お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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IN A CAGE 6

【4745文字】
明日の投稿分でなんとか終わりです。間に合わなかったんで無事とまでは言えませんけど、爆睡しながら、家事手を抜きつつ、頑張ったよねと言ってやりたい。

My Bird~僕の君

「嫌なことでもありました?」
嫌なことがあったとすれば、それは今でも継続している。つまらぬ意地を張ってみせれば、自分が惨めになるだけだった。寂しいばかりで、身を切る辛さで、どうにもささくれ立っている。耐えきれなくて家に呼び、縋るように抱きついて、どうしていいのかわからなかった。
「なんかよくはわからねぇけど、色々大変だったんですね?」
確かに自分は衰弱していて、恥ずかしげもなくそれを晒して、普通だったらこんな言葉は受け入れられないものだった。だからジーノは考えた。自分は自分で思う以上に、どうしようもなく駄目なのだと。
(そうだよ、僕はもう駄目なんだ)
「え?」
抱きつき胸元でボソボソ言うので、赤崎の耳には届かなかった。
「……」
首を振って抱き締めて、安らぎの中で暗くなる。
真面目で、誠実、そして優しい。赤崎の気の良さにつけこみながら、ただ我儘を言いそうだった。惨めで、とても醜くて、それが今の自分の姿で、一言だって何かを言えば困惑させるに違いなかった。なのにこうしている瞬間にも、嫌いだった言葉が宿る。

僕だけを見つめていて欲しい。
ずっとこうしていて欲しい。
僕だけにこうして寄り添って、僕だけを思っていて欲しい。

それらは陳腐で滑稽で、今の自分が恥ずかしかった。
(ザッキー、ねぇ、ごめんねザッキー。僕には言うべき言葉がもう)
だから溢れる言葉を飲み込んで、ギュッとしがみ付き己を耐えた。それしか今のジーノには、何も出来なかったのだ。

*

色々問い詰めることもなく、赤崎はジーノに付き合っていた。それは救いの時間でもあり、苦しみを深めるものでもあった。やりたいことと、すべきこと。言いたいことと、言いたくないこと。
(君をこうして捕まえたまま、今が終わらなきゃいいのにな)
他者から奪い取るための、いわゆる悪意が頭を巡る。でもなんの意味があるだろう?わからないほど馬鹿でもないので、なおさら気持ちが沈んでしまう。
「……」
理性の無力と、渦巻く強欲。走り出すコースが見いだせず、ただ、ただ、途方に暮れたまま。
(……ザッキー、君は優しい子。優しい、優しい、みんなのザッキー……)
ひたすら衰弱していく姿を、どうか笑わずにいて欲しい。自分が壊れてしまうから。もう、すでに全部が駄目だから。
(もう何も考えたくない。君の優しさを聞いていたい……)
胸に耳を押し当てながら、いつものそれが欲しいと思った。
「なんか喋って。何でもいい」
声の振動を感じたい。ここに居るのがよくわかるから。赤崎がこうして寄り添いながら自分に何かをしていて欲しい。なるほど自分はいつだって、二人で居ればこうだった。
(僕もこんなのだったんだ……違うと思っていたのになぁ)
そんなことを考えながら、いつものそれを待っていた。

*

「んー、何がいいのかなぁ」
まるで子供に寄り添うように、赤崎はゆったりとジーノに言った。
「逆に聞きたいこととかありません?」
聞きたくて聞きたくないことはある。例の、年上の子の話。聞けばどうなるかもわかってしまい、それを訊ねるわけにもいかず。
「……いや、別に特段何も」
「はっ……まあそりゃあそうッスね。いや、いいッス。わかってますし。興味もないでしょ普通にね」
思いもよらないその反応。自嘲気味にも聞こえる言葉は、ジーノの心を重くした。
「違うよ、なんで?」
「……」
「言いたいことを聞きたいだけさ、そういう方がいいなって」
戸惑い、少し顔をあげれば、そこに見えた表情は。
「あはは、ちょっと意地悪しました」
「……!」
片眉をキュッと皮肉に上げて、ニヤリとまるで見下すように。歪んだ口元に見える歯列も、楽し気にきちんと並んで見える。普通は頭にくることも、赤崎が言えばホッとして、その後それが悔しく思い、反撃のように抱き締めた。
「あ、ギブギブ参った!王子!」
不思議に少し気が晴れた。耳から声が沁み込んで、赤崎がいるのを深く感じる。
(そう、君と居る時のこういう感じ)
服越しでも感じる体と温もり。くつくつとした笑いの響き。独特の空気に包まれて、心がたちまち潤っていく。
「王子って本当にリスみたい」
赤崎が笑って自分に話す。どれだけそれに飢えていたのか、そんなことを理解する。
「リス?何?僕がかい?」
頭の奥がふわふわとする。重力が少し軽く感じる。
「今、リスの動画に嵌ってて」
いつもサッカーばかりだと。変な趣味もあるもんだなと。
「知りませんか?リスってね、ご馳走沢山見つけたら、全部食べないで取っておくんです。こう、頬袋に沢山詰めて、そりゃあもう大切に」
言われてリスを思い浮かべて、次にそのリスを見つめる姿を思う。スンとしたいつもの表情で?それともニヤニヤしながらか。どんな感じもいいと思った。赤崎とリスの動画というのは、色々と絶妙な組み合わせ。
「なんなら後で見せますけども、巣穴の中にせっせと運んで、そんで『好き』に囲まれながら満足そうに眠るんです。そういうのってすっげぇ可愛い」
嬉々として語る言葉の隅々。赤崎が教える楽しい時間。可愛いリスを思う気持ちが、すんなり耳から心の奥へ。
「王子もいいって思いません?」
(僕もいいって?うん、思う……リスも可愛い、ザッキーも。なんか可愛いが一杯だ)
赤崎の日々を吸収すると、心も体もポカポカになる。幸せというのはこういうことだ。なにげないほど他愛がなくて、なのに深く心に響く。
「最近俺を貯め込まねぇし、少し心配してました」
(……?)
ぼんやりと聞くだけの状態の中、文脈がわかりにくかった。
「こんな空っぽになる前に、いつでも補充してくださいね?どうせ俺は暇人スから」
ふわふわジーノは考えた。ソファやベッドが自分の巣箱で、赤崎をここに敷き詰めて。なるほど、とてもいいと思う。今のこの状況を言っているかと。なんだ、わかっているのかと。
「違うもの集めているんかなーとか、でもやっぱそうじゃなかったですね。忙し過ぎた感じかな」
「……」
「色々お疲れさまでした。このまま昼寝でもしましょうか」
眠りを誘う心音と呼吸で上下する固い胸板。体をすっかり預けているのに、重いと文句もつけないで。
「おつかいだってなんだって、手足と思っていいですよ。力になれたら嬉しいし、元気出してくださいね?」
差し出されている一切れだろうか。とても美味しい赤崎のパイ。嬉しい。それでも全然足りない。ファンと、仲間と、友達、家族。想い人もいるらしい。
「……うん、ザッキーありがとう」
健気で優しいみんなの赤崎。全てを望む自分は醜い。思考は不幸に近づく毒薬、だからジーノは目を閉じて、意識も半分だけにした。今を大事に過ごしていたい。願いは切実を帯びていく。
「ねぇ、あっちでゆっくり寝たい」
赤崎は笑って頷いた。知っていたからわざわざねだった。どこまでも甘やかすその残酷から、もう逃げ出せはしなかったのだ。

*

携帯はリビングに落としたままで、二人でベッドに移動した。
「先、着替えればよかったですね?」
「……」
赤崎がいいと言ったので、ジーノはギュッと抱きついている。おそらく少し苦しいはずで、けれどやはり文句も言わない。この腕枕は少し硬いが、居心地は悪い方でもなかった。
「王子?ああ、もう動けませんか」
すっかりスイッチがオフの様子に、赤崎はやはり微笑んでいた。
「……」
赤崎はジーノをリスという。ご馳走を運ぶ小さいリスだと。そんな可愛いものではないのに、そう言われれば気が楽になる。頼られることに喜んで、自分は赤崎に依存して、餌は平らげるためにあるのに、悲しいなどとは感じないのか。
「あれ、王子寝たのかな?ゆっくり休んでくださいね」
ぬくもりが頭をぼんやりにする。急に疲れがその身を包み、最近眠りが浅かったのを今更ながらに理解する。
(ああ、すごくザッキーだ)
慣れ親しんだその匂い。ぶっきらぼうで穏やかな声。すぐに人に尽くしてしまう根本的な健全性。赤崎は仕事の時以外、自分を齧りに来たりはしない。強制もしない。求めない。腕を広げれば気軽に与えて、寄り添い、静かに微笑み眠る。
(ザッキー……)
いつも気持ちが安らいだ。欲しいものを色々くれた。人々の搾取に辟易しながら、自分はいつでも赤崎を齧る。今も優しさを貪っている。全部を独り占めにしたい。それは不幸で、病みつきで、赤崎は自分を窘めないので、こんなに欲深くなってしまった。意地もプライドも粉々になり、ただ無防備に縋ってしまう。
(ずっと僕のドングリでいて?)
策略が脳裏に駆け巡るので、本当に寝てしまおうと思って、それでも全然寝付けずに、ただただ赤崎を抱き締めていた。

それはしばらくしてのことだった。
「俺ね、なんかここ最近、色々と考えていたんです」
ジーノが眠っていると思って、赤崎がポツポツ話し始めた。
「ほら、俺ってガーガー言われ慣れてる側で、褒められ慣れてねぇっていうか。でも王子は俺が出来そうなことを頼んだり、やらせてくれたりするでしょう?なんか役に立てるっつうか、そばに居てもいいんだよって言ってくれてるような気がして」
赤崎の中のジーノの姿は、ジーノが思う醜さがなかった。
「だから王子に誘われなくなって、怖いっつうか、不安っつうか。でもつまらない意地とかあったりなんかで、自分からは言えなくて。今日久しぶりにこうされて、なんかめちゃめちゃ喜んでたり……俺って情けないですね」
そう言い赤崎の両腕が、ジーノの身体を包み込む。
(待っ……ザッキー何?これ……)
無防備だった今のジーノに、それは刺激が強過ぎた。けれどその衝撃にも気付かないまま、赤崎は淡々と話を続ける。
「こうしてみたいと思ってました」
まるで血が逆流しているみたいで、頭の中が真っ白になる。
「ゴールかアシスト決めた日に!って。ずっと自分に条件つけてて。でもこの前の試合あんたがいなくて、それにここにも来れなくて……俺は自分のことばっか。王子がこんなにくたびれてんのに、寂しい、寂しい、そればっかりで」
突然鼓動が速くなり、再び発作に見舞われていた。苦しいくせにどこか甘美で、だからこれの理由がわかった。これは病気などではないと。
「こんなになるまで消耗しちゃって、一体何があったんですか?言えない気持ちはわかります。俺はあまりに無力だし。でも、あんたが辛いと俺も辛い。元気になってくださいね?」
「……」
「いいんですよ、誰も見てない。楽になれるならなんだって。王子はすっごく王子ですけど、らしくなくても王子です」
俺はあんたのためのドングリ。赤崎は自分でそう言った。
「あんたが人なの忘れがちだし、あんた自身もそうでしょ?王子。そういうところ、グッとくるけど、最近時々不安になるから」
「……」
「不安で不安で会いたくて、ああ、マジで来れてよかった」
体に強く響く鼓動は、自分だけのものではなくて、目を閉じながらも眩暈の中で、ただただ抱き締められていた。赤崎の吐息はとても熱くて、肌も少し汗ばんでいて、まるでたまらないというかのように時々体を震わせていた。
(あ……これ、ヤバいかも……)
そのままくるりと押し潰されて、呼吸もままならなくなった。
(待っ……息が……)
赤崎は飛んでしまっているのか、それとも慣れていないのか、でも男の本能からの行為と、ジーノは自然に理解した。赤崎が必要と感じていたが、そういう形と繋がりはなく、けれどこうして浴びてしまうとそこには何も不思議がなかった。このまま寝たふりをしていれば、次に何が起きるかも。
「王子、眠っていますよね?」
「……」
そっと髪の毛を整えられた。いつもの安心できる感触。
「ぐっすり、そのまま寝ててください」
初めて成された要求と、柔らかいものの小さな震えを、ジーノは黙って受け入れた。求められてなされたそのキスは、知らずに求めていたものだった。