カンメロ、レオーネ、バンビーノ
バキジノザキとでもいいましょうか。仲良し3人組の日常の物語。ピンク表紙は基本読み切りコメディで全員残念系です。3人以外にも沢山人を出したい!
ジーノはいつも大概遅刻してくるが、そんな日の帰りは本人の用事があるとき以外はダラダラと居残っていることが多かった。なにを考えてるのかわからないがそういう時、やたらと話しかけてくる。赤崎はそういうときは自分の帰りの準備をしながら適当に相手をしては適当に切り上げて途中で帰るのだが、椿は大概ユニフォームのまま、ずっと王子が気が済むまで延々と付き合っていた。自分で勝手に先に帰っているので仕方がないのだが、そんな二人にジェラシーにも似た気持ちがあった。それでも、今更一緒になって残って話をしていくのもシャクな赤崎だったので、今日もさっさと身支度を整えてジーノに帰りの挨拶をする。
「じゃ。お先」
「あー、またね、レオーネ」
「はぁ??」
「おっと…」
ジーノは肩を竦めては隣に座っていた椿に目配せしてウインクした。椿はそれをみて、ハハハと恐縮そうに笑った。自分が知らない二人だけのネタで盛り上がっているのだろう。最近こういうことが本当に多くて赤崎をイラつかせる。
「なんスか…」
「あ!いえ、そんな大した話でもなくて!」
ジーノにムカついたのだが、返事をしたのは椿の方だった。それがまた赤崎をイラつかせたので、二人をにらみつけてそのまま無言でロッカールームを後にした。本来答えて欲しかったジーノといえば、その後ろ姿に笑いながらアドマーニ(明日ね~)と軽やかに言葉を飛ばしただけだった。
パタパタと後ろから走ってくる音が聞こえる。この音は椿だ。
「あの!スイマセン!さっきのことなんですけど!ほんと、大したことない話なんで!」
「るせーな。イチイチ。なら追いかけてくんなよ」
「でも…一応…大したことない話かもしんないんですけど、オレにとっては結構勉強になったっていうか」
「自慢かよ。ま、よかったな、そりゃおめでとう。」
「いえ、あの、これ、オレだけ関係する話じゃないし、時間!ありますか?大したことないかもしんないけど聞いてほしいなと」
緊張しぃの椿は、いつもこうやってオレにいろんな話をしたがる。口下手で消極的なタイプの癖に、自分のおもしろかったことや悲しかったことなど、なぜか共有したがった。そんな椿を赤崎はかわいくも思っていたので、大きなため息を付きながら、じゃあ、手短に話せよ?と言った。今もすでにそうだが、椿の話はいつも長くて意味がわからなくなることが多かったから。
「オレ、最近たまにバンビーノって呼ばれてて。」
「子鹿か?」
「あ、まぁ似たようなもんなんですけど…幼子って意味らしいです。」
「んだよ、ガキってことか。」
「あ…ははは」
「お前笑ってるけど結局バカにされてんじゃねーか。」
「いや!そういうんじゃないらしくて。」
「あの人は口がうまいからな。適当に騙されてんだよ。」
「まぁ、オレはバカなんで別に…いや!違う、その話をしたいんじゃなくて!」
「卑屈だな。お前」
「すいません…。あの…オレ、サッカーやっててたまに頭がすーっとクリアになって!楽しくてしょうがなくなることあるンス。それを王子が“バンビーノ”な状態だって。オレ、前に同じようなこと監督にも言われてて。」
「は?」
「どんな人でもバンビーノになれるって。オレ、チキンだから日常から暗示をかけてあげるって意味で時々バンビーノって呼んでくれるようになってて、オレもそれ嬉しくて。でもやっぱナカナカ難しいっていうかめげるっていうか…」
相変わらず話の趣旨がわからなくなるようなメチャメチャな話をし始めていたが、あんまり楽しそうに話しているので赤崎は苦笑いをしながら二人で自販機まで移動することにした。そうしている間にも椿は一生懸命話しながら赤崎の後をついてくる。
「バンビーノな状態ってナカナカ難しいのはなにもオレだけじゃないから気にするなって、王子が。これも監督にも同じこと前に言われてて!えっと、普通人間って重荷を一杯背負ってて、辛いときもあって。オレなんかだと、上がっちゃうことだったりそれに落ち込んだりすることなんだけど、あと、今みたいになんか話がめちゃくちゃになるっていうか。そういう…。まあそれはいいんですけど。そういう重みを背負って頑張ってるっていうか耐えてるっていうかの状態のこと、ラクダ、イタリア語ではカンメロって言うらしいんだけど、人間だれしもそういうことはあるって言われてほっとしたっていうか、あの王子でさえも、あんなにすごいのに選手としてそういうときもあるんだよ?とか。全然オレなんかとは次元違うんだろうけど、考えてみればすごいですよね!なんかそうなのかーって変に親近感っていうか・・・で・・・あれ?なんだっけ?」
赤崎が、飲み物どれ?と聞くので、あ!アザッスと言いながら椿は自販機のボタンを押した。そばにあるベンチに二人腰を下ろし、まぁ続けろ、と赤崎は言った。めちゃめちゃな椿の話しも、最近ようやく慣れて翻訳できるようにもなってきた。機嫌が悪い時は当然イラついてシカトすることもあるけれど、しばらくするとちゃんと落ち着いて話せるようになるし、こういう二人の時間も悪くない。
「えと…あぁ。そう。カンメロ!ボクは日頃カンメロなんです!でも、そのカンメロが背負う荷物は重ければ重いほど次につながるみたいで。まぁ、へこたれちゃってつぶれちゃったらどうしようもないんだけど、王子はオレのスタミナはすごいものがあるから、簡単にはめげないタイプだから大丈夫だよーって。駱駝ってコブの中に水分があるから、すごい体力あるんですってね!あんなにやさしい顔つきなのに!なるほどなーとか思って…」
「ああ、なんか王子みたいだな。まつ毛長くて優しい顔してっけど、あの人実はすげースタミナがあっ…」
二人の夜を思い出してとんでもないことを言いそうになったのに気づいて赤面して言葉を切ったのだが、椿は興奮してちっとも聞いちゃいなかった。
「黙ってその重みに耐えるんす。駱駝。カンメロ。黙々と、そうキャラバン?あんなイメージ。でもそればっかりじゃどうにもならない時って言うのがあって、時々そういうどうしようもない怒りが湧いてきて、レオーネになる。オレ、このあたりがすっげーよくわかるっていうか、もう、チキンな自分に腹が立って腹が立って!頭がこう、カーッときて、そういうときは一人で走りに行ったり、無我夢中でボール蹴ったりして発散するんだけど!それやらないとどうにも落ち着かないっていうかなんていうか、ホント、全部ひっくり返したいっていうか、なんなんだろう、アレって思ってたンす。王子の話きいてたらなるほどーオレ、そんなことやってたんだーって」
「へー」
「あ、レオーネって、ライオン、獅子らしいっす。なんかわかりやすい例えッスよね。なんか駱駝で砂漠を歩いてて、突然ガオー!ってなるっていうか。地理的にもなんか中東とアフリカって感じで近い気がするしー。オレ、いつかアフリカに行きたいなーって思ってるんですよね。なんか地平線に動物がいるイメージだけど、王子はアフリカはそういうとこばっかりでもないよって。でも一面に花が咲き乱れている夢みたいなすごいとこもあって、そこで彼女と過ごした夜はすごか…」
「ああ、わりぃけど王子のロマンスの話は興味ねぇわ。」
「あ!スイマセン!」
「お前、よくあの手の話根気よく付き合ってるよな。あれ、きりねぇだろ。まぁお前も大概だけど。」
「いや、聞いてると面白いですよ?ボクも彼女とか欲しいなーって思います。でも今はこうしてチームの人たちと過ごすのが一番楽しいっていう感じで…」
「そうか?」
楽しいと言われて赤崎もまんざらでもなかった。椿はかわいい。
「えっとそれで…なんだっけ。」
「おわりか?」
「あ、そうそう!バンビーノ!レオーネは怒ってばっかりで、現状打破するためには必要な強靭な力を持ってるんだけど、やっぱりそれだけじゃダメなときもあって。なんか必要なことも全部壊しちゃうっていうかめちゃめちゃにしちゃう感じなところがあって…。そういう、なんかぶっ壊す!っていうのを一通り全部、・・・駱駝の苦しいのとか、ライオンの腹が立つのとか、そういうのも全部なんかこう、ぶっ壊していくと、何もかもきれいになって、すっかり脱皮するんだって。脱皮って言ってたっけ?なんか王子はもっといい言い回ししてたんだけど、オレあんまり覚えてなくて・・・なんだっけ?」
「ああ、言い回しもどうでもいいわ。大丈夫だ通じてる。」
「良かったー!ともかく、こう、さっと世界が変わるっていうか、今までの色んなことも全部真っさらになるっていうかそういうのになるんですって!要するに、それって楽しくて、楽しくてしょうがない状態らしいんす。それがバンビーノ、幼子ってことみたいで。オレ、自分でもわかってなかったけど、監督にも度胆をぬくプレイをしろって言われてて、オレの中ではそれがものすごく大切な言葉になってて。なんか似てますよね?ジャイアントキリングっていう言葉と。王子の話。弱虫が力をためて、大物を食らう!みたいな。キリングって殺すって言葉だからなんか怖いけど、オレのイメージだとなんか意地悪じゃない、ニコニコな監督のイメージっていうか、なんかすごい、やったーーー!っていう感じっていうかそんなのだったから、ああ、ジャイアントキリングって要するにバンビーノなんだなって。」
「……」
「…わかります?」
「その話、知ってっから。」
「え?」
「駱駝でわかった。幼子と駱駝だろ?そしたら獅子だわな。有名な話だ。」
「?」
「オレが機嫌わりーからレオーネって言ったんだろ。ムカつくわ。やっぱあの人。どうせ聞こえるように言ってんのに決まってる。」
「あ…いやでも、それって冗談で!」
「わかってるよ。そういう、冗談めかしたようにしながら嫌なこと言ってくるんだよ。」
「え、そんな…!王子はいつだって“ザッキーはボクのかわいいバンビーノ”だって言ってますし!」
「はぁ!!??」
その意味がわかって赤面している赤崎と、全然わかっていない椿の会話は続く。
「いや、それだけじゃなくて、本質的にはみんな可愛いバンビーノだって!ボクもだよ?とか言うこともあるし!なんかちょっとかわいいとこもありますよね!そうして、みんな楽しくサッカーできたらいいねって言ってます!そしたらETUはきっと強くなるんだって!なんか、すごく力が湧いてくるっていうか、前向きになれるっていうか、王子ってすごいですよねー。なんかすごくクールな感じもあるけど、技術とかもすごくて、でも一番すごいのはこういうモチベーターな才能なんじゃないのかなって最近思います!」
「…あぁ、なんていうか、王子がお前と話すことについて、どんなに楽しいか実感するわ。」
「え?なんかそういわれると…嬉しいです!楽しんでくれてるのかな???」
そう。王子は楽しんでいるだろう。ニヤニヤしながら一杯椿にとっては素敵に見えて、かなり毒を含んだようなからかいの言葉を沢山間に挟んで。それに気づかずこうしてクルクルと心を弾ませている椿をみているのが楽しくて仕方がないんだ。そして、こうやって椿がオレに話して、オレがイライラするのも全部わかっててやってる。それも含めて楽しんでる。ホントにあの人は性格が悪い。今日はどんな顔して帰ってくるんだろう。待ってる俺に向かってきっと、ボクのかわいいレオーネ、ただいま、とか言うんだきっと。バカバカしい。
