趣味と実益って感じだよね
貧乏クラブに金持ち王子の存在って謎が多すぎで副業説を捏造。(バキ→ジノ、ジノザキの世界観です。)バッキー今回もチョイ役。そしてザッキーいつもゴメンなさい。でも変態ラテン系王子に付き合うのも宿命ですので諦めるしか。なんだか王子がちょっとした奇行種に見えてきてしまって…アカン。
「王子ってなんでそんなお金持ちなんですか?」
王子のディナータイム。オレと椿を連れて個室でゆっくりと。オレはすっかり慣れてしまったけれど、椿はこういう時間にまだまだ慣れていなくて、高級そうな店の高級そうな食べ物に恐縮気味。
「ん?別にお金持ちじゃないよ。使うところを絞ってるだけで普通の一般市民さ。」
「いや、でもこのお店いつもメニューもないし多分すごい値段なんでしょう?」
「バッキーは下世話だねぇ…。」
「あ…す…すいません。」
「値段を気にするより、味を気にしてほしいところだけど。ここのお店はボクの友人の店でね。安くしてくれてるからあんまり意識しなくていいよ。」
オレは知ってる。友人じゃない。彼はこの店の常連で。だからVIP対応になってるだけ。王子はいつもクレジットで支払いを済ませてしまっているから値段はわからない。けれどオレらよりグレードの低いコースを食べてた客が万単位の支払いをしているのは見たことがある。椿じゃないけど一体どこからこんな金が…。
「…おいしいッス。でもオレ、あんまり味とかわかんなくて。」
「そうでもないよ?キミは実家でいいものを食べて育ってきたんだね。素材の味とか、そういうものをよく理解しているよ。だからこうして連れてくるのもボク楽しいんだ。」
「いや!田舎だから山でオレが採ってきたりとかそういうこともあっただけで…」
「食の本質を知るっていうのはそういうことだよ。全くうらやましい少年時代を過ごしたものだね。ねぇ?ザッキー?この子は青いうちに収穫したような紛い物のトマトなんて口にしないで暮らして来たんだと思うよ?本物の食べ物で作られた体だからこんなに強いのかもしれないねぇ。」
「…そッスね。」
王子はオレに話しかけながらも、椿の方を見ている。優しい顔で。ちっともこっちを見ちゃいない。オレは少々面白くなかった。
「いや!そんな、体が強いとかあんまり言われたこともないし!」
「だって…ねぇ?足腰も強いしスタミナもあるから、なんか彼女とか大変そう。フフフ」
「!!な!なんていうことを!!とんでもないです!王子!」
「ハハハ」
3人でいると、なんだかオレがいつも付け足しみたいに思えて。王子も椿も好きなのに、奇数の組み合わせってなんだか嫌だ。今までの人生ではどんな場面でもオレが中心だったのに。強烈な個性の二人に挟まれるとなんだか自分がちっさく思えてしまう。
「でもやっぱ、王子くらいになると年棒とかすごいんでしょうね?」
いきなりギョッとするようなことを椿が言い出す。やっぱこういうところがオレとこいつの違うところなのかなと感じた。本人は全く日常会話のつもりでいるんだろうけど、こいつのメンタルはチキンなのか強靭なのかよくわからない。
「ちょっとちょっと、ボクがいるのはETUだよ?提示価格にごねたこともないし至って普通さ。キミたちとそれほどかわらないんじゃないかな?」
「まさか!」
「ハハハ、なんか選手としての価値なんてよくわかんないもんね?そんなの適当適当。」
「…王子ってそういうのも結構プライドがあるのかと思ってました。」
「えー?なんか思い違いしてるよ?ボクそういうの無頓着なんだよね。そのせいで大好きな椅子ひとつまともに買えない生活してるのに。ハハハ、キミたちと似たような生活なんだよ。」
「へ~、なんか意外。そんな感じなんですか。なんとなく親近感湧きます。」
「ハハハッそれはよかった。」
椿は感心してるけど。王子の欲しい椅子、200万だぞ?乗ってる車、1000万超えだぞ?と心の中で呟く。でも話を聞いてたらこいつまだ王子の家とか来たことないのか。小さいことだけどほんのちょっと優越感。あの家見たら椿はきっと目を回すだろうなぁ。この人さりげなく契約金に無頓着って言ってるけど、それは無頓着でいられるだけの資産を持ってるっていうことを意味してるんだけど。
「ま、趣味程度に友達に頼まれたデザインとかね。そういうのでポケットマネー程度には。生活の為にやってるわけじゃなくて趣味の一環だけどね。」
「え?デザイン?」
「うん、もともとは自分の欲しいものを作ってもらったりしてただけなんだけど。そのうち商品化しないか?って言ってくれる友達とかも出てきてさ。おんなじものを使われるのはやだから、違うのを代わりに。なんとなくそういう感じでね。」
「へー…。」
「オレ、それ初耳ッス。」
「そう?二人とも興味あるんだ?なんなら今度よかったらプレゼントしてあげようか?試作とかもらえるんだけどいらないからいつも返却するか欲しい人にあげてるんだ。」
「あ!ありがとうございます。楽しみだなぁ~。でも高級すぎてオレに合うかなぁ?」
「ハハハ、だからそういう目で見ないでよ。その辺で売ってる普通のものだよ?」
「王子の好みってシンプル系だから意外と使いやすいかもしんないですね。」
「そうだね、日用品系で邪魔にならないようなものあったら持ってくるね。喜んでもらえるならボクも嬉しいし。」
「ありがとうございます!」
「どうも。」
「バッキーはともかく、ザッキーがそんな感じで素直だとなんだかボクも嬉しいよ、フフフ」
「なんスか、それ…ハハハ」
モノがもらえることが嬉しいって乞食根性ではないんだけど、純粋に王子の才能に興味があった。この人は人柄はおかしいけど、センスは抜群だから。
* * *
その数日後、練習に向かうとロッカールームで椿が興奮して王子にお礼を言っていた。
「このシリーズって王子がデザインしたものだったんですか!?」
「フフフ、ロゴだけね?インナーバッグなら遠征とかでも使えるかな?って。」
「ありがとうございます!」
「でも、ボクがやってるってのは内緒だよ?色々面倒だから。」
椿が手にしていたのは最近女性に人気だというThe Crownシリーズのものだった。このシリーズはファブリックから食器、文具、小物、洋服と様々なバリエーションの商品展開が有名で。現在品切れ状態が続いていると今朝のニュースでやっていた。「He threw away the crown for the sake of love.」(彼は恋ゆえに王冠を捨てた)というエドワード8世の一件から取ったと思われるメッセージを添えた小さい王冠マークが特徴。シンプルながら個性的でロマンチックなデザインは街を歩いていても目にしない日がないほどの大人気商品だった。
「…それ、王子が?」
「ああ、ザッキー。ちょっとした落書きだよ。友達が前回のThe Leafより好調だってはりきっちゃってさ。」
「え!あれも王子が??あれなんてすでにド定番な…」
「うん。Crownはボクの個人的な持ち物用のタグに使ってたから違うのあげたんだけど。結局はCrownあんまり気に入られちゃったから仕方なしにね。ま、いいんだ。タグのロゴ変えたし。」
笑ってウインクしてみせる。
「新しいの考えたンスか?」
「ん?ザッキー、見たい?こういうのだよ?」
取り出したのはスキンケアセットの入っているポーチ。サイドのタグには表裏に1匹ずつの犬のシルエット。体の部分にそれぞれ“Z”と“B”のイニシャルが。ザッキーとバッキーか。おい、これ本当は“A”と“T”だろう?そそれにしてもなにこれ、めっちゃかわいい…。
「いつのまにこんなの…。」
「受け取ったのは結構最近かな?ロゴ渡すかわりにいくつか好きなもの作ってあげるって交換条件だったんだ。ボクそれで十分だったのにインセンティブもあげるってうるさいからさ。今年は確定申告大変そう。面倒臭いし、やだねぇ。ま、自分ではやらないけどさ。」
あんだけ売れてる商品のインセンティブって…一体どれくらいになるんだろう。
「あぁ、でもこれ、キミたちに無断で作っちゃってたし、ある意味肖像権の侵害かな?お詫びにキミたち用にもそれぞれ作ってもらおうか?」
「あ、いえ別に!そんな!」
「犬の絵でオレらの肖像権侵害ってある意味失礼な物言いでしょ、王子。ありえねぇ。」
「ハハハ、そうかな?」
「そうッスよ。」
そう言いながら王子が一向にオレにはインナーバッグをくれないので、なんでだろうと思った。その疑問に気づいたのか王子がオレにヒソヒソと耳元で囁いた。
「キミのは今日持ってくるの忘れちゃったんだ。帰りに取りに来て?」
「はぁ。」
* * *
「キミとは長い付き合いだし、バッキーと同じものではね?」
食事が終わり、のんびりしていた頃、王子が言った。最近ちょっと疎外感を覚えていたのでなんだかちょっと嬉しく感じてしまったのが恥ずかしい。王子が立ち上がって取り出したのは革製の洋服のようなもの?いや、でもそれはちょっと高級すぎるような…。
「いや!王子、さすがにそんないいものをタダでいただくなんて。」
「あぁ、いいものだなんて、気に入ってもらえて嬉しいよ。あげる代わりにここで一度試着してみてくれない?」
「あ…、なんかスイマセン。」
袋から出してみれば受け取った中身は黒い革製のボンテージのワンピースだった。しかもマイクロミニ。
「な!!!なんだよこれ!!!これのどこが日用品なんだよ!」
「ん?キミに似合うと思って。」
「そういう問題じゃねーだろ!これ女用じゃねーか!」
「違うよ?ちゃんと男性用だよ?ボク、その手のお店の専属デザイナーもやってるんだ。むしろそっちのほうがメインかな?こういう業界のって本格的なのってバリエーションが少なくて、お店の子たちも結構困ってるらしいんだよ。だから」
「だからじゃねぇよ!あんた一体どういうお店に出入りしてッ」
「違うよぉ、お店に行ったりしてないよ?オーナーとか業者とかと知り合いなだけでさぁ」
「だから、なんでそんな怪しい人らと知り合いになるほど懇意な付き合いになってんだよって話だよ!」
「なんだろ?人徳?」
「人徳じゃねぇ!」
「いいからあげるから着てよ。」
「いらねぇよ!」
「ダメだよ、そんなの。男が一回着るって口にしたなら絶対着ないと。バッキーに愚痴っちゃうよ?この服みせちゃうもんね。最初はいいもんもらったってよろこんだのに結局返品したってさ。もっとすごいのがいいって断られたって言っちゃうし!」
「あ!ダメだ王子!それは!!」
「でしょ?じゃ、着てよ。どうせ脱がすけど。」
「ヤル気満々じゃねぇか!!!!」
「はい、どうぞ着替えて?ダメだよ?逃げようとしてもここで見張ってるからね。」
「見てるつもりかよ!」
「フフフ、だってこんなチャンス逃すわけないだろう?ここ最近はいつもキミを想定しながらデザインしてきたんだもん。今日は絶対絶対着てもらうからね!」
「変態!変態王子!いつもなに考えながらやってたんだよ!」
「なにってそりゃ…言わせないでよ。そうだよ?ボク変態ですけどなにか?でもキミもそうだけどね?」
「オレは変態じゃねぇよ!」
「あのねぇ…あんまりごちゃごちゃ言ってたらボクがその服剥いで着替えさせちゃうよ?それにこれ以上怒らせたらその服着せるだけじゃなくて本気でそういうプレイやっちゃう。これ、手足んとこ固定できるタイプなんだよ?すごい道具とかもあるし!いいのかな。ボクはかまわないけどね。言っとくけど怖いよ?いいの?してほしいの?やっちゃうよ?」
「!!!やめろよ、そういうの!!!」
「じゃあ、はやく~!」
「あっち行ってろ!」
「やだ」
「もう!」
「遅いよ~!」
「うるせ!」
もうやだ。この人。
いつもこんなんばっか。
「今回は簡単で着やすいのだけど、次はもう少しかわいくてややこしいの持ってくるね?」
「誰が着るか!」
「じゃ、コスプレっぽいのがいい?」
「だからやめろって!」
ホント、この人、隅から隅まで変態だ!
