愛の絶望、祈りの愛
【11173文字】
ジノザキデーの時にちょっと書きかけて没ったもの。割れ鍋に綴じ蓋系のビタースイート。当人たちがOKならという意味でのハッピーエンド。ジノ鬼、ザキつん、一応?ちゃんと?相思相愛です。暴力はないですが人によってはDVっぽく見える場面もあるので注意。(表面上はどうあれ心理的には完全同意のプレイです)
「君が好きだよ」
と微笑んで、
「会うだけ。ごめん」
と女と出掛け、
「疲れた」
なんて愚痴を言い、
「会いたかった」
と抱き締めてくる。
俺は王子をクズだと思う。同時に自分もカスだと思う。
*
「やめてください。しませんよ?」
「……うん、ザッキーわかっているよ」
人を無視する首筋へのキス。腕の中で動けなくなる。
「王子。マジで駄目だから」
耳を舐められて体が震える。こういう人だとわかっているのにどうにも俺は逆らえない。
「遅い時間に呼んでごめんね。どうしても会いたくなってしまって」
締め上げるような拘束を受け、呼吸をするのも、もうままならない。扱い方を掌握されて、痛いくらいにとても悔しい。
「君は?寂しくなかった?教えてよ」
俺をわざと、待たせて、待たせて、からかうみたいに時々呼ぶ夜。
「嘘でもいいよ、ねぇ言って。会いたかった、好きだって」
「言うわけねぇし。馬鹿かよあんた」
飼い慣らされてしまった体。腕が勝手に抱き締めそうで、眉を吊り上げ必死で耐えて、クズな王子は気にも留めずに、耳に執拗なキスをする。
「君は冷たい子だよねぇ。体はこんなに温かいのに」
「嫌なら構わなきゃいいだけでしょうに。あんた、頭が悪いッス」
「悪態つくのも上手なもんだ」
「当たり前です、毎回こんな……」
クズだと、カスだと、駄目だと、しないと。何度も、それこそ再三毎回思って、それを全部わかられていて、その上で王子はこう言ってくる。
「でも、結局来ちゃうんだ?」
甘く事実を囁かれ、熱い吐息、濡れた舌先。執拗なまでの耳への攻撃。
「ねぇザッキー、そうでしょう?」
「や、……明日も練習あるし」
「うん、そうだね僕もある」
まずは声が脳を犯して、すっかり俺を駄目にしていく。飴玉みたいに耳介を舐められ、耳裏は少し強く吸われる。耳朶の裏側は特別過敏で、思わず声まで出てしまう。
「もう帰っ……」
「泊まる準備もしてきたのにかい?」
クズで、勝手で、自分本位で、思い通りになると思って。
「さあ、もう横になろうよザッキー。フラフラじゃないか、可愛いねぇ」
微笑む王子の残酷性が、声の次に俺を犯した。
*
「しない、ただ来ただけだから……」
何を思うかわからない目が、震える俺を見下ろしている。
「本気で嫌ならしないよ別に。そんなに僕は野蛮じゃない」
その目は俺を見透かしている。心も裸にしてしまう。
「そうしてシャワーも浴びてきて、それでもザッキー駄目なのかい?」
髪の毛の匂いを深く嗅がれて、体の力が抜けていく。
「待っ……」
「もうこれ以上『待て』はなし。意地悪もなしだよ時間切れ」
そしてみるみる魔法のように俺の服を解いていき、肌という肌、心の全て、王子は絡めとっていく。
「ねぇザッキー、愛してる」
呼吸のように愛を囁く。どれだけ悪い男であるかを、俺がどれだけ愚かであるかを、何度も、それでも、否応もなく、今日もたちまち絆されていく。
「好きだよザッキー、君だけだ。君も僕だけのものだよね?」
俺が一番欲しい言葉を、王子は軽々道具に使う。俺をこじ開ける鍵を手に、笑って全てを取り上げていく。舐められていない場所はなかった。睫毛の一本一本までも。口の中までいじくりまわされ、下肢から雫が垂れもした。いつでも観念させられる。まるで望みであるかのように。
*
いわゆる王子はとても上手くて、どんどん俺を馬鹿にする。頭で駄目だとわかっているのに、体が王子を乞うている。
「痛っ、あ、……っ!!」
駄目とも、嫌とも、もう言えなくて、許してなんて懇願をして、それでも王子は逃げる背中をやすやす捕まえ抑えつけ、耳元で沢山鍵を囁く。耐えられる状態になるように。これがどんなに気持ちがいいか、体そのものに学ばせていく。
(や、あ……入っ……あぁっ、)
王子のものになる瞬間、いつも目から涙が零れた。こんなに王子に虐げられて、それでも痛みで泣くわけでなく、王子が熱いということを思い知らされてしまうから。
「ひ、ぁ……」
「いい子だザッキー上手だよ。すごい、もう全部入った」
俺より俺を理解しながら、すごく締まると微笑んで、最高なんてキスをしてくる。体が王子を思い出すまで長い時間をかけてする。王子の欲望に浸食される。自慰より過激な熱さと快楽。俺に体を繋げてくれる、甘苦い毒の安心感。
「こうするだけでイっちゃいそう。ねぇ、ザッキー気持ちいい」
(あ、ああ、ああ……)
クチュリと、やがてグチュグチュと、王子のものになっていく音。王子はこれがすごくしたくて、こんな時間に俺を呼び出す。甘い言葉や愛撫の執拗、もしも全てが道具であっても、王子は今を手に入れるため俺に色々費やしている。いつでも俺は錯覚したくて、王子もそれを理解していて、ああもう体が溶けそうで、奥まで王子で一杯で。
(ああ、熱い……王子が熱い)
俺から王子は快楽を得る。そのために今これをしている。生々しいほどの臨場感が、同じ体のその欲望が、俺の心を追い詰めてくる。俺も男で、性器もあって、なのに王子に入れられる。
(あ、また……あ、駄目、これ、駄目……)
行為に慣れていくのとともに、体も頭もおかしくなって、最近ますます様子が変で、怖くて王子にしがみつく。
「そうだよ感じて、いい子だね」
射精の予兆に似ている気がして、けれどそれとも少し違う。もどかしいほどにじわじわと、でも逆にずっとイってるみたいに体が痙攣し続けている。
「そのままザッキー、いつもみたいに」
今日も我慢しきれない。こみ上げる波に飲まれてしまう。
「あ……や、や、あ……っ!」
大丈夫だよ、と抱き締められた。好きだと何度も中を突かれた。全部がまるまる王子のものだ。導かれるまま、結局今日も。
「~~~、っ、」
自分を見失う激しい快楽。何かに失敗したかのような。
「あ、、……あ……」
強い羞恥と混乱の中、抱き締める王子の腕の力が、そのことだけが俺を救った。諸悪の根源であるというのに。俺を破壊する人なのに。
*
やるだけやられて、ボロボロで、ぼんやりしながら王子を見つめて、自分が馬鹿だと心底思う。両腕の自由を奪われたまま、ただただそこを犯されて、何度も王子にイかされた。こんな快楽を体に仕込まれ、俺は女をもう抱けない。男も多分王子以外は。馬鹿げた夜の馬鹿げた幸福。毒され何も考えられない。
「さあ、ザッキーもう寝よう」
俺の額への口付けは、おやすみのキス、閉じていく夜。
(王子……)
危険であるのは理解していた。迂闊なことは出来ないと。それでも甘い香りに誘われ、たやすく俺は罠に嵌った。引き寄せられて、捕まって、捧げるばかりになってしまった。
「好きだよザッキー、愛してる」
王子は人から心を奪う。根こそぎ盗んで、キスして抱き締め、満足そうに笑ったりする。何でも欲しがる王子の願いを、叶えてあげずにいられない。王子の魅力は際限もなく、もしかしなくても、彼が捨てても、俺は同じに思うのだろう。王子はいわゆる絶望であり、だからこそ心底愛してしまった。王子がそうして笑うからこそ、彼のもたらす絶望全てが幸福となってしまうから。
