お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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抱卵

【2066文字】
赤崎視点。無自覚な二人が、無自覚なままに、一緒を楽しみ始める話。両片思い前夜の感じ。糖分高め。初めて生まれた気持ちのタマゴを、戸惑い、そしてわからぬながらに、二人でそうっと温めてます。

        ジノザキ ,

 呼ばれて一緒に食事を済ませ、くだらない話でゲラゲラ笑い、二人で自然に寛ぐ時間。のんびり携帯を弄っていると、黙って様子を窺っている。そういう気配を少し感じる。赤崎はそれに気が付く度に自然に頬を緩ませた。
「何スか?」
だからいつもニヤつきながらジーノに毎回問いかけた。何故ならこうして話しかければ、
「え?」
などと、首を傾げる。おそらく全く自覚がない。そういうところが面白かった。
「何かまたジロジロ見てるから。なんか用があるのかなぁ、と」
ジーノは、ないよ、と口には出さずに、苦笑のような表情になる。それはとても柔らかで、ずっと見ていたいものだった。
(なんか……不思議な感じ)
僕のことはお気になさらず、そんなことももちろん言わず、それでもふわふわ所在なさげに再び雑誌に目を落とす。けれど赤崎は理解していた。こちらがそのまま気を逸らすなら、あの目はじわじわもう一度。そうされるのは落ち着かないのに、待っているような気持ちもあって、今度は赤崎がじっと見つめて、ジーノの挙動の観察をした。ソファにゆったり体を鎮め、まるで居眠りをするかのようで、けれど時々パラリとめくり、意識があるのが自然にわかる。そして、赤崎がくまなく見つめていると、ジーノは絶対こちらを見ない。
(見られてんのはわかるのか……)
面白おかしくなってしまう。少し酸素が足りないような、息苦しささえあるこの時間。世界の色が濃く見えて、けれど頭はぼんやりと、しばし現実が遠のいて、それが程よく心地良く、ずっとこうして居たく思った。

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 最初こそ緊張した家も、慣れれば居心地が良くなった。そうでなくても一緒の食事、並んで寛ぐソファの感触、ここ独特の深い味わい、沢山笑ってやがては静かに、あっという間に過ぎ行く時間。
(あー、このまま泊っていきてぇー……)
赤崎はジーノの許容をわきまえていた。惜しくもいつでも仕方がなかった。あと三十秒、あと十秒、そういう気持ちで座っているのを、許してもらえるただそれだけで。
(そう、仕方がないことだ)
複雑な形の痛みの幸せ。目が合えばふんわり微笑んで、何?なんて少しとぼけて、そろそろ、なんて意を決すれば、寂しそうな顔になる。
「ああ、もうそんな時間?」
「はい」
「そう……なんかあっという間だねぇ」
お約束みたいなこのやり取りを、たがえることなく重ね続ける。ぶれる心の苦しみすらも、今がもたらす稀有な体感。悲しくも美しいこの一瞬も、非日常の夢幻の吐息。
「じゃあ」
「うん、下まで送ってく」
「や、いいッスいいッス」
「送りたい」
「また。駄目駄目。いつも言ってるでしょう?女子供でもあるまいに」
毎回ゲラゲラ笑い飛ばして、玄関先でストップさせた。押し問答も、甘えで、じゃれあい、二人の楽しい遊びのひとつ。
「じゃ、本当に今日はこれで」
「うん、気をつけて帰ってね?」
「はいはい、あんたもとっとと寝てくださいね」
パタンと玄関の扉を閉めて、しばし佇むのもいつものことだ。赤崎はそもそも帰りたくない。もっと共に過ごしたかった。

*

 人と過ごすのはとても楽しい。赤崎は基本一人が苦手で、誰かと居たがる性質でもあった。それでも色々不器用で、うまくいかないことも多々あった。だからジーノと過ごす時間は、これまでにない安らぎだった。ジーノはまるで女性の扱いなどしか、わかっていないかのような。友達というにはあまりに奇妙、同じ不器用の仲間のような。思えば男を毛嫌いしていて、なんだか特別扱いみたいな。男ではなく赤崎であり、ジーノもいわゆる王子ではなく、ジーノそのままを素直に晒す。
(まあもともと奇妙な人だし、灰汁が強くて独特で、あの人なんかどっか異質で、どこにも何にも似てなくて……)
同性、同職、一緒が楽しい。けれど水油ほどにかけ離れ、思わぬところでピントが狂う。男であるより、人であるより、命があるのかないのかでさえ、わからなくなる感覚がある。纏う空気が不思議そのもの。
(目上を目上扱いしねぇし、かといって対等な男友達もいなさそう?後輩の面倒?ありえねぇ。あの人、俺が知ってる系の付き合い、免疫マジでなさそうだ)
尊大、万能、絶対的。我儘、毒舌、辛辣、自信。いつもと変わらぬ態度に言葉、なのに二人でいる時の。
(はは、王子、だから、何スかそれ、そういう……目……)
変わらぬ微笑が違って見える。消え入りそうな自信の希薄さ、なのにどこか狂暴で、見てられないのに、目が離せない。王子は変だと繰り返しつつ、赤崎は自分がわからなかった。頬の高揚、急な動悸、知らない何かに刺激を受けて、知らずに小さく呼応している。
(さ、帰って風呂入ってとっとと寝よう)
何処かソワソワ落ち着かない。不快なような堪らぬような。未知過ぎる己の状態を、疲労と位置づけ片付けていた。
「……王子……か。ははっ、んだよ、変なあだ名」
疲れていてもまた行きたい。今日もその人を思って眠る。自らの今の心理状況、行動原理、変化の兆し。今の全てをまだ知りたくは、と。未知でも恐怖は感じなかった。それでも、なんだか今が惜しくて、もう少しだけと目を閉じた。

      ジノザキ ,