飼い犬と飼い主 5
前回我慢できずザッキーに軽くちょっかいを出してしまって大後悔のジーノが今度こそはとほのぼののんびり飼い犬生活を目指します。良い先輩になるため頑張ってる幸せなジーノと、優しいホワイト版ジーノに可愛がられて幸せなザッキー、今回はそんな二人の原作1年前の年明けから夏までの話。エロなし健全。王子、赤崎、赤崎父、モブ女(気配)、ジュニアユースっ子(気配)、赤崎のジュニアユースの仲間(気配)。次回!バトル展開ッッ!!(エッ
迷える飼い犬
あの立食パーティの次の日。飲み慣れないお酒をたくさん混ぜて飲んだことで俺は次の日ひどい目にあっていた。気持ちが悪いし、吐き気が止まらないし、起き上がることもままならずベッドに伏せていた。
ああ、散々だ、頭痛ぇ…
これまでも盆暮れ正月、祭りの時期と、親戚が集まる時には少しは日本酒やビールなどを飲んだりした経験があった。別にいつも平気だったから昨日もそのつもりで飲んで、舐めてかかっていた。そう、これは初めての二日酔い。そんなに飲んでいたつもりではないのに、こんなに悪酔いしてしまったのはその場にあったいろんな種類のお酒を片っ端から飲んでいたせい。でもそれだけでなく、やはり例の出来事が響いてると俺は王子のことを思い出していた。
“フフフ、若い頃は己の限界を知るのも管理に必要なことかもね。”
こんな状態になってしまうとあのセリフが忌々しい。なんだかあの人が今の状態を見越して嘲笑している気がした。二日酔いでムカムカしつつ、頭から離れない彼の姿を思い出す。フラリと会場で俺に話しかけてきた俺の先輩。あの時彼が手にしてたグラスは?非常階段に向かう途中、確かにテーブルに置いて出た。…でも、それがなんだったのかさっぱり思い出せなかった。ビールが入っていた?それとも水?突然自分にキスをしてきた男は、酒に酔うとやる悪い癖だと俺に言った。なのに他の人には車で来ていて今日は飲んでいないと話をしていて…。なんだかその二つの光景が、酔った俺の頭の中でクルクルと駆け巡っている。
以前彼が調子が悪かったとき、
“二人で過ごした時間について犬猫を抱きしめたのと同じこと”
と彼は言ってた。そしてすべて忘れろと。わかってくれと。今回の彼は、
“いくらなんでもキミ相手に。ろくでもない結果になるとこだった”
と言って。そうしてやっぱり今回もそれを忘れろと言った。あの人の中では大した話でもないことを、俺の中では忘れられるわけもない出来事を、もう2回もなかったことにされている。
何度彼に問うても、彼からの返事はいつも“大切な後輩”ばかり。なのに、こうしていつも俺の気持ちを弄ぶかのように、そうではない一面を見せてくる。失策といいながら、俺の気持ちを煽ってくる。そんなこんなで、俺は彼と一緒にいると楽しいのか苦しいのかわからなくなる。
先輩としての彼は完璧だ。技術、知性、教え方。なにをとってもこれ以上ない素晴らしい俺の指導者。過去、コーチ達に指摘されながら克服しきれなかった細かい俺のプレイの癖を次々に見つけてはコツを教えて消し去っていく。俺のやりたいことを言葉にしなくても彼は理解するし、彼じゃない相手にそれをやる時の連携相手にどうやって意図を繋げるか、その効果的なコンタクトの取り方なんかも教えてくれる。あれだけすごい人にもかかわらず、それを単なる年の功と言って、俺くらいの年ではなんにも出来ないでくの坊だったと笑う。謙遜をする性格ではないし本心からそういうことを言っているところが、彼のパーソナリティの高尚さそのものだと思った。本当に偉い人は偉ぶる必要がないのだ。高慢な王子様気取りの言葉がウィットに飛んだ彼のジョークなのだと話していけば当たり前のようにわかってくる。嫌味なくらいの完璧さをそうやって抜けた形に変えることでさらに完璧さが増す。そう、彼は完璧に隙のない王子そのものだ。
でも、彼のプライベートな部分になると…。あれだけ先輩としての対応が完璧なのに、恐ろしく矛盾を抱えていて、その時々でいろんな選択、いろんな言い方、いろんなリアクション、いろんな表情。完璧な王子の有り方がさらに高度に複雑化され、もう普通のセンスでは咀嚼できないくらいの強い悩殺力になっていく。それくらい私生活の彼は知れば知るほど魅力的。俺みたいに単純な人間だと完全に手玉に取られて混乱させられる。こんなにも一貫性のない人間は初めて見た。いや、ある程度一貫性はあるのかもしれない。俺が彼に対して劣情を抱けば、それを否定し。俺の気持ちが落ち着けば、昨日のように煽ってくる。結局彼のやっていることは、矛盾でも何でもなく、俺を翻弄することそのものなのかもしれない。
やっぱ好きだよなぁ…
酔った頭で今年の春から一緒に過ごした時間を思い出す。あの優しい笑顔。からかう笑顔。彼は笑顔ばかりが印象的。つくづく厄介で魅力的な悪い男。王子はものすごくモテる。あんまり個人的な話をしない人だけれど、それでも付き合った別れたの話はもう何回聞いたことやら。一度に複数の人間とも付き合っているみたいだし、みんなはそれを許してくれると言う。なんて馬鹿げた話だと思っていたけれど、最近ではそんな女性たちの気持ちがわかるような気がした。彼をどれだけ独り占めしようと思っても、あれだけの人間を一人で丸抱えするなんて、到底無理な話なんだと。一緒にいればいるほど気付かされる。
俺は彼女たちに比べれば、一緒にいる時間がとても長くて、うらやましがられるくらいのいいポジションにいる。彼女たちの知りえない、彼の中にある真実を、サッカーへの強いパッションを傍で体感することが出来るのだ。チームメイトに限定しても、多分今は俺が一番彼の傍にいる。そう、本当はそれだけで十分満足できることで。
でも、彼女たちは俺の知らない彼を知っている。夜のアレをする時の。そのことを思うとたまらなくなる。考えたくないのに、頭から離れない。
どうして、こんなことになってしまったのか
ため息が出る。俺は今まで、これほどクヨクヨしたことはない。どんなことがあっても、その時その時で自分の気持ちに決着を付けてきたし。決着を付けた気持ちが揺らぐことはただの一度もなかった。好きでもない女の子の付き合いも無理ならきちんと清算したし、サッカーの夢もどれだけ笑われようと曲げることは一度もなかった。なのに、王子のことだけは。自分のことなのにあやふやで、なにもかも見渡すことのできる彼の手中で騒ぐ孫悟空のようだ。
* * *
口では勝てないことはわかっていても、やっぱりケリをつけなければ気が済まない。次に彼に会う時にはもう一度彼の気持ちを確認してみようと赤崎は考えた。今度こそは本気で、有耶無耶にされないように頑張ろう、と。
気持ちが悪いので今日は一日寝て過ごすことに決めた赤崎は、年明けの再会に思いを馳せながら眠りについた。考える気がなくても四六時中頭から離れない美しい男。優しく笑い、冷たく笑う王子の姿を寝ても覚めても思い浮べる、そんな風に過ごす初めての冬のオフ。
