飼い主 1
ジーノ過去編。やりたい放題妄想捏造閲覧注意。1は小学~中学時代。2は高校時代前半、3は高校時代後半~入団まで(予定)です。ジノ→タツ(尊敬)、ジノ+モチ(肉体関係有のお友達)の話がメイン。ゴトタツもちらっと。少しだけどとても重要なシーン。イジメ表現あり。王子、後藤、達海、持田、彼女、大人達、コーチ達、同級生、ジーノ両親など、大人数。ジーノはバイ設定で性的にフランク。ゲイ設定のモッチーも彼女と軽く。
小学時代~ルイジ吉田
「やい!吉田の癖に生意気だぞ!お前何人だよ!言ってみろよ!」
「変な言葉しゃべんじゃねぇよ、わかんねーからって俺らのこと馬鹿にしやがって!」
また始まった。小学校の門を出ようとしていたジーノはため息を付く。いつものように下校中に同級生の男子5人に絡まれていた。
くだらない奴等…何人って、ボクは日本人だ
そりゃ小さい頃ずっとイタリアで生活していたから
日本語はそれほど上手じゃないかもしれないけれど
それでもボクの国籍は日本でれっきとした日本人なんだ
くだらない!なんて幼稚で低俗な奴等
「大体てめぇなんでランドセルじゃねーんだよ!生意気だぞ!おしゃれ野郎気取りかよ!」
「女に色目ばっか使いやがって!」
「お前ユイに昨日告られたんだろ?不釣り合いだよ!ふざけんな!」
突き飛ばしにかかられたので身をかわした。
こいつらの動きは常に直線的で退屈しのぎにもならない
この学校のサッカーチームはそれなりに強い
けれどボク以外がみんなこの程度じゃたかが知れてる
そう考えると益々くだらないな、とジーノは思った。本人も思うとおりサッカーのセンスはジーノだけがずば抜けていて、ちょっと浮いているくらいだった。
「それって…gelosia(ヤキモチ)、なんていうんだっけ?ヤキモキ?っていうんだっけ?フフフ、心配ないよ?ボク彼女に全く…愛?passione(情熱)?ないから。それになんでこんな、allora(えーっと)…上手じゃない?うまくない?…事するのかわからないよ。彼女にかわいく“キミが好き、ボクを見て?”って熱く愛を語ればいいのに。」
「ふざけんな!」
「おっと、危ない。今の足の裏見えてたよ?そんなのcartellino rosso(レッドカード)じゃない?気を付けて?Capisci(分かる)?」
「逃げんなよ!」
「Ciao」
普通にしていてもやたらと人の目を引いて、普通に話をしていても勝手に敵と味方が出来てしまう。自身の異邦性を意識させられる度にジーノの孤独が増した。日本で生まれてイタリアで育ち、父の仕事の都合でまた日本に戻ってきたジーノ。ここ日本は何一つとってみてもホームではなかった。沢山の民族の行き来するイタリアではジーノは単にジーノでしかなく、なにも考えずにリラックスして普通に生活することができていた。あの国では、どんな人間も肌の色が違う、鼻が高い、そんなことは個体を識別する単なる記号でしかなかった。こんな風に取り立ててどうこう言われるようなものではなかった。むしろそういうことを口にすることは逆に失礼であったりタブーであったりする場面も多かった。なのに、この国の人はイチイチそういうものにしつこく触れてくる。とっても閉鎖的で特殊な環境だ、ジーノはそう考えていた。
実際にはこの国の人々はジーノ容姿に対してだけ注目をしているわけではなかった。優しくて知的で大人びて見えながら、ちょっと茶目っ気もあるジーノ独特の深い人間性の魅力のせいだった。その惹かれざるを得ないような愛くるしさが自然と羨望とそして嫉妬の目を集めていたのだった。だが、そんなことはまだ年若いジーノが気付くわけがなかった。
ジーノは国を跨いだ環境の変化によってひそかに心細くて寂しい日々を過ごしてた。けれど親思いのジーノは一度も口にすることはなかった。しかし常にイタリアに、そしてもう一つ、日本にいながらもイタリアを感じさせてくれるサッカーに思いをはせていた。イタリアとサッカーの存在が幼いジーノの心を支えていた。
* * *
ここ最近ジーノがはまっているのは地元チームのETUの達海選手だった。まだルーキーの彼のプレイを見ることがジーノにとってなによりも楽しくてエキサイティングな時間。好きになってからは勝手にタッツというあだ名をつけて心の中で彼に話しかけることも多かった。日本には来たくなかったという思いが達海選手を見ているだけで和らいだ。
ねぇ、タッツ
今のプレイ、ホントすごいね
どうやったらそんな素敵なパスコースみつけられるの?
キミは本当に楽しそうにプレイをするから、ボクも見ていてとても楽しいんだ
ジーノの父親はサッカーにあまり関心がなかった。だからクラブチームに入ることもなければ、親に連れられてスタジアムに足を向けることもなかった。そのかわり、ジーノの個室にある録画機にはETUやそれに関するニュースの動画が沢山詰まっていった。また、父には内緒で母親に事ある毎にグッズや専門誌を買ってくれるようにおねだりをしたりしていた。
* * *
言いがかりをつけて絡んでくる同級生をいつものように軽くかわしながらジーノは心を弾ませながら帰宅した。そして急いで家の側の河川敷に向かった。今日はETUが午前練の日。こんな日の午後はETUの後藤選手と達海選手が本当に稀だけどあそこに遊びにくることがあるのだ。
たまたま偶然ここであの二人をここで見たのは、もうどうしようもなくイタリアが恋しかった時だった。一人、ぼんやりと膝を抱えるように土手の芝生に座っていた。ふと気が付くと、赤くなった日差しが川面を照らし、髪を乱すかのような川沿い独特の風が吹き、そんな中に大の大人が二人ボールを挟んで楽しそうにじゃれ合っていた。ただそれだけの光景だったのにジーノはなぜかある種の救いを感じたのだった。その光景はそれほどまでに美しく、ジーノが恋してやまない不思議な何かにとてもよく似ていた。
ジーノは走って河川敷についてすぐ、リフティングをしながら遊んでいた。一人じゃなんにもできない、パスのないサッカーなんてサッカーじゃないな、なんてことを考えながら。約束をしているわけでもない二人を時々こうやって待っていた。そんな中、あの日と同じように赤い日差しが川面を照らしはじめる。きっと今日はもうあの二人はこないだろう。毎回感じるこの気持ちはジーノはあまり好きではなかった。ため息を付きながらジーノはノロノロと帰り支度をする。
大丈夫、平気
あれは本当にボクに必要な時だけの特別なギフトだから
今日もきっと必要のない日だったんだと思う
そうだよね?タッツ?
寂しい気持ちを抱えながらも自分を納得させて、慌てて走って来た時とは逆に名残惜しそうにゆっくりとした足取りで自宅に帰った。
そう、あの二人をここで見かけたのはほんの数えるほど。もう二度とこんな偶然はないのかもしれない、とジーノは半分諦めてはいた。でも、救いを求めてやまない心が何度も何度も河川敷にこうして彼の足を運ばせていた。
本当はわかってるんだ
いつまでも子どものようなことをしているなんてボクらしくない
こんなことにすがってみせる遊びが楽しく感じるのも多分今だけ
もうすぐ卒業さ
繊細な心と、人並み以上に大人びた理性がジーノの中で常に交錯していた。
