お花結び

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ジノザキDay2014ジーノ編

【77054文字】
後半戦のジーノ視点バージョン。赤崎編はお題消化がテーマでしたが、こちらはすれ違いがテーマの意地悪?オマケ物語です。ラスト、ハッピーエンドではありますが途中えげつない(強姦未遂)描写がございます。R18設定としましたが人によってはR18Gかも?黒い展開が苦手な方は閲覧熟慮願います。10/17~10/31連載

4. quattro/クワットロ

 彼はボクに近寄れないのだから、ボクが彼を視界から消して存在をなかった事にすれば、あとは勝手に時が解決する。ボクという燃料がなくなれば彼の中の火もまた消える。導き出される答えはいつも一つで、なのにボクはズルズルと“撤退”の一言を口に出来ないままでいた。「宙ぶらりん」は嫌い。「なんとなく」も嫌い。勝負か、降りるか。迷う理由は何なんだ。
 この手の疲労は回復が厄介だから、早く脱出したかった。自分の中で決め事をするだけの事が、何故今こうも難しい?決まってる。ボクはまだ彼と楽しく“遊び”をしていたかったのだ。

 時々このデッキに駄犬が来ているらしい事を知り、今日は彼を真似て空を見ている。何の変哲もない景色を見ながら、彼の事を考える。ある意味とても鈍感なあの子は、自分の変化に気付いてすらいない事だろう。

(はぁ……なんだかなぁ……)

 階段を上る音には特徴があって、すぐにあの子だとボクにはわかった。最終的な結論の材料に、今時点の彼をじっくりと観察するのもいいかもしれない。なんとなくそう思った。

「あ……」

 ボクを見つけた瞬間の彼の中に、子犬の頃の姿を見つけた。ボクとの遭遇というサプライズは彼にとっては宝物なのだろうね。びっくり顔の戸惑いの中にふわりと喜びが立ち上る。思えば街中でボクを見つけた瞬間も、確かに同じ目をしていた。睨み付け追い払おうとしたのはボクで、その後余計な事をして彼を変質させてしまったのもボクだ。

 二人知らぬ間に同じ事をしていたのだと、あえて偶然を装ってみれば、彼はふにゃりとにやけてみせた。案の定のその単純さに、ついついなんだか笑ってしまう。ボクを慕い、ボクを目で追い、有り余る元気で無邪気に尻尾を振る子犬。どんなちっぽけな事でさえみるみる大切な宝物にしてしまうのだ、この子犬は。まだまだあの懐かしい面影が、この少々憎たら気な彼固有の笑顔の中に残っている。

(やっぱいいよなぁ、こういうの)

 気付けばボクはまたあやふやの世界の中に戻っていて、これはいけないとその場を去る事にした。これ以上今時点の彼を見ていると、予定とは反対に益々意思が鈍る気がした。

– – – – –

 彼が強引にボクの腕を掴んで引き留めた時、余りの出来事にボクは思わずその場に竦んだ。こちらの心の準備も出来ないうちに、突然彼が“勝負”を始めたのだ。当の本人はそうと知らずに、不意打ちを。

(こんなの卑怯だ。キミからは触れるは愚か近づく事すら……こんな事出来るわけがないはずなのに?)

 触れた際の熱い感覚。皮膚の接触。彼の手の熱さから思わぬ彼の持つ火の激しさを感じてしまい、それがボクに浸透する際に深部を焼く火傷のような鋭い痛みが生じていた。上腕の神経を伝って痛みは心臓を刺す。激しい動悸に眩暈がする。

(何これ?いやだこういうの、嫌いだ)

 無礼で不躾な仕打ちに対する溢れんばかりの激昂の裏に、何やら奇妙な見知らぬ感覚。胸が痛くてボクまで熱い。なのに、こんなにも辛いのに振り解けないどころか眉ひとつ動かせない。体の自由がきかない。

(一体どうなってしまったんだろう?ボクの体。混乱する。落ち着こう、息を深くして)

 けれど、判断の間に合わない今のボクはとても無力で、ただ呆然とボクは立ち尽くすままの所謂無防備になってしまっていたのだった。確認したくてやっとやっと視線を向ければ、ようやくその段になって彼はボクを解放した。

(遊びは子犬と。他人とは距離を。勝負は敵と。ボクはこの子と何をすべきなの?この子、敵?……敵?……わからない)

 彼のランク付けに迷って走り続けるボクの思索がその情報量の多さに輻輳する。掴まれた場所を中心にドンドン鼓動が激しくなっていく。彼の背後から受ける赤い日差しもボクの目を刺す。
 これ程までに変調をきたしているのは、多分ボクが今心理的につけられた傷がとても深いところまで到達する程重いものだったからだ。こんな事起こりえないものと想定していたのに裏切られた。つまり、油断。ボクとした事が。
 傷を負わせたのは舐めてかかっていた憐れな子犬で、軽く思い付きでじゃれついてみせただけであろう当の本人は今ボクに何をしたのか全く理解をしていない。今この子犬だったはずの男は容易にボクの裏をかいた。このボクの。そんなボクにとって考えられない禁忌を犯したこの事実を、この裏切りを、彼は何気なくやらかす子。
 着替えのシャツを乱された時も感じた。余計な火を灯してボクを見た時も。彼はさりげない行動の数々でボクの急所を狙ってくる。ボクの感情を乱しに乱し、今ではもう思考まで止めてしまうほどの力を持っている。彼の行動が読めない。こんな相手滅多にいない。

(この子犬はとても乱暴者だ。何回も遊びのルールを踏越えてボクに手酷い怪我をさせる。とても危険)

(もしかしなくても本気でかからないとこのままでは負けてしまう?そんな事許されない事だ。ボクは負けない、負けてはいけない王子という存在なのだから)

 なのに敵愾心を持って見返せば、行かないで、と縋るようなその幼気な瞳がボクの心をあやふやにする。彼はやはり濡れぼそりの憐れな捨て犬の姿で、どうやればボクが去らないで済むのか必死になって考えている。彼がこれをやるのは彼もまた自身について何もかもわからないからだ。

“クーン、クーン、行かないで?”

 このアンバランスは体ばかりが大人になってしまった思春期の若木のような少年にも似て、ある種の成長とともに壊れ行く儚い哀れさも伴っている。

「……じゃ、お言葉に甘えて」

 思わず選択したこの判断は明らかにボクの誤りだ。必要なのは“撤退”。なのにボクは“遊び”か“勝負”かもわからないままに止まった頭で彼自身も知らないで投げつけた白い手袋を掴む。

(かなりの珍獣だ。もうすぐ壊れる。このまま野放しにして捨て置くにはちょっと惜しい)

 それが正直な感想だった。彼のアンバランスなその姿がボクの興味を引き付ける。この木が雄々しく育つのか、生き残れずに根元からポキリと折れるのか。彼の生態観察はいつでもとても楽しいもので、よせばいいのにボクはまた余計な事をし始めようとしていた。

「さあ、行こう」

 今までの暇潰しの“遊び”とはわけが違う。ボクが平凡な先輩後輩ごっこの“遊び”の域を踏越えるという事の意味を彼は一つも理解しない。

(育苗期を過ぎてそこから一歩踏み出せば弱肉強食の淘汰の世界だよ?)

 けれど彼はボクを動かしてしまう。崇拝の目を向けつつボクを傷付けるから、そうやっていつもボクを裏切ってしまうから、つまらない腹いせのように復讐せざるを得なくなる。たった今、判断はついてしまった。選択は“勝負”だ。

(ゴメンね、やるからには本気で潰すよ。だって遊びじゃなくなっちゃったからね。残念だけれど、ワクワクもしている)

 そしてボクは心の中で、

(キミは一体どこに行ってしまうのだろうね?ボクに連れていかれる場所もわからないままで)

と小さく小さく囁いた。選抜の恐怖。世界に選ばれ生き残るのか、間引かれ儚く消えるのか。そして、それを決定づけるのはボクだと思っていた。そして生まれながらの勝者として、負けるのは彼だと確信もしていた。

 おいで遊びを楽しむ呑気な男に可愛い子犬は噛み付いて。そうとは知らずに無邪気なフリして、心に毒を打ち込んだ。“勝負”の結果など実は最初の一撃でついていたのに、間抜けなボクは今始まったのだと勘違い。
 ともあれ、後から思えばこれがボクと彼との行く末が決まった瞬間だったという事だろう。身も心も恋に毒され、彼のものになってしまうまであと少し。けれど、肝心の当事者であるこのボクと彼自身、そんな事など知る由もない時期の話。