お花結び

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ジノザキDay2014赤崎編

【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。

24. Making up afterwards/仲直りする

 監督が違うだけでチームというのはこれ程違ってしまうものなんだろうか?

 ファン感後の打ち上げはそれはもう今までにない程盛況だった。日々の生活の中、なんとなく感じられたスタメン勢とサブ組の壁も今日はまるで感じられない。極自然に酒を注ぎあい、あちらこちらで楽しげな笑い声が響いている。かの人もまた。

「全く最高だったよ、セリー」
「そッスか!?」
「お前がそんな風に手放しに楽しんでるってのも珍しいな」
「おや?そうかい?サック」
「そりゃわかるさ。お前が馬鹿にして茶化してんのかそうじゃないのか、くらいはな」
「ちょ、堺さん」
「ま、こういう会に参加して親睦を深める気になるとか、いい事なんじゃね?けどなぁ、なら先に言えよ王子様。俺今日、傘持ってきてねぇんだけど?」
「フフ、それは残念だったね、ご愁傷様」
「ハ、言ってろ」

 俺の隣に座る世良さんはずっとあちら側に座る王子や堺さん達と話をしている。俺の周りの席の奴らはみんな酒を片手にみんなのところに酌をしに行ってしまった。俺は昔からそういう事はしないタイプで、だからなんとなく手持無沙汰にメニューを開いて暇つぶし。

「……」

 確かにここ最近の王子は、やはり堺さんの言うように変わった。まるで常に詰将棋をしているかのような理詰めな行動、計算ずくな対応が、徐々に、ほら、もうあんなにも自然に彼は笑う。随分とリラックスして、とても楽しげだ。

 昔、堺さんが入団直後から台頭し始めた王子と色々揉めてた事を俺は知っている。ここETUは兎も角一癖も二癖もある選手が沢山揃っていて、王子は当初、あの顔に似合わず力で相手をねじ伏せるような真似をすることが多かったようだ。実際、俺達ユースが練習を見学している時でさえも本当にトラブルが絶えなかった。堀田さんとの連携を重要視していた堺さんとの軋轢は彼らの二人の性格も相まって尚更、越さんの気苦労を随分と増やしていたと聞く。
 でも、俺はそんな波乱分子であるところの王子を見ているのが愉快だった。まるでブラジル人の生き様のように、日本人に相容れぬ事であろうと彼は周りの目など意識もせず自分の思うがままに行動する。常に自信たっぷりであれはまさにラテンの血がなせる技。
 彼は新しい血と世界観を注ぎ込み、常にこのチームを小さく纏まる事を許さなかった。普通の人間にはわからない、もっと大きなものを見ているのかもと漠然と思っていた俺の想像は、達海さんが来てからの彼を見て確信に変わった。

 弄ぶメニューの端に、締めのデザートとしてアイスクリームが一つ二つ並んでいる。それを見てふと過る、あの日の王子と俺との二人だけの優しい時間。

 後悔。

 チームに打ち解け始めた王子の手を、無下に払ったのはあの日の自分。彼の接近に怯えた俺は自分の中から王子を締め出して、かわりに自分が皆の中から浮いてしまった。この居心地の悪さを気にしているのは自分だけ。俺はいつも不愛想で、減らず口と平気な顔をするのだけは昔からとても上手かったから、誰もこの不具合に気が付かない。

「出禁ですから……か……」

 ポツリと呟いてみる。虚しさが漂う。常に浮き足立つことのない自信たっぷりの王子に比べて、俺の元気は空元気。いつもこうだ、馬鹿な事をしたもんだ、と悔いた時間は限りなく。

「ま、でも今日から解禁でいいんだよね?ザッキー」
「!」

 やんわりと肩に乗せられた手に吃驚して振り向くと、そこには艶やかに笑う王子が立っていた。

「あ……」

 王子はゆったりと仕草で世良さんとは反対の俺の隣の席を指さして、ここ、いい?と俺に確認する。あまりに突然の事でコクコクと頷くしか出来ない俺を見て、とても穏やかな表情を浮かべて彼は座った。

「お疲れ様。ザッキー」
「あぁ、はぁ……」
「乾杯しよっか?それ見せて?一緒になんか注文しよう」

 さりげなくメニューに添えられる左手が俺の指先に触れる。動揺を悟られないように俺はただ唇を引き結んでほんの少し王子にそれを傾ける事しか出来なかった。間がもたない。突然の近すぎる王子、とても緊張する。こんなにも。

「フフ、何?まだ駄目だった?」
「だ、駄目って、何が……」
「出禁。解除してもらえないの?ファン感終わったのに」
「あ、いや……」
「ん?」
「その……そんな別に、あの、王子の好きにすればいい事でしょう?」
「えー?何それ」

 再び減らず口のこぼれる俺に対し、王子は大袈裟に肩を竦めて不満げに。そして次に、戸惑いの俺に向かってやはり笑う。

「全く。せっかくこのボクが一つの事に打ち込んでるキミを応援したくて我慢していたっていうのに、残念なリアクションしてくれちゃって」
「我慢って……」
「じゃなかったら邪魔だとか出禁なんて冷たい事言われて、このボクが大人しく引き下がるわけがないだろ?わからない?このボクの気持ち」

 チラリと視線を向ければまんじりと俺を眺める彼の瞳。

「ボク、ずっとキミと話がしたかったんだよ?でもキミが……。ねぇ、イベント終わるまでちゃんと我慢出来た事、“偉いね”って褒めてくれるかい?」

 こんな時の彼の強い意志持つ目は最早暴力だ。ドキドキして見ていられない。

「たまにはらしくない事してみるのもいいかなって思ったんだけど……やっぱりあまり楽しいものではなかったかな」

 フルフルと首を振り。たったそれだけの、でもドラマチックなまでに艶やかな、身振り、手振り。話が出来ないでいたのはホンの数日間の事だというのに、そんな事があまりにも懐かしくて、俺の心を締め付ける。

「でも踏み台とまで言われちゃ、さすがにね」
「え?今なんて?周りうるさくて聞こえな」
「いや?我慢ってやっぱり大変なもんなんだなーって。やっぱ体に悪いよ、あれ」
「ハハ、なんスかそれ」

 ハハハ、と一緒に笑う王子。眩しく感じた。なんて事だろう?当たり前の様に、それこそ何もなかったかのような顔で王子が俺に話しかける。前と同じようにこうして隣、微笑んでくれている。俺だけが寂しいんだと思っていたのに、彼自身が今を心待ちにしていたと言う。

「でもキミ達のショータイム、すっごく楽しかったよ?凄く良かった」

 そしてこれは思っても見ない程の、今までにない幸せな感覚だった。どうして俺はこんなにも王子に飢え、そして、どうしてこんなにも嬉しい?王子が良かったと俺に言う。

「頑張ったね、ザッキー。一応ボクも我慢した甲斐はあったって感じかな?おかげで少し報われた」

 キミはとても頑張った、ボクもキミの為に頑張った。甲斐があったと彼は言う。そうやってショーの成功をまるで我が事のように喜んでくれている。その姿に気持ちがドンドン潤っていく。誰に何を言われるよりも、そう、それを言うのが彼だからこそだ。

 王子って一体なんだろう?よき先輩?リスペクトに値する才能ある選手?チームメイトである同志感?違う、友達でも、家族でも、どんな人間相手ともカテゴライズされない、不思議な充足。これはシンパシー?よくわからない。
 艶のある表情、仕草、いつもより少し桜色の頬。いつになく酒にほろ酔う王子の姿は隣に座る事でほのかに感じる彼の香りとともに冷えた俺の心を温める。そうやってドンドン俺をも酔わす。ほら、たった一杯のビールのアルコールがこんなにも体中を激しく巡りだす。酔いが回る。

 今日はファン感で、俺はなんだかんだ結構それなりのプレッシャーもかかってて。イライラと不安、そんなものから解放されて、王子は今それを優しく労わってくれて。ああ、なんだっけ、そうそう、追加を頼まないといけないんだった。グラスはとっくに空っぽで、俺は一人、随分喉が渇いてしまっていたはずで、メニュー片手に手持無沙汰で。そう、さっきまでそんな風に俺は時を過ごしていたんだっけ、もう記憶が定かじゃない。

「へー、これ見て?ラズベリーのお酒だって。ほら」

 指示した先には彼のその綺麗な手にとてもよく似合うスリムグラス。明るいオレンジから濃色の紫に変化するグラデーションのカクテルは、片時も同じ顔をしない表情豊かな彼と同じようにとても美しいものだった。

「ボクの話、聞いてる?ねぇ、なんか美味しそうだと思わない?」
「……」
「ん?ザッキー?どうしたの?」

 返事を促されているのは理解している。なのに、そう、俺に笑いかけるこの優しげな顔がずっと見たかったんだと、俺はまたそんな事を考え始めて更に言葉を詰まらせてしまう。

「飲んでみる?このカクテル色合いがとても綺麗だし、ほら、ここに使ってるリキュール書いてある。見て?○○と◇◇だ。きっと甘くて酸味もあって」

 メニューを開いてて良かった。何度も何度も王子が俺に話しかけてきて、そして笑う。たったこれだけの事で生じる自分のウキウキを噛みしめ噛みしめ、ああ、まるで馬鹿みたいだ、と半ばあきれて。

「キミと約束してたベリーなスフレもいいけど、お酒もきっと美味しいよね」

 “スフレ”の一言にドキリとする。王子は、あの日俺に言ってくれた半年先の冬の約束を覚えてくれていたのだと、ジンと来た。嬉しい。嬉しい。
 今、あれがただの話の成り行きなだけの提案ではなかった事を俺は知る。ほらやっぱり俺は酔ってる。やっぱりちっぽけな事で信じられないくらいに心が弾む。変な話だ。

「何?変な顔して、ああ、そっか、さすがに覚えてないかな?」

(覚えています。実は凄く楽しみにしていたんです)

 でも、伝えたいその一言すら、もう出てこない。恥ずかしいくらいに胸が一杯だ。今日の俺は王子の話に過剰に反応し過ぎで、まるで週末に遊園地に連れてってもらう約束を胸に抱く小さい子供みたいな自分の中のワクワクに戸惑うばかり。

「あのさ、この前行ったカフェ覚えてる?あそこに……」

 スフレの話。覚えてる。でも、繰り返す王子の言葉が聞きたくて。上機嫌で饒舌な、明るい今日の王子の笑顔。フランクに、リラックス。らしくもない、でも、不思議にらしい、嬉しそうにふにゃりと弛んだ彼の口元。買い出しではしゃいだ、あの時の彼にとてもよく似て。

「あー、早く冬にならないかな?キミの驚く顔が見たいんだ」

 話について行けずただ小さく頷いてみせるしか出来ない俺をそのままに、王子は軽やかな声で飲み物を二つ注文する。ラズベリーオレンジを俺達の為に。

(なんで彼は知っている?)

 疑問だった。真っ先に彼がそれを指さした瞬間から。女が好きそうな飲み物だと笑われるのが嫌で、前から飲んでみたくて、でも俺は頼めないでいたのだ、このカクテルを。すると問いもしないのに彼は言った。まるで心を読む様に。

「だってキミ、遠征の時なんかによく食べてるでしょう?ベリー系のジャムとかグミとか。飽きもせずに同じようなのをずーっとさぁ?だから好きなのかなって、こういうの。違った?」

 日常の中で俺を追う王子の目線と類推。彼はいつから俺のベリー好きを知っていたのだろう?俺の想像の二手も三手も先を歩く王子の立ち位置。益々溢れかえる心の中の嬉しさ。そんなものが俺をドンドン無力にする。

「だから、初めてあのお店でスフレを見た時思わず笑っちゃって。食べた日からずっと、ボクはキミに……」

 小さい小さいちっぽけなネタ、それでも。

 それでも確かに、彼は俺を眺めて俺を思い、俺がいない時も俺の事を考えた。とても信じられない出来事だった。
 職場の同僚であること以外接点なんて一つもない、全く別世界の人間である彼の心の中。そんな場所にサッカー選手としての俺以外の、ベリー好きな俺がいる。彼の中には、他にどんな俺がいるのだろう?湧き上がる疑問。込上げる感情。わかるようでわからない、モヤモヤとして、でも不快じゃない。
 部屋のクーラーはガンガンに効いているはずなのになんだか少し汗ばんでる。頬が熱い。喉が渇いた。

「あぁ、ありがとう。随分早かったね」

 彼はたおやかな仕草で店員からグラスを受け取り、満面の笑みを浮かべて謝礼を述べる。するとそれを見ていた遠くに座るナツさんから、こっちの方が早く注文したのになんだよそれズリィぞジーノ!と文句が飛ぶ。

「人徳だよ人徳」
「なんだよ~!」
「スイマセン!すぐお持ちしますね!」
「あ、あ、ちが、そういう意味じゃないから、気にしなくていいから!ネェちゃん!ちょっと待っ」
「何?そういう意味でしょう?ナッツ、可哀想にあの子きっと傷付いてるよ?」
(るっせジーノ、このイケメンタラシ)
「聞こえてる」
「あ、やめてその顔怖い」
「独り言まででっかくてうざいんだね、そのモジャ頭と同じくらい」
「なっ!ホントお前は俺の魅力わかってねぇなー!」
「わからないけど、わかりたくもないね、申し訳ないけど」
「だからなんでお前はいつも俺にそう冷たくするんだよー!やめてくれよ俺繊細なんだからぁー」
「ハハハ、キミの事わかりたくもないけど、ボクの事もわかってもらいたくないから“なんで”とか言われても説明する気も起きないんだ残念ながら」
「そんなぁ……」

 湧き上がる笑い声の中、

「はい、ザッキー」

 王子が俺に差し出した甘いカクテルは、彼を思わせる芳醇な香りと濃厚な色彩を持っていた。手に取る瞬間の爪先程の僅かな触れ合いがクラリと眩暈のような揺らぎを呼んで、同時にあれほどの喧騒が一瞬にして遠ざかる。まるでここが閉ざされた二人っきりの密室のようにさえ思えた。

「乾杯」

 彼はキザにクラスを掲げ、その陳腐さもまたあまりにお似合い。俺はそれが可笑しくて可笑しくて。

「何?どうしたの?」

 笑う理由を理解しない。そんな王子も可笑しくて。

 クラッシュアイス、甘みと酸味。喉を過ぎ去る液体はとても冷たく、それがサラサラと気持ちがいい。けれどそれより寧ろ口に含んだ時の鼻や舌先に絡むねっとり濃厚な感触が恋しくて、また次の一口が欲しくなる。潤いを感じながらの不思議な渇望。飲むほどに渇く喉。

「フフ、いい飲みっぷり。それ、気に入った?」

 王子はそう言ってすぐに俺の為のおかわりを注文しながら、良かった喜んでくれて、と俺に笑った。そんな事がまた嬉しくてたまらない俺は、薦められるがままにグラスを空ける。満足そうに笑う王子の表情がこれまたとても良いものだから、尚更それを欲して俺は、次々甘露を流し込む。
 視界が歪んで王子以外がぼやけて見える。音が飛んで王子の声しか聞き取れない。なんだかもっと、この世界の中にいたい。飲む程に鈍る五感、でもどこかが冴え冴えとしていくこの世界の中。深く深く溺れる程にこのアンバランスに埋没していきたい。ここには優しく笑う王子がいて、起きているままに見る夢のよう。この、ぼやけているのに噎せ返る程濃い、原液のリキュールのような世界を堪能し尽くしたい。

(王子、王子、なのになんだか、瞼が重くて、重くて……王子、ドコデスカ?)

「どうしたの?ザッキー?」

「ザッキー?」

「大丈夫?ザッキー、聞こえないの?」

(何言ってるんスか?大丈夫に決まってますヨ。でも、ドコデスカ?王子?アレ?)

「やれやれ、困ったな」
「あー、赤崎潰れちゃったのか。王子、飲ませすぎですよ。駄目じゃないですかこいつ酒弱いのに」
「え?そうなのセリー?随分美味しそうに飲んでたからついボクも楽しくって」
「そっか、王子いつも打ち上げとかって来ないかすぐ帰っちゃいますもんね。おーい、起きろー」

(起きてるよ失礼な。潰れてんじゃねぇ、ただ体が重たくて突っ伏してるだけで)

「……うーん、これじゃ無理だなぁ二次会」

(カラオケッショ?何言ってんだ、行くって。約束だったし)

「弱ったなぁ、驕りだっつーんで今日は若手殆ど全員行く話になってたのに……どうすっかな。送ってく奴が」
「ああ、そうなのか。じゃあボクがやろうか?二次会行かない予定だから」
「いや、でも悪いッスよそんな」
「いいよ、タクシーで経由するだけだから。手間もかからないし大した話じゃない」
「いいンスか?」
「うん」
「まあ、まだ1次会締めるまで時間あるし。様子見て、マジ駄目そうだったらお願いするって事でいいですかね」
「そうだね、もしかすると何もなかったかのように目を覚ますかもしれないし」
「あ、それはねぇッス王子。こいつ家飲みで今みたいに寝落ちしたら朝までコースで」
「えー?そこまでヒドイの?」
「スンマセン」
「ハハ、セリーが謝る事じゃ」

(話盛りすぎだっつーの。あとで覚えてろよ?)

 断片的に聞こえてくるのは店から担ぎ出す方法なんかを相談し合う二人の声。しかもさも楽しげに、面白おかしく俺の事をネタにして。

(何二人で盛り上がってんだよ、意地でも起きてやっからな)

 睡魔と必死に闘い始める負けず嫌いな俺だったのだけれど、その甲斐空しく気持ち裏腹、ドンドン意識が遠ざかっていく。だって人知れずテーブルの下、さも楽しげに笑う度に、時々彼の足が俺の膝先に触れるから。せっかくだから王子ともっと話がしたかった。そのはずなのに、今はその温かさに、もう色んな事がなんだかどうでもよくなってしまったのだった。

(そっか、王子、俺が寝ててもここにいてくれるんだ?なんか、いいな、こういうの)