お花結び

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ジノザキDay2014ジーノ編

【77054文字】
後半戦のジーノ視点バージョン。赤崎編はお題消化がテーマでしたが、こちらはすれ違いがテーマの意地悪?オマケ物語です。ラスト、ハッピーエンドではありますが途中えげつない(強姦未遂)描写がございます。R18設定としましたが人によってはR18Gかも?黒い展開が苦手な方は閲覧熟慮願います。10/17~10/31連載

6. sei/セーイ

 午後からの練習というのは朝ゆっくり出来るところが好きなのだけれど、暑さが増すこの時期は日差しが強くてそれが気に食わない。そんな事を思いながら多少機嫌悪くクラブハウスに来てみれば。

「王子、今頃どうしたンスか?」
「あれ?ザッキー?どうしたのさ、こんな時間にキミがまだ着替えてないなんて」
「あ、もしかして」
「?」
「なんだ。朝、なんか見かけないと思ってたらサボりじゃなくて連絡ミスだったのか……」

 彼は時々、如何にボクの不機嫌を増やせるか、まるでそんな事に命でも懸けているのかと思うくらいに嫌な事を言う。まあいつも通り無意識なんだろうけれど。確かにボクはサボり魔だが、ちっぽけな存在にそれを当たり前の様に指摘されるととても不愉快な気持ちになる。たかがこんな事なのはわかってる。なのに彼に言われるといつものように笑って流せないのは本当に一体何故なんだ?全く最悪な気分だ。

「なんか今年は結構凝り過ぎで大変らしくて……悪いんスけど、多少のバタバタは大目に見てやってくれませんかね。まあ、俺が王子に謝るのも変な話だけど」

 最悪に最悪を重ねるとはこの事か。何故彼は彼の増やしたボクの不機嫌に構うどころか、女性に親切面して頼み事すらしてくるのか。その無神経たるや馬鹿げているにも程がある。大事にすべき事をまるでわかっていない。イライラする。
 ボクに不義理をして自分がどんな目にあうのか全然わかってないんだね、という意味でボクが、

「全くキミはお人好しだね」

と嫌味交じりに笑えば、彼は相変わらずその意味を理解する事も出来ずにただポカンとした顔をするばかりだった。なので、言いたくもないもう一言をボクは連ねる事になる。

「ねぇ、そんな風にかばってみせるなんて、もしかしてキミ、彼女のことが好きなの?」

 皮肉に彼の優先順位の間違いを指摘すれば、ワタワタとそれを訂正するのに必死で、やっぱりボクの言葉の真意に気付く事もなかった。

「な!そんなわけねぇだろ!?」
「知ってるよ、ただの冗談なのに」

 クスリと笑いながら想像以上に馬鹿だと思った。なんでも真に受け過ぎてしまう駄犬との会話は、ウィットに飛んだこじゃれたものとして成立しなくて、やっぱり今日もチープなコント劇場のようになってしまう。
 馬鹿も度が過ぎると一周回って愉快になって、ボクが笑えば彼も笑った。その間抜け面がダンダン不思議に面白くなり、ボクは更に笑う羽目になる。本当にとっても可笑しかったんだ。けれど冷静に考えれば、何故こんなくだらない事で笑わねばいけないのか?

(ちっとも楽しくもなんともないじゃないか。全然イケてない。なのに、なんでなの?)

 質問すればなんでも答える。素直で結構?まさかそんな。ここまでいくと、キャッチセールスなんかにさえ簡単に引っかかりそうな危うさだ。一見我の強そうな顔のおかげで、今までは偶然難を逃れてきたに違いない。もしかすると警戒心が強く怖がりのバッキー以上に危険なタイプなのではないだろうか?だってあの日の彼は何にでも対応出来るかのようなナイト気取りの顔をしていて、つまり完全に自己評価を誤っている状態なのだから。

(やれやれ、この分じゃ一人歩きなんてとても……)

 ザッキー、なんでこの時ボクはそんな事を考えてしまったのだろうね?その信じられないくらいの人の好さが、ボクをまたボク自身の思わぬ方向に動かしてしまう。

「王子?どうしたんスか?」
「……ボクもついて行こうかな?」
「は?」

 この提案は勝負の為に仕掛けた戦略ではなかった。言うなれば、雨打たれる憐れな子犬にそっと傘を差しだすような?この“放っておけない”というボクにしては珍しい感情は、単なる気まぐれ、もしくは気の迷いだったんだと思う。だって、そうじゃなきゃ勝負の間にこんな真似なんてね?
 揺るがないボクをそうとは知らずに彼は今日も振り回す。なんだかとても不思議な子。こんな事、誰にも簡単には出来ないし当然やらせもないのに、彼は何故そんな事が出来るんだろう?本当に、何故?としか言いようがない。

 この気まぐれがなかったらボク達は。その頃の沢山の“何故”の答えがわかった今も、そんな事を時々思う。まるで万に一つの奇跡の出来事をきちんと二人が積み重ねた事で、ボク達はこのトロトロの蜂蜜のように甘い生活を迎える事が出来たのだよね。
 運命?ハハ、陳腐な言葉だ。でも、そうなんだろうと思わざるを得ない。口にすれば彼もまたボクと同じように否定するフリをしてみせるだろうけれど、きっとそれは疑いようもない事実なんだよ。多分ね。

– – – – –

 一時休戦中のボク達は、ボクから彼に手を差し出す形で二人仲良く街へ繰り出す事となった。電車に乗ってボク達はおもちゃ箱をひっくり返したような楽しいアミューズメントもどきのお店に向かい、持たされたメモ紙片手に買い物を開始する。そこには想像もしなかったような愉快が沢山詰まっていたので、ボクは本当に驚いてしまった。

 ボクが笑えば彼も笑う。ボクが歩けばついてくる。これは楽しい犬の散歩。彼は今、ボクの拾った可愛い飼い犬。彼の嗅覚はナカナカのもので、どんなに離れようとも簡単に人ごみの中のボクを見つける。勿論、ひと声かければ飛んでくる。

(フフ、なんか可愛い)

 チームの任務をこなすのに必死な忠犬には、ボクの苦手なあの熱がなかった。とても綺麗な目でボクを見るし、屈託のない顔で嬉しそうに笑う。仏頂面の陰にひっそりと見え隠れしていた彼の素直な感情達が、手に取れる程近くで咲いては消える。どれもこれも見た事がない程愛らしい花だった。本来のキミはこんな風なのかと、新しい一面に触れた気がした。きっとあまり他人には触れさせない、選ばれた者のみが知りうる“秘密”の姿だったんだろうね。それは逞しくも繊細な美しさだった。
 でも、自分の事にはからきし鈍感な子犬の事だから、自身の誇るべきその美点に気付かない。間抜けだね。けど、いいんだ。だって、自覚したら終わりだからさ。気が付いてしまえばたちまち自意識の葛藤が始まって、ジクジク汚らしく根腐れをはじめて、その花はもう二度と咲かない。気付かないからこそ綺麗なんだ、こういうものはね。清浄さが大事ってね。

 あとから考えてみれば、これが初めてのデートのようなものだったのかな?とっても楽しかったよね、ザッキー?あの時の事、ボクは今でも鮮明に覚えているよ。