お花結び

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留守番ザッキー危機一髪

【14808文字】
ある日ジーノの家で留守中、突然やって来た男は恋人ジーノにそっくりで?というモブザキ的な何か。
かつてモブザキ書いてみたいなと思った時、番犬が愛くるし過ぎてモブおじさんだとなんだかほんわか仲良くなって「悪い事出来ない」になってしまう連続で、なんだか無駄に闘争心が湧いて、色々ウンウン考えたネタでした。あの頃の私は一体何と戦っていたんだろうw コメディタッチの予定が何やら深刻な感じになっちゃいました。

        ジノザキ

「あ、王子、おかえりなさい。今日は遅くなるって言ってませんでしたっけ?」
 俺がそうやって話しかけると、男は薄っすらと笑って言った。
「おやおや、随分と愛が薄い」
 王子は時々変な事を言うが、いちいちムッとするのも大人げがない。けれど俺は堪え性もなくて、やっぱり不愛想なへの字口になる。
「は?何言って」
すると男はこう続けた。
「だってそうだろう?ボクと恋人とを間違えるなんて。ジーノにバレたら怒られちゃうよ?」
 思わずへの字口がポカンと開いた。

*

「王子が双子だったなんて俺、初耳です」
 王子モドキは我が物顔で、ソファで伸び伸び寛いでいる。
「ふーん。ま、ボクの方はキミの事、よーく『ご存じ』だけどもね?ザッキー?」
「?」
 美貌は王子と寸分違わず、イラつく喋り方はそれ以上。
「あの」
「ん?」
「とりあえず、俺の事『ザッキー』って呼ぶのやめてくれませんか」
「おや、健気。あだ名に操でも立ててるつもり?」
「違います。そもそも俺は『アカザキ』じゃなくて『あかさき』なんですよ。王子はあんな人だから言っても全然やめてくれなくて、だから仕方なく我慢してるだけで、本当は俺」
 すると割り込むように男は言った。
「へー、ザッキーじゃなくて本当はサッキーってわけか!ハハ、全然締まらないね。ザッキーの方が断然いい」
 怒ると喜ぶ歪んだ性格。流石双子だと俺は感じた。見た目と同様にタチの悪さもそっくり同じで、いっそ気持ちが悪い程。
「そうじゃないッス。ザッキーだろうがサッキーだろうがそういうの、どちらにせよ俺は嫌なんで。普通に名前で呼べばいい事でしょう?」
「わかったよ、遼君」
「だ、誰が下の名前で呼べなんて……普通にっていったら普通苗字で」
「いいじゃない、遼君。可愛い名前だね」
 こんな事を言われると調子が狂う。同じ顔して言うなと思う。
「首まで真赤だ。何?遼君呼び、気に入った?」
「なわけあるか!」
 気に入るというよりも気恥ずかしかった。遼君呼びなどどれだけぶりだ?

*

「なんだか聞いてたより随分とガサツな子なんだね、遼君」
「あんたが俺を怒らせてるだけの話だろ」
「しかもタメ口。いくら恋人の兄弟でも、ボク達今日が初対面なのに」
「!」
「ま、別に構わないけどね。ボク、そういうの平気なタチだから」
 ニヤけた口元が癪に障る。
「構わねぇんだったらイチイチ言う必要ないですけどね。随分根性が曲がってらっしゃる」
「ワーオ、凄い率直」
「別に平常運転ッス」
「だね。知ってるよ。話にも聞いてるし、見てもいるし」
「ふかしこいてんじゃねぇよ。ついさっき自分で初対面って言ったくせに」
「キミはね。ジーノとしてなら何回も会ってる。代返でね」
「なッ!?」
「練習も一緒にやった事あるよ?」
「嘘だろ?そんな……」
「さあ、どうだろう」
 顔には嘘だと書いてあって、なのにどこか胡散臭い。男の目的は動揺を誘う事で、わかっていながら目が泳ぐ。
「意味なく不機嫌で無口な日とか。あれがボクだよ」
「……ありえない。いくらそっくりだからって、誰も気付かないとか、そんな馬鹿な話が」
「普通そうだよねぇ。流石にボクもそう思うよ。だっていくらそっくりだからって、デートとか寝るのとか、そんな事までして恋人が気付かないとか、そんな馬鹿な話は」
「じょ、冗談は……」
「まあね、だって嘘だもの」
 その時の男の顔は、この上もない嬉しそうな顔で。
「なんでこんな話真に受けるの?ありえないのはキミの方でしょ」
 クスクスと本当にご機嫌な様子は、骨の髄まで生粋の詐欺師のそれを感じさせた。
(んの野郎……!)
俺のイラつきは頂点に達し、でもこのまま手のひらの上で転がされてたまるかなんて、大息をついて気を取り直す。俺は経験から十二分にわかっていたのだ。この手のタイプに一番よくないのは、感情に任せて怒りをぶつける事。
「……で、王子の双子の兄弟さん、あんたの名前は?」
 憤懣やるかたない思いの中、俺は話を変える事にした。
「ボクも王子って呼んでいいよ」
「いいわけないでしょ」
「いいよ。それで十分」
「あのねぇ。素直に教えねぇと俺、あんたの事マリオ呼びしますよ?」
 うまい事言い返してやったとしたり顔をすれば、王子モドキからは軽薄さが消え、冷静な口調で言い返された。
「わかってないね」
 思わずドキッとしてしまう。
「な、何が」
「キミに教えてあげる名前なんてないよって意味だよ」
 取り付く島もないとはまさにこの事だ。けれど、それでもなんとかと食い下がろうとすれば、口の端だけの冷笑を浮かべ、断罪の言葉が降って来た。
「だってキミ、恋人を見間違える馬鹿なんだもの」
視線はナイフのような切れ味があり、思わず言葉を詰まらせてしまう。男は恐ろしく挑戦的で、ゾッとする程綺麗だった。王子を本気で怒らせた時と、とてもよく似た印象だった。唯一無二である自負とプライド。それを持って然るべきと言わんばかりの高潔さ、その在り方もよく似ていた。

*

「で、ボクには飲み物出してくれないの?遼君」
 癇に障ったが、淹れてやった。モドキが言わんとしている事が、なんとはなしに通じたからだ。王子は大概帰宅してすぐ、エスプレッソで疲れを労う。男はその癖を知っていたのだろう。だから、扱いの差をつけるのは許さないと、その意味を含めて笑顔で言った。変に子供じみた事にこだわる感じや、扱いにくささえ似ていると思った。察しの悪さを何よりも嫌う。でも対応出来れば軟化するはず。
(めんどくせぇ客……いつまでここに居るつもりなんだろう)
 そんな思いを気取られないよう、カップを差し出しモドキに言った。
「なんか用ッスか?今日は王子、遅くなるって言ってましたけど」
「知ってる。だから来たんだ」
「それ、どういう意味……」
「キミの値踏みをしに来たんだよ。だから、遼君、ちょっとこっち来て」
「はぁ!?」
 指先だけで呼ぶ尊大な態度。見ず知らずの人間にやられる筋合いはない。
「いいから。早くここ。隣座って」
 寄りにもよってこの家の中で、他人をのさばらせるなんてあり得なかった。許されざる事だと頭に来たのに、男の迫力は王子さながら、気圧され、どうにも抗いきれない。素直に従うのがあまりにシャクで、せめてもの意地だと虚勢を張って、ふんぞり返ってソファに座った。
「……」
 じろじろと舐めまわすような視方は、おそらくわざとらしいパフォーマンスだ。
「ちょ、あんまり近づかないでくれませんか?」
「恋人とそっくりだから欲情しちゃう?」
 似た顔、似た声、似た匂い。座る位置、座る距離まで同じとあっては、確かにシャレにもならなかった。混乱している中で図星を指されて、思わず大声を出してしまう。
「違ッ!!」
「やだ。うるさい」
 唇に指をあてられ、ギョッとする。言い草、表情、このやり方。この人はイチイチ細かく王子に似ていて、その差を見出そうと必死になる程、混乱が増す。
「何?急に大人しくなって。拍子抜けしちゃうじゃないか」
「……」
 本当にイチイチ王子によく似ている。イントネーション、話の展開、人の心をかき乱す魅力、そして、その時々のこの優しさ。腹が立つのに、憎めない。ほっとけばいいのに、目が離せない。
「どうかした?」
「あ……いや、あの……」
「ん?」
 聞き耳を立てる時の返事の優しさ、微かに首を傾げる寄り添い方。なんだか現状がわからなくなる。今自分は何を考えているのか?男は何を思って話すか?
「本当によく似てる……」
 そんな時、思わず口にしてしまった正直な言葉。
(やっべ……)
 気付いた時にはもう遅かった。案の定男の機嫌は急転直下で、背中に冷たい汗が流れた。
「そんなに似てる?」
無表情でジッとにらまれ、思わずゴクリと生唾を飲む。最初からこの人は俺のこの気持ちを許さなかった。一番いけない本音を漏らして、キンと張り詰めた空気が痛い。けれど。
(……あれ?)
 恐々としている俺の様子が滑稽なのか、噴き出すようにモドキは笑った。
(あ……)
 まるで花が綻び、舞うようだった。息が出来ない。
「ねぇ遼君。ジーノなんかよりよっぽどボクの方がいいと思わない?よく見てよ、ほら」
 髪を掻き上げ、すまし顔で、流し目、口元、完璧なそれ。美を誇る時のチャーミングささえ、王子とモドキはよく似ていた。この世に二つとないと思っていた宝石、その輝きに目が眩む。言われるがままに頷きそうになる。俺が好きなのは王子なのに。この人は俺の王子ではないというのに。
「どう?ボクとジーノ。どっちがいい?」
「う……」
 この人は王子と同じに魅力的で、まるで王子と過ごしている時間のように、なんだか楽しくなってしまう。
(勘違いするな、これは赤の他人だ……)
それでも、俺は戸惑う事象に少しずつ慣れて鈍麻していく。慣れてしまえば、それはある種の安堵に変わる。だって、留守番はいつでも嫌いだった。王子はどう頑張っても皆のモノで、離れていると心を苛む。そこには常に大穴の傷、空洞にぴったりあてはまるのは、唯一無二のあの人だけで。
(そう、あの人だけのはずなのに)
「訊くまでもないかな?ねぇ、ボクの勝ちだよね?」
「なんだそれ、そんな言い草も王子に似てる」
「えー」
 そして、こんな些細な返事や態度さえも。俺の大穴は開いているのか?確かにここに、開いている。いつも冷たい風が通り抜けて、ヒリヒリと痛んでいるはずが。
(この人は王子じゃない。でも一緒にいると寂しさが和らぐ。俺、なんか変だ。いくら双子でそっくりだからって、こんな気持ちになるなんて……)
欠損の不安を見失って、その心地良さがなんだか不思議だ。よくない事だとは薄々感じた。でも心が癒されるのは事実だった。
「やっと笑った」
「え?」
「いいね笑顔。生意気な感じで且つ結構可愛い」
 そう言って笑う男の顔もとても綺麗で、王子が目の前に居る時と同じに、恋するみたいにドキドキした。
(王子、今どこにいる?早く帰ってきてください)
 このドキドキはそもそも王子だけへの。あの人の事がとても恋しい。

*

「でね、その時の話がまた傑作で」
「また。あんた、俺の事からかうのに話しをかなり盛ってません?」
「違うよ、本当なんだって遼君」
「でもなぁ……」
「いいから聞いて?」
 それからの時間はあっという間だった。話し上手、聞き上手、話は大いに盛り上がった。
「ちょっとそれは笑い過ぎじゃない?」
「だって、だって、まさか王子がそんな」
「まあねぇ。ああ見えて結構適当なんだ」
「違いますよ、俺がツボったのは王子の適当さじゃなくて、だって皆知ってる事だし」
「そうなの?」
「そう!だからね?問題は、なんでその場面で真っ先に手を付けようって考えるのが、よりにもよってそこなのかっていう」
「それは普通じゃない?」
「普通じゃないッスよ!駄目だ、笑い過ぎて腹いてぇ」
 モドキは色々教えてくれた。王子がどんな風な子供だったのか。どんな風にのろけるか。実は結構ヤキモチ妬きである様子に、思いがけないこだわりに杜撰さ。モドキの話す王子の秘密は、やっぱりその全てが魅力的だった。そして悪い事にそれを話す目の前の男も、何を言えば俺が喜ぶかとか、どんな話が嬉しいのかとか、人の機微をよく知るその優しさが、あまりにも魅力的に思えた。何故なら、モドキはあまりにもよく俺を理解していた。
(そう、まるで王子のように……)
だからこそ時を忘れるくらいに、話が弾んでいたのだろう。

      ジノザキ