だから、つまり、そのことは
超鈍感なザッキーと、奥手(というより酔狂?)なジーノ。
そんな出来てないジノザキが二人で食事に出掛けてダラダラしゃべっている話。系統としてはシリアスでもコメディでも甘々でもない、淡々とした微糖?こんな風になんの起伏もない日常の姿を妄想しているのすっごく好きです。
Cio’(チョ)~そのことは
「王子、今日いいッスか?」
「ん?あぁ、いいよ。大丈夫」
ある日、赤崎はそんな風にジーノを食事に誘った。行く先といえば赤崎の昔なじみの小さな洋食屋で、時間帯を外せばほとんどお客も立ち寄らない。いつしか二人は時々あの秘密の場所で他愛無い話をして過ごすようになっていた。
「あの……椿が今日……」
今日のネタは赤崎が椿に相談された話。お中元やお歳暮の風習がジーノにあるとは思えないが、話の流れで二人でジーノに日頃の感謝として何か贈り物をしようということになったのだ。
「そんなもん別にいいとか言うのはわかってますよ?でもあいつはそういう感じの部分は大事にってか、受け取ってやんねぇと駄目なタイプっつーか、言いたいことわかるッショ?」
「うん、そうかもね」
「で、あんたが欲しがってる椅子がいいと思ったんだけど話聞いたら一人じゃとても無理だって。…だから俺は二人でなんとかすっかって言ったら、なんだよあれ、結局二人でも到底無理な金額じゃねーか王子」
「クスクス」
「笑うとこじゃねぇよ」
「失礼。でもキミ達そんなこと考えてくれてたんだ…ホントいい子だね、大好き」
「いや、今そういうのはいいから。で…椅子以外の…あんたの好きそうなもん、なんかさりげなく聞いてこいってさ。俺の方が自分より聞き出しやすいだろって、あいつなりに考えたらしい」
「これがその……さりげなく……ねぇ?」
「しょうがねぇだろ?俺嘘付けねぇしどっちにしろバレんだから」
「フフ」
「つか……」
「何?」
「あんたが椅子好きだとか…俺知らなかったンスけど」
「……」
「なんかさ、どうもチームん中で知んなかったの俺だけ?みたいな……」
顔つきが徐々に憮然としていくのでジーノは黙ってその表情を眺めていた。
「俺は……あんたと結構話する機会も多いほうかな、とか……思ってたから」
「何?ショックだった?」
「……」
「馬鹿なことを……フフフ、キミが一番沢山聞いてるじゃない?ボクが欲しくて、でもどうしても手に入れることが出来ない椅子の話」
ジーノがさも愉快そうに笑いだすので赤崎は呆気にとられた。椅子の話などただの一度も耳にしたことはなかったからだ。
「聞いてるでしょう?ボクのお気に入りの椅子の話。すっきりとしてるんだけどどこか可愛くて、つっけんどんなんだけど優しくて、何よりも深い思いやりがあって、そして繊細なくせにある意味ひどく鈍感なとこもある、そんなとっても面白い……椅子の話」
「ちょ……ちょっと待って王子、それは……」
そう、その話は椅子の話ではなく。椅子は思いやりとか繊細とか、はたまた鈍感なんてものは全く関係あるわけがない。そんな話題に関係があるのは、いつも赤崎がジーノから話を聞かされているのは。
「そうだよ?キミにいつも相談しているじゃない?」
「でも……いや、だって椅子じゃ…金額が何百万とか、ブランド名とか……」
「具体的な話をするわけにもいかないし、なるべくそれっぽくしなきゃって…だから金額はボク好みに身づくろいさせるにはそれくらいは初期投資必要かなってとこからの話で…でもバッキー色々食い下がってきちゃうからブランド名は引っ込みがつかなくなっちゃってつい」
「つい?」
「うん。つい……」
ジーノは言葉を重ねて茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた。
「っていうか……あの子だけじゃなくキミまでボクの椅子の話を本気で椅子のことだと思って聞いてるとはね」
「わ、わかるわけ」
「そう?わかりやすくない?」
「わかんねぇよ」
「フフ、ゴメンゴメン。でもみんなに言うにはねぇ?だからあれは椅子の話。わかるね?椅子の話だよ?」
「……」
「椅子の話じゃないって実際にこうして口に出して言える相手はザッキー、キミだけだよ?わかるよね?バッキーにも、誰にも、ボクはそんなこととてもとても」
赤崎は自分だけ仲間外れにされていたような疎外感がなくなったと同時に、唯一ジーノの本質的な話を聞いている自分の立場をとても光栄に感じた。ジーノの片思い。これこそは二人だけの内緒だった。向かうところ敵なしと思えるほどの男の赤崎にだけ見せている少し気弱で可愛い一面。もう、この相談に乗り始めてから随分になる。真摯なジーノの恋の話を聞くのが、その愛を語る姿を見ているのが赤崎はとても好きだった。
