雨と涙、青空と笑顔
雨降りの嫌いなジーノとタッツミーのお話です。シリアスチックしんみり風。出来てない二人です。ジノタツというよりジノ+タツの感じ。タッツミー雨嫌いとかジーノの過去捏造もあります。1ページ目がタッツミーの気持ち、2ページがジーノの気持ちです。なんか近づくほどに千日手になって再試合。
ルイジ吉田の夢と雨
ジーノは嫌な夢を見て深夜目を覚ました。もう、何度見たかも忘れてしまった、とても気がかりで不安な夢。ここ最近見ていなかったのにな、と溜息をつく。ジーノはベッドから起き上がりコーヒーを入れる。こんな夜は眠るのを諦めてしまうのが手っ取り早いのを知っていた。まだ眠いなーと思いながらカリカリとコーヒーを挽く。ボーっと外を眺めているとふと気が付いた。リビングの窓が濡れている。ああ、雨か、と憂鬱な気持ちになる。
「もう10年にもなるのに。ボクはホント、どうかしてる」
誰も知らない自分だけの秘密。ジーノは小学生の頃から達海の大ファンで、まるでアイドルのファンのように熱狂的に現監督のプレイを追っていた。時間の許す限りスタジアムに向かい、中継は録画。ニュース番組も雑誌も母親に呆れたものね、と言われるほどに熱心にチェックして。プレイ、仕草、話す内容。記憶力のいいジーノの頭には今でも当時の映像がまるで昨日のモノのように刻み込まれていた。
そうして刻み込まれた記憶の中でもっとも生々しいモノとなってしまったのがあの時の映像だった。深夜。プレミアの中継。ジーノにとって夢のような瞬間が、悪夢の瞬間に変ってしまった夜だった。あの日、東京の夜は雨だった。
* * *
窓ガラスをつたう雨のしずく。流れを眺めているうちにすっかり朝になっていた。コーヒーは冷たく、ジーノはもう飲む気もしない。生あくびをしながらうんと伸びをして朝食の支度。最近ブロックで購入したお気に入りのプロシュート。スライスするのもまた楽しい。フォカッチャをオーブンで焼いてサラダと一緒にはさんで食べる。だけど雨降りで寝不足のこんな朝に食べるとなんとなく味気なかった。半分ほど食べたところでジーノはポケーッとし始めた。あっという間に時間が経っていた。今更慌ててもね、なんてのんびりシャワーを浴び、ゆっくり髪を乾かして着替え。目覚ましのガム一つ噛みながらジーノはのん気に車を走らせ練習場へ向かう。
雨降りの練習、大っ嫌い。でも行く。ボクって偉いね、なんて思いながらジーノは遅刻で堂々と合流。そして一番最後に顔を出した男は、終わりの挨拶も済まないうちにフラフラと真っ先にロッカールームに戻っていった。今日は疲れたなー、とジーノはロッカーでぐったり。でも顔は笑っていた。こんなしんどい日に物凄く頑張った自分。この後はようやくあの素敵なご褒美タイム。そのことを思うと、自然に浮かぶ微笑を止めることが出来ないでいた。
* * *
ジーノはあの夢を見てしまった後、数日間は上手に眠れなくなってしまう。眠れないし、無理に眠ろうとするとあの夢をまた見てしまう。一度アレに憑りつかれてしまえば幾晩も幾晩も。もう何年越しにもなるジーノの変な癖だった。
でもその癖から抜け出せるおまじないを一つ見つけたのだ。偶然のことだった。
ある寝不足の続く日の帰り、達海の部屋のドアが開いていた。達海のベッドに目をとめた途端、急激に睡魔が襲ってきたのだ。耐えられなくてフラフラと部屋に勝手に入り込み、何もわからなくなるくらいに深く眠った。あの夢の続き。眠りに引き込まれていくあの瞬間、泣きじゃくる自分を達海が優しく慰めてくれるような幻影が見えた。達海の匂いのする布団に包まれていると、すっかり心細くなってしまった自分をヨシヨシと寝かしつけてくれているかのようだった。
* * *
質のいい眠りには質のいい目覚めが待っていて。外は雨。苦手だなーと思いながらボンヤリと眺めていた。するとまるでその気持ちを読まれてしまったかのように達海が話しかけてきた。
「そういえばお前も雨が…」
その一言でジーノはボクが起きていたこと、いつから気付いて?と驚いてしまう。タッツミーも雨が苦手だったのか、そんなことを思いながらボクと一緒に窓を見ていたのか、とびっくりしてしまう。時々こういうことがある。達海は何も話をしていないのに当たり前のようにジーノの意図を汲んでしまう。二人の間で度々あるこの事象。ジーノは安らぐ時もあれば不快な時もあった。寄り添うようでいて、反対にそれこそ土足で踏み込んでくるぶしつけのようでいて。複雑な心境のままジーノはこんな返事をしてみた。
「うん。雨…やだよね?」
振り向く達海に、目が合わせられない。ああ、らしくないことを言ってしまったなと話を逸らす。服のシワなんてどうでもいいのに、それを腐すセリフ。目に止まった枕の輪染み。まるで自分が夢の中で流した涙の痕跡に見えてヨダレがどーのと誤魔化すセリフ。そうやって足早に逃げ出すように達海の部屋をあとにした。
クラブハウスを出ると雨は少し小降りになってきていて。これくらいなら傘はなくても平気かな?と上着を脱いで頭に羽織り、一目散に駐車場に走っていく。あそこには真っ赤な愛車が持ち主がまだかまだかと待ってくれている。
達海のベッドで夢のない眠りにつけたジーノはあの癖がリセットされる。今晩はゆっくり眠れそうだと笑顔を浮かべ、すべりこむように運転席に座り、鼻歌交じりにエンジンをかけたのだった。
