お花結び

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ジノザキDay2014ジーノ編

【77054文字】
後半戦のジーノ視点バージョン。赤崎編はお題消化がテーマでしたが、こちらはすれ違いがテーマの意地悪?オマケ物語です。ラスト、ハッピーエンドではありますが途中えげつない(強姦未遂)描写がございます。R18設定としましたが人によってはR18Gかも?黒い展開が苦手な方は閲覧熟慮願います。10/17~10/31連載

7. sette/セッテ

 からかい過ぎた事でザッキーがお店の人に叱られた。

 謝っているつもりなのだろうけれど愁傷さがまた酷い位に似合わない。やる事なす事逆鱗に触れて、宥めるどころかトラブルがドンドン悪化していく。その余りにも馬鹿げた滑稽さを、ボクはなんだかとても見ていられない。全くこの子は生きる事に不器用で、けれどあの日は彼のこういった至らなさすら、なんだか日頃とは随分違って見えていた。

(変な感じ。なんだろ)

 なんだか胸が苦しいし、おまけに息まで少ししにくい。意味のわからないボクはその時、最近なんだか調子がおかしいなぁ、なんて事を呑気に考えていたのだった。

 問題の原因が自分である事をすっかり棚上げ出来る系のお気楽なボクだったけれど、結局どうにもならない状況を見かねて口を挟む羽目になる。人を懐柔する際に肝心なのは表情と口調。そこのあたり、見ててわかってもらえただろうか?お店の人と話しながら時々チラッと彼を横目で見ると、ボクにだけ見えるふさふさな尾をこっそり丸めて落ち込んでいた。

(はぁ、全くこの子は。世間ズレしたボクが一緒で良かったものの)

 彼は自爆しがちでいつも開き直ったような顔をしているけれど、本質的には生真面目で人に迷惑をかける事を厭っている。そうだったね、忘れていたよ。ザッキーがこんな場面で容易に深いところまで傷ついてしまう事。珍しく悪ふざけがちょっと過ぎたかな、と考えた途端ボクはまた少し息が苦しくなった。

 店を移動中、どうにも足取り重いザッキーに、ボクは休憩を提案する。別に口で反省の弁を述べてるからってそんなわけあるはずがない。少し疲れたんだ。

 喉が渇いたと言いながらメニューを開き、しつこい程長く考えた挙句彼はアイスを注文する。

(プ、何それ)
「ん?何スか?」
「いや?別に」

とても可笑しかった。ここが当たり前の様に水が出てくる日本でよかったよね。それでだって取敢えず渇きは確かに癒えるし。
 ちょっと空調が強すぎたので、体が冷えすぎてしまわないようボクはいつものようにエスプレッソを一杯頼む事にした。このお店はとてもいい豆を使っているんだよ。気に入ってる。すると彼は鼻で笑ってボクにこう言った。

「喉渇いたっつってませんでしたっけ?」

そんな事をアイスを頼んだ子に言われるとは思わなかったよ。だから笑いながら、

「その渇きはこの水で癒すよ」

と手持ちのグラスを掲げてやったら、反対に呆れたような顔で更に笑われた。

 熱を持たない彼とのこの関係がすっかり気に入ったボクは、帰る頃には安らぎの時間が終わっていくのを惜しく思った。“勝負”、“遊び”、“撤退”。彼とボクとの間には、そのどれでもない選択があるのかもしれないと模索し始めたのが、丁度この時だったのかもしれない。“撤退”して卒ない付き合いになるわけでなく、“遊び”程一方的でもなく、“勝負”程は激しくない、新しい何か。

 結局、この日彼の咲かせる見知らぬ花を見た事が、ボクの人生における大きな試練とターニングポイントになったのだと思う。殆ど会話もした事のないあの頃でさえ極当たり前の様にボクにああやって見せてくれた事、今でも感謝をしているよ、ザッキー。ありがとう。あれは無条件の信頼の花だったんだよね?その人の好さがボクを作り替えていったんだ。

– – – – –

 あの日からなんとなく、また彼との距離感が変わった気がする。彼はボクの傍にいても必要以上に緊張しなくなったし、まともに目を合わせられないような気後れも減ってきていた。かといって図に乗っているわけでもなく、真摯なリスペクトになんら変化は見られなかった。ボクの思う理想に近い形で彼は一歩成長したと言える。こういう事は悪くない。
 彼との少し奇妙な日常会話も今では慣れてとても楽しい。所謂どうでもいい雑談だ。けれど学ぼうとも思わない些末で愉快な雑学を、彼はボソボソと教えてくれる。チープでありながらボクにはその全てがとても新鮮だ。そして逆にボクの話を彼は大変興味深いと聞き耳を立てる。馬鹿馬鹿しい冗談も何もかも、とても真面目に受け答え。そんなところが本当に彼らしいと思った。延々とボクの話を遮断する事無くついてくるのだ。まるで忠犬ハチ公だね。だから、そんな彼が可愛くて。

(町内でやる忘年会?)

同じ階のマンションの住人の顔すらわからないボクには到底理解出来ない世界だった。でも彼はそういうのが楽しいようだから、取りあえずはわかるふりしてなんとなく話を合わせておいたよ。親切だろう?

「頼まれ事はゴメンだけど、ホント買い出し、楽しかったなー」

 ただ、距離感が変わった今のザッキーもいいものだけれど、あの日見た彼の秘密の姿がボクは少々懐かしく思えていた。知り合いの目がない世界に行けば、またアレを見せてくれるだろうか?等々。

「楽しいなら買い出し係王子が立候補するとフロントも喜びますよ」

 当然返事はこうだ。彼は行間を読むというのがとても不得手で、ボクは最初こそイライラしたけれど、もうすっかりそれにも慣れっこさ。ナカナカ味があるっていう感じ?

「そっかー、それもいいかもね?ザッキー。冬はあのお店で一緒にスフレを食べようよ」

 意図を理解しない彼をスルーしてもう少し噛み砕いた話をする。女性を口説くには直球が一番だけれど、男にそれをやるのはちょっと相手を馬鹿にしている気がして無粋な気もする。けれど彼の場合は無神経の鈍感だから、粋もなにもあったもんじゃない、と最近は平気でシンプルに同じ球を繰り返して投げれるようになってきたよ。寧ろいつキャッチできるのかの観察が楽しい。だから、何度でも不器用な彼の相手をしてあげる。

 彼との会話はいつもチグハグ。でもその効率の悪さも手伝ってこの不思議な楽しい時間は延々とボク達の中で続いていく。彼はセンスはないのに努力家だから、その積み重ねた時間のおかげで、時々ではあるけれどボクにとって何が大事か、そんな事をわかってくれる。

(そうそう、そういう事)

彼が気付いてくれた時、そのサプライズが楽しくなるんだ。このアンバランスさ、気に入っている。彼は鈍感だけど決して馬鹿じゃないからね。一生懸命で、悪気が全然ないんだよ。

「前に比べて随分固さが取れてきたね、今日は結構良かったよ」
「今日は、ってなんスか!今日はって!」
「ハハ」

 通りすがり。ポンと彼の右肩に手を乗せれば、その瞬間だけ陽炎のように揺らめく熱が立ち込める。彼の純な心に後ろ暗い性衝動が混じり始めているのだけれど、子供のように無邪気な子がこれを上手に見え隠れさせているのは恐らく計算のそれではない。

(まあ、でも、それなりにいい顔ではあるよね、精悍でさ)

 彼の見せるオスの顔の事だ。欲せられることには慣れているけど、未だかつて、こんなにも食い入るような激情の目で見られる事はなかったし、その前にこの手の赤裸々な欲望をぶつけられれば大概ボクは失望した。けれど今、可愛い忠犬が一瞬この顔をしてみせる時、ボクは不謹慎な喜びを感じ始めるようになってしまった。

(また振れた。危ういねぇ……)

 ボクは今彼に失望の念を持っていない。ボクがつけ間違えた失敗の火を、どういうわけか彼は転げ落ちる事もなく上手に制御をしながらなんとかバランスをとっている。

(腕を掴まれた時はどうしようかと思ったけどね……なんだったんだろ、あれ)

 あんな事を続けられてはこっちの身がもたなかった。けれど彼はそれをしなかった。ボクを理解しつつある彼の中の無意識の臆病が、もうあの情熱をボクに直接ぶつけさせはしないのだろう。露出と隠匿のタイミングと距離の取り方が絶妙で、それはよくよく気難しいボクの気性を知っていなければ出来ない芸当だった。彼の不器用なセンスでは到底実現不可能なのに、その後はキチンとやりこなしている。意図的とも偶然とも読めないそれらは、最早奇跡的で最高のバランスだ。

(でも、いつまでそれを保っていられるのかな)

 だからちょっとした出来心も湧いてくる。この奇跡を延々と堪能したいはずが、その限界も見てみたい。彼がどこまでやりこなすのか、それが知りたい。鍛錬させたい。

(ねぇ、どれくらいまでなら大丈夫?もう少しなら我慢出来る?)

 少しずつ、少しずつ、揺らぎを増やして様子を見たい。これはなんでも“勝負”にしてしまう、ボクの悪い癖。だっていつも退屈だから。もうあれから何度も何度も、ボクはあの刺激的過ぎる腕の痛みを思い返している日々だった。今はただ痛みも治まり、ただあの強烈なこの身を焼くほどの熱さだけが残っているばかりで、その時感じる思いはほんの少し高揚に似ていた。
 この状態はとても穏やかで、でも。彼の中にあったはずの種火の勢いが弱まってしまったかのようでつまらなかった。彼にはもっとボクの事で苦しんでいて欲しい。なんとなくそんな事を考えて、だからそれこそ何度も何度もあの苦痛をボクは懐かしむ様に思い起こしていたのだ。激しいのは無理、でももうちょっと、ほんの少しだけならいいんだよ?なんてチョイチョイとちょっかいを出すような馬鹿な事を、繰り返し繰り返しボクは始めてしまったんだ。