お花結び

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ジノザキDay2014ジーノ編

【77054文字】
後半戦のジーノ視点バージョン。赤崎編はお題消化がテーマでしたが、こちらはすれ違いがテーマの意地悪?オマケ物語です。ラスト、ハッピーエンドではありますが途中えげつない(強姦未遂)描写がございます。R18設定としましたが人によってはR18Gかも?黒い展開が苦手な方は閲覧熟慮願います。10/17~10/31連載

12. dodici/ドーディチ

 ボクは彼に恥ずかしくない人間になりたかった。人として真っ当になって、仕事も家庭も大切に、真面目に真摯に生きていく。そう、ザッキーと同じように。

 そうしてボクの絶え間なく続く思考の矯正の日々が始まった。期待するのは自身の回復、孤独からの脱却。なのにこの行為は然るべき幸せや充足感を得るどころか、その上にべっとりとした疲労を更に厚く塗り重ねていくばかり。そして疲労とナーバスは双子の兄弟。より研ぎ澄まされていく自分の中の神経質。

(何かに触れたい。なのに必死に手探るその先に、手ごたえどころか気配すら何も……ザッキー、本当に周りに何一つない。見つからないんだよ、あまりにも一人過ぎて……もう気が変になりそうだ)

 周囲と親睦を深めようと頑張れば頑張るほど白々しく思えた。必死さが増すほど空々しく感じた。心の中にはいつも孤独。今まで平気だった“得られない者”特有の欠乏の記憶が、過敏でひ弱なボクの心を深く掘り返すように荒らしていく。やりなれない事を続けている自分の無理がボクを救わず追い詰める。

(疲れた……ザッキー、ねぇ、ボク、何が何だかわからなくなっていく)

 そしてストレスが夜毎繰り返される悪夢に拍車をかけていく。彼への強い思いは我儘王子を殺しもしたが、一方で本物の醜い欲望の獣を生み出した。綺麗を心掛ける事で出来た、不要と捨てたゴミのなれの果ての化け物だ。

 あの時期自身の改善に努めるボクは、夢の中で手に入れる事が出来ない人を幾晩も凌辱し続けていた。絶望に震える彼を無慈悲に組み敷き、強制的に何度も何度も、それをした。単なる排泄行為の方が随分とましなくらいの、腐りきった欲望だった。彼がとても綺麗な分だけボクは激しく興奮し、それをエンジョイしては深い罪悪感に包まれた。とめどもなく溢れるボクの悪夢はまさしく悪意そのもの。

 暴れては宥め、叫んでは鎮め、そうして時は満ち、ようやくボクの待望の時を迎える事になったのだった。それはつまり待ち望んでいた苦痛からの脱却、自身の更なる大いなる変化。
 何もないともがき続けたその手がそれの端を掴んだ時、永遠に変わらないと絶望した世界がその瞬間別物になった。やっと自分がここから逃れる為に何をすべきなのか、ボクはその瞬間はっきりと確信したのだ。

 それはファン感の日、その終わりの挨拶の最中の事だった。

 その時、何事にも一生懸命な彼がイベントをやり遂げた達成感に幸せそうに笑っていた。明るい表情、高いテンション。

(凄いね。ザッキー、今、皆が一生懸命頑張った素敵なキミを見ているよ?ああ、とても綺麗だ。周りの歓声を受けた時の照れ笑いも、こまっしゃくれた皮肉な返しも、全部、全部。見て、ほら、いつにも増してもうこんなにもボクはキミに夢中だよ?ねぇ、わかるかい?ボク本当にキミの事が好きなんだ。大好きザッキー、凄く好きだ)

 そう、ボクは彼が本当に好きで好きで、好きで好きで、どうしようもないくらいに大好きで。なのに。いや、だからこそボクはあの瞬間、こんなものこれ以上見続けているのは無理だとはっきりと自覚してしまったのだ。

(好き……でも、そうさ、わかってるよ。そんなの、キミにとってはなーんにも関係ないって事くらいね。ボクがキミの事をどれだけ好きだって、何をしてたって、キミはもうボクを見ない)

 断言できる。変化の努力については、決して彼を振り向かせる為にやっていたわけではない。けれど一抹の虚しさが去来した途端に必死で保とうとしていた全てのものが、溢れかえる好きの前で一斉に音を立ててひび割れ瓦解し始めた。

(ザッキー、どうしてボクをそうやって苦しめ続けるの?いつまでもいつまでも好きがやめられない。ボクの中はキミで一杯。キミ以外は何もない。いくら悪気がないからって、こんな……酷い。酷過ぎるよザッキーもう限界なんだ。こんなのもう嫌だってずっと言ってるだろう?)

 ボクは心が惨めな程脆弱だったから、己の醜さのままに彼に責任転嫁をした。間違いなのは当然理解していた。でもボクの弱さがそっと理性に蓋をした。

(だからやめるね?ボクがおかしくなっちゃうもの)

 ボクは変わりたかった。本当にだ。けれど、慣れない“頑張る”に挫折した。亀裂が入った後はまさにあっという間の出来事だった。

(今更お綺麗ないい子ちゃんになろうなんて、甘いんだよ。そうだろ?全部無駄な足掻きに過ぎない。要は適性の問題さ。ボクにはその適性がない。適性があるは……)

 そして石が坂道を転がる様にそれが始まった。じりじりと伸びあがろうとする力に対して逆行の力の作用は放物線を描く様に一気に加速していく。彼のかけた魔法が解けていき、今の自分を支え切れなかった負け犬のボクは、崩壊とともに失われたはずの常勝の王子の姿を取り戻そうと。そんな事出来るわけもないのにボクは、もう、もう、止まらなくて。

(やっぱりそっちだよね。それがボクの本性なんだもの)

 そっち。と表現したのは、勿論夜毎苦しむ夢の化け物。割り切ってしまえば久しぶりにゾクゾクと心が昂ぶり、気が付くととても自然に自分が笑っていた。

「さぁ、やる事が決まれば後はするだけだ」

 鏡の男がかつての輝きを取り戻す。それを見てボクは、あぁ、良かった、もう大丈夫、と嬉しくなった。そして、なんて簡単な話だったんだろうと、また笑った。

(待ってて、ザッキー。今行くから……どんなにキミが嫌でもね)

 彼はボクに自分から近づけないのと同じに、ボクが近づけば逃げる事が出来ない。その事を悪いボクは知っていた。あの日出入り禁止と言った彼は多分、素知らぬ顔をしてボクがゴリ押しすればそれを受け入れてしまうだろう事もわかっていた。
 彼の優しさは時に他者を堕落させる。口では鼻っ柱の強い事を言いながらも、実際には自分の身を砕いてまで他者を許しがちな性分は美点でもありながら致命的な欠点だ。人を容易に信じすぎる。善意を見過ぎる。だから、それを利用すればいくらだって、ほらこの通り。

「ま、でも今日から解禁でいいんだよね?ザッキー」

 本来、彼に付け入るなんてボクには簡単すぎる事だった。彼のように扱いやすい獲物はそうそういない。気を抜かない限り、ボクはあまりにも圧倒的。
 僅かなアルコールの力を借りれば、逃げ隠れどころか、平気で話しかける事も触れる事すら簡単だ。いるものは必要。いらないものは不要。最早ボクの選別に迷いなんて一切ない。

(そうさ。ボク達最初から仲間じゃないんだものね?キミは蛙で、ボクは蛇。ただそれだけの関係だったんだ)

 距離を詰めてしまえばこっちのもの。悪意をもって本気で力で押せば、彼はあっけなく倒れる。何もかもわかりきっていた事だった。

「乾杯しよっか?それ見せて?一緒になんか注文しよう」

 ボクは飢えを満たして気の迷いが消せる選択肢を最良とものと捉えていた。彼を屈服させて折ってしまえば、やっとボクもこんな変な夢から覚める事が出来ると信じていた。気が逸り、落ち着かせるのに苦労するくらいに。

 スキンシップに過敏な彼なので、こんな爪先一つの接触でさえ顔色が変わる。大切なのは考える隙を与えない事。S(speed)スピード、 A(agility)アジリティ、Q(quickness)クイックネス。多分彼は本気で攻め込むボクにはついてこれない。そしてそうでなくても彼はボクには絶対に勝てないルールになっている。手段を選ばない人間にフェアな人間が勝てるわけがないのだから。

(ピッチにはルールを司る審判がいる、けれどボク達の間には彼らがいない。今のキミを守るものなんて何もないよ?ルールを決めるのはこのボクだ。だからキミに勝ち目はない)

 彼があの時どんな声で鳴くのか。何度となく想像したものを思い浮かべながら、シャイな顔してボクを見ている目の前の獲物に重ね合わせてゾクゾクした。

「じゃなかったら邪魔だとか出禁なんて冷たい事言われて、このボクが大人しく引き下がるわけがないだろ?わからない?このボクの気持ち」

 これは本音。でもそういうものも今は道具。健気な姿も戦略の一部として大袈裟にさらせば強く鋭い武器になる。ボクの演技力は詐欺師並み。ボクが本気で色仕掛ければ落ちない女はいなかった。だから自身の真摯な気持ちをも利用するこのやり方が彼に通じないわけがない。

 攻撃に対して配慮するのが当然守り。彼はボクを見ないので、ボクは彼の言葉を意味の持たないものに変えた。酷い事をする子にはもうボクの心に触れさせない。当然の事をしたまでだ。ボクが言葉の代わりに欲しいのは彼の音。今はそんなものを余すことなく全部欲しいと思っていた。
 屈辱の中、押し殺しきれず漏れてしまう息。絶望による叫び、次第に涸れ行く喉。それによる彼の沈黙、部屋に鳴り響くボク達二人の行為の音。ボクは彼の発する様々なものに思いを馳せる。あぁ、早く欲しい、と素直に思えば自身を貶めるマイナスの圧が背を押す強烈なエネルギーに変化する。

(もっと奥まで飲み込んじゃっていいんだよ?ボクの釣針。疑う必要なんてないさ、何気ない美味しそうな餌に見えるだろう?)

「ボク、ずっとキミと話がしたかったんだよ?でもキミが……。ねぇ、イベント終わるまでちゃんと我慢出来た事、“偉いね”って褒めてくれるかい?」
「でもキミ達のショータイム、すっごく楽しかったよ?凄く良かった」
「頑張ったね、ザッキー。一応ボクも我慢した甲斐はあったって感じかな?おかげで少し報われた」

 そういってボクがニッコリ笑えば、彼も吊られて少し笑った。

(そうそう、ザッキー、キミはいい子だね。そんなに美味しい?ボクの餌。もっと一杯食べればいいからね?)

 信憑性のある本当交じりのボクのペテンはあまりに巧みで、案の定彼は面白いようにボクの手のひらで転がった。情報収集の結果類推したベリー好きの指摘はピンポイントだったようだし、バニラアイスを食べた思い出を掘り出せば彼は楽しさだけを甦らせた。
 そうしてボクは人の善意を断れない彼に大量の酒を浴びるように注ぎ込む。これが本来のボクの目的だ。アルコールが駄目だという情報もタンビー達から収集済み。手っ取り早く深酔いさせるのに飲み口の良い強い酒を使うのは日頃の遊びの中で実証済み。
 今日のイベントの高揚感が彼の判断能力を鈍らせて、彼はあっという間にボクの見せる酔夢の中。こうしてボクは、そうとは気付かれない形で彼の予定を邪魔したのだった。

(行ったらさぞかし先輩後輩親睦が深まった事だろうね?でもさせるわけない。まずは今晩キミはボクとの親睦を、二人っきりで……ね?フフ。何もかもボクがキミを手にしてからだ。やりたいならその後散々やればいい。その時にはもうキミは親睦という名の付いた関係を楽しむ余裕もないかもだけどね)

 不自然さがないよう送る段取りも気まぐれな善意をさりげなく強調する。あと一息。部屋はすでに予約を済ませてある。

(結構いい部屋用意したよ?そこでキミに思いっきりつけてあげる。とっておきの傷、それも生涯ボクを忘れられなくなるような深いヤツ。もうすぐだ。その時キミがどんな顔するのか、ボク今、凄く待ち遠しい……っていうか、なんかワクワクし過ぎ。ハ、ハハ、変なの)

 何人でも眠れそうなベッドのあるあの部屋はボクのお気に入りの狩場。今晩は晴れている。だからいつも以上に綺麗な夜景が、ボク達の最初で最後の夜を素敵に演出してくれるだろう。
 そして人の怖さを知った後、可愛い子犬はもう二度と笑えない。

(キミのあの笑顔、とっても好きだったんだ。でもキミはボクにもうあれをくれない意地悪だから、ボクもキミに意地悪するよ?笑うキミを皆にもあげない。だってそんなのズルいじゃない?叩き壊したくなったとしても、それはしょうがない事だよね)

 意識のない彼をほんの少しだけつまみ食いするつもりで足を寄せる。じわりとした温かさが布越しに伝わる。こんな程度では全然足りないくらいに飢えていたけれど、ほんの一点だけの些細な接点が渇いたボクに彼をみるみる浸透させて、おかげで、この段になってホンの少しだけボクの理性をまともにした。ツキリと鋭利なもので刺されたようにボクの心臓が小さく痛む。悲しかった。何がって?こんな程度の痛みではもうボクが止まれない事がだ。

(無駄な足掻きだね、ザッキー)

 ボクの理性は今、アルコールも味方につけて燃え盛る欲望に比べてあまりにも無力だった。まるで悪魔の目の前でスヤスヤと眠る生け贄の彼のように。

(残念だけどはやいとこ諦めってものを覚えたほうがいいと思うよ?ボクみたいにね)

 目端で彼を見れば、ムニャムニャと何か寝言のようなものを呟きながらその頬は穏やかに緩んでいた。小さな花のポカリと音を立てて咲くが如き、とても幸せそうな姿だった。それはずっとボクが見たがっていった彼のあの秘密の。
 再び感じたツキリと胸を刺す痛みはやはり今のボクにはあまりにも弱く、なんの抑止力にもなりえなかった。だから、ブレもせず彼の嫌う踏み台にする愛を押し付けようとしている今の自分の事を、本物の鬼畜生だと思った。他人事のように淡々と。
 自分のやろうとしている事が何から何まで間違っているのを知っていながら踏みとどまる事を知らないボクは、せめてもの小さな謝罪の意を込めてそっと彼から足を離してあげる事にする。けれど、すぐに意識のない彼はボクのそれを追ってしまう。

(ザッキー、本当にキミは気の毒なくらい馬鹿な子なんだね)

 健気と酷薄、わざわざあつらえたみたいにボク達の特性が組み合わさって実現されゆくこれからの悲劇。

(よくやるよね。自分でもそう思う。こんな事が楽しいだなんて本当にボクって酷い奴だ)

 だからボクは寄り添う足が触れ合わぬよう逃げるように一旦席を外さざるを得なかったのだった。気の毒に思うくらい愚かな素直さを持つ彼より、わかっていながら間違いをおかす自分の方こそ正真正銘の馬鹿だと思いながら。

(でも、もう全てがしょうがないことなんだよ)