お花結び

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ジノザキDay2014赤崎編

【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。

29. Doing something sweet/甘いことをする

 気が付けば俺は揺れる車の中にいた。

 エンジン音が静かに響く中で、ポン、ポン、と肩に回した誰かの手が優しく俺を叩いている。その仕草はまるで身を寄せている俺を寝かしつけてくれているかのようで、なんだかとても心地よかった。

(誰?)

 薄目を開けて見えてきたのは、暗い車内を巡る色とりどりの光。その街の明かりにチラリチラリと仄かに照らされた足だった。

(あ……これ、王子……だったのか)

 スラリと伸びた足。いつでも、どんなに離れていてもすぐわかる。男の俺でも惚れ惚れするような美しさを持っているから。今、何気なく目線の先に存在する足には、類稀なる恵まれた骨格と、それを覆う、一切無駄のない鍛え上げられた筋肉がしっかりとついている。それはシゲシゲと見れば見る程、機能性の極みでありながら、まるで愛でる為にある芸術品だ。
 けれど、彼は上手にそれを隠してしまう。足が発達するサッカー選手はオシャレしようにもなかなか恰好がつかないものなのに、ピッチ外を過ごす王子は自身の肢体をまるで何の変哲もない(と言っては語弊があるが)モデルか何かのように変えてしまう。布きれ一枚でいとも簡単に彼をアスリートである事を忘れさせてしまう。それもまた彼の持つ見事なまでの美意識の在り方の一つだ。

 俺は、彼の意志によって美しい私服姿に装飾された、秘密めいた美を眺めているのがとても好きだ。剥き身のこれに接する事が可能なのは極限られた人間だけ。チームメイト、ベッドを伴にする女性達。そしてその中でこの彼の持つ本質的な美しさを理解しえる人間は一体どれだけいることだろう。知る人ぞ知る、彼の本性。

 車は走り、光も走る。隣に坐する彼の足も空想の中を走り出す。

(スッゲェ……綺麗……光ってみえる……)

 カラフルなビルの光源は汗跳ねるピッチ上の王子と同じに、彼を眩しい位に照らし出す。車の速度に合わせて速くなったり遅くなったり、光はまるで潮流か雲のように次々流れて消えていく。
 王子の技も、光も影も、目には見えども掴めない。まるで幻のような存在のそれらは、確かにそこにあるのに、とても綺麗なのに、でもその美の形を常には保てない。一瞬にして消える、儚い、記憶の中だけの存在の数々。甘くて甘くて舌のしびれるようなリキュールが作り出した、あのえも言われぬ優美の世界と同じに。
 それが辛くて切なくて、だからせめて今はこのままイルミネーションに彩られた闇に浮かぶ王子の美を見ていたかった。だから、寝たふりをしている事がばれませんようにと、酔った頭で必死に祈っていたのだった。

 カチ、カチ、カチ、カチ、何の音。聞き覚えのある、一定のリズム。ああ、これはハザードランプの心地よいあの音だ。

「ほら、もう着いちゃった。ねぇ頼むよ、起きて?」

 遠くで王子の声がする。ゆさゆさと体を揺さぶられても、なんだかフワフワ気持ちが良くて。

「もう少しここで待ちますか」
「うーん……ゴメンね、ちょっと電話してみる」

 夢うつつ。運転手と話をしている王子の声。

「繋がりませんか?」
「カラオケ行くって言ってたし駄目かなぁ。うーん、住所だけじゃなくて部屋番号も一緒にちゃんと聞いておくんだった」

 笑い声。

「どうします?」
「どうしようかなぁ、ここ車長い事停めてられないよね。しょうがない、少しだけこの辺流してくれる?もう少ししたら起きるかも」

(別にぶん投げて帰りたいならそうしてもらっても構わねぇけど)

 そんな事をボンヤリ考えていたら、いつの間にか俺はまた深い眠りに落ちていってしまったようだった。

 まだらな記憶。暗がりと、時々輝く断片的な光と、耳を嬲る優しい低音だけを感じる怪しい世界。

「どうしたの?……気持ち悪い?」

「ゴメンね?悪いけど次の信号で止めてくれる?」

「お釣りいいから、ありがとう」

「大丈夫?ザッキー」

「真っ青だ。苦しいよね?すぐそこだから、もう少し頑張って?」

「重……」

「急いでるんだ。どこか部屋、空いてる?」

「ほら、着いたよ?トイレ左だから」

「大丈夫かい?一緒について行こうか?」

 次に気が付くとドンドンとドアを叩く音。

 目覚めた俺はここがどこだか戸惑いばかり。
 のそりと起き上がりドアを開けると、そこには慌てた王子が立っていた。この人でもこんな風に取り乱す事があるのか、と寝ぼけた頭で考える。

「ザッキー、キミね、なんだってこういう時にドアのカギを!」
「王、子……」
「ん?何、どうしたの?ね、少しは吐けた?」
「え?あ……さぁ、よくわかん……」
「そうなの?あ、いいんだよ?まだ気持ち悪いんだったらゆっくり……ドアが開かないからなんかボクびっくりしちゃっただけで」
「あ、だ、だいじょ……なんか、爆睡してた、みたいで……楽になっ」
「ホント?ああ、良かった、確かにさっきよりかは少し血色戻ってきてるね」
「はい、全然、俺、楽です……今」
「そっか、タクシーに酔っただけだったのかな?あ、そうだ。お水でも飲む?」
「は、スンマセ……」

 一緒に行こうと歩き出せば、俺はヨタヨタよろめきバランスを崩してしまう。トスンと王子にぶつかって、彼は慌てて振り向いて、

「ちょ、ザッ……」

 王子の差し出す腕も無力なままに、俺はズルズルと縋りながらへたり込む。すると呆れたように俺を見下ろしながら、王子は溜息をついてこう言った。

「駄目か。いいから、取りあえずここで待ってて?持ってくるよ」

 床にはふかふかの絨毯が。毛足が長いせいで、立ち去る王子の足音がしない。まるで猫だ。
 廊下から奥に見えるのはシンプルながら高級そうな調度品。窓から見えるは美しい摩天楼の煌びやかさ。そして、鎮座する、見たこともないサイズの、大きな大きな。

(ダブルベッド……)

「フフ、あれ?キングサイズだって」

 すぐに戻ってきた王子は俺の心の声が聞こえたかのようにすかさずそう言った。