お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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能ある猛禽の潜む草原

【11719文字】
猛禽3作目。赤崎入団4年目頃?オリンピックは離脱選手の代替召集、Aは対象外。海外移籍出遅れ組。国内では若手世代としてはそこそこ、中堅としてはまだ少し弱い、の位置づけ。ジーノは幸せ極楽とんぼ状態に拍車、インタビューでは以前にも増して面白おかしいことをペラペラと。サッカー芸人達からは「選手にあの顔であれやられたら」とちょっとした目の上のタンコブ扱いされています。

        ジノザキ ,

「王子、そろそろ帰りましょうか」
「そうだね、まあまあ頃合いだ」
 赤崎がジーノと居るようになり、身に着けた能力がいくつかあった。
「ああ、良かった。間に合った」
「結構ギリギリでしたけど」
「濡れずに済んだし十分さ」
 ジーノは気候に敏感で、黙っていてもその表情、口調や僅かな態度の変化、赤崎は最初それらに気付き、次にはジーノがそうなる際の、空気の変化、風の匂い、いわゆるトリガーであるものが、理解出来るようになっていた。気候を理解するというのは、土地の特性を知ることでもあり、ピッチコンディションの分析などもジーノと共に導き合って、戦う指標となったりもした。海風による芝の荒れ、今日は晴れでも雨天続きで緩んでしまった土の奥。チャンスでゴールを決められなかった過去の手痛い失敗も、赤崎の成長を促している。

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「はは、この前の独占インタビュー、ついさっき見させてもらったよ」
 赤崎が家に遊びに行くと、ジーノは楽しげにこう言った。
「人間万事塞翁が馬って言葉、使い方ちょっと間違ってない?」
「全然。しっかり合っていますよ」
「えー、そう?そうなんだ」
後輩が世界に羽ばたいて、生まれた焦燥も今は過去。赤崎はツンと澄ました顔で、キッチンのジーノに割り込みながら手を洗いつつこう言った。
「これ、切ればいいんスか?」
「うん」
「盛り付けるのはここッスか?」
二人黙々と調理の連携、互いが邪魔になることもなく、時々目配せ、作業を分担、これは日常で生活だった。
「あ、それも出してくれたんだ?」
「今日食べちまえばいいかなと」
「そうだね、遠征近いしね」
「あそこには前回負けていますし、次は絶対勝たねぇと」
「クリーンシートは惨めだもんねぇ」
「何スか今の。当てつけですか」
「まさか。可愛い、可愛い、君相手に。何本外した?とかとても言えない」
「見てろよ?その口塞いでやっから」
「勇ましいねぇ、キュンとする」
爪と牙が皮膚割くような、それでも口調はまろみを帯びて、勝手知ったる丁丁発止、じゃれる二人の甘噛みが、夜の過激さの予兆に繋がる。

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「使い方、なんで合ってるの」
クタクタの赤崎に覆いかぶさり、後ろからキリリと耳を噛む。鍛錬を重ねて培った赤崎自慢のスタミナも、何故かジーノには敵わない。
「待っ、王子、休憩させて……」
「だから休憩してるじゃない」
「だからそういうちょっかいも、や……あっ」
 村越も試合には出ていたが、キャプテンは赤崎に定着し、試合後に行うインタビューなど露出が少しずつ増えていた。ジーノは興味もなさげであったが、この頃ディレイで見るようにもなり、インタビューにインタビューするママゴトをするようになっていた。
「失敗は成功のもととか、別の言い回しあったじゃない」
「それじゃ意味合いが違うくなる」
環境に対する深い洞察力は、今では記者の間でも有名で、特に前回の赤崎の考察は注目と称賛の的にもなった。
「違うのかい?だって」
「幸も不幸もわからない、そういう意味です。合ってます」
ジーノは耳元で意味深に、
「なんか微妙な言い回しだねぇ」
と、その獰猛も赤裸々にふふふと小さく忍び笑った。

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 すやすや眠るジーノを横目に、赤崎は心で呟いた。
(……ったく、どんだけやるんだ馬鹿)
こうなる予兆は確かにあって、身構えていたはずでもあった。

 ジーノは恐ろしく勘がいい。ずば抜け過ぎたその才覚は、彼の生き方をこうしてしまった。赤崎はジーノを知るにつれ、愛と苦しみを深めていった。人好きのする性質なのに、なにがしか人を寄せつけない。それは意識下に沈ませた生きる工夫で、それを思う度抱きしめたくなる。
「幸か、不幸か、か……」
派手な暮らしぶりに見えはするが、ジーノは息を潜め生きていた。あまりに強い感受性は、時に暴力的でもあって、感じてしまうのと感じられるのと、そこには互いの許諾がなくて、血しぶきの飛び散る軋轢にもなる。悪いことに感性は形が似通うと伝播して、察知し合う相乗効果が良くも悪くも過敏を深める。赤崎がそれのいい例だった。思いがあれば尚更のこと、本来見るべきではないその淵に触れてその痛みが共鳴をする。
 めちゃくちゃにされる頻度は減っていた。でも、心理的な意味からすれば日常化したと言えもした。ひとり抱えたジーノの痛みは二人のものになりかけていて、二人にとっての幸福であり、災難と言えるものでもあった。もちろん言葉は交わしていない。でも赤崎が焦りもせずに、ここに居る理由は伝わっている。
(んー、なんとかならんものか……)
手間暇かかる大きな園児の、ぐしゃぐしゃになった髪に触れ、同じことを考えている。ずっとこうなる前からの。確かに
(だって、そりゃあ待ちもするでしょう?こんな化け物、火ぃ点けなけりゃ、移籍したって気が気じゃない)
天気予報士になろうかな。コメンテーターもいいかもね。そういう言葉はふつりと消えた。この日々があれらを消滅させた。出会って二人、極々自然に生きる道が変化した。その意味がどこに転がり着くのか、まさに塞翁が馬ではある。
(別にあんたのせいとか言ってねぇだろ?まあ、全部わかっててのことだろうけど)
選んだからか、選ばれたのか、今がこうして今であるのは、二人にさえもわからないこと。それでも最初は互いを見くびり、他者との相違を感じ取り、触れれば皮膚から溶け合って、今では時々その境界がわからなくなることさえあった。ジーノは赤崎を包み込み、赤崎はジーノの信頼を得て、今日も深い眠りについた。今年は星を刻めるのかと、同じことを考えながら。