俺の可愛いイル・ダメリーノ
【1769文字】
「僕の愛しのイリダータ」のアンサー的なエピローグ。イル・ダメリーノは色男、伊達男の意。自分ばっかりと思うジーノと、それを知らない赤崎の後日談。
「ずるいよ」
ジーノが文句を言うので、赤崎は、
「何が」
と普通に応えた。話はそこで終わってしまう。最近よくあることだった。
*
夕飯を終え、片づけをして、不機嫌なジーノはソファでゴロゴロ。何をそんなに気に入らないのか、今日も小瓶を片手に握る。
(またか……)
時々ジーノは悪趣味になる。あの香水はその象徴だ。少しは空気も読めるのだろう、明日は自主練、その後は休み。
「王子」
「……」
寝そべるジーノの傍にしゃがんで、拗ねた男を覗き込む。眉間の皺さえ美しい。ずるいのはどっちと笑ってしまう。
「早いけどそろそろ行きますか?」
「……」
手に持つ小瓶に指を這わせて、抑えた声でジーノに囁く。清々しいほど明確なのに、それでもジーノは難しい。特にこんな日の夜は、ジーノも苦労をしているようだ。物憂げな顔で赤崎を見て、何か言いたげに唇を開け、そのままじっと固まっている。その目は何かをぼんやりと追う。どこか切なげで、寂し気で、何故か不思議に狂暴な。
「ずるい」
とジーノはまた言った。
「ずるいよ、君は」
と繰り返し、甘えるみたいにその手を伸ばす。赤崎は今度は返事もせずに、すっぽりその胸におさまった。ジーノは静かに微笑んでいて、幸せそうで苦しげだった。
*
くたくたになるまで愛し合い、眠る前にジーノに問うた。
「王子、どうかしましたか?」
「……」
ジーノは黙ってキスするだけで、そういう夜が何度も続いた。
*
「僕ばっかりだ」
ジーノが言った。何がそんなに辛いのか。赤崎までもが切なくなって、ギュッと抱き締めキスをした。
*
ジーノと居ると幸せで、ジーノが笑うと涙が出てくる。ジーノの気持ちが晴れないと、悲し過ぎて心が萎れる。
「王子、王子、なんでもします」
「……」
文字通りなんでもさせられて、嬉しそうにジーノが微笑み、そんな幸福がとても甘くて今日もとことん奴隷になった。足を広げて腰を振り、好きだと何度も何度も言った。淫らな声で大きく喘いで、ジーノの熱さで何度も果てた。するほどジーノの虜になった。こんなにジーノを愛してしまって、どうすればいいのかわからなかった。
「助けて王子、もっとして……」
もはやその愛は赤崎を捩じり切るように責め立てていて、それでももっとジーノが欲しくて、欲しくて、欲しくて、止まらなかった。
「ああっ」
壊れてしまう。壊される。それでもいいと思ってしまう。ジーノがここに居てくれるなら、自分を愛してくれるというなら。
*
幸せの中、急に怖くて、赤崎はジーノに抱きつき泣いた。
「好きです。苦しい。どうしよう」
あんまりしくしく泣いているので、ジーノは額に口づけをする。
「ごめんね」
なんて謝っている。
「嬉しい。ザッキー。ごめんね」
と。
赤崎は何にもわからないので、
「何がですか?」
と泣きつつ問うて、やはりジーノは応えなかった。
「苦しいよね」
と抱くだけだった。
*
「君は全然ずるくない。ずるくないけど……そうだけど……」
ジーノの言葉はとりとめもなく、意味もさまざま入り交じる。喜び、悲しみ、残虐、懺悔。複雑すぎてわからないのに、それがとても綺麗と思った。この混沌はまだ新しい。緩やかにジーノが生み出したもの。
「ザッキー、もう少しこっち来て」
うねる波に飲まれるような、揺りかご、安らぎ、居心地の良さ。かつて夢で体感をした、あの寛ぎと同じもの。静けさの中の激しい情熱、シンプルな世界の中の奇怪。あちこち少しくすぐったくて、それでもみるみるほどけてしまう。
「……」
「ん?ザッキーどうかした?」
「……」
ジーノが知らないあの出来事を、なにげもなしに口にした。
「ずっと前から好きだったんです。俺ばっかりが……いつもそう……」
ジーノは小さく目を見開いて、微かに視線をくゆらせて、そうだったの?と微笑みながら、そうだったのか、と目を閉じた。
「僕も話があるんだよ」
赤崎の耳元にヒソヒソ囁き、
「内緒だよ」
なんて甘噛みをする。
「君は全然わかってないけど」
「……?」
「僕もわかっていなかったけど」
あいもかわらずとりとめもなく、それでも不思議に心が凪いで、苦しさもジーノに溶かされていき、幸せだ、なんて思ってしまう。だから再び自然に零れる。
「ずっと一緒に居たいです」
言葉は体と同じに重なり、それがおかしくてクスクス笑い、どちらともなくキスをして、二人同時に、好きだ、と言った。何度言ってもきりがなかった。
