お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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どんなにか

【3645文字】
表面上はツンとツン、中身はデレとデレのジノザキ。すっかり桜の季節ですけど、このジノザキは五分咲き的なイメージです。赤みが強く蕾も多い、子供じみたじゃれあい期。これから加速して咲いていくのをわかりあっているそんなお二人。

        ジノザキ

(うーん、今のところ、ちょっと発想がわからなかったな)
 動画を映し出すモニターは、大きいほどいいと俺は思う。ちょっとしたフェイクや切り返しなどは小さい画面ではわかりにくい。この家の寝室はちょっとしたシアタールームになっていて、ベッドの中で試合を観るのはここ最近のマイブーム。音響もさすがのこだわりで、防音もしっかりと王子は笑う。
「呆れた。まだその試合を観てるのかい?」
ドアを開けて入ってきたのはこの家の主。
「ああ、王子。おかえりなさい」
「ふん。とっくの昔にだよ」
帰るなりシャワーを浴びたのだろう。ベッドに転がり込んだ体から心地良い香りが漂っている。
「ちょっとどいてよ」
「何スか、そっち十分空けてるでしょう!?」
「ああ、全く。君はいつも暇そうで羨ましいよ」
という彼は、今日取材と撮影があったらしい。
「自分大好き人間が言っても、愚痴じゃなくて自慢にしか聞こえねぇし」
「可愛くないね」
「なんとでも」
この部屋での考察と集中はとても大切な時間であって、家主の王子はそれを知りつつ、わざわざ邪魔してかき乱す。
「ねぇ、夕飯は何食べてたの?」
会話の内容はいつでも必ず、本当にどうでもいいものだ。
「アンブロは今年の新作まだなのかい?」
気まぐれ猫のように身を摺り寄せて、まるでテレビに妬くかのよう。
「ねぇ明日の天気調べてよ」
普通に性格が悪いと思う。ここが彼の家だとはいえ。貸してもらっている立場とはいえ。
 王子は子供さながらの傍若無人。基本俺を大事にしないし、頼み事は基本断る。受け入れたとて、渋々だ。
「ザッキー、ねぇ、こっち見て?」
「あー、もう王子。帰って早々うるせぇなぁ……」
蔑むように睨んでみせても、その口角が自慢げにツンと天へと跳ねている。何をどう言おうと蹴散らして、常に俺を見下して。
「じゃあ、黙らせればいいじゃない?」
さも当たり前であるかのように、この家の主は自分なのだと。そしてお前の主も僕だよと。悪びれることもない不遜、今日も今日とて、この人は。
(ったく……)
それでも黙って王子に覆いかぶさり、そっとうるさい口を塞いだ。腕が俺を捕まえに来て、キスはそのまま深まっていく。
「ほんと、あんた面倒くせぇよ」
俺の苦言も何のその、くるりと体を反転させて、楽し気にキスを繰り返す。
「どうにかなんねぇのかな!マジでっ!」
「はは、何をどうしたいんだか」
普通にわかってはいるのだ俺も。自由気ままであくどい男を躾けることなど不可能だ。矯正すれば彼ではなくなる。こうだからこその、彼でもあるし。
「僕は世界一優しい。違う?」
言って聞き入れる人ではなくて、聞き入れるなら王子ではなく、この邪魔くささが存在性で、結局そういう彼のカラーが。
「こら、無視すると酷いよ?ザッキー?」
いわゆる、いじめ甲斐を感じているのか、意地悪な微笑みが浮かんで綺麗で、とても似合うと目を奪われる。その指はどこを這えばいいのか知っていて、体の主導の全てを奪い、俺が誰のものであるのか、今日も思い知らされる。
「……っ」
楽しむためのスパイスと、またあの言葉を言わされる。自由に俺の身体を跳ねさせ、苦しいほどに身悶えさせて。
「ねぇ、今日も言ってよザッキー」
「あ、……んぅっ」
「天国に連れて行ってあげるから」
入り込む指先に容赦もない。そこがすでに濡れているのも端からわかっている手付き。
「~~、っ、ん、んんぅっ」
噛んだ唇を舌先で舐められ、緩んだそこから嬌声が漏れる。
「準備万端に待ってたくせに。可愛いくせに可愛げがない」
イきやすい場所に刺激を受けて、イきそうになると止められて、出したくもない声が出て、防音設備のあるその意味を嫌というほど思い知る。
「準備のためだか、楽しんでたのか、深くは聞かないでいてあげる」
「やめ、……やっ、駄目、許して、あっ、ああっ!」
「おや、かまってもらいたいんじゃないのかい?」
舐めんばかりの可愛がりよう、いや、王子は実際にあちこちを舐め、時々小さく甘噛みをする。蕩けるようなその拷問が、何よりもきついとわかった上で。
「僕にこんなに奉仕をさせて。幸せ者だよ全く君は」
翻弄による朦朧の中、王子は囁き、追い詰めていく。
「ほら、言ってごらんよザッキー。愛されたくってたまらないって」
彼にとってのこの囁きは、快楽を生み出す言葉であって、ふりかけ、まぶして、焚きつけて、さあ、君の本音を晒してごらんと、恍惚の目で威圧してくる。
「そして存分愛されながら、イッて幸せに溺れてよ」
そんな風に問い詰めなくても、そんな風に弄ばずとも、俺の全てはとっくの昔に、貴方だけのものなのに。全部理解をしていてなおも、何度も何度も飽きることなく、王子は俺に証を求める。
「今日も我慢大会かい?いいよ君の気が済むまでね。欲しいとおねだり出来ないんなら、どれだけだって僕は待てるよ」

*

「ふふ、今日も随分長引いちゃった」
君のせいだと腐す割には、満足そうに大きく伸びて、王子が隣で気怠く笑う。
「疲れちゃったよ。ねぇ?ザッキー?」
短い毛先を指で遊ばれ、でもそれを振り払う元気もない。喉がカサカサに枯れていて、鉛のように体が重い。いつもひどい目に合わされて、なのに満ち足りてしまっていたり。
「ね、ザッキー。こっち見て?」
俯せ、そっぽを向いたまま、甘える王子の戯言を聞く。王子は多分俺を見ている。目で見えなくても肌で感じ入る。
「見てよザッキー。僕のこと」
出せば終わりの人ではなくて、それが俺を潤わせ、どうかしているとうんざりもする。防音設備のある部屋で、一人では広いベッドの上で、終わって甘味の深まる声をずっと全身で感じていたい。
「もしかしてザッキー寝ちゃったの?」
指先はやはり髪を遊んで、その感触が優しくて、世界一だと嘯く言葉が深く深く心に染みる。俺は色々気が遠くなる。俺の扱いをよく知る男の、手練手管とその情に。
「お疲れザッキー。じゃあ、おやすみ。心ゆくまで眠るがいいよ」
この身を溶かす真心だとも、反吐が出るような欺瞞とも、時々揺れる心の振り子がこんな夜には静かになった。好きだよ、だとか、幸せ、だとか、君を愛しているよ、とか。よどみなく流れるその睦言が、素肌を通して自然に沁み込む。思いのままに愛する王子のその情熱に抱かれて眠る。
 好きであるとか、気持ちがいいとか、もっとしてとか、イってとか。抱かれてとても嬉しいだとか、貴方を愛していますとか。言うに言えない言葉は沢山。でもきっと全部が伝わっている。いつでも俺は目で訴えて、王子は今日も受け止めていた。

 だから眠くて仕方がなくても、眠ってしまうに惜しい夜。
「何寝かしつけようとしてンスか?」
「あれ?ザッキー起きてたの?」
やっとやっと顔を向け、半ば無理矢理挑発的に。俺にはそれしか術がないから。きっと王子もわかっているから。
「まだ俺天国行ってませんけど」
苦しい言い訳じみた言葉で。
「俺、全然若いんで。壮大な大見え切ったんだから、もう少し付き合ってくださいよ」
愛の囁きは茶番であると。行為が全てを証明すると。
「少しは盛り上がること言ってやるんで、ちゃんと仕事してくださいね?」
馬鹿だと自分でわかってはいる。でもこうせずにはいられない。
「ふ、ザッキー。言ったねぇ?」
あやふやで意味深なその微笑みの、向こうに潜んだ王子に問う。
(こんなに可愛げないですよ?それでも?王子、それでも俺を?)

 俺がねだってする時は、海の底のような静けさで、始まりそして嵐で終わる。結局言葉の一切もなく、ただただ吐息と、汗と体液。衝動的な互いの情欲。思考も理性も全て手放し、無心に互いをひたすら求める。仲間でもあり敵でもあった。そしてそれが俺らであった。

*

 大窓からさしこむ光は明るく、あっけらかんとした朝の中。王子は布団にくるまって、二度寝を試みようとしている。低血圧か、性分なのか、王子はともかく寝起きが駄目だ。俺は熱いシャワーを浴びて、コーヒーを淹れ、パンを焼き、それを食べてから部屋に戻って、寝汚い男の相手をしている。

「王子。そろそろ起きないと」
「んん……」
「俺、もう行きますよ?」
「行くってどこへ……?」
「そんなの練習に決まってんでしょう!?いい加減あんたも用意しないと」
「んー、やだ」
「やだじゃない」
「今日は休むよ……怠いから……」
「王子!」
布団を剥いでやろうとすれば、どこにそんな力があるかと笑えるほどの抵抗で。
「ちょっと!そんだけ元気あれば起きれるでしょう!?」
「無理だよ、君のせいで足腰がもうガタガタ」
「!!」
「狡いよ頑張るの僕ばっかり」
もうこれは聞いてはいられない、と、布団から手を離し、冷めた口調で言い放つ。
「なるほど。じゃあ、やんなきゃ一番楽ッスね」
「え?」
「それが一番疲れない」
慌てて身を起こす王子を笑って、二の腕を掴んで声高らかに。
「さ、起きた起きた!今からだったら全然間に合う。とっとと用意しますよ王子?」
俺が勝てるのはこの一瞬だけ。寝ぼけまなこの寝起きの王子は、参ったな、なんて苦笑しながら、優しく絆されてくれるのだ。

      ジノザキ