能ある猛禽の潜む草原
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猛禽3作目。赤崎入団4年目頃?オリンピックは離脱選手の代替召集、Aは対象外。海外移籍出遅れ組。国内では若手世代としてはそこそこ、中堅としてはまだ少し弱い、の位置づけ。ジーノは幸せ極楽とんぼ状態に拍車、インタビューでは以前にも増して面白おかしいことをペラペラと。サッカー芸人達からは「選手にあの顔であれやられたら」とちょっとした目の上のタンコブ扱いされています。
伸びているジーノも物珍しいが、赤崎は淡々と面倒を見た。ちやほやしようと思っていたので、させてくれるのも嬉しく思った。シーツを剥がして、掛け替えて、お風呂でジーノを洗ってやって、なんだかそこで再び食われて、よろよろベッドにたどり着き。
「さ、そろそろ寝ましょうか」
布団に入って両手を広げて、ほらどうぞ?と、胸を貸し出す。ふ、とジーノは微笑んで、するりと胸におさまった。
(良かった。王子笑ってて)
無茶をされるのは嬉しいが、ジーノには無茶が負担のようで、でもシャワーの時にも食欲旺盛(?)、今日のチャレンジは上出来らしい。
「王子、髪の毛くすぐったい」
「はは」
自然に甘えて寛いでいる。不安定ながらも不調の気配は、ちゃんと洗い流せたようだ。
*
赤崎の言葉は飾りがなくて、そして行動も強引で、でもその原点は思いやり、人に対する優しさだった。受けた恩義は忘れない。信頼起点の重責は、彼をいつでも発奮させた。ジーノが悲劇と解釈しても、当の赤崎にしてみれば全てが幸せだったのだ。頼られるなら寄り掛からせたい。頼らないなら頼らせたい。見くびるのなら思い知らせて、握手をした後歩きたい。
「明日、リカバリの後は何しましょうね」
ジーノが自分を温めるなら、同じ温かさで抱き締めたい。自分と同じに寛いで、心地良い夢を二人で見たい。ヒヨコは卵の中での記憶で、自分も卵を抱くとのことだ。抱き締めながら抱き締められて、ただそれだけで心が緩む。
「あー、でも天気はどうだったかな。王子予報とか知ってます?」
眠りたいのに勿体ない。半分眠るこのひと時の、甘さがいつでも病みつきで。
「晴れたら久しぶりにドライブなんか行きますか。でも次の試合、場所遠いしなぁ。日程的にも中三日?」
今季は結構離脱が多くて、ターンオーバーも間に合ってない。カップ戦は免除されても、リーグ戦の佳境とあっては、キャプテンだって10番だって、酷使は仕方がないことだった。
「怠いっスねぇ、前に使ったあそこのホテル、あん時王子、」
「……」
「あれ?王子?聞いてます?」
「うぅん……」
殆ど夢の世界のようで、寝ぼけた小さい空返事。
(ああ、もう限界だったか。ま、それもそうだよな)
実際ジーノは良くやっていて、それこそ大化け選手の扱い。でも赤崎はまだまだと思っているし、ジーノも同じ目をして笑う。君もまだまだ、なんて笑う。
――もし今外にというのなら、出て行き方は大事だよ
今の赤崎の実力や移籍金に文句をつけた。もう安い若手の枠ではない。即戦力の傭兵枠だ。もしも本気で願うなら、エンブレムの上に輝く星(優勝)を、もっと増やしておかねばならない。今季もそこへと手を掛けていて、その先までをも想いを巡らす。今の人生に納得するには、まだまだ二人は貪欲だから。
「おやすみなさい」
まるで老人のように無欲な男が、子供みたいな顔して眠る。赤崎はジーノを愛していたが、だからこその憎悪も抱える。知らなければわからないこと。わかって初めて見えるもの。ひとつそれを見つける度に、出し惜しみするなと思ってしまう。
(ふん、可愛い顔して。くそったれ)
きゅ、とその鼻を軽くつまんで、苦笑を一つ。そしてあらためて目を閉じた。今日もまたひとつ貰ってしまった。貰ってばかりで悔しいな、と。
