お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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だから笑って?

【2107文字】
なんとなく一緒に居るといい感じだなと思い合っている段階の、限りなくジノ+ザキに近いジノザキのお話。仏頂面崎が気に食わないジーノが試行錯誤。別に切迫しているわけでもなく、難易度の高いゲームを攻略しているみたいな軽い感覚の中で十分ハッピーのご様子。

        ジノザキ

 笑顔というものは人を幸せにする。好意を寄せている相手なら尚更だ。けれどジーノの思い人である赤崎という人間はどうも心のままに笑うというのが不得手のようで、あまり機会に恵まれない状況にある今に対して、男は強く不満を抱いていた。

「ハゲてめぇやっぱ馬鹿だろ」
「んだと!?」
 今日も面白おかしく周りの人間に失礼な毒舌を振りまいている姿を横目に、ふぅ、と小さな溜息をつく。
(いや、この顔も別に嫌いではないけどさ)
 ニヤリと歪んだ口元、寄せた眉。まるで皮肉を絵に描いたようなその嘲笑の表情は確かにジーノのお気に入り。
(ただしボクにはしないっていうのが前提でね)
 一見誰彼かまわず物怖じしない言葉を吐き捨てるタイプ。けれど自分に対してだけは絶対服従。そんな彼の基本的な行動指針を歪ませるイレギュラーはジーノの心を密かに潤わす。

 週末。
「……?なんスか?」
「いや?別に。美味しいかい?」
「はぁ、そりゃ」
「良かった」
 今日もジーノは買い物の荷物持ちとして使役する為、当たり前の様に赤崎を呼びつけていた。与えるご褒美の骨はその日の外食。当初はランチだったものがここ最近はごく自然にディナーになりがちだ。理由は当然、待ち合わせの時間にルーズな男の性分にある。
(そうなんだよ、絶対服従はいいんだけど……)
 赤崎はジーノの命令に逆らった事が殆どない。不満気な言葉を発する時もあるがその全てはまずYESのスタンスが大前提にあっての話。自らが納得できなければトコトン我を通す人間であるはずなのに、いつもなんだかんだと付き従う。それが今の二人の関係だった。赤崎にとってジーノは例外の存在、所謂特異点だ。
「ザッキー」
「はい?」
「美味しい時は美味しいって顔して食べたほうが、もっと美味しくなると思うんだけど。どうかな」
「はぁ?どんな顔して食おうが、俺の勝手じゃないッスか。馬鹿馬鹿しい」
 何を言っているのだと言わんばかりの不愉快な表情は、いつもジーノの心を曇らせた。
(相変わらずキミって無表情っていうか、仏頂面っていうか)
 これは赤崎の不器用だった。特異点であるジーノの前では行動原理を歪ませる事が出来る男も、感情に嘘を付く事は難しい。非日常を過ごすにあたりその応対による緊張と戸惑いが赤崎を常にこうして硬直させるというわけだ。
(そうだよね、そこまでこなれるには無理がある。わかってはいるんだ)
 二人きりになるといつもこうだった。指示には従う。けれど愛嬌がない。人の下につかない男にそれを強制させているのだから、無理はない。ジーノが不満をおぼえていたのは、わかっていながら何度となく服従以上のものを求めがちになる自分の心の制御不足だった。

 だから、今日も男を送らず自分の家へ連れていく。
「最近当たり前になってきてません?」
「だって当たり前だろう?運ぶのも大変だけど、ボク、タグ外すの嫌いなんだもの」
「そんなの俺だって嫌いですよ。嫌ならそんな買い物しなきゃいいのに」
「ハハ」
 荷物持ちから持ち帰った商品の整理まで全部、すっかり赤崎担当となっていた。値札のタグを外し予備ボタンは引き出しへ。商品はジーノの指示に合わせて然るべき場所へ。
「紙袋なんて捨てちゃっていいのに。邪魔じゃない?」
「あんたしょっちゅう服買うけどすぐ捨てるでしょ?そん時イチイチゴミ袋使ってたら破れたりなんだりで面倒なんスよ」
「あ、そ」
 そう、当然衣替えから廃棄処分までその作業は全て今では赤崎がやっている。まだ着られる、勿体ないと言う押し問答もそれなりにやってはいたけれど、それもまたYESの大前提がある赤崎のスタンスのおかげで、いつもジーノの思うがままだ。
「それよりも、あれ、お願いしますよ」
「ああ、うん。待って」
 そして、ジーノはこの時だけは赤崎の指示に従うのだ。

 赤崎がタグを一つ一つ外す合間、この家ではその週のETUの試合を流すのが習わしだった。反省会がわりに二人で見るこの行為も赤崎のお気に入りの骨のひとつ。なので、ジーノは再生が始まって手がお留守になる飼い犬を責めたりもしない。 
(そろそろかな?)
 ジーノが試合時間を確認したちょうどその頃、ETUのフリーキックのシーンが始まる。
 壁がジャンプする程高い弾道。けれどそれは鋭く弧を描きキーパーの思わず伸ばした左足先から逃げるようにゴールネットに突き刺さる。
「ッシャ!」
 ハサミ片手に小さく小さくガッツポーズ。その表情はまるで少年のそれのようで、ジーノはこれが好きだった。
(ホント、キミを笑わせるのも大変さ)
 己のプレイなどそっちのけでジーノはキラキラと目を輝かせながら今のシーンのリプレイを待っている赤崎の横顔を眺めていた。
 ジーノが買い物に出るのは原則勝ち試合の後。自分がゴールを決めた時はいつにも増して大量のタグを用意しているジーノに赤崎は未だ気付かない。笑顔見たさで集められた着こなす意味の薄い洋服に包まれながら、赤崎は子供のように口を半開きにさせて試合に没頭するばかり。
(全く……いつかこっち向いて笑ってよね?ザッキー)
 ジーノは呆れたような溜息を一つ零しながら、すっかりぬるくなったコーヒーを一口含んだのだった。

      ジノザキ