ?」

 赤崎があの時見ていたのは今人気のトーク番組。茶話会形式なのでお菓子が並ぶが、番組のスタッフが知る人ぞ知るというような商品を発掘してはその都度用意しているらしい。何のコメントも紹介もなく食べるだけのそれらはどれもこれもハズレがないと評判だ。

 この前の放送で登場したケーキは間に挟まる苺がスライスではなく丸ごと入っていて、内側のグラデーションの層になった苺クリームと表面の真っ白な生クリーム、その上に乗る繊細な苺の位置までまさに理想的なデラックス苺ショートと言ってよい完璧なデコレート。なんとも美味しそうに見えた赤崎は早速ネットで探したのだが、情報を見つけて開いてみれば店構えといい値段といい取りあえずは買いに行く気を失せさせるに十分な感じの豪奢なケーキショップで、もうその段階ですっかり食べるのを諦めてしまったくらいだった。

「…ね、嬉しい?」

 喜ぶのが当然とでも言わんばかりの自信たっぷりのジーノのその表情に赤崎は呆れた。だが、苺とココアパウダーそして淹れたてのコーヒーの美味しそうな香りが室内に立ち込め、意識しても緩む頬をどうすることも出来ない。

「まぁ、そうッスね。食べたかったし…どうも…」

 馬鹿みたいに喜ぶのもちょっと気後れしてわざと素っ気ないリアクションをとってみる。でもジーノの方もそういう赤崎の態度には慣れたもので、十分満足気な笑顔を浮かべた。

「なんかさ、こういうのくすぐったいね?…今まですごく苦手だったんだ。不思議」
「何がですか?」
「お店に行く日を伝えて、ケーキを取っといてもらったんだけど…このティラミスね、お店にない商品なんだって。わざわざボクの為に用意してくれたみたい」
「あー、王子イタリア系のハーフだから?」
「ん、それもあるけど…最近あんまり遊んであげれてなかったし…かな?って」

 ジーノは少しバツの悪そうな顔をする。言葉を濁してはいるがこれは以前関係を持っていた女性のことを語っている姿だった。ジーノは隠したり嘘を付いたりすることに比べて正直に話をするのがとても不得手な男で、でも、どんなことでも出来る範囲でいいから普通に話をしてほしいと赤崎がジーノに頼んだのだ。
 赤崎は当然その結果苦しくなったり辛くなったりすることもあったが、それ以上にジーノのことをもっと沢山知りたかった。だから彼の情報を欲しがったのは自分なのだと納得することは出来ていた。
 赤崎の思いを受けて、絞り出すように言葉を紡ぐジーノの姿。不安げで。普通以上に暗喩的で理解に苦しむ話の進め方で。時に支離滅裂と言ってもいい程で。でもそういった本来口にしたくもないような言葉を赤崎が淡々と受け止めてみせると、ジーノは最後にホッと安堵の表情を浮かべる。赤崎はその姿を見るのが好きだった。ふわっと一瞬浮かべるその穏やかな表情は変な話だが彼の本物の顔なのだと感じていた。

「ティラミスってさ、イタリア語で『私を元気付けて』って意味なんだ。だからボクは最初これを渡された時にげんなりしちゃって。ほら、今はもう昔みたいに色々あの人に構ってあげる気なんてなくなっちゃってたからさ。だから…彼女を元気付けることなんて今のボクには、なんてね」
「まー、俺とこんなになっちゃってて更に他でもヤル気出してたらサッカーどころじゃないッスよね」

 茶化してみる。ジーノは苦笑する。本音に近付くにつれてネガティブな弱音に近付く美しい男の姿。それを他人にさらすことへの怖さと抵抗感。赤崎はそういうものを適度なタイミングで解消する。決して面白い話なわけじゃない。言わなくていい、聞かなくていい話ですらある。ジーノは赤崎の中にそういうものを理解の為に受け止め続ける優しさと強さ、そして自分に対する愛情を感じ、いつも心を強く揺さぶられてしまう。だから続ける。もっと伝えなければいけないこと。もっとわかって欲しいことを一生懸命、言葉にする。

「でもさ?違うんだって。笑っちゃうよね?私が元気付けて欲しいわけじゃなくて、あなたが元気になりなさい、だから誰かさんに食べさせてもらいなさいって」

 そういうとジーノは運んできたティラミスを赤崎の前に。ショートケーキをジーノの座る席の前に置いた。

「いい顔で笑うようになってきたねって…でもちょっと痩せすぎよってまるでボクのお姉さんみたいに、フフフ…あぁ、この人本当にいい人だったんだなって今更な話なんだけどなんかわかった感じ。その気なんてなかったのに、つい受け取っちゃったよ。参ったね」

 ジーノはさも楽しげにクスクスと笑ってみせた。あそこでこうした、ここでああした。そんなことを他人に話すのを無意味だとか不快だとか、そんな嫌悪の表情はそこにはなかった。
 昔の恋人のことを今の恋人の前で褒め称えるなど、おそらく彼の中にあるルールに反していることだろうに、と赤崎は思う。でもちっとも嫌味なものがなかったし、不思議と聞いている方もヤキモチのような感覚など起きなかった。日頃見る機会の少ないジーノの他者への素直な目線がそこに見えることの感動のほうが大きかった。

 ジーノはゆっくりといつものように優雅な仕草で席につく。

「というわけで。ボクに元気にプレイしてほしいキミの為に…」

 赤崎にニッコリと笑いかける。その表情はよく見れば少しシャイに。

「これを食べさせてもらってやろうかと」

 そして言葉は高慢に。なんともジーノらしいやり方で赤崎は思わず吹き出した。キザな男はキザなままに、甘い甘いムードを作ってこれを演出することも出来たろう。でもしなかった。素顔のジーノはとても照れ屋でそしてちょっぴりいじっぱりな一面があった。赤崎もまた通常ならこんな申し出、こっぱずかしくてとても出来ないとつっぱねるところだったが、こまっしゃくれた子供のようなその姿がなんとも可愛らしくてどうしていいものかと困ってしまう。

「マジ…ッスか?」
「ん、駄目?」
「で、多分そっちのそれ。俺の分のケーキッスよね?俺もあんたに食べさせてもらってやればいいってこと?」
「ん、駄目?」
「……」
「嫌?」

 少し甘える様な素振り。でも少し不安げな瞳。ジーノは本質的な欲求に関してはほんの少しだけ口にして相手の様子を見た後、スッと身を引く真似をする。赤崎はこの男にそういう癖があることを最近知った。今までは相手に選ばせるようにさせながら結局は服従させるという、強引の意を含ませた彼独特の駆け引きだと思っていた。でもこれは全く逆と言っていい彼の性分だった。
 ジーノはとても繊細で、しかもすぐに相手の気持ちを察してしまう。そして無意識に先回りして適切な対応を自分の中に用意してしまうのだ。YESならYESに合わせるように。NOならNOに合わせるように。器用が過ぎて不器用な、常に相手の幸せを祈るような、そんな自信なさげな顔でお願いされて誰が断れるというのだろう?
 ジーノの喜ぶことが赤崎の幸せならば、そして、赤崎の望むものがジーノの喜びならば。傍若無人なはずの貴公子の、このほんのささやかな幼い願い。彼が望めば手に入れられないものなどないというのに、全く時々この人はそんな自覚の欠片もない顔をする。変にタフで変にナイーブ。全くどうしようもない男だと赤崎は笑ってしまう。

「はぁ…あんたみたいな甘え上手、今まで見たことねーッスよ」
「えー?」
「ったく、たいしたタマだよ」
「そう?」
「そう?とか…ホントタチ悪りぃ…」
「…うーん…全然わかんなかったんだけど…みんなに甘やかされて育てられてきたってことなのかな?」
「ッスね、大体何股かけててもろくに怒られもしないとか実際問題あり得ないッスよ」
「…フフフ、そうかもね。彼女達はみんな多分ボクのたった一人の人になりたがっていたけれど。たった一人にしてあげられなかったボクを痛めつけるように責めた人はそんなにいなかったな…」
「…それは。あんたもたった一人を求めてたのに手に入れられなかった現実があったからだろ?怒るに怒れねぇよ、その場合」
「……」
「?」
「吃驚してるんだ。そうだね。確かにステディを作ってみようって頑張った時期もあったんだけど全然駄目だったなぁ、フフフ」

 それはまるで友達同士のするような会話。

 目の前にいる後輩、ジーノの見つけたそのたった一人の存在。恋人であり、友人であり、愛玩犬のようでも、弟のようでもあり。そしてかけがえのないピッチ上のパートナーでもあり。こんな奇跡のような、一言ではとても言い表せはしないような存在をボクは探していたのだ、と。これではナカナカ見つかるはずがない、と。ジーノはこの瞬間に何とも言えない幸せな心境になったのだった。

「ほら、じゃ、王子。大人しく口開けて。アーン」
「クスクス、なんかキミの方が大きな口開けてるよ?」
「…るっせ、いいから早く!」

 当たり前のように我儘をねだりねだられ、それで時に喧嘩して。赤崎はそんな二人の未来の夢のような生活を想像してまた笑う。もっと知りたい。もっともっと、赤崎はジーノの自然体の言葉を聞いていたかった。そしてジーノもまた、もっともっと自分を知って、沢山聞いて、自分を受け入れて欲しかった。

 これからそういう積み重ねの、長い長い二人の生活が始まる。ジーノと赤崎は、その予感だけでもう溢れんばかりに幸せな気分。

「あ、美味し…」
「そうッスか?」
「うん、キミも一口食べてごらんよ」
「どうも、じゃあいただきます」
「違う違う!キミはボクのフォークから食べるの!」
「ったくメンドクセェ…」
「はい、ザッキー、あーん」
「あんたも自分がでかい口開けてんじゃねぇかよ」
「いいから!」
「…あ…あーん…」
「フフ」
「…?ちょ…何してんだよ、早くしろよ!」
「フフフ、可愛い」
「!」
「ゴメンゴメン、ちゃんとあげるから!もう一回口開けて?」
「もういい!俺自分で喰うし!」
「駄目だってば!あッ…」
「ナニコレ、うまッ」
「ザッキー!そんなことするんならボクだって!」
「あ、ちょっと俺のケーキどこ持ってくつもりだよ!あ!俺まだそれ喰ってねぇのに!」
「全部食べられなくなかったらちゃんとボクの言うことをッ」
「王子こそ、これ喰いたいならショートケーキ返せよ!」
「ヤダ!」
「なんで!あ!ちょっと!ティラミスまで!」
「ハハハ!そもそもこのケーキ、二つともボクが買ってきたんだからッ!」
「大人げねぇぞ!」
「何それムカつく!」
「寄越せ!」
「こら、危ないって落としちゃ…」
「あー」
「信じらんない!」
「机の上だから。大丈夫、セーフセーフ」
「やだよ、こんな…くちゃくちゃになっちゃったじゃないか!」
「自業自得だろ」
「ザッキーのね!」
「いいから口開けて」
「えー?これホント食べるの?なんかさぁ…」
「ほら、口とんがらせてないで。俺も口開けますから」
「…ザッキーも?」
「はい、ご一緒に!」

「「アーン」」

「「……」」

((美味し…))

(また買ってきてもらいたいな)  (また買ってきてあげよう)

(今度はちゃんと食べさせてあげたい)  (今度はちゃんと食べさせてもらいたいな)

(ね、王子?)  (ね、ザッキー?)

「フン、ザッキーの強情ッぱり」

「王子こそ。意地っ張りめ」

「「あー、ヤダヤダ」」

((全くもう…なにやってんだか…))

そうして、二人は二人して。

込み上げてくる笑いを堪えることなく一緒にふきだした。

幸せだな、ずっとこうしていたい、と。

お互いの笑顔に見とれながら、全く同じことを考えていたのだった。

      ジノザキ