お花結び

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飼い犬と飼い主 4

幸せな飼い犬生活を過ごすジーノ。王子に思いを寄せ始めるザッキー。追うものと追われるものが逆転します。ジーノはより良い飼い主を目指し、ザッキーはかわいい後輩のポジションから抜け出したい。そんなザッキー入団1年目の12月まで。以降は徐々に悲惨になっていきます。昼メロ的に。王子、赤崎、世良(ちらっと)、後藤(ちらっと)、モブ女。

飼い犬の気持ち

 目の前にいる美しい男。入団してからずっと、俺はこの人に選手として色々お世話になっている。最近ようやく俺は監督にも認められてピッチに立つ機会もできてきた。これは俺の努力もあるけれど、大部分が王子のアドバイスのおかげと言っても過言ではなかった。彼のサッカーに関する知識レベルは非常に高く、練習内容について理論的な意味をわかりやすく教えてくれたり、踏み込み方のアドバイスをされてFKの威力が格段に上がったりと、本当に勉強になることが多かった。

 だから、俺は彼の指導に対してとても感謝している。今は感謝の気持ち以上にとても好意を寄せていると言っていい。王子はサッカーをよく知る先輩というだけでなく、そのパーソナリティについて知れば知るほど本当に魅力的な人物だ。一緒にいるだけで幸せな気持ちになる。

 俺達二人の会話はそのほとんどがサッカーに関するものだが、時に生じるほんの些細な日常会話がとても心地よいものだったりもした。でも、なぜこの人は俺をこんなにかまう?なぜこうして二人でいるのだろう?最初から抱いていた俺の疑問は、いまだ明快な答えが見つからず、少しずつそれが頭から離れなくなってきていた。

「なんでいつも俺にかまうんですか。」
「なに?なんか不満?」
「不満てわけじゃないんですけど…」
「けど?」
「なんかこうしてる意味とかあるのかなと。」

時々二人でいると。たまらなくなってしまって確認したくなる。あらゆる言い方で、さりげなさを装い、何度も何度も確認したくなる。

「意味が欲しいのかい?」
「なんとなく…」
「簡単さ、チーム内の先輩がかわいい後輩の面倒をみている。それ以外の何がある?」
「……」

 でも形をどれだけ変えようと、その問いの内容は結局いつも同じ。そして解もいつも同じものだった。俺は彼の中に俺への欲求を見出したい。その欲求がなになのかを見出したい。でも、それはいつもないのだ。

「迷惑かい?」
「いえ、ただ、なんか腑に落ちなくて。こうしてメシとかも最近よくおごってもらってるし。」

 わかっていながらぶら下がるように、食い下がるように、しつこくまた問うてしまう。答えはいつも同じ。それもまたわかっている。

「キミがその問いをボクにするということは、その関係性では納得できないというわけだよね。でも、それはキミの中の問題で、自身で処理すべき事柄だよ。意味付けが欲しいなら他人の迷惑にならない範囲で自由にすればいいさ。」

 人あしらいに長けたこの人は、こういう部分である意味とても誠実だ。いつもこうして次の言葉も出せないほどに容赦なく俺をシャットアウトする。ちっぽけな自分の存在を痛感する。この言葉以外の何が欲しいのか。先輩後輩以外の、何でありたいと思うのか。王子に問う以前に、そもそも自分の中に生じたこの気持ちがなんなのかもよくわからない。友情なのか、親愛の情なのか、それとも他の何かなのか。なぜこう求め、求められたいのか。今とは別の何かが欲しい。でも、その中身もよくわからない。

 彼のこの優しい笑顔と、心地よい手の温かさが俺をドンドン変えてしまう。本当に取り留めもない、自分の中の不毛を感じる。

「そんな顔しないでくれないか?ボクはキミのことをとても大切に思っているよ?わかるだろう?御馳走するのも趣味みたいなもんさ。気にする必要はない。誰に対してもそうなんだから。」

 落ち込む心もお見通しで、こんなとき優しく笑ってクシャクシャと頭を撫でてくる。いつもいつもまるで子ども扱い。与えられたものでちっとも満足できない俺は確かに本当に子どもなのだ。俺は入団前この人が他の後輩に対してどう接してきたのかわからない。聞くこともできない。彼のいうとおり誰に対してもそうであるならば、こうやって二人で過ごす時間というのは期間限定のそれなりに短いものになるということだ。次にまた新しいルーキーが入ってくれば、この先ここにこうして座っているのは俺ではないということになる。そのことを思うとなんだかとても憂鬱になる。俺はもうこの人に執着を持ってしまっている。執着と寂しさを口に出したことは一度もない。でも明らかにそれを見越して彼は言葉を発する。

「キミは練習中は本当に気丈なのに、こうしてプライベートになると途端に気弱になるんだね。そういうのも悪くないけれど…。他人に対して簡単に弱みを見せるのは得策ではないよ。」
「他人じゃないッスから。先輩と後輩でしょ。別に変じゃない。」
「そのセリフ、クロエ達にも聞かせてやりたいものだけどね?フフフ」
「リスペクトできる人間しか先輩だなんて思ってませんから。」
「ふ~ん、それってボクのこと褒めてくれてるのかな?それは光栄だ。」
「……」

 自分で言っておきながら思わず赤面した。どんな顔で見られているのかも想像がつくので、思わず目を伏せる。

「プレイの幅を広げていくためには、もっと駆け引きが上手になったほうがいいけれど。キミはそうやって真っ直ぐのままのようが人としてはいい気はするね。ん~、これは難しい問題だ。キミはこの先どういう選択をしていくのかボク結構楽しみだったりして。」
「選択もなにも、やれることしかできねぇから。」
「ま、そりゃそうだね。…その通りだ。誰しも思うように生きられるわけじゃない。」

 声のトーンが変る。時々こういうことがある。人生のすべてを手に入れてきたかのようなこの人が、まるで不自由な生き方をしてきたかのようにつぶやく姿はとても不思議で。とても違和感のある異質なものだった。

 食事が終わり、帰宅する時間。俺は自転車で練習に行っているので車で送ってもらってグランドまで逆戻り。でも到着しても、彼の車から降りるのが忍びない。

「どうしたの?なにか忘れ物かい?」
「はぁ…」
「なに?お店戻ろうか?」
「意味付けの話なんですけど。大切イコール好意って考えること。他人に迷惑が掛からない範囲の自由に入りますか。」
「…忘れ物って、それ?」
「はい。」

 目を合わせられない。俯いたまま彼の反応を待つしかなかった。

「…いいんじゃないかな?あながち間違いではないのだし。好意がなければ善意も起きないものだろう?」

 ギュッと胸が締め付けられる。わかってる。この言葉は彼の誠意で。勘違いしてはいけない。彼が譲れるギリギリのラインにある言葉なのだ。でもその一言がたまらなかった。想像以上のモノを得られて嬉しくて、そして物足りなくて苦しかった。
 そうしていると、運転席から手を伸ばして、また頭をクシャクシャと撫でてくる。その手はもうこの話は終わりだと告げていた。

 さよならの挨拶をして車を降りる。笑って彼が走り去る。自分の想いの不毛さに、どうしようもない行き止まり感に、足取り重く帰路につくしかなかった。