お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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瞳は唇よりものを言う

【13097文字】
視点交互、番犬・飼い主の順。両片思いから両想いのちょっとだけ飼い主が黒い溺愛系。もともとはよくわからない習作でしたが、仕上げるうちになんだか長くなってしまった。

        ジノザキ

 落とすことは簡単だったし、手に入れることはいつも容易で、我慢は無意味と思っていたし、僕はそういう人間で。
(ああ……さすがにこれはヤバすぎ……)
安易に手中に収めたら、すぐに気が済み飽きてしまう。僕は僕がわかっていたから、僕にしては珍しく、彼を手に入れたくはなかった。失うならば得なくてもいい、そんな姿をした獲物。
 ぐっすりと眠る彼を見ながら、独り言のように呟いてみる。
「疲れちゃったね。よく寝てる」
この恋は生まれたその瞬間から、とても美しく温かかった。大事な、大事な、綺麗な獲物。ここ最近の生きる意味。手に入れたくて仕方がなくて、失うことが恐ろしく、僕の気分は大波小波、ジェットコースターの毎日だった。意識させるのは楽勝で、だから最初から間違いだらけで、なのに後悔に浸る今、満足感が溢れて困る。
「今はゆっくりそうして眠って。明日からきっと大変だしね」
朝から具合が悪そうだった。一目見て悪意と作為が気付いた。狩人の前に弱った獲物、チョロつく方が悪いよなんて。
「ねぇ、言っても仕方がないけれど。こんなつもりじゃなかったんだよ」
僕の自意識は純粋に、彼の体調を心配していた。力になりたいとただそれだけで、元気を出して欲しいと思った。出来ることはなんでもと。本音半分、嘘半分、僕は最近嘘つきで、自分の心を信じてしまった。時と場所とそして相手を、考えられる人間なのだと。彼が僕の手を握った時、困惑よりも歓喜が強く、そんな時点で嘘に気付いた。彼は僕の罠の中。罠にかかった意識すらなくそのたどたどしい僕への思いをたった一瞥で僕に伝えた。幸せだった。好きだったから。あれを受け入れぬ術はなかった。悪意と作為が飛び跳ねて、でもそれもどうでもいいと思った。ソファでそのまま貪り食らい、浴室に移動してからも、そしてその後ベッドでも。朦朧とし始める彼を許さず、僕は何度も、何度も、何度も。これほど彼に飢えていたのだと、食らいつくしつつぼんやり思い、満足しながらまた飢えて、とことん堪能し尽くした。ずっと夜ならいいと思った。彼をおもちゃにし続けたくて、朝など来なければいいと思った。
「……」
気絶したみたいに眠る姿に、うっとりしている自分が怖い。彼が目覚めるのも怖い。僕の正体を彼は見たのだ。
「おやすみ、ザッキー」
幸せな夜。どうしよう。彼はもう僕に狩られた獲物。暗い夜に一人怯えて、獲物を抱き締め必死に眠った。

*

 僕達は朝、夜には触れずに、普段と変わらぬ態度を努めた。相談し合ったわけではないが一番無難な方法だった。遅い朝食を済ませた後に、彼を家まで送ってやった。職場まで一緒にと思っていたが、断られたので従った。
(まあ、確かに変だよね)
 今日の練習は午後からだ。ぽっかり時間が空いたので、仕方がないからふらふらドライブ。それも退屈で家に戻った。午後練の時は寝ている時間。手持ち無沙汰でそれに困った。ソファに座るも落ち着かなくて、僕は深いため息をつく。休んでしまおうかとも思って、それは無理だとも思う。
「……」
僕が新しく気付いたことは、後悔よりも、満足よりも、飢えが深まってしまったことだ。思い出すとまた疼く。悪意と作為が大いに笑う。次の罠が頭を巡って、僕を楽しませてしまう。
「楽し過ぎる。最悪だ……ザッキー頼むよ助けてよ」
無邪気に走って笑って欲しい。なのに足を掛け転ばせて、そのままめちゃくちゃにしてしまいたい。飽きて失うのも怖い。何もかもが恐ろしかった。いい日であるのをもう祈れない。僕は彼を狩ってしまった。その血をすすり、味を覚えた。

      ジノザキ