お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

ジノザキDay2014ジーノ編

【77054文字】
後半戦のジーノ視点バージョン。赤崎編はお題消化がテーマでしたが、こちらはすれ違いがテーマの意地悪?オマケ物語です。ラスト、ハッピーエンドではありますが途中えげつない(強姦未遂)描写がございます。R18設定としましたが人によってはR18Gかも?黒い展開が苦手な方は閲覧熟慮願います。10/17~10/31連載

10. dieci/ディエーチ

(ああ、そうか。ボクはザッキーの事が本当に好きなんだ)

 それは先日本人の前で口にして初めて自覚した事だった。鏡を見ても、ボクの顔が違って見える。彼を思う時、明るく楽しげに笑っている。今度はボクの振子が、人知れず我知らず、静かに、音もたてずに、尊敬と恋慕の間を揺れ始める番だった。

(キミはキミをボクに語り、ボクがボクをキミに語る。キミはボクの言葉に耳を傾けてくれて、ボクはキミの言葉の全てを受け取りたい。全部だザッキー。もう嫌なんて思わないよ?だってボク、キミの事本当に好きになっちゃったみたいだから)

 彼の在り方の魅力とはまさに、その少年的な残酷性にあると言っていい。狡さを伴う事で人は優しさを獲得していくと誰が言ったろうか?でもボクはあの手厳しさこそが彼独特の何ものにもかえがたき優しさであるとハッキリあの日認識した。

「ザッキー」

 鏡に向かって彼の名前を呟いてみる。マンガのように陳腐だ。けれどボクは滑稽さに笑うよりも、なんだか胸がキュッと苦しくなった。

「す……」

 こんなの辛くて耐えられない。今すぐここから逃げ出したい。でももう逃げられはしないのだと、彼に習って己の素直な気持ちを表す練習を続ける。

「ボクはザッキーが、好き、だよ?」

 こんなセリフ数えきれないくらい口にしてきた事なのに、思いを込めようと考えるだけで高鳴る鼓動はおさまらなかった。危うい状態に陥っていく自分がとても不安で、でも、何度も何度も、呟いてみる。やればやるほど苦しくなって呼吸を乱しながらやがて耐え切れずしばしボクはそれを中断した。

(好きだよ?そうだよ?……でもなんか凄く苦しい……なんか変だ。珍しくチームメイトと親睦を深めたいっていうんだ。絶対いい事のはずなのに、これじゃなんだか……ザッキー、ボクのこの“好き”って気持ち、ちゃんとあってる?)

 友情も愛情も区別のつかないそもそも心が淡白なボクは、恋する自分に気付かないまま身悶える情熱に翻弄されて、延々頭を悩ませている馬鹿だった。そしてとうとうどうにもこうにも誤魔化しきれず、ある日こんな事を思うようになる。

(もしかして、いや……ち……違うよね?だってそうだったら色々とハードル高すぎない?)

 考えたくない事。ボクはボクの中の善意と誠意を信じたい状態にあって、自分のこの庇護欲は果たして彼に相応しいクリアなものなのかどうなのか、半分わかっていながら無意識に目を瞑って現実逃避をしていたのだ。

(ハ、そんな馬鹿な事あるわけが……ボク、あの子の事みて変な気分になった事なんてただの一度も……だからきっと、大丈夫……だ、よね?)

 そして馬鹿なボクは自分の安定のための安心材料として試しに最早すっかり見慣れたはずの彼の裸体を脳裏で再現をしてみたのだ。

(ちょ……冗談……)

 そして当然の様にその際に初めて起きた自分のゾクリとする反応に深い自己嫌悪に陥る羽目になったのだった。

(やめてよ、そういうんじゃないだろ?彼がボクにくれる“好き”は、もっとこう……)

 ボクの大好きな彼の目を思い浮かべてみる。あの日買い出しに出かけた時に見た秘密の姿を。

(そうそう、清廉で、誠実で、ふざけや悪意などの邪まなものが一切なくて……ただただ純粋なままの、所謂人への信頼に溢れている。そんな感じの目。凄く綺麗……)

 だからボクもそうあるべき。そうして、二人綺麗なままに、一分一秒でも一緒に居たい。もっとずっと一緒に居たい。強くそう思った。

(キミが誰かに恋に落ちたままでもいいから、ずっと傍にいさせて欲しいんだ。ザッキー、ねぇ、いいよね?ボクが不純を捨てて綺麗を心掛ければ、あの時みたいにボクを受け入れてくれるんだよね?一緒にいて、時々ボクを見てくれるだけで幸せなんだ)

 いつもいつも心には会いたい、会いたい。見ていたくて、話がしたくて。そして。いや、だからこそこの“触れたい”はナシだ。そういう事はボク達には不要であり且つ潔癖な彼にとって最も忌むべき事だろう。彼が変異に苦しむのはボクの本意ではない。過ちの火を消し、ボク達は余計なものを捨ててもっと綺麗になる。

(そんな程度の事は我慢するから、多分出来るから。だから、一緒に、一緒に、ザッキー、ボクを前みたいに見てて欲しい。少しだけでもいいけど、出来れば沢山)

 ボクが日に日に彼の虜になっていく丁度その頃、彼はボクにこう言った。

「もう、来ないでくれませんか?」

 いつもなら思い通りにならない現実に反射でカッとなって攻撃的になってしまう場面だった。けれど変異の始まっていたボクは咄嗟にただ黙って彼を見つめる事しか出来なかった。ボクは自分を守る武装を次々に解き始めていて、益々彼の言葉に耐性がなくなっていたからだ。

(何故?こんなに好きなのに?)

 けれどボクが彼を好きなのは、こんな風に歯に衣着せぬ物言いが出来る善良な正直者だからで。だって皆ビクビク怖がるばかりで、そんな風にボクに接してくれる人は他に居ない。彼はボクのする事、良い事悪い事、好きな事も嫌な事も、沢山既に理解していて、それをボクに率直に伝えてくれる貴重な人材なのだ。つまり、気に入らない事があれば思い通りにならずに焦れる、それが駄目な事を窘めてくれる人。

(好き、好き、ねぇ、だから)
「嘘でしょ?」
(だってそんなの耐えられないもの、知ってるでしょう?ボクちゃんと言ったよね?キミにボクがどれだけキミの事を……)

 笑って誤魔化しながらなんとか懐柔しようとしたボクの悪い癖の最後に彼が、

「本気です」

と言った時にはもう貝のように全く言葉を発する事が出来なくなってしまった。何故なら、こんな事を彼が言うのは、きっとボクがどうしようもなく何かを間違えているという証拠だから。

(本気、で?)

 そして心の中で彼の言ったボクへのネガティブな言葉が勝手に何度も繰り返されていく。

“俺の事、いっつも馬鹿にしてんですよ”
“おふざけ大好きなあんたは、ぶっちゃけ、邪魔なんス”

(邪魔……)

“王子は愛する人を自分の欲望の為に踏み台にする”
“最低ッスね。あんたは我儘だ。凄く不誠実で、高慢で”

(最低……)

 始まりは彼がボクを尊敬してくれたところからだった。彼の忠誠はとても純で、いつもボクに拾われ伴に走る日を夢見て、必死でこの背を目で追っていた。
 なのに彼は今ボクの在り方を否定する。ボクを知れば知るほどボクからドンドン遠ざかる。そして今日、彼はボクを切り捨てたのだ。

 彼のあの綺麗な目はボクという存在全てに向けられたものだと思っていた。けれど彼にとっては私人ルイジ吉田など無価値なただの。つまり、ボク個人としての思いなどなんの意味も?

――あんたの愛は人を踏む愛。俺はあんたを拒絶する

 彼の豊かな感受性からくる真っ直ぐな言葉の数々は、ボクの深部に届いてボクを動かす。何も言葉は見つからなかった。

(上手く出来なかった?……失敗、した?何?よくわからな……)

 でもボクが彼から立ち去る際の、彼を思って泣いて笑った憐れな憐れなこの心、変化を努力するこの気持ちはちゃんと彼に届いたろうか?こうして必死になって痛みに暴れる心を宥めている間にも、少しでも彼に縋りたくて、気に入られたくて。でも黙って引き下がるボクの思いを?

(単にこのまま大人しく?このボクが?なんでそんな……)

 ちっともボクらしくない、そう思った。そして一歩ずつ彼から離れるその足取りが、進む毎に鉛のように重たくなっていく。未練でごねているのかと思ってみたが、どうやらそうではないらしい。

(何コレ、ちょっと今ボク、ヤバくない?こんな……)

 足を引きずるが如く無理矢理歩けば、今度は視界が歪む様な眩暈がして、時々立ち止まらないといられなくなっていく。這う這うの体で逃げ帰ってどさりと車のシートに身を投げ出した時、ボクの体はそれこそ本当にズタズタに細かく切り刻まれたかような苦痛に襲われていた。それほどフラフラだった。

「信じられない……こんな悲惨な事、あり得ないよザッキー。が、頑張ってたのに、ボク必死に素直になろうって……なのに……邪魔だって、そんな……酷くない?」

 不器用なりに苦手を真面目にやったのも、その挙句本気で負けたのも、ボクにとってこれが初めての事だった。一生懸命頑張ればきっと道は繋がるとボクはこの頃怖々ながらも信じかけていて。

(今まで出来ない事は何もないと思って生きてきた。けれどその実、負けるのが嫌で誤魔化し続けてきた人生だったわけだ?そうだよ、こ、こんな目にあうのが、恐ろしくてボクはいつも……いつも……)

 つまりこれは彼がボクにくれた、本当の意味での敗北感というものだった。

「負けるなんて王子でもなんでもない……ねぇ、ザッキー、じゃあボクは一体なんなの?なんでこんな目にあわなきゃいけないの?最悪だよ……何のためにボクは」

 張りぼてでない本当の王子になりたかった。その心を全否定された日だった。理由を考えれば原因は一つ。ボクがなんだかんだ言いながらもやっぱり邪まだったからだ。繕おうにも、彼にはバレてしまう。そういう事だと理解するのにずいぶん時間が掛かった。

 時計を見ればそろそろ練習が終わる頃になっていて、ボクは彼にあわせる顔がなくて慌ててクラブハウスをあとにしたのだった。