留守番ザッキー危機一髪
【14808文字】
ある日ジーノの家で留守中、突然やって来た男は恋人ジーノにそっくりで?というモブザキ的な何か。
かつてモブザキ書いてみたいなと思った時、番犬が愛くるし過ぎてモブおじさんだとなんだかほんわか仲良くなって「悪い事出来ない」になってしまう連続で、なんだか無駄に闘争心が湧いて、色々ウンウン考えたネタでした。あの頃の私は一体何と戦っていたんだろうw コメディタッチの予定が何やら深刻な感じになっちゃいました。
また奇妙な例のあの間。情事気分はみるみる薄れ、なんだか変な空気だった。
「……ッ」
そんな時だった。俺は、晒していた首元をチクリと小さく男に噛まれた。これは俺らのよくやる罰の印で、俺は思わず目を見張った。
「何?」
俺はますます混乱した。二人だけの遊び。いくら双子でもこんな事まで、王子が他人に語るだろうか?そして男はあまりにも、あまりにも王子によく似ている。
「違う、だって……」
「だって、何?」
今日の出来事を思い返す。俺を組み敷いている男は一体誰だ?重なる錯覚が本質を遠ざける。
「全然気付かないなんて、やっぱりキミは随分と愛が薄いよ」
「痛ッ!」
声が漏れる程強く噛まれた。数ミリ皮膚を引き千切られた。男の唇に血がついた。
「ザッキー。ねぇ、ボクは一体誰?」
もうその名を呼ばれても拒否出来なかった。何故なら開いて見せた彼の首元。
「そんな……馬鹿な……」
そこには鮮やかなうっ血の痕が、何よりの証拠として存在していた。外出の為の虫よけをよろしくと、王子が俺につけさせたものだ。
「さあ、言ってごらんよ。ボクの名を」
「……」
「ったく、人の話を聞く気もないわ、鈍感だわで、ボクももうどうしていいのかさっぱりわかんなくなっちゃったよ」
*
気が付けば馬鹿みたいに俺は王子にしがみ付いて、グシュグシュとその胸の中で女々しさ丸だしで泣きだしていた。
「……キミってば本当に馬鹿な子だよ全く」
そう言ってギュッと俺に抱きついた男を、その名を、俺はまだ呼べなかった。
「ゴメン。自分で騙しておいてイラついたボクも馬鹿だね?」
「……」
「だって、こんな他愛無いボクの冗談、すぐに見抜くだろうなって思ったんだよ」
声が出せなかった。
「怖かったよね。でもキミがあんまりにも気付かないからさ。途中でも何回か言おうとはしたんだよ?でも、だんだん意地になってエスカレートしちゃった」
確かに最初から奇妙な点が沢山あった。双子の名前も言わなかったし、絶対見分けられないと断言していた。大体この家にどうやって入った?持ち物、着る服、全部が全部、出掛けた時の王子と同じで、気付かない方がどうかしている。俺の馬鹿さ加減は度が過ぎていて、王子がショックを受けるのも当然の話。恋人がわからない俺を、王子は責め続けた。苦手だなんて口にすれば、随分腹を立てていた。俺だってそんなことを言われてしまえばひどく傷付いて怒っただろう。信頼を裏切る俺の無神経さ。至極当然の罪科と思った。
(どうしよう王子、俺、本当に馬鹿だ)
合わせる顔がない俺に向かって、それでも王子は優しく言った。
「でも、すっかりボクは忘れていたんだ。キミは素直で騙されやすくて、なんでも鵜呑みにしちゃうような子だって事を」
俺は元々そういうタチで、実際何層にも重なる嘘に、あまりにも簡単に騙されていた。王子は俺を騙しながら、騙され続ける俺を責めた。でも今回は元々の性質のせいとばかり言えない気がした。愛情が薄いと最初に言われて、焦りと動揺と後ろめたさで、自分でこの目を曇らせたのでは?王子と間違えたと恥ずかしくなって、なくて当たり前の二人の相違を無理矢理見出そうとしたのでは?
「きっと、キミを騙そうとして罰が当たったんだね。反省したよ」
それは違うと言いたかった。
「体はすぐにボクに気付いて、なのに心はボクの言う事を信じ切ってて。そんな健気なキミを虐めておきながら、勝手に傷付いて怒ってしまった」
「違います」
やっと、やっと、言葉が出た。出せた瞬間にまた涙が零れ落ちた。俺は王子に言いたかった。ごめんなさいと言いたかった。愛していますと言いたかった。一杯一杯、伝えたかった。
「俺の馬鹿さが王子を傷付けたんです。お、王子は、」
うまく舌が回らなくて、そんな自分が情けなかった。そんな俺の涙を唇で拭う仕草は、さっきと同じ、感触、優しさ。ああ、こんなにも同じだったのに、と、今更ながらに痛感する。王子は慰める時いつもこうやる。俺はその解釈を間違えて、自分でドツボにハマったのだ。
「キミはボクと双子を見誤る自分を恥じて、反応してしまう体を責めて……可哀想に、どっちも当たり前の事だというのに。ホントにゴメンね?辛かっただろう?」
首を横に振るしか出来なかった。溢れる言葉は喉につかえて、けれどどうしても思いを伝えたくて、そうこうしているうちに俺達二人は、どちらともなしに唇を寄せた。
「そんなキミにイライラして、でもなんだか戸惑うキミに興奮しちゃって……ゴメン、本当に悪かったと思うよ。あのままキミに酷い事してたら、ボク達どうしようもなく壊れていたね」
謝罪と贖罪と溢れる愛を、直接確認し合うようなキスだった。血の味のするキスだった。
「王子」
俺は最愛の人の名前を呼んだ。王子も俺の名を呼んでくれた。
「そうだよ?ボクはキミの王子。キミの恋人」
「王子、俺……俺は、」
裏切ったのは自分であると、その俺の言葉を王子は遮る。
「ん、そうだよ。キミはボクのザッキー。ボクの恋人。大好きで、大好きな、ボクだけのザッキー」
「……ッ、う」
「例えボクがボクでなくったって、会うだけで瞬く間に恋に落ちてしまうような……キミはそんな、ボクだけのザッキーだ」
「ん……」
どれだけ唇を求めても足りなく感じて、そのまま自然に体を重ねた。全身くまなく確かめ合って、それでもまだまだ足りなかった。
「ずっとこうしていたい」
と俺が願うと、王子も、
「そうだね」
と俺に言った。
王子は何度も何度も俺を抱き締め、数限りなく愛してくれた。もう見誤る事のないようにと、何度も念を入れてキスをした。愛を問わない最愛の人は、全部通じているから問わないと知った。
