お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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幸福の満喫

常に感じるジーノの視線に素直になれない赤崎と、赤崎に骨抜きのジーノの心象風景。

        ジノザキ

赤崎遼の日常

 気が付けばジロジロ、ニヤニヤこっちを見ている。そんな王子が気になって、今日ちょっとしたことがあってムシャクシャしていた俺は思わず渋い顔をしてしまう。日ごろ柔和ながらドライすぎる何かを感じる王子なのに時々、湿度をたっぷりと含みまるで潤んでいるかのように見える視線が俺の体に絡みつく。

 何か用かと問うても、別に?と答えるのが常であり、なんだかいたたまれないからやめてくれと言っても、なるべく気を付けるよと口ばかり。
 
 俺はもうわかってる。

 こういう時の彼は彼の視線を使ってなんとか俺の中に入り込もうとしているのだということを。音も立てず、声も立てない、なんとも卑猥な無音の現象。これが始まった瞬間から、いつも俺は口ばっかりで、何一つあがらうことなど出来なくなってしまう。

 ここは王子のテリトリー。彼の家。俺はそこに紛れ込んだ異分子だ。些細な他人の一言で心乱れているちっぽけな自分。彼はこの場にそぐわない俺という存在をさりげなく値踏みしているかようだった。彼の隣に相応しくない己の小ささがいつもこうして俺を不安にさせる。冷静になりたい。もっと強くなりたい。そう、常に涼しい顔をしている彼のように。

「……」

 俺の焦りとは関係なく、こうした彼のあからさまが生じる時、何事もないこともあれば不思議なあれがスタートすることもある。奇妙にすら思えるあの出来事は、何もかもに恵まれ過ぎた彼の中の気まぐれに思いつく些細な遊びだったりするのかもしれない。

「……」

 ほら。小一時間も過ぎれば、俺にじわりじわりと近づく王子の指先。よくある出来事。でもいつもとはまるで違うのだ。

 俺がテレビに気を取られているふりをしながら王子に釘づけになっていることにも気付かずに、彼のそれは、ひどくためらいながら何度も空を行き来する。俺はいつも不思議に感じていた。キスもベッドのお誘いも。何事もさらりとやりこなすスマートな男の奇妙な不器用。その違和感、その不自然さがほんの少し垣間見えるこの瞬間。こんな時、俺はそのもどかしいまでのむず痒い心地良さすら、本当は趣向を凝らした彼の計算だったりするのだろうか?などと怪訝な気持ちになったりもする。不釣り合いな存在を訝るように、その指先はゆったりとした動きで空を舞うのだ。

 たまに出現する王子のこの葛藤に似た行動。まるで危険物を扱うかのような警戒心。でも、テレビの音だけが鳴り響く、この穏やかな無風の空間の中で、彼の視線とその美しい指先の優雅は、随分と長い時間をかけて俺の内面をなぶるように暴き始める。サソリがチクリと人を刺すように、もしくは猛獣使いがライオンをあっけなく服従させるのと同様に、王子は最初の一瞥で呆気なく俺の心にも体にも自分でどうしようも対処しきれない重い枷を付けてしまう。そうして身じろぎひとつ出来ないままにあっという間に砂地が波にさらわれるが如く浸食されて、俺は彼の虜になっていく。なのに時が進まない。彼の指先は空をなぞりつつも、時折停止ボタンを押したかのようにピタリと動きを止めてしまう。

 鼓動が高鳴る。しかし時の流れは眩暈がするほどゆっくりと。まるで自分の実体が失われてしまったかのように全身やわやわと幻のように扱われて、クラクラするように途方もなくなっていく。

 そうしてまだかまだかと身悶えする中、突然訪れる瞬間。まるで電流が走るかのような強烈との再会。ようやく彼の指先が俺の首筋に届く頃の、その接触に端を発した俺の全身をめぐる武者震いにも似た官能の震え。俺はその時、この瞬間の自分自身の欲情と羞恥の全てが彼の前に哀れに晒され切っているのを感じて、いつも普通でいられなくなる。

「なんスか!」

 何もかも既に手遅れ。それでも、俺は必ず怒ったように腕を払い、窘めるように王子を睨みつけ。でも。結局のところやっぱり俺のそういった一連の反応の嘘すら彼の満足を生むだけの話でしかなかった。

 払われた腕をそのまま何事もなかったかのように優雅に差し伸べ、彼もまたゾクゾクとした官能を隠し切れないままにやんわりと俺を抱き寄せる。

 後はいつも通り、二人の時間が。何も言葉を交わすことなく、スマートながら性急にも似た時の流れが二人の間に。ここに至る時間がもどかしければもどかしいほどに、まるで堰を切ったかのようにいきなり始まる。その時、互いの何もかもがお互いの全てになるかのような激流と化し、二人が同化してしまったような一体感を味わう。二人、ただそればかりの存在に成り果ててしまう。そこには一切の言葉がなく、なのに互いに次の瞬間に互いに何が必要なのかを全部理解しあってむさぼり合い続ける他なかった。もう、二人、それを止めようもなく堪能しあうしかなかった。

 その度に俺は、俺でありながら見知らぬ自分になる。あれほどさっきまでひしめいていた俺のちっぽけは泡のように消え去り、俺の中全てが彼に与えられる何かで満たされ丸ごとそっくり生まれ変わってしまう。眩しくて目が明けていられないほど、まるっきり新鮮な自分になる。

 彼のような稀有な存在と同じものになってしまうなど、まるで夢のよう。抱かれる毎に感覚が研ぎ澄まされていく。溶け合う毎に彼と自分の見知らぬ一面とその新生に驚かされる。夢ならいっそ永遠に覚めてくれるなと、つくづく今という非常識なまでの日常を、俺は生活の中でただただ体感し続けるばかりなのだった。

      ジノザキ