お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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飼い犬と飼い主 8

飼い犬に溺れて混乱状態のジーノと強引なしつけの生活に翻弄されながらも徐々に気持ちがはっきりしていくザッキーのお話です。ザッキーいないと、このシリーズはもう大変です。でも、この時点ではザッキーはジーノの事情を全然知らないので力になれません。ただ、少しずつ夢の形でジーノの混沌に接触し始めます。まあそれには関係なく説明能力のないジーノは一人勝手に転落していくという鬼展開。6の「裏と表」で本音を諦めたジーノが「表と裏」で再び本音を口にしますが言い方が下手でどっちにせよ蹴散らされ。夜を求める度悲しみに溢れて益々渇いてしまうのは勿論ジーノ。

犬の気持ち2

 王子によると俺の調教は順調なんだそうだ。

 最初こそ紳士風だった彼が実は本当は紳士でもなんでもないただの獰猛な獣だったのだということは結局回を重ねるごとに身に染みてわかっていった。

    *  *  *

 いつものように王子がシャワーを浴びて、次に俺が入る。馴れない間はこの家に来たら必ず二人であの遊びをするのだという風習が馴染めなくて辛かった。シャワーを当たり前のように浴びれるようになるまで苦心した。戸惑ってナカナカ足が向かない頃、彼はとても獰猛だった。優しい笑顔で

「どうぞ?」

と言った後しばらくそのまま俺を見つめ数秒。そう、ほんの数秒程度はにこやかに待ってくれる。でも、一定の時間を経過すると表情がすっと消える。それでも動かないと…。冷徹な獣に、もう一度言わせるなら今すぐかみ殺すとでも言いたげな姿に豹変してしまう。その姿に竦んでしまうと、実際に彼に彼の厭うもう一言を口にさせてしまうと大変だ。

「自分で浴びれないのかい?」

 服を掴み引きずり込まれるようにシャワールームに強制連行される。そんな日の彼はとても早急で、かみ殺すと言うのが比喩でも何でもないくらい攻め立てられて俺は呼吸困難に陥ってしまう。この拷問の様な彼の厳しいしつけのパターンにより、俺は次第に彼のルールに染まらざるを得ない状態になっていった。

 すんなり俺がシャワーにむかえるようになった日、お利口だね、と言ってとても満足気な表情を浮かべた。カウチで待っていた彼は今までしたこともないくらいの甘い甘いとろけるようなキスをご褒美にくれた。

    *  *  *

 次からシャワーを出るといつも座っていたカウチから彼の姿が消えていた。

 王子は直接寝室で待つようになってしまった。女みたいなことは言いたくないけれど、俺にとってはカウチで二人触れ合う時間と、王子に手を引かれるように寝室に向かう儀式がないとナカナカそんなことをするような気持ちに切り替わらない。彼に手を引かれずに入る寝室はとても怖くてつらかった。今から自らの意思で彼に抱かれるのだと、そういったことをまざまざと自覚させられる。王子はとても意地悪な男だと思う。どれだけ俺が勇気を振り絞らねばならないかなんてすっかりお見通しの上でこれをやるのだから。苦しむ俺を見て笑う彼はやっぱり少し変わった趣味だと思う。

 やっとの思いで扉を開く。うつ伏せになって雑誌を読んでいた王子はサイドテーブルにそれを置いて、嬉しそうににっこりと笑って俺に手を広げる。猫型の肉食獣のようなしなやかな動き。補殺する姿勢。おずおずと近づき俺はやっとやっと手を差し出す。彼はその手を掴み俺を引きよせ横たえると、ベッドヘッドに置かれた部屋の照明のリモコンで電気をおとす。沢山の間接照明のついたこの部屋は、その日の彼の気分で甘い夜のトーンを様々なムードに変化させる。

 扉を開けて躊躇なく彼の傍に歩けるようになった日、お利口だね、といってとても満足気な表情を浮かべた。ベッドで待っていた彼は今までしたこともないくらいの甘い甘いとろけるような愛撫をご褒美にくれた。

    *  *  *

 次から寝室で俺が彼に手を差し出すと、王子は笑ってそのまま手を繋いだままでいるようになった。自分から俺をベッドに引っ張り込むようなことをしなくなってしまった。じっと俺の目を見つめ、キミがこっちにくるんだよ、と命令している。少しずつハードルを高めていく彼の行動。そのすべてがまるでセックスの一過程であるかのような錯覚に陥る。ただ触れあっているだけの手と手、指と指。そっと絡み合っている互いの両手は普通の握手のようなものだ。なのに魅惑的な顔で俺を見上げる彼を見ていると俺は次第にゾクゾクとしたものを感じ始めてしまう。磁石のように吸い込まれて、彼の胸にそっと自らその身を投げ出してしまう。

「ん、お利口だね。」

 王子が優しく髪を梳き、ご褒美とばかりに俺の額にキスをする。いつもの通り極自然に体を反転させて俺を組み伏せ、電気をおとす。そしてニコヤカに俺の胸元にその手を差し入れ、美味しそうに俺を食べ始める王子。回を重ねる毎に王子の手だけが存在するあの世界に行くタイミングが早まっていき、そしてその分長くそのままの状態でめくるめく官能に翻弄されるようになっていった。

    *  *  *

「あの…王子、電気。」

 繰り返しになるが、俺は断じて女のようなことを言いたいわけではない。でも俺が素直にベッドに入れるようになった頃、王子は雑誌を読むように点けていたベッドヘッド傍の一番明るい照明をおとさなくなったのだ。だから俺はこんなことを言わねばならない羽目になった。ここ最近は毎回これを言わされるので絶対にわざとだ。そして当然王子は俺がどんな文句をつけようとしても決して言うことを聞いてはくれない。

 この部屋の電気はマルチ調光式リモコンで全部一括でコントロール出来るようになっている。お互いの顔がようやく見える様な明るさにしてくれることが多かったのに、煌々とした蛍光灯のような明るさのライトは今からやる行為のすべてを互いの眼下に赤裸々に映しだしてしまう。
 耐えられなくて消したくて俺が勝手にリモコンに触れようとすると案の定彼はその度に残酷な姿に豹変した。シャワーを浴びることより、寝室に入ることより、ベッドに自分で入っていくことよりもこれが何よりもつらくて、本当にやめて欲しいのに。とても悲しい気持ちだった。恥ずかしくて言っているわけではない。王子もわかっているだろうにやめてくれないことがつらかった。

 部屋が明るいと美しい彼があまりにも眩しすぎるのがとてもつらい。俺は何回寝てもいまだに王子の姿をまともに見ることが出来ない。なのに時々反対に目を閉じることも逸らすことも出来ない状態になって、彼の欲情する姿を見続けてしまう羽目に陥る。そんな時どうにかなってしまいそうだった。

 そしてそれよりも大問題なのは俺が男だということだ。このごつごつとした骨っぽく筋肉質な体をベッドの中で彼にみられるのが心底嫌だった。沢山のグラマラスな女性達と夜を共にしてきたはずの王子。そんな彼を相手にするのに、俺のセクシャリティの欠片もないような無骨な姿はあまりにも無粋だ。体全部がコンプレックスでしかなかった。柔らかくもないし曲線が綺麗でもなく、胸はないし、女にはないものまでついてしまっていて。彼は雑食とは言うけれど、誰とでも寝れるタイプだと言うけれど。やっぱり俺みたいな男男した人間に欲情なんて結構無理な相談だよな?なんて毎回悩んでしまう。彼が何度俺の体を欲してくれようとも、彼の物理的な性的興奮を見せつけてくれようとも、絶対に腑に落ちなかった。ある日突然彼が馬鹿馬鹿しい遊びだと言いだして目が覚めてしまうんじゃないかっていつもいつも不安で。だから明るい中の行為は本当につらかった。

 でも、そんなことはお構いなしの王子は

「体だけでなく、そういう心の部分もまた…。まさにかけがえのないキミの美しさなんだよ。」

とうっとりと笑った。彼の言うところの“そういう”とは実際どういうものなのかも勿論説明してはくれない。キミはとてもとても美しい、と彼は残虐にも少し悲しげにも見える不思議な表情を浮かべるだけだ。この世のものとも思えない美しい存在の王子がよりにもよってこんな俺に向かってそんなことを言う。あんまりにも馬鹿げた話なので俺はいつも次の言葉を失うしかなかった。

    *  *  *

 優しい時の彼も、冷酷な仕打ちをする時の彼も、いつもいつも王子は俺の体をまるで宝物のように大切に大切に扱ってくれている気がする。だから馬鹿な俺は毎回自分勝手な錯覚をしてしまう。彼の中では単なる遊びでしかないはずのこの行為。俺は気が付くと彼の中に俺に対する情欲を超えた情愛を見つけようとしてしまうのだ。

   もしかして王子は俺のことが好きなのですか?
   これは愛と呼んではいけないものなのですか?

 彼に包み込まれて波に飲まれ、意識の消失と復元の狭間で繰り返される不毛な疑問。口に出して聞いてしまえばおそらくすべてが砕けて終ってしまう致命的な台詞。彼は自分の引いた線を自分が超えることはOKでも飼い犬がそこを踏み越えることは決して許さないだろう。そう、あくまでもこれは彼にとってはスキンシップの延長にしか過ぎない行為だ。

 どれだけ俺の欲しいものに酷似していようとも。確実に別物であることを俺は十分理解している。にもかかわらず。人間とは見たいものを見る習性を持つ悲しい生き物だから。決して聞いてはいけないタブーの言葉を何度も何度も繰り返し繰り返し呪文のように心の中で呟いてしまう。決して彼に伝えてはいけない、おそらくすでに彼は俺がこんなことを考えていることなど察知済みの、一瞬で魔法が解ける強い力を持つタブーの呪文。

 何人もの男女を問わない人間が彼の体を何度もこうして通過していることと思う。やっぱりみんなあまりにも卓越したこの技術で同じように絞殺されていったんだろうか。そんなことを考える。際限なくこうして何をされてもいいと思うほどに酔わされ、そのまま命すら差し出す気持ちにさせられておきながら。おそらく彼はある日突然“気持ちが冷めた”と笑って立ち去ってしまうのだろう。でも誰もどれだけつらくとも彼には何も言えないことだろう。

   だって彼はあまりにも王子な存在だから

   どのような理不尽な仕打ちをされたとしても
   彼がやるなら仕方がないなと不思議と納得させられてしまう
   そんな魅力に溢れる男だったから

   彼を許せないと思える気丈な人間は
   おそらくこの世に一人もいないと俺は思う