瞳は唇よりものを言う
【13097文字】
視点交互、番犬・飼い主の順。両片思いから両想いのちょっとだけ飼い主が黒い溺愛系。もともとはよくわからない習作でしたが、仕上げるうちになんだか長くなってしまった。
俺は王子が好きだった。彼の才能へのリスペクト、あの在り方に対する心酔、そういう部分もあったはあったが、彼との対峙を重ねるうちに、他意を見つける羽目になる。
(いや、ないない)
体というのは不思議なもので、脈絡のない反応もある。けれどそれがそうではないのに、少しずつ気付き始めてしまった。屈託のない笑顔を見る度、王子に申し訳なく思った。俺は王子に恋というより、性的魅力を感じていたのだ。でもそれを認めることなど出来ず、ずっと気付かぬふりをしていた。どう考えてもおかしなことだし、気のせいにすれば楽だった。俺は逃げて、逃げて、逃げて、でも本当は逃げたくなかった。傍にいたくて、欲情もして、身を捩るほどの独占欲も。挨拶程度のチームメイトじゃ、そう何もかもぶっ壊れてもいい、一度だけでも俺は王子を。
それをはっきり自覚した日に、まるで棚から牡丹餅みたいに、俺は彼を手に入れた。何が何だかわからなかったが、確かに現実のことだった。
(いや、もう、ガチでヤバみがヤバい……)
俺はすっかりキャパオーバーで、王子も呆れていたかと思う。彼は想像以上に優しく、思いもせぬほどかなり激しく。思い出すだけで、わー!!!!っとなって、頭を掻きむしり走りたくなる。だからこんなじゃ駄目だと思って、とりあえず今俺は家に居た。余計なことを言いそうだったし、朝からスケベな気持ちでいっぱい、とても一緒に居られなかった。支度なんか大したことない。家を出る時間はまだまだだ。
(いやだから……そういうことする暇とかの意味じゃなくって!)
油断するとゾクゾクとして、体中がいやらしくなる。だってすべてに触れられ、舐められ、されるがままに俺は何度も。もう出ないのに擦られ続けて、結局彼の手に少し出て、意地悪そうなあの笑顔。おかしくなるのも当然だ。我慢しきれずそっと握って、囁かれ続けた言葉を思い、俺は静かに目を閉じた。
――誰に何されているのかわかる?
――どこをどうされているのか言える?
――こんな風にされたかったの?
――ここまでなんでも許してしまって……そんな幸せ?僕のになれて
幸せ過ぎて、もう会いたい。会ってまた舌を絡ませながら、君がいいって言ったんだからと、何度も何度も囁かれたい。浮かぶ微笑の酷薄は荒れる呼吸に苦し気ながらも、己が成す責め苦に陶酔をして、何度も何度も王子は言った。君がいいって言ったんだからと。ねぇ、いいって言ったよね、と。まるで子供が甘えるみたいに、甘噛みしながらじゃれるみたいに。
(~~~~!!!!)
我慢しきれずイってしまった。でもまだまだ身悶えていた。何度も何度も時計を見ながら、今か今かと考える。恥ずかしいのに今すぐ会いたい。会いたい王子、と何度も思った。
*
「おはよう」
午後練の時も『おはよう』だ。彼の挨拶とそして笑顔は、今日もいつもと全く同じ。凄い、と感心するのと同時に、あれは夢?などと小さな疑惑。
(いや、普通じゃないとおかしいし。朝起きた時もこんな感じで……)
ぎゅっと胸が締め付けられた。雨の日王子が先に帰った、あの時の寂しさを思い出す。もしも昨日が夢ではなくても、あれもまた彼には子細なことか?ネガティブなスイッチが入りかけた時、これはすれ違いざまのほんの一瞬。
「……ごめん。しばらく首元、気を付けて」
俺にだけ聞こえる小さな囁き。俺の襟元を正す彼の手。何が起きたかわからなかった。けれど振り向きざまのあのウインクで、意味のすべてを理解した。
「!?」
淡すぎるようなキスマークなど、当事者以外は問題視しない。それでも彼の表情仕草は、事の大きさを認識させた。消えるであろう痕はいい。でもウインク一つで目から脳へと、俺の支配者が誰であるかを、タトゥーのように深く刻んだ。
――君は僕だけの玩具なんだよ。君はもう君自身のものですらない
それほど今のこの一瞬、脅迫のような独占欲が、溢れんばかりに赤裸々だった。
感電のような快楽であり、震え身悶える束縛だった。至近距離で受けた魅力の原液。悲鳴をあげる余裕すらない。俺はただ過ぎ去るその背に思った。
(もう、どうにでもしてくれ王子……そうだよ、俺はあんたのものだ……)
