ニワトリ、ヒヨコ、君と僕
【11444文字】
猛禽1作目。ぬくめ鳥のお話を何本か書いていますが、これは鷹が憐れなひな鳥に思いを寄せたら?というIF発想で書いたお話です。ジーノ視点版。猛禽の残酷的描写?が3ページ目に出現してます。飼い主は猛禽の自覚が殆どないためかなり困惑。世界観はプリズムの姉妹品? 偽バッドエンド気味な引きになりましたけど、次の赤崎視点版にてドタバタコメディ?寄りな形で完結予定。
「今日からよろしくお願いします」
ヒヨコの頃の記憶でもって、ニワトリは卵を抱くという。僕が初めて彼を見た時、そういうことを考えていた。
(あぁ、ここって好きだよねぇ。コッシーしかり、こういうタイプ)
感覚が他者より過敏な者は、細かな事象に先回りする。そういう才能に長けている。過敏とは傷を受けやすい性分であり、本能のレベルで回避出来ねば色々と生き辛いからだろう。生存していく判断として、なんら不思議もないことだ。だが、発現の度合いが並外れている、つまり年相応でない場合、責任感や統率力など、いわゆるキャプテンシ―と呼ばれる性質と判断されることがある。発達の極々初期段階に、指導者に刷り込みを繰り返されると、いつしか当の本人自ら、その道の成長を意志してしまう。自分はそういう存在なのだと。そういう力のある者なのだと。
(なまじ頭がいいって自分で思っていると、拗らせちゃうね、こんな感じに)
別に彼らを嫌いではない。馬鹿にしているつもりもない。繰り返しの話になってしまうが、守られるべきヒヨコ期に庇護を受けずに成長すると、構築すべき基盤が脆弱となり、ウドの大木になりやすい。欠落に自覚がないままに、本人なりに必死に生きて、それは素晴らしいことだと思う。表層だけなら強固で堅牢、無駄な足掻きにも似た悲しさに、ある種の美さえ感じるほどだ。これは彼らの罪ではない。が、それでもいつしか自分に気づき、対峙を迫られる宿命を持つ。
「王子?」
「ん?」
「何スか気持ち悪い。変なこと考えていたでしょ今」
そう、彼は勘がいい。そしてそのこと自体わかっておらず、感性の人でありながら、ロジカル系だと誤認する。知性で解決を試みて、論理の海に溺れてしまう。
「変な?嫌だな、可愛いなぁって」
「うわっ、やっぱ気持ち悪っ!」
すぐにそうして耳を赤らめ、喜びをむやみに零してしまう。こう言われるのをわかっていたのに、意味なく知らない顔をする。伸びやか、梅雨明け、明るい日差し、そんな若葉の青の持つ、澄みつつ初心で脆弱な、そういう香りがほんのり香る。つまりこれが彼の姿だ。四の五のうるさい言葉も愛嬌、目を離す暇も与えぬ魅力。だから僕はこう思う。彼の稚拙は美しい。その感性は瑞々しい。この本質を歪めた者こそ、何より断罪すべきで、けれど逆にこうも思う。僕まで届けくれたことへの、深い感謝をすべきだろうか?この手の稀有な輝きは、そもそも誰も知らなくていい。知り得る者のみこうして愛でて、密かに嗜むに限るのかと。
「んー、やだなぁその顔、したくなる」
「ちょっ、王子昼間っから何言っ、やっ」
庇護を知らずに育ったニワトリ。苛酷で冷たいはずの世界を、煌めきとして受け止めている。嘘で作った彼の世界は、彼にとっては明るく鮮明、この世の歪みとその宿命を、知らぬが仏の平和な空間。
「リビングのソファじゃ明るくて嫌?カーテン閉めて暗くする?」
「そ、そういうこと、じゃな……」
「時間帯が不健全?」
「……っ、んぅ」
「そう思う方が興奮しちゃう?」
憐れなニワトリを抱き締める。
(君はヒヨコ。ヒヨコだよ?)
心で囁き優しく触れる。ギュッと強張らせた彼の体は、少しずつ警戒を解いていく。餌付けのようなキスを受け取り、時々こわごわ薄目を開けて、僕が誰かを確認しながら、心までをもゆるりと解く。暴れることは少なくなった。日に日に庇護を受け入れる君。
「君っていつも温かい」
快楽を引き摺り出すというよりも、ただひたすらの愛玩で。腕(庇護)の中に埋没させきる。得るべきだったこのぬくもりを、意味も知らせず浸透させる。
「眠たくなっちゃった?」
思考をすっかり麻痺させてから、ひっそり快楽(毒)を肌に塗り込む。耳朶の裏にキスを重ねて、軽く唇で食んでやる。寝息のような呼吸に混じる、小さい吐息が可愛らしい。彼の心理としてみれば、甘えられている感覚だろう。認識なんてどうでもいい。彼がくまなく受け取れるなら。
「王子……」
僕に体をねだられるのは、困惑と悦びの混沌で、それでも全身委ねてしまって、恥ずかしそうに、仕方なさげに、僕の頭を撫でたりもする。ここまで素直にさせるのに、手塩にかけて日々を過ごした。当たり前がそうではない、論理の海で溺れるヒヨコ。
肉体は既に期待をしている。経験でそれを理解している。けれど彼そのものの在り方として、行為にまだまだ戸惑っていた。激しい性欲と意志薄弱。どれだけ僕に馴れてこようと、生まれる疑問と葛藤し、でも先回りなら僕が勝つ。
「ああ、駄目。もっと触っていい?」
君の理論は薄皮一枚。剥ぎ取る術など呼吸の如く。ギブとテイクと感謝と罪悪、その混沌を紐解いていく。
「もっと奥までキスさせて?」
絡めとるように舌で嬲って、思考と理性をグズグズに。
「キスよりもっとエッチなことも、ねぇ、ザッキーもっとしたい……」
甘えて何度も上目遣い。猫なで声で、吐息交じりで、おねだり満載、か弱いハグで。それが必要というのなら、いつでも僕は仰せの通りに。
意を受け止めて、体を竦め、彼なりに懸命に考えている。僕に頭は上がらない。それは彼の作りでありつつ、僕の仕組んだ巧妙でもある。彼は体を開くのに、沢山の手順と建前がいる。それは彼には大事なことで、中身がヒヨコのニワトリである、彼を支える矜持であった。こういう時には刺激はしない。緩い力で抱擁し、唇で軽い愛撫を行い、懇願のように寄り添いながら静かに彼を待つのみだ。僕は彼という旅人の、太陽のような形となって、心の衣をまた一枚、迷ってもいい。自ら剥がせ。
「用意……してきます……」
ヒヨコはいつでも小さく鳴いた。彼が愛らしくて仕方がなかった。縊り殺してしまいたいほど。
「大丈夫?手伝うよ?」
「いや……平気ですからっ」
心が過敏ということは、体の感度も高いということ。準備が終わって部屋に戻って、その足はいつでもヨチヨチで、多分彼は少し疚しい。
(ふふ、可愛いなぁ……)
ほんのり兆した自らを、何分宥めて戻って来たか。
愛撫という名の庇護を受け止め、潤んだみたいにすぐ飽和する。
「どれどれ、上手に出来たかな?」
「あ、こらっ駄目っ、服は自分で」
「なんで?どうせ脱ぐのは同じだろう?」
やや力任せに肌を晒させ、もうそれだけで身悶えている。
「ほら、ちゃんと開いて見せて」
「やっ、王子、やめろってっ」
「こらこらザッキー、暴れない」
そこに口づけるのは僕の趣味だが、自分への奉仕と思う幼鳥。
「あっ、んぅ」
それはまるで生き物みたいに息を吹きかけるとピクピク悶える。塗り込められた溶液は、いつでも細やかで遠慮がち。それでも卑猥な音がして、健気でやっぱりキスしたい。すぐに性的欲望が巡るのか、彼の自らも昂ぶりを増し、独特の粘液が滴り落ちて足りぬ潤いを自ら継ぎ足す。僕の頭に縋る両手が、カタカタ震えてとても可愛い。中途半端にキスされ、舐められ、流されまいと、流されたいと、喘ぐ腰つきがいやらしい。
「……、くっ、あ……」
欲望を煽って嬲る行為は、僕をとことん陶酔させる。輪にした指を上下させつつ、後孔から前へとねっとり舐め上げ、飴玉のように片方含んで口の中で可愛がる。
「あ、やっ、……~、~~っ」
恐怖と快感、砂城のように、何度も僕だと確認しては、無力なままにホロホロ崩れる。したいようにとその身を捧げて、半強制の庇護に埋もれる。
彼は期待を裏切らず、性的決壊を必ず迎えた。少し青臭くて独特の。でも彼の吐き出すこの体液を肌に散らせるのが好きだった。手放してしまった彼の矜持で、見届けるのは僕の権利で、そしてそれを平らげるのも、この僕だからこそ許される。
「ちょっとっ!……また、なんでいつも、待っ、んっ」
直後にくまなくねぶられるのはヒヨコは何とも苦手なようで、いつもこうして文句を吐いた。それでも大きく暴れることなく、僕の自由を阻害はしない。結局のところ、理由は一つ。
「でも本当は嬉しいね?」
「!!」
射精後少し冷静な彼は、過剰に『奉仕』を感じるようだ。白濁は口、喉、そして胃へと、やがては僕の体の一部に。彼にとってのいわゆる穢れが、浄化されると思うらしい。彼にとっては奉仕と慈悲で、同時に背徳と欲情だった。これをしながら笑う姿に、服従的な愛を見ている。
(ふふ、ザッキーは本当に可愛いなぁ)
本当に純粋に趣味なだけだが、率直に性癖であるともいえるが、それを彼は理解しない。大袈裟すぎる独立心、錯覚混じりの責任感、甘えを知らない禁欲主義が、彼を非合理の海(彼にとっては論理の海)に沈めてしまう。
「出せたね、少しは気持ち良かった?」
「……まあ、そ……スね」
「そう、だったら、した甲斐あった」
溺れる彼の姿が甘い。僕は利害で動くタイプで、彼は本当に理解をしない。彼の錯誤が僕を酔わせる。まるでいい人になった気がする。
「王子?」
学習しない愚かな君に、僕の卑劣がにっこり笑う。
「ん、口を濯ぎに行くだけ。じゃないと君、キス嫌がるし」
からかうようにウインク一つ、こんなサービスまでさせる君。
「顔、真っ赤」
ますます、汗ばむほどに赤らんで、まるでそれは白桃の実で、充満するほど漂う色香はあまりに無防備なものだった。ニワトリなのにただのヒヨコで、ヒヨコにくせにしっかりニワトリ。羞恥は欲の表れでもあり、何とも言えない味わいがある。
「すぐに戻るよ、待っててね」
冗談めかしに鼻をつまんで、うんと甘めに囁いた。僕が何者に見えているのか。それを思うと少しふらつく。彼の愚かは微笑ましくて、同時に時々重くも感じた。
(さあ、少し切り替えよう。今から彼のギブの時間だ)
