ジノザキDay2014赤崎編
【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。
4. On a date/デートする
椿が服を買いに出たいと言う。そして、一人で行くのは不安なので東京住みの俺に付き合ってほしいと言う。
「お礼に今日の昼飯、俺奢りますから!」
「いらねぇよ、お前みたいな貧乏人にメシ奢られたって美味くもなんとも」
「いや、でもなんもなしじゃ……そっちのほうが俺……」
「ったく、何から何まで……しょうがねぇ、ファミレスかなんかで十分だからな?」
「あ、あざッス!」
そんなこんなで、特段用もなかった俺は軽い気持ちで一緒に出掛ける事になった。
そう、たったそれだけだったのだ。なのに何故、俺達はあの日あんな風に出会ってしまったのだろうか。ほんの何分どちらかの時間がずれていればいいだけの、でも今更そんなことを思っても仕方のない話。
パーキングメーターの横に律儀に止まっている派手な車。
何メートルも離れていたけれど、一目でわかった。全開になった運転席の窓からのぞく彼の肘、惹きつけられるように俺の視線が留まる。そして次の瞬間、サイドミラー越しにぶつかる王子の目と俺の目。こんな時、
(俺にもあの人にもカメラのズームのようなものが付いているんじゃないのか?)
なんて錯覚する。こんなに離れているのに見ている事に気付かれる。見られている事に気付いてしまう。
それにしても、ああ、なんであの人がこんなところに。でも彼もまたどうして俺がこんなところにと驚いたような顔をして、そしてさも不快だと言わんばかりに目を逸らしていた。
「あ、ザキさん!もしかしてあれは」
人ごみに未だ馴れぬ椿からして見つけてしまうその存在感。勘弁してくれと思う間もなく、猟犬よろしくあいつは走り出してしまう。
「王子!こんにちは!」
「やあ、バッキー、珍しいねこんなところで会うなんて」
「ああ、今日は俺、ちょっとザキさんに付き合ってもらって服買いに来てて、でもなんか何が何やらさっぱりわかんなくなっちゃって……結局、まだ全然買えてないんですけど」
「ハハハ、キミらしいね」
興奮してしどろもどろな説明をする椿に、それを見ながら愛想よく笑う王子。さっき鏡越しに見た顔と雲泥の差。駄目だ椿、もう行こう。そんなことを言いたいのに言葉が出てこない。だって、さっきのあの反応は。
「で、王子はこんなところで何を?」
椿のその一言で、チラリと王子が俺の顔を流し見る。苦笑い。やっぱりこれは。そしてそれはそのほんの数秒後のことだった。
「あら?君達どなた?」
モデル顔負けのスタイルにブラウンヘアーの美しい女性が俺の後ろから声を掛けてきた。この時の王子の考えあぐねている表情ったらなかった。ああ、今はこの人なのか。飛び退くように驚いてドアから離れる椿と一緒に、俺もさりげなさを装いながら一歩退く。
「嫌だな、ボクのチームメイトだよ。いくらカルチョに興味ないとはいえその反応はあんまりじゃない?」
「まあ、それは失礼なことをしちゃったわね私」
俺らに向かって肩を竦めて申し訳なさそうな表情を浮かべた美貌の人は、王子に向かって身を屈めて
「ゴメンね?」
と言うので、王子は車から左腕を伸ばして彼女を引き寄せ、極当たり前にキスをした。それは“大丈夫、怒ってないよ”などという無粋な言葉を使わない、女を最高に甘やかして満足させる如何にもキザな行為であった。
唇が離れていく時、王子のその目は俺をキッカリと捉えていて、今度は俺の方がその不快に思わずフイッと目を逸らす。突然遭遇したあけすけなラブシーンに面食らっている椿は、そんな俺達に気付かない。
流れる動作。自然な仕草。伊達男の彼にとって呼吸をするが如き無自覚の、なんら深い意味も持たないワンシーン。知ってはいたけれど、見たくはなかった。こんな風に女にだらしない、情事に慣れ過ぎている男の姿。
女性に視線を戻した王子の目配せで、彼女はスッと後ろに身を引いた。その瞬間上質な音を立てて開くドア、たったそれだけでどよめきが巻き起こる。多分王子は車道側にある助手席までエスコートをする気なのだ。さも得意気に笑う彼女の表情がその全てを物語っている。映画の中のヒロインか何かにでもなったつもりか?
出来過ぎたシチュエーションに好奇の目を向ける大勢のギャラリー達とは反対に、俺は二人の立ち並ぶ姿など見たくもない、と嫌悪が走る。なんだこの女、王子も王子だ、と。正直そう思った。
「椿、行くぞ」
硬直している椿に声を掛け、車から降りる王子など無視して足早に去る。
「え?あ……」
これでいい。これで、出歯亀よろしく茶番を眺め、酷く惨めな気持ちにならずに済む。そう思いながら振り向きもせずギャラリー掻き分け歩みを進める。
「あ、あの、……スイマセンでした王子!じゃ!ちょっと、待ってくださいザキさん!」
背後には王子に挨拶をしながら俺を追う椿の気配。気にしないでドンドン歩く。少しでも遠くに。速く、速くだ。
そんな風に必死になって立ち去ったにもかかわらず、俺の身には残念な事が起きた。
つまり、飯を食うのに椿と店に入った後でも、あの王子の何を考えているのか読み取れない視線がずっと自分の背に纏わりついたままになってしまった。俺はあの瞬間で不快なシーンを深く深く刻み付けられ、心理的にはどうにも逃げ切る事が出来なかったらしい。間に合わなかったのだ。
「……ザキさん、さっきのあの人、王子の?」
料理を注文し待っている間、小さく小さく椿が問う。
「ああ、次会う時はまた別の女なんだろうけどな」
意味深な王子の視線にがんじがらめになったままの俺は、一体どんな風にこの言葉を口にしていたのかさっぱり見当もつかなかった。そして女性のグロスに濡れた彼のあの唇の色艶。その異様なまでの卑猥さもまた、脳裏に浮かんだ瞬間、必要以上に俺の神経を逆撫でたので、
「なんか怒ってます?」
と不安気に話しかける椿に、まるで怒鳴りつけるように怒ってねぇよ!と乱暴な言葉をぶつけてしまう。
「スイマセン、俺……」
「だから違うって。腹減ってるだけだ、食ったら治る」
「え?あぁ、ハハ、そっか、早く来ないッスかね?」
「ったくだよ。遅せぇっつーの。美味そうな匂いばっかじゃ腹膨れねぇわ」
キスなんて珍しいものでもなんでもない。優しい態度だって恋人同士なら尚更だ。公衆の面前でやる人間は少なくとも、世の中のありとあらゆる人間は人知れずああやって、なのにどうしてこんなに俺は。
(少しは自重しろよクソったれ。ムカつく、あの色男)
そして八つ当たりのように怒鳴り散らしてみても、やっぱりまだ王子のあの視線が俺の背中に絡みついたままな気がした。まるで卑猥なグロスが彼の唇にこびりつくのと同じように。
(あの女は、俺の知りたかったあの人の指先以上のものを知っているんだな、多分)
王子の事。サッカーの化身のように思っていた。
だから今日はその俺のとてもとても大事なモノを、当の王子自身に無惨に穢された気がした。感じてしまった彼らの間の湿度と粘度。汚い。そう思った。俺の知りたいはずのものは、ああいったものじゃない。イライラして、ソワソワして、そんな釈然としない奇妙な思いが全身に纏わりついて苦しかった。
5. Kissing/キスする
俺達の目の前で恥ずかしげもなく彼女とキスをしてしまうのがうちの司令塔、ルイジ吉田だ。羨ましいだろうとこれ見よがしにするでなく、参ったなと照れるでなく、彼は差し出された唇に向かって極自然な成り行きのようにキスをした。その時のあの意味深な視線が未だ俺を縛り上げている。
スローモーション。女性に絡みつく、車内から伸びる優雅な指先。表通りでやるにはあまりにディープな彼らのキス。椿は硬直し、周りの女性達から歓声に似た息飲む音さえ聞こえた気がした。キスを受けている綺麗な女性が霞む程、王子の持つあのスター性は乗っていたド派手な車以上に強烈、いや鮮烈だった。
今日も練習の中、何気ない王子の笑い声。明るくて、眩しくて、ユーモアに溢れ。大袈裟な身振り手振り、茶目っ気たっぷりに周りを活気付けているいつもの通りの愉快な王子。あの日の彼とはまるで別人。
ふとその唇に目が留まる。ドキリとする。
彼はあの後、グロスに濡れた自身の唇を一体どうしたのだろうか?ティッシュで拭う事など無粋でおそらくやりはしない。では彼はあの舌先でねっとりとそれを舐めとった?それとも、それをも気にならないくらいの速度で車を飛ばし、あの後二人はそのままどこかに。
「……」
変なことを考えてる。俺はおかしい。いくら知り合いのキスシーンが珍しいからといって、こんなにあの事が頭から離れなくなってしまうなんてありえない。そう、ありえない事だ。俺が他人の情事の類推なんて。こういう事は一番嫌いだ。人間的に下世話で醜い。
なのに、唇が。しっとりとした、半開きの王子の。どうしても視線がそこに行ってしまう。その都度、妄想の中の王子が物言いたげで意味深な視線を俺に絡ませてこう呟く。
――甘えたければキミが自らの意思で歩いてこっちに来ればいいのに
俺が?彼の元に?一体それがなんになるというのだ。甘えたくなどない。増してや彼の唇の触感なんて俺には何の意味もない事だ。わかってる。俺の知りたいはずのものは、あんなものではない。はずだ、多分。
なのに、また無意識に俺の目線が。なんでこうも?ままならない。
