お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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雨に凍えて、真摯を重ねて2

【17712文字】
続きというか蛇足というかおまけです。前作の話の裏側はこんな感じかなーと前日談や後日談などつらつらと。中途半端で終わっていますが移籍とか年取った二人とか、雨の中に色々と想像しています。ほぼ推敲なし、書きっぱなし。そういうのやる気がどんどん失せています苦手。でもどうせあげるなら6月中だよなーと思って。

        ジノザキ

(綺麗だったなぁ……)
 昨晩見た夢の残像を思い返す赤崎に、黒田がボールをぶつけて大声で怒鳴った。
「ボケっとしてんじゃねぇ!練習中だぞ!」
「な!?痛ぇんだよこのクソハゲ!」
二人の罵り合いも微笑ましいほど日常で見慣れた光景だ。巻き込まれた椿が間でアワアワしているのも含めて、ジーノ達は目を細めた。
「また?飽きないねぇ」

*

『さすがに夜更かし、疲れちゃった?』
帰り道にジーノからからかうようなメッセージが届き、違うと赤崎が返事を送る。
『そう、疲れていないなら』
連日ジーノに呼ばれることも今では珍しいものでもない。用事があれば事前に伝えあうほど、二人の行き来は頻繁だ。

「あんたは疲れてないんスか?」
「んー、どうだろう。わからない」
ベッドの中、甘えるジーノが赤崎をみるみる裸にし、ぴったりと肌を合わせてくる。
「だって、今日は少し早目に寝ようって、だからてっきり……っ……」
「ザッキーってあったかい」
満足げに漏らすジーノの声はとても心地よさげで、昨晩の夢がまた赤崎の脳裏を霞めた。二人で覗く澄んだ水辺にすらすらと魚が戯れていて、今のジーノの愛撫のように、ソフトで軽やか、楽し気だった。

 赤崎を包み込む腕の力は緩やかであり、ジーノの寛ぎが伝わってくる。それは赤崎にとって、不可能なことはこの世にないとさえ思える瞬間だった。
「そこ、いい……」
「ここ?」
「あっ……」
して欲しいことを甘えてねだる。ジーノは優しく微笑みかける。体も心も深く繋げて、気持ちの良さをゆっくりと追う。
(すごい……こんなに自然に、この俺が……恥ずかしいけど嫌じゃない……)
ひなたぼっこのような戯れ、痛みの起きない幸せの夜。ずっとこうして生きていたいと歓びの涙がひと雫。

 極上の気怠さにたゆとう中で、赤崎はぼんやりしながらジーノに言った。
「王子は……どう思います?」
「ん?」
ジーノは、昨晩の夢の中のように、うっとりとした目で言った。
「……飛べるよ。きっと」

*

 昨晩赤崎が見た夢で、ジーノはじっと魚を見ていた。何をしているのかと赤崎が問えば、飛ぶのを待っていると言う。
「は?飛ぶ?この魚が?」
トビウオなら云々と笑いだせば、ジーノは真面目な口調で繰り返す。
「飛べるよ。きっと。絶対だ」
鳥と魚は同種と言う。そんなことも知らないのかと。
「いや、だって」
人も鳥で魚と笑う。超越者のような眩さだった。
「自然選択説……進化学の話っスか?でもあれは世代を重ねていくにつれての」
半眼、そして微笑。体が震えているのを感じた。天啓、光臨、言葉に出来ない。神聖なものに近づく際の、畏怖に近い感覚だった。
(誰だ?これ……)
それは人ではないもの。魚でも鳥でもない存在。なかったはずの羽が背に見える。ピッチで輝くあの瞬間の。
「もうすぐだよ」
と言っていた。何がとそれを訊く前に、赤崎は夢から覚めてしまった。

*

 この半年のジーノの変化は、あまりに目覚ましいものだった。いつものように一度はごねたが、オールスターにも出場をした。それでも一番心に残るは、やはりあの日の練習だった。一緒に立っていた赤崎は、その流れを知っていたような気がした。なのにその時の一瞬の躊躇が、自分をただの傍観者にした。
 達海のプレイに心奪われること。それが幻の輝きのこと。それを少しでも長いものにと、あの夢の魚の強さと美しさでピッチを泳いで光るジーノ。そして、また。

 既知のことにただ驚いていた。赤崎はそんな自分をもまた知っていて、だから気持ちが急いていた。みんなが出揃うずっと前から。ジュニア用のボールを蹴って過ごした日から。

「考え事かい?」
「……王子」
「最近、多いね」

 みんなが一同に驚いたジーノの変化も、赤崎にとっては片鱗だった。知っていた現実に体が竦む。渦巻いているのは憤りなのか興奮なのか。あの声が聞こえる。

――もうすぐだよ

あれは誰が言ったのか。刻まれた記憶に前後がない。

*

「まだまだ。これからだ」
椿の活躍に赤崎の焦燥が深まる。焦っても仕方がない繰り返す。ジーノは椿をこれからと言う。こんなものではないと笑う。
「ほ、んと……いい性格してますね」
「よく言われる」
ジーノは煽り、からかって、ニヤニヤと笑って赤崎に言う。
「いいかい。あの子の目は横か上しか見えないんだよ。だから何かを踏んでも気付かない」
だから、とジーノが言う。暗喩はしっかり赤崎に通じる。
(そう、期待と希望だけを……あの感受性のまま嫉妬や恨みを、取り込むタチなら重くて飛べない)
良かったと思う自分がいて、馬鹿だと呆れる自分もいて、ジーノはそんな赤崎をまるごと包んでキスをする。心が揺れる。
(全然諦める気なんてない。俺はこのまま終わる気なんか)
繰り返すいつもの発奮の言葉も、虚しく感じる夜もある。寄り添う男はあっちの生き物、ひとりぽっちの感覚がある。
(違う。それは僻みだ。そこを間違えてはいけない。王子は……)
求めるようにキスをすると、
「珍しいね」
とジーノが言った。

 ベッドで四肢を放り出すように横たわる赤崎の、髪をなでながらジーノが言う。
「大丈夫?」
「……はい」
その夜の赤崎はいつになく乱れた。ジーノがそうさせたわけでもないので、それもまた珍しいものだった。
(恥ずかしい……)
そのままでとねだったのも初めてならば、後始末を全部頼んだことも一度もない。結局再び燃え上がり、ジーノに散々犯して貰った。バスルームの固いタイルの上で、色んな体位で長時間。
「明日、午後連でよかったね」
「……そう、ッスね」
言葉少なに、問うこともなく、ジーノは静かに寄り添っていた。
(問わないというのはわかっているから。王子には俺の醜い全部が見えているんだ)
赤崎はわかっていたのだけれど、今更仕方がないと思った。
「……あいつ、達海さん以上の選手になるのかな」
語尾が震える自分を、らしくないとも、らしいとも思う。
「さあ、どうだろう」
「……」
「達海さんは何がいけなかったんだと思いますか?」
「タッツミー?なんで?ザッキーは駄目だったと思うのかい?」
そんなわけじゃないでしょう、とジーノが笑う。そう、言いたいことはそうではない。
「あんな風に選手を終わらせる人じゃなかった。アンラッキー?そんなの俺には」
「納得できない?」
「……」
「良過ぎたんじゃないのかな」
「どういう意味ですか?」
「目も、人も。沢山見えて、頭もよくて、おまけに性格もお人好し。だからみんなと飛ぼうと思った。そして沢山乗せ過ぎた」
その口調はあまりに優しく、赤崎の胸がチリリと痛む。
「一人で背負って飛んでも意味ない。きっと、それもわかっていたんだろうに」
「それって」
「ザッキー」
言いかける赤崎を堰き止めるように、ジーノが厳しい口調で言った。
「選べとは言わない。貪欲結構。でもね?無理のし過ぎはいけないよ」
「王子」
「ふふ、セックスと同じ。前戯は大事だ。まあ、今日みたいなのもたまには興奮するけどね」
いやらしい笑顔でウインク一つ、赤崎は名前の通り真っ赤になった。
「大丈夫だよ。かわいい子。この世のすべては積み重ね。君はそのことをよく知っている」
おやすみのキスが、頬に一つ。
「そんな……全然意味がわかん……」
「し、目を閉じて。何も見ない時間も大事。だから今日そうしたんでしょう」
何か言いかける唇にも、寝かしつけるようなジーノからのキス。途端、睡魔が赤崎を包む。そう、今はいいと、自然と思えてくる不思議。
「おやすみ、僕の大事なザッキー」
最近のジーノの夜の挨拶。
(ああ、良かった……王子がいる……俺の傍に)
体の位置以上に近くに感じる。いつでも自分で気付かず求めるものを、ジーノは笑って与えてくれる。

      ジノザキ