お花結び

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ジノザキDay2014赤崎編

【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。

23. Arguing/ケンカする

 以来、俺と王子とはドンドン関係が拗れてしまって、あれっきり話は愚か挨拶一つまともに出来ないままでいる。

 ポンと俺の肩を叩く王子の手がない。時々目が合う王子は常に無表情で、屈託なく笑うあの楽しそうな笑顔も、とろけそうな甘く優しい笑顔も、そして何かを言いたげなあの意味深な微笑も浮かぶことがなかった。

 辛かった。

 自分が考える以上に、日を追うごとに気持ちが沈んでいく事に驚きもあった。いじめられっ子でもあるまいし、たかがこんな事でこれ程気持ちが塞がるなんてどうかしてる。
 けれど、俺が仏頂面なのはいつものことだし、王子もこの上なく卒ない男。俺と王子との関係の違和感について、お陰様で今日も気づく人間はいなかった。

(でも、こんなにわかんねぇもんなのかな……つか王子も別に気にしてないッぽい?)

 何かキッカケが欲しかった。でも相変わらず俺は自分から王子に近づく事など出来なかった。そして王子も、前のように俺に近づく事はなかった。

「へー、バッキー、そこ、そういうようにやるように?」
「はい!この前の王子がやった時のあれ、良かったよねーって話になって」
「セリーは随分上手になったねぇ」
「そッスか?あ、そうそう、どうしても出来なかった例の部分は、ほら!椿やるぞ!」
「あ、はい!」
「出来るようになったの?」

 休憩&給水タイム。ダンスの練習に顔を出さなくなった王子の前で、椿達が踊って見せている。楽しそうな笑い声がピッチに響いていたが、自分で勝手に蚊帳の外に出てしまった俺は皆と一緒に笑えない。

「赤崎、ほら!お前も!」
「やんねぇッス」
「えー?」
「今休憩中でしょ?ったく、そんな事もわかんないんスか?」
「乗りワリィなぁ……じゃあ、いいよもう、お前抜きで!ほら、やるぞ宮野も!佐野!上田、ちょっと来い!」

 突然の世良さんの声掛けに戸惑って、王子に近づく千載一遇のチャンスを逃す間抜けな俺。やっぱり今日も王子とまともに話が出来ない。

 辛かった。

 でも、せいせいしたような顔しか出来ない意地っ張りな俺だから、やっぱり誰もこの気持ちに気付かない。この世界が余りにも当たり前の日常過ぎて、ずっと、こうな気がし始めて、やっぱり気持ちが沈んでしまう。

 困っているのは俺だけで、それを知るのも俺だけだ。でも負けず嫌いな俺だから、、何も解決する術を持たなかった。

22. In battle, side-by-side/肩を並べて戦う

 楽しげな会話がロッカールームに鳴り響く。ダンスレッスンを介した選手間の交流が今チーム内に不思議な輪をもたらし始めている。あれだけ恐縮してガチガチだった椿も随分王子の前でリラックスして、こうして今自分から王子の傍に近づいて雑談を持ち掛けるようにまで。はにかみながら興奮しているその姿が、ちょっと前までの自分に思える。俺は王子の前であんな風に笑っていたというのか。

「王子ってホント女性に優しいですよね」
「ハハ、そうでもないよバッキー」

 ロッカーに座りながら周りに黒山の人だかりを従えて、やっぱり王子は外でも、中でも、チーム一番の人気者だ。今日は何やら女性関係についての話題で盛り上がっているらしい。

「そうだよ椿。女性に優しいんじゃなくて男に厳しいっつーか、ね?王子?」
「ちょっとセリー、別にそんな事は」
「廊下に寝させるとかいう人間が言う台詞じゃないですよ?」
「ハハ、それは話が別でしょ?」
「なんで別なんスか。そんなとこ一つとってみても王子って相手を自分に合わさせるタイプで」
「んー?そう?……かなぁ」
「ほら、ニコニコ笑ってるこの顔にみんな騙されちゃうだけで。なんやかんや上手いこと言いながら結局全部相手を思うとおりにしちゃうっつーか。譲歩とか、わー!似合わねー!王子から一番遠い言葉じゃないッスかね」
「こらこら、ちょっと待ってよ。ボクそんなに横暴かい?」
「うーん、そうかなぁ?なんか俺はそんな風にはあんまり」
「椿は大したもんだよ。あんだけ使いっ走りさせられてて、その上でそういう事言えんだから」
「や、だって、王子が言ってくる事って別にどれもこれもちょっとしたことばっかりだし……させられてる感があるかっていわれるとそんなには」
「だよね、バッキー?」
「はい、ピッチ上なら尚更効果的な要求しかしないし、当然っていうか必然っていうか」
「ほらセリー、聞いた?」
「当然ってなぁ。そりゃ走って届けばビッグチャンスだけど理不尽だなーって思う時沢山あっぞ?王子が優しいんじゃなくて、要求を全部許すお前が忍耐強いっていうか我慢強いんだよ」
「そうですか?そんな事は」
「理不尽とか我慢とか。やだなぁ、セリー。ボク無理強いなんて別に」
「いやいやいや、王子。俺も赤崎もよくやらされるけど、最近じゃマジで椿に対して容赦ないっつーか度を越してないッスか?ほら、あれも。王子のせいで罰金払わされかけてんのなんて、椿、そんなのお前だけだぞ?」
「え?いやでもあれも多分永里さんの冗談っていうか、王子が俺に荷物取りに行くように言ったのはたまたまで別に悪気があってじゃないでしょうし、……ですよね?王子?」
「あのなー、お前が罰金払うことになってもならなくても王子は自分の目的が達成出来ればOKって感じだよ多分」
「こらこら」
「え、そうだったんですか?」
「違うよ、そんなわけないじゃないか。罰金の話はボクも知らなかったんだ」
「なんだー、良かった」
「ほらな?椿はチョロ過ぎるんだよ」
「え?え?」
「ハハハ、可愛いねぇ。全部セリーの冗談だから。大丈夫、ボクのこと信じてよ」
「勘弁してくださいよー、参ったなぁ、それじゃなんか俺が根性悪のヘタレみたいじゃないですかー。赤崎ならゼッテー今の話わかってくれるはず、なー?赤崎?」

 世良さんのぶっちゃけ、椿の天然、宮野やみんなの笑い声。冗談とも本気ともとれない王子の不思議なテンポのあの話しぶり。それを聞いて今この胸に湧き上がる俺の思いはなんだろう?ギクシャクし過ぎて、話しかけられても今日はもう返事すら出来ない。

「ちぇ、シカトかよ」
「ザッキーは頭がいいから、そんな危うい話には乗らないんだよセリー」

 あの輪に入れない辛さとも違う。疎外感じゃない。一人でいるほうが気楽だくらいな性分の俺は、別にそんなもの求めてもいない。では俺は今何を?

「あぁー、また俺が劣勢みたいな空気に……赤崎めー、フォローしてくれよぅ」
「フフ」

 そうして話題が俺から逸れていく。王子が素知らぬ顔して上手に誘導するので、一触即発の空気など消えていく。最初からこの部屋のどこにも存在していないかのように。平凡な日常の一場面として、また時が当たり前の様に過ぎていく。

 辛いのは俺。無意識に差し出す世良さんの助け舟に乗れないのも俺。王子は?王子は何も言わない。多分、もう何も思っていない。

 帰り支度をしながら、気が付けばいつの間にか部屋の隅でじゃれあっていた彼らに視線が向いていた。すると1秒もしないうちに人の壁の隙間から見え隠れしている王子と何故か目が合ったので、またいつものように居た堪れなくなって目を逸らさなきゃいけない羽目になる。
 これではまるで俺が王子に怯えているみたいじゃないか。そんなんじゃない。でもそうなんだろうか。無用の心のゴチャゴチャに思わず俺はイラっとする。

「ねぇ、バッキー。ボクは基本的にやりたいようにやりたい人間だし、実際そういう事も口にしたりするけど」

 王子が椿に話をしている。その声のトーンがとても優しい。見なくともどんな表情でそれを語るのか、まるで手に取るように俺にはわかる。

「キミが嫌ならキミもまたボクのようにはっきりそう言えばいいんだよ」
「いえ!別に俺はそんな」
「そりゃやってくれる分には嬉しいよ?もしかしたらNOを告げられたら、その時ボクは面白くない顔をしてしまうかもしれない。でもね?勘違いしないで欲しいんだけど、それもまたその時その時で自分のやりたいようにやってるだけの話なんだ。別に逆らわれた!とかでキミを糾弾するような気持ちなんて」

 ドキリとした。王子の椿に言っていることはまるで、いや、考え過ぎだとは思うのだけれど。王子は何も思わず既に遠くの世界で生きているだけで、とっくの昔に俺の事など。

「飼い主と飼い犬みたいな言い方してるけど、別にボクがキミより偉いとかそういうわけでもないんだし」

 混乱する。王子は何を言いたい?盗み聞く王子の言葉の中に、見えない希望の何かを見つけたい自分。なんて惨めな。これは椿への語らい。俺には関係のない話。

「ボクが権力者だからやりたいようにやってるわけじゃない。単にボクの性分さ。つまりビクビクとボクの顔色を窺うようなマネは不要ってこと」
「あの、お言葉ですが王子」
「何?セリー」
「王子の言いたいことはわかりますよ。でもね?」
「ん」
「実際には王子ってこのチームの10番で、結局のところ権力を持ってることには違いないわけで」
「ハハ、何馬鹿な事を」
「笑ってますけど、ナカナカ難しいッスよ、現実。実際王子だって番号にはこだわり持ってるじゃないですか。そういう力を持っている番号だって意味があっての事でしょう?」
「単に好きなだけさ、深い意味は別に」
「10番様に睨まれたらビビりますって」
「別に大した話じゃ……みんなちょっとはナッツの無神経さを見習ってみなよ。いいじゃない?ちょっと目つきが悪くなる程度の話さ」
「「出来ません!」」
「なんで?別にボク何するわけでもないじゃない?」
「怖いんですって!プレイにもろ影響出るでしょ!致命傷なの!攻撃陣にとっては!」
「あ、やだなぁ、それ訂正して?ボクは私情とプレイを混ぜたりはしないよ?ナッツにパスを出さないのは彼に対する個人的な感情じゃなくて冷静なプレイの選択上の判断によるもので」
「おーい、ジーノー、俺、聞いてるぞー。いいのかー、そんな事言ってよー?」
「いいよー、ナッツ。今の話を聞いてようが聞いてまいがキミにパス出さないのは変わらないしー」
「おい!こらー!」

 ふざけて、じゃれて、笑い合って。主観を話す事に価値を見出さない?かつて俺に語ったあの話は一体なんだったんだ。楽しげに王子は他愛無い事を話してる。俺だけが知ったと思っていた、彼の様々な私見。あの時よりも更にわかりやすく、随分楽しそうに。

「そんな風にボクなんかを怖がってちゃ何にも出来なくない?セリー」

 頭に血が上っているのか、耳が熱かった。これは俺には全然関係のない彼らの会話。なのにまるで我が身の事のように生々しい。ビクビクと片隅で小さくなっている俺を言外でチクチクと攻撃しているとさえ感じる。
 でも多分それは違う。王子はあまりにも次元が違う人間なので、こうやって息を潜ませてオドオドしているような俺の心理など解しない。自身の何気ない自己主張が他者にとって暴力足りうるかなど、権力者には理解しえないことなのだ。

「そ、そりゃ、それも正論ですけど!王子は自分の力をわかってないから!」
「だからなんでそうなるの?」
「特別なんですよ!わかりませんか?」

 そう、世良さんの言う通りだ。何故こんな人間を身近に感じてしまうことが出来たのか?今はそのことが不思議だ。だから、

「お先」

 誰に言うでもない挨拶ひとつ残して、俺は部屋を出たのだった。よって、

「……皆がボクをわかってないだけなんだよ」

 俺を追いかけるように発する拗ねたような王子の一言を、俺は聞くことがなかった。

 翌日。今日も楽しそうに彼は笑う。可愛い、可愛いと言いながら彼の可愛い猟犬を愛でながら肩を、背を、頬を、髪を。見なくてもわかる。従順でお利口な椿と、ほら、もうあっという間にあんなにも密接に。

(あなたの飼い犬は椿だけじゃ……けれど……)

 優しい、優しい、余裕たっぷりの主の王子。対等に扱われて、調子に乗って、勘違いした犬の俺。肩を並べたつもりになって、偉そうに、じゃれつきついでに手を噛んだ。いけない事だとわかっていながらふざけて甘えて躾を待って。けれど飼い主は躾もせずに、そうかキミが一人前の人間ならその二本の足でどこへでも行けばいい、とリードを外した。

 その行為の恐ろしさを、王子は知らない。何故なら彼は生粋の主で、犬の心を解しない存在だから。対等に扱われる恐怖を知らないから。

 彼の手はとても丈夫で、俺に噛まれようとも痛くも痒くも、増してや寂しくも悲しくもなんともない。主に逆らい逃げ出した犬の存在などもう過去の話と言わんばかりに、王子は、人になったあの子は今頃楽しく元気にしてるかな、と笑ってみせている気がした。

 彼の犬は俺だけじゃない。可愛い犬が彼の膝に乗りあんなに幸せそうに笑っている。ならば、人のフリした犬になんてもう興味を持たずとも、それは無理のない話。所在なさげに窓の外から彼の家に入りたがっている俺と、時々こうして目が合っていたとしても、彼にはもう全く関係のない話なのだ。