ニワトリ、ヒヨコ、君と僕
【11444文字】
猛禽1作目。ぬくめ鳥のお話を何本か書いていますが、これは鷹が憐れなひな鳥に思いを寄せたら?というIF発想で書いたお話です。ジーノ視点版。猛禽の残酷的描写?が3ページ目に出現してます。飼い主は猛禽の自覚が殆どないためかなり困惑。世界観はプリズムの姉妹品? 偽バッドエンド気味な引きになりましたけど、次の赤崎視点版にてドタバタコメディ?寄りな形で完結予定。
かつて彼はバスルームの中、自分の体の排泄器官を、僕が使うための性器にしていた。眠るだけではギブと見なせず、まあ、押し売りに似たことだった。
(大丈夫かな、ちょっと遅い……)
生育環境のせいなのか、彼はある意味苦行が好きで、羞恥と必死に戦いながら、捧げる業務?を選んでしまった。
「あぁ、おかえりザッキー」
「……」
チラチラこちらの様子を窺っている。何度言ってもこうなのは、学ばないのか、学んでいるのか。
「おいで」
「あの、今日はどっちで……仰向け、それとも」
「いいからおいで」
「……っ」
入れて出せと言わんばかりの、即物的で下世話な態度。手を引きベッドに押し倒し、毎度のこれは儀式だろうか。
「どうするかなんて僕の自由。そういう約束だったよね?」
彼にとって重要なのは、これが僕へのギブであること。僕が欲して、彼が与える。とても大事な建前だった。
「あ、でも王子、乱暴は……っ」
性欲が旺盛な彼でもあって、本音と建前、稚拙な論理、彼の中ではうまい具合にバランスの取れた案だっただろう。一生懸命。責任感。ドキドキ、ハラハラ、好奇心。僕に何かを受け取らせたくて、ついでに自分も?な狡さもあって、僕はただ優しい眠りのために。如何にも本末転倒だけど。
(気は乗らないけど、仕方ない)
僕は彼が愛らしいので。出来ないことも、まあ、ないわけで。付き合い半分、お仕事半分、それでも嫌というほどでなく。
「まずはキスさせて?」
卑怯で狡いと思いながらも、愚かであっても、愛おしい。
(ちゃんと君に合わせてあげる。でも、それも僕の自由の一部。わかる?ザッキー?わからない?)
彼は自分を使わせて、手短にギブを済ませたがった。素直に付き合う馬鹿ではないので、必ず僕は。
「……王子、」
「ん?」
事ある毎に僕は必ず、わざわざ彼を混乱させた。こめかみに優しくキスをして、髪を梳いて抱き締めて、紳士の誠実、おとぎ話の、夢物語のキラキラ王子。性的刺激を全て省いて、ヒヨコの居場所はこういうところで、知らず彼は癒されていく。それでも彼はすでにニワトリ、予定と期待で生きる体が、彼をドンドン狂わせていく。
「服……脱がない、ンスか……」
「ん、それはあとからね」
「……」
触れ合うことに馴染ませて、心への庇護、体へ愛撫、彼の思考のタガを緩めて、その混沌に浸らせる。
「眠いようなら眠っていいよ」
論理は僕の昇華を望み、僕はそれほどのこだわりがなく、トサカの生えた大きいヒヨコの、その悲喜劇を包みたかった。
「……さっき、したいって言っ……たっ、……」
「ああ、さっきはそうだったんだ」
僕は簡単に嘘をつく。彼は簡単に僕に傷つく。
「萎えちまったってわけッスか……」
彼はとても気のいい男で、そして同時に欲深い。僕に対して自信がなくて、そのくせこうして文句をつける。甘えることを学べなかった、大きなヒヨコは歪で卑屈だ。
「君はせっかち」
どうしてこんな気持ちになるのか。彼の混沌は僕をも包み、本来何をどうしたいのか、僕も自分がわからなくなる。ギブとテイクは片道切符。彼の論理を責める気もなく、潜む狡さも受け入れられる。けれど心のどこかが疼く。
(こんなの、なんでするのかな……?)
口内を犯す深めのキスで、力の抜ける彼を感じる。ぬくもりというより熱さに近い。肌も少し汗ばんでいる。これはギブかそれともテイクか、させられているか、させてもらうか、僕に果たして自由はあるか。身を捩る彼を今すぐ見たくて、唇をやや強く噛んでしまった。
「……んぅっ」
キスは好きだ。ハグも好き。触れて、刺激し、決壊させる。確かに僕の趣味だった。虐めていいのは僕だけで、
(でもなんで虐める必要が?)
無理矢理二本の指をねじ込み、痛がる姿も厭わずに。
「ぐっ、あっ、」
「偉そうにザッキー、全然じゃない」
「ひっ、あ」
何故。何故。この衝動。
「すぐに出来るみたいに言って、ねぇ、何度言ったらわかるんだい?」
彼は洗浄自体はこなすが、それ以上の作業が出来ないでいた。僕を食み続けた過敏な体が、刺激に耐えられないからだ。
「僕に使って欲しいなら、最低二本は。言ったよね?」
「いっ、ああっ」
「本当は三本。二本はおまけ。これくらいは余裕で入ってくれなきゃ」
無理矢理僕にこじ開けられて、暴れることなくひれ伏して。ああ、この衝動。不可解な。僕は何を強いるのか。
「だから手伝うって言ったのに。聞いてる?そこそこ怒っているよ?」
何度こうして叱責しても、こなすことなど出来ないだろう。それは十分理解しながら、こうして儀式をまたひとつ。
「怖いくせに平気なふりして。何?酷くされたいの?」
彼の構造は単純ながらも、ひどく捩じれた形をしている。苦痛と我慢は彼の日常、そこからでないと駄目なのだ。彼への理解が深いが故の、これは優しさか、それとも何か。
「変態」
指で穴を広げてみたり、かき回すようにしてみたり、それでもあくまで作業に近い。僕の使える体に変える。
「あ、ああっ」
日数を置くと戻ってしまう。性感だけが成長をする。なんて見事な彼の不具合。犯されるために生まれたヒヨコ。
「最低限の礼儀だよ。あんまり手間を掛けさせないで」
君は、そして、僕は何故。今に意味はあるのだろうか。僕は君を憎むだろうか。君はどこまで許すだろうか。
*
「お湯かけるのと、洗うのと、ザッキーがやるのはどっちがいい?」
ずっと眺めていたいのに、今すぐぐちゃぐちゃにしてしまいたい。この頃少し調子が悪い。物理的刺激を欲する思いが、ぐるぐる無駄に渦巻くからだ。そんなこととは知らないままにヒヨコは羞恥と戦っていた。おそるおそるの手付きがいい。不器用なのも、とてもいい。
(なんか駄目だな、くらくらする……八つ当たりとかしたくないのに……)
最初は何度か僕にされ、自分で準備が出来ると言い張り、出来ないことを叱責されて、今は僕の監修付きだ。多分これが一番不快。彼もそして、この僕も、嫌で、嫌で、興奮をする。
「ん?ザッキーもう終わり?続けて?まだだよ?わかるよね?」
いわゆるえげつない行為の全てを、僕に見られつつ必死にこなす。僕へのギブのためだけに。健気な欺瞞が今日も憎い。
「そうそう二本目入れようね?また出来ないの?どうしても?」
グッときつく歯を食い締めて、泣きそうな顔で再び始める。本物の恐怖によるものなのか、変な性癖が育ったか。真偽のほどは定かではない。けれど不問にしてあげている。
「……中指と、そう、薬指……一回抜いて一緒にそこに……ゆっくりと……」
「う……、」
「駄目だよ、僕のためでしょう?」
彼が我慢を強いられているのは、義務と痛みと恐怖と快感。
「あ、……んんぅっ、……っ!」
洗うと内部が変化をし、こじ開けられれば思い出す。そこは彼の体の中で、最も僕を記憶している。一生懸命こなす業務は、いつも自慰に似通って、それが彼を苛みながらも、特有の欲情を学習させた。躊躇で素直になり切れず、罪悪感で落ち込みもして、昂ぶる体を必死で隠し、僕の許しを待っていた。だから決して許しはせずに、泣くまで、泣いても、追い詰め続けた。
「さあ、もっと指で広げて。緩んできたらもう一本」
彼は僕のいいなりで、必死に自分を拡張していく。クチクチと卑猥な音を立てつつ、粛々と僕に虐げられて、憐れで稀有で美しかった。彼の持ち前の抑圧は、彼を完全には堕落をさせない。もちろん僕もそうはさせない。だから彼は穢れなかった。
「偉いねザッキー。上手だよ」
「……」
追い詰めながらも称賛し、救いの在り方も悲惨そのもの。他者(僕)のために自分を虐げ、僕の喜びに頬を緩める。自分の言いだしたことだから。彼は発言に責任を持つ。
そして一方寄り添う僕は、どんどんめちゃくちゃになっていた。これは誰のせいなのだろう?彼は純粋で、とてもいい子で、たやすく僕に絆されて、言われるがままにこうなった。
(違う、僕が言ったんじゃない……ザッキーが、僕を、ああ、違う)
彼のギブは善意であって、付き合う僕にも善意はあって、彼のせいじゃない、僕でもない。なのに歯車が軋んで痛い。
「上手なんだけど時間掛け過ぎ。長湯でそろそろのぼせちゃう」
キスがしたくて堪らなかった。準備はまだまだ終わらないのに、もういいや、なんてすら思う。ずっと楽しく見ていたはずが、確かに楽しいはずなのに。
(もう何も考えたくない。ただ、ひたすらに感じていたい……)
床に転がる彼の頭に、浴槽の中から手を伸ばす。安堵するような吐息を漏らして、彼はその手に頬ずりをした。ゆるゆると唇を触ってやれば、その目が途端に朦朧となる。最近このまま準備をさせつつ、導いてやるのが普通になった。思考を完全に停止させ、狂わせるのはたやすいことだ。
「いい子だザッキー、もういいよ」
彼と同じ三本指を口の中に差し入れてやる。上顎をこちょこちょ擽れば、身悶えながら空吐きをした。
「自分でイっちゃう君が見たい。僕の望みだ。大丈夫」
テンションに合わせて指で犯して、自分を見失うザッキーを見る。彼は今とても寛いでいて、自然にヒヨコに成り果てていた。僕のためなら何でも出来る、憎らしいほどとても可愛い、僕の見つけた僕のヒヨコだ。
*
「ねぇ、今日はする時、これつけよう?」
血の色みたいな真っ赤なルージュ。奉仕中のザッキーは、断り方を忘れてしまう。
「それとも僕がつけようか。ちょっと女性とするみたいだね」
自分ではとても、と気後れしていて、やってあげると目を閉じさせた。
「わお、すっごく可愛いねぇ」
こういうものには欲情しない。でも彼は好きだと思う。そんな僕の想像通りに肌が色づく素直なヒヨコ。これは劣等感への刺激で、当然それなりの工夫も必要。彼は女性に嫉妬している。僕が奪われてしまうのではと。
「ねぇ、今まで会ったどんな子よりも、君が一番煽情的だ」
行為はギブでなければならない。僕の喜びがなくてはならない。僕は彼を喜ばせたくて、色々やり口を考えた。
「唇の形、すっごく綺麗」
悪趣味というより下世話に近い。なのにそのいやらしさがよく似合う。太陽の似合うスポーツ選手の、人に見せられぬ性倒錯。
「キスもそっとだ。取れちゃうし」
チロチロと舌先で紅を舐め、綻ぶ姿に微笑んだ。そして突然そうなっていた。
(あ……これってちょっとヤバいかも……)
そういう趣味はないはずなのに、突き上げるほどの性衝動。僕すら恐怖を感じるほどの。
(待って、駄目だ……どうして突然……)
僕はゲイでもバイでもなくて、性的指向は女性を向いて、それでも行為に興味が薄く、なくてもいいようなタイプであった。
(キスを止めなきゃ、今すぐに……)
僕の可愛い可愛いヒヨコ。紅差すだけで卑猥な唇。人工的な色と香りが、隔てた川の懸け橋になる。ジグソーパズルを完成させる。ルージュは二人の頬を汚して、枕について、もう止まらずに、ママゴトではない搾取の予感。
(嫌だ、ザッキーこんなのは)
意識は殆ど残ってなかった。ただひたすらに感じたく、そう僕は僕の欲望に負け、力づくで、力の限り。それが絶望でないというなら、何であったというのだろうか?あれは知らないはずの僕。隠し続けた獣の本性。
