お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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【3246文字】
本誌ネタバレ大注意、次の新刊に入る予定のあのシーンが肝で書いてます。
今日発売の39号#613があまりにもすごい展開で絶賛嬉しい悲鳴中。でも妄想が次々に破綻していく!なので今だけ楽しめるIF妄想を一旦UPしちゃいます。鹿戦「試合開始~ハーフタイム~後半ちらっと」の綿谷とジノ+ザキ。綿谷君は偽装チャラ男な真性攻様、うっすらワタ→ザキ設定あり。(気に入ってる程度のレベルです)

 負けていい試合などはない。でも今日の勝利への渇望は、いつになく激しいものだった。

『敵地に乗り込む鹿嶋戦』

『今季勝ちナシ。負けられない』

心も体も万端のはず。なのに開始直後の攻撃、赤崎は綿谷にボールを取られた。
(くそっ!)
そういうことも、ある時はある。思考はそれを理解するのに、切り替えようと考えるのに、感情がついてこなかった。
(なんで……!)
次だ次だと思うほど、その一瞬に囚われる。勝手に脳裏に言葉が巡る。

――赤崎お前さー、相変わらず……

試合前の笛がなくても、試合はいつしか始まっている。それもまたわかっていたことだった。そう簡単に乱れはしないと、高を括る油断もあった。それでも結局。
(試合中だぞ!集中しろ!)
ああ、わかっていることだったのに、と。そして振り向き悔やんでいる暇なども今にあるはずもないのに、と。ほんの一拍、いや半拍、都度感覚がズレてしまって、試合に入りきれぬままだった。

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「王子!あんた、綿谷さんになんか変なこと吹き込んだでしょ!」
試合が中断している最中、荒れる気持ちをジーノにぶつける。
「他のチームの人間に、あることないこと言いふらか」
「いいようにされているからだよザッキー」
「それにしてもいくらなんだって」
「ああ、ほら戻って。始まるようだ」
その目、言い方、この表情。君は何をやってるの?と、それは明確な蔑みだった。

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 アンダーとはいえ代表合宿。初招集のその晩に、いつしか一体なんの流れか、女性関係の話になった。

「サッカー選手の大半は」

「いやこの世の男は大抵」

「そう、女にモテたい!それ一心で」

軽薄でまさに実のない話。それでもふんわり盛り上がる、いわゆる卒のない話。

「知名度を上げてファンを増やして……遊びたいよなー?な?赤崎?」

(ああ、こういうのめんどくせぇ……けども……)

綿谷はムードメーカーだった。実際、さりげなく面倒見がよく、新顔がどうにか浮かぬようにと、話を振ってくれていた。そこに感謝の気持ちはあった。どうせ今日も弄られる、不得手な話でおちょくってくる。それも理解した上で、今日戦うのが楽しみだった。
(なのに王子!あの人は!これじゃあ、見栄っ張りの嘘つき野郎だ)

*

 ハーフタイムでもジーノに言った。
「なんであんたはあんなこと」
「……」
「彼女にぞっこん夢中とか、ベラベラ適当なこと言って。俺前半ずっとおちょくられ」
ジーノは赤崎を静かに制して、始まる、と監督の方を見た。いつになく真面目な表情なので、試合途中の目を思い出す。

――いいようにされているからだよザッキー

「赤崎、ちゃんと聞いてるか?」
名指しで問われて心臓が跳ねる。らしくない態度で返事する。
「……はい」
「じゃあ、そういうわけだから。後半一発目から頼むぞみんな!」
気合の声が部屋に響いた。全員闘う男の顔で、赤崎は一人乗り切れず、まるで素人芝居の掛け声。
(ああ、俺何やってんだっ!)

 ギアがきちんと入らない。気概が勝手にカラカラ回る。鉄火場の経験値というものが絶対的に足りないせいだと、そんなことばかりがよくわかる。今更の思考が渦巻いて、自分の今の陳腐を自責し、ああ、丹力が足りない、と、気持ちは乱れ、地に足つかず、一人蚊帳の外にいる。
(なんで、こんな……今日に限ってっ!)
どうしていいのか、わからない。勝たねばならない今日なのに、どんどん今が遠ざかる。まるで映画を見ている観客。
(なんだよこれ……俺、一体どうなっちまっ……?)
これは武者震いではない。これは、体を蝕む、これは、震え、怯え、焦燥、不安。なぜ急にこんなに逃げ出したいのか、その絶望に飲まれる寸前。
「ザッキー」
「!」
耳の痛いほどの静寂の中、誰かが自分を呼んだ気がした。

ヒソヒソ。
耳元。
特有の呼び名で声色で、誰かは赤崎にこう告げた。まるで魔法の呪文のように。

「……『恋人一筋』って言ったんだ」

体の内部に入り込む音。まるで睦言、愛の囁き。

「『とっても一途な子なんだよ』って。ありのままを言ったんだ」

甘い愛撫のようなもの。この感覚を知っていた。泣きたくなるほど切なく甘く、だからこそ身を切るほどに痛い。夢にまで見る夢の言葉が、激痛が赤崎の震えを止める。半分嘘で、半分本当。一途で、確かに一筋で、けれど。
「俺には恋人なんていない」
よりにもよってあんたが言うか、と、天性の詐欺師にそう言った。
「おや、いない?そうだった?」
どの口が、と言いかけたとき、ジーノは。
「そうか、返事してなかったね。いっぱい『そういうこと』してたけど」
思わず赤崎は固まった。
「君は恋人でもない男に、自由にされてしまうの?ザッキー」
恥辱も過ぎると憤怒に変わり、故に赤崎の目が吊り上がる。心待つ恋を弄ばれて、欲しい言葉を吊り下げられて、仰せの通りと言わんばかりに確かに幾夜も二人過ごした。そしてそれは今も同じで、更に言葉で嬲られている。
「押されてたやすく揺れちゃ駄目だよ。心に決めた相手でないと」
耳珠に口づけ。舐められて、赤崎は頬を真っ赤に染めた。
「~~っ!?」
耳を抑えて立ち上がり、そして、はたと気が付いた。
(……あれ?)
踏みしめる足。リアリティ。まるでガス抜き、しぼむ風船、絶望感も閉塞感も、いつのまにか消えていた。腹が立つのは愛しているから。そして愛が駆け巡る時、世界はジーノを中心としてクリアな日常を取り戻す。
「ようやく戻って来れたようだね」
虐められること。おちょくられること。からかわれながら微笑まれること。そこから透けて見えるもの。信じてしまいたくなる心。
「参るよ。手間を掛けさせられて」
輪郭はくっきり美しく、濡れた耳はスースーとして、すべての感覚が鮮明になる。ここは鹿嶋スタジアム。ハーフタイムのロッカールーム。見失っていた自分自身が体全身にみなぎっていた。

「いいように心を掴まれないで」

「フラフラされるのは好きじゃないんだ。君の心は僕のだろう?」

見上げるジーノの目はいたずらで、でもドツボの中にいた赤崎を、全部わかっていた顔だった。

「頼むね」

言葉、表情はとてもソフトで、なのに強烈なこの独占欲。鷲掴みする手荒な執着。欲しいものに極めて近い、そんな形をしている威圧。

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「おい、行くぞー」
呼ばれて赤崎は戸口に目をやり、目端で立ち上がるジーノを感じた。

「メロメロだって言っておきなよ?」

反対の耳に再びヒソヒソ。そして舐めるというよりも、頬への赤裸々なリップ音。TPOもわきまえない、でもだからこその危険と苛烈が、赤崎の雑念を吹き飛ばす。

ここはどこか。

何をすべきか。

みんなは、この人は、何を求める?

脳裏の戦術は立体化して、高い解像度で心に沁み込む。

(ああ、マジでなんて人だよ)

しくじりも焦りもジーノに飛ばされ、欲しいものを得たかのような、愛を見たような実感の中。綿谷がずらした歯車は、言葉をいくつか交わしただけで完璧以上に直されていた。

 悔しいけれどメロメロだ、そんな苦笑がふと浮かぶ。その流し目の背を追いながら、抱きつきたい、と。キスしたい、と。けれど全ては勝利の後に。だからただ心で決意を固めて、ロッカールームを後にした。

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「で、どういう子なのよ相手」
綿谷のしつこいこの戯言は勝負がガチンコであるからこその。全部赤崎も理解している。元々イラついていたわけじゃない。
「お前も隅に置けないね?」
「はあ、まあ、おかげさまで」
集中しろと考える時、人は集中など出来ない。集中できている時は、気持ちが熱く、頭は冷静、そして色が鮮明になる。戦う時間は無限ではない。チャンスもピンチももう見逃さない。

熱いムードも拍車をかける。だから、ただその事実をありのまま、ジーノに言われた通りに綿谷に。

「まあ、メロメロのラブラブですよ。大事にされてて幸せです」

そして躱してダッシュした。振り向かずとも、見ずともわかる。今度の勝機はもう逃さない。

(どうせ来てんだろ?なぁ、王子!)

蹴り込んだ先に揺れる前髪。

「「フリーだ!!!!!!」」

怒号のような歓声の中、まるで当然のことかのようにネットも綺麗に揺れていた。