お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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雨に凍えて、真摯を重ねて2

【17712文字】
続きというか蛇足というかおまけです。前作の話の裏側はこんな感じかなーと前日談や後日談などつらつらと。中途半端で終わっていますが移籍とか年取った二人とか、雨の中に色々と想像しています。ほぼ推敲なし、書きっぱなし。そういうのやる気がどんどん失せています苦手。でもどうせあげるなら6月中だよなーと思って。

        ジノザキ

 ジーノはベッドでぽつんと言った。
「わかり過ぎて逆に難しかった」
昼なのに窓の外は雨で暗い。
「初めてだった。こんなこと。どうすればいいのか全部はっきりと……これ以上ないくらいわかるんだ。なのに出来ない。どうしても。意味が全然わからなかった」
事後の疲れか赤崎は、虚ろな目をして俯せていた。あの凍える夜から随分と経つ。ジーノがそのことを口にしたのは、ほぼこの時が初めてだった。
「わからないのに駆け出して……そして、君はどこにもいない」

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 ジーノは、自分が一番正しいと考えていた。他人と価値観が違うとしても、比べるでなくそれぞれ正しい。そういったジーノの心の余裕は実際、自己の有利性が起因していたのだが、そのことにあまりにも無自覚だった。いわゆる勝者の論理である。
「ザッキー」
 威勢がいい若手選手。自分には愛される(服従させる)自信があった。実際、予定通りになった。赤崎はジーノのより良い通い犬に成長を遂げ、優しく頭を撫でてやるとそっと目を閉じ、隣で寛ぐようになった。
(かわいい……)
 文句を言いながらも結局は自分に付き合ってくれる。屈折したもの言いをしながらも、あまりにも赤裸々なその好意。ジーノは可愛くて仕方がなかった。うちの子が一番可愛いと自慢げに思う、自分の愚かさにも笑ってしまう。いい選択をしたものだと、満足が深まる毎日だった。
「……雨、止まないねぇ」
振る都度思い出される記憶。あれは愛に困惑した夜だった。
(止まない雨はない、けれど)
繰り返し雨は降り注ぐ。重たく、寒く、びしょ濡れの、二人の強欲と必死さを思う。得難い存在、離れがたい。それが無茶苦茶なことだとしても。協調のない想いは噛み合わない。一人の願いは叶わないのだ。

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 ジーノは喧嘩をしたことがなかった。自分か、相手か、どちらかが引く。クレバーな大人の常識と思った。浅い思考であるのを知った。
(こんな感情があるなんて)
思い通りにならないことはおおむね、相手が折り合いをつけていたのだ。後悔も悔恨も無縁の生活。悲しみも怒りも知っているはずの未知なる感情、ジーノには夢も願いもなかった。何故なら思えば叶ってしまう。叶わぬことは思いが薄い。
(愛する相手を傷つけるなんて言語道断、そんなの偽物だと考えていた)
何故ならもらった愛は全部そうだった。慕い、尽くす、従順の愛。それこそが思いの強さなのだと。自分もまた常にそうであったと、自負もあった。自信もあった。情も、愛も、深く深く、疑うまでもないことだった。

 赤崎の気性、激情は、まさにジーノにとって間違いな在り方だった。人それぞれが正しいと、思える気持ちが僅かに揺らいだ。率直な物言いは本人の意図しない形で他人を傷つけ、同じように自らも傷つける。無知で、馬鹿で、不器用で、見ていられない裸の王様、誰かが教えてやらねばならない。ジーノはそういう風に考えた。
 受け流しきれない不愉快と、疼く庇護欲、支配欲。何とか出来ると思っていたのだ。自分の力を信じていたから。
「……君は過激で手厳しい」
 赤崎は思い通りジーノを愛したが、同じくらいの痛みを抱えた。
(率直なんだか、ややこしいんだか。君は常に混乱していた)
摂理などたかが人間には知る術もないが、己と他人に『お前は何者だ』と問い続ける赤崎の無謀な姿を、とても眩しく感じるようにもなった。
(相性が悪い?逆だよ、ザッキー)
苦しみは天啓。切り裂く、切り開く、トリガーだ。心を貫く鋭さと痛み、強欲は、ジーノに必要なものだった。
(君は真面目過ぎるし、真剣過ぎるし、頭がいいんだか愚かなんだか、まあ、大変な人生なのは確かなことで)
ジーノは小器用な愚かさで簡単に苦悶を避けてしまう。大怪我が出来ない。でも、そうなれば元の水底の中。見たい物だけが目に見える、穏やかで静かな孤独の暗闇。

 赤崎はジーノに避けられないほどの痛みを与える。傷から醜さと弱さが流れ出す。身も世もなく雨の中をひたすら走り、許せないと憤怒を抱え、行かないで欲しいと泣き縋り、自分で自分に失望をする。知らない自分が沢山見える。盲目故か、信頼か、ジーノは日に日に無力になって、ああ、思えば最初からと思い当たる。
(『なんでも訊いてごらん?』かぁ……確かになんとなく自分から……)
知りたいなら教えるというでなく、知って欲しくて、訊いて欲しい。自分の何をと問われれば、自分に見えない自分をと。気まぐれの陰にあった見えない意図が振り返ればそこここに見えてくる。それでも。
(ねぇ、ザッキー。ここは何処?僕はただ夢を見ているのかな)
ジーノは繰り返す悪夢をずっと見ていた。魚が鳥に恋をする夢。一緒に居たいと願うのに飛ぶための羽が背中にない夢。固く厚く重い鱗、助走するための足もなく、動いていないと沈む水の中から、空を泳いでみたいと見上げた。
(きっとあの夢の僕は、君の糧。でも君は僕に言うんだ。死にそうに餓えながらきつい目で)
ああ、その残酷な優しさ、愛おしさ。溢れて零れて気が狂う。
(……待てば本当に羽が生えると?みんなが君を笑っているよ?ほら、僕もそんな君を同じように)
でも愚かを信じて続けて欲しいと謀る醜い我欲が見える。ここから逃げてと静かに笑って、それを許せぬ自分が見える。
「ザッキー。何がなんだかわからないよね」
ジーノは思いのままにキスを一つ。穏やかな眠りを邪魔せぬように、それでも共にと悲喜こもごもに、思いのすべてで包みたいと、真実に迷う見えないその目で。

      ジノザキ