ジノザキDay2014赤崎編
【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。
7. Cosplaying/コスプレする
このチームのファン感謝祭に関してはそれこそジュニアに入る前の物心ついてからほぼ皆勤賞が取れるくらい参加してきた俺。なので、入団選手のお披露目にどんなことをさせられるのかなんて事は、当然あらかた承知していた。
ネタキャラ、真面目キャラ、いじられキャラ。そんなものがサポの中で確定するのが大概このタイミングだ。なので、俺は自分の初回の時に変な事をやる気はサラサラなかったし、また、そんな事をやらされまいと断固たる意気込みでいたものだ。まあ、結局ある程度はいたしかたないことも知っていたので多少付き合いもしてやったが、今思い出すだけでも忌々しい汚点だ。俺もコシさんのように普通でよかったのに、全く。みんなの記憶から一日でも一刻でも早くなくなりやがれこんちくしょう、くらいには思っている。
「ザキさん、これって必ず毎年やってるもんですか?本当に?」
今年のルーキーは比較的御しやすい性格のやつばかり。なので、フロントが例年になく盛り上がっている。もはや悪乗りに近いほどの企画のそれを監督を筆頭に誰も止める人がいない。くだらねぇ。でも周りから、
「赤崎、お前絶対水差すなよ?」
と口止めされているので、俺は疑問満載の椿に話しかけられる度にYESでもNOでもなく、ただ、まあ頑張れよ、と返事をする他なかった。騙すとかそんな大げさなものではないのはわかっているけれど、正直こういうのは苦手だ。一緒にノリノリで楽しめない。なんとはなしに所在ない。
だから俺はクラブハウスの2階デッキへ行くことにした。ボーっとしたい時にはあそこが一番。俺は時々なんてことはない時間をそこで一人過ごしたりする。あそこは東京であることを忘れてしまえるくらい不思議と見晴らしがよく、今日のように天気が良ければ尚更気分転換に最高なのだ。
トン、トン、トン、トン。
いつものように階段を上がった先をみて、俺は大層驚いた。だってそこには、かの人が立っていたからだ。なんでこんなところに?
「なんだ、誰かと思ったらザッキーか」
「あ」
「何故こんなところにキミが?あ、もしかしてボクに用?探していたのかい?」
「いえ、別に暇つぶしで来ただけで、そしたら王子がたまたまここに」
「ああ、そうか、キミもか」
「え?王子もですか?」
「そ、一人でボーっとしたい時とか、結構来てる」
俺が思っている事と同じ事を王子が言うので、なんだか少し不思議な気がした。
「王子もですか?」
「あれ?……もしかしてザッキーもそうなの?」
貴方も?キミも?そんな俺と王子の二人の言葉が二度繰り返される。ここで彼と出会ったのはこれが初めて。でもお互い気付かぬままに、俺達はもう何度もここにこうして、時間をずらしながらも同じような時を過ごしてきたのだ。そんな偶然、他愛無い二人の共通点。
「そっか、キミも」
ふと浮かぶ、口角だけの彼の淡い微笑み。その彼自身すら気付いていないであろう、穏やかで優しい表情の変化があまりにも眩しくて、俺は思わず目を細めてしまう。今まで知らなかった二人の接点を見つけ、彼もまた喜んでくれているのだろうか?そんな事を思う。
けれど、眺めていると次第に王子の変化が加速する。古い彫刻を思わせるような静かで普遍的な美を感じさせるそのムード。
(ああ、これだ)
と思った。さも賑やかでアクの強い、彼のあの勘違い紙一重の個性がここにはない。女を絆すあの強烈なまでの男の色気も。
王子はプレイをしている時この顔になるのだ。ピッチに居ながらそこにはいない、独り次元の違う世界にいる。そんな時彼が纏う空気はキンと張りつめ、ちっぽけな俺など一歩たりとも寄せ付けない。
この今俺の中に湧き出った感情は、先程ふと感じた親愛やその延長線上の尊敬のそれではない。それを超える敬愛、いや、畏怖?更には接点など何一つない絶望的な彼との遠さ?息が詰まってしまう。でも、これなのだ。多分。俺の思う、本当の。本物の。
すると、急にこの世に戻って来たかのようにいつもの悪戯な表情に戻った王子が、
「ああ、そっか、つまりボクがいたんじゃ意味ないのか」
と呟いた。こういう時、俺のこの目つきの悪さはとても不便だ。今、一人になれなかったと俺に睨まれたと思ったのだろう、彼はふとのぞかせた己の本質を瞬く間に引っ込め苦笑した。本来の王子を見つけて俺は寧ろ喜んでさえいるというのに、こういう時高頻度で誤解を生む自分の不愛想さに辟易する。
「いえ、そんな」
場所を明け渡そうとする姿に戸惑う俺、それを見て笑う王子。何故今の俺のこの思いが伝わらない?でも、彼は俺の否定的な言葉を遠慮とみたのか、静止をまるで意に介さない潔さ。
「大丈夫、ボクはもう十分ここで過ごしたから。さ、ここはたった今からキミのものだよ」
如何にもステレオタイプな、イメージ通りの優しさ、華々しいスマイル。さっきのそれとはまるで違う。こんな彼も嫌いじゃないけれど、今はそういう事ではなくてと伝えたい。さっきの王子をもう一度。ふざけな王子ではない、王子な王子でない、本質的なルイジ吉田その人を。そのあまりにも遠くかけ離れたその姿をこそ、俺はいつまでもずっと眺めていたい。怖いからこそ触れてみたい。
そんな風に思うのに、王子は鉄柵に肘かけてたその身軽やかに起してこちらのほうに歩み寄る。俺が今来た背後の階段を下りていくために。
十分過ごしただなんて真っ赤な嘘だ。ついさっきまで彼もロッカールームのあの喧騒の中にいたことを俺ははっきりとこの目で見ていたのだから。
これは、さも王子らしい、さりげない嘘を含ませた高圧的な命令に似た他者の制御。飼い犬に物言わせぬ形の、如何にも傲慢な彼独特の配慮の形だった。そうではなくて、王子。そう思うのに、凍り付く俺はまるで言葉の一つも出せないでいたのだった。
25. Gazing into each others’ eyes/見つめ合う
その距離ほんの数メートル。歩み進む王子の背後から涼やかな風が吹く。
顔にかかる髪をうるさそうに左手で掻き上げながら王子が、まるで風そのままの軽やかさでサラサラと通り抜けていく。俺の右側、ふわりと不思議な香りが俺の鼻を擽る。
そしてそれは、すれ違いざまのことだった。
(待てよ王子、そうじゃないんだ)
突然突風のような衝動に煽られ、思わず俺は過ぎ行く王子を引き留めた。無言のままに右腕を掴まれた時の彼の驚きとその緊張。ぶしつけの指先で知る、ビクリと強張る王子の体の存在感。王子が、今、ここにいる。そんな当たり前の事象が俺に猛烈な違和感を呼び込んでくる。その衝撃があまりにあまりに大きくて、何も言えないままに駄々っ子がしがみ付くが如く、俺はただただ彼の腕を拘束するばかりになっていた。
驚きは当然だ。だって、指先が食い込むくらい強く俺に腕を囚われて、身動きもとれないままに棒立ちになっているのだ“あの”王子が。こんな簡単に掴める人だなんて、たった今まで思ってもみなかった。ピッチ上で軽やかに舞う天性の才を持った彼のプレイを見ている限り、努力しか取り柄のない不器用な俺がそんな気持ちになってしまっても仕方のない話ではないだろうか?
彼はいつもまるで重さを感じさせない雲か何かのようにフワリフワリとした存在で、掴もうにも指の隙間からいとも簡単に抜け出してしまうものとばかり思っていた。おそらく彼もまた自身の持つその無意識の特性をそういうものだと考えていたに違いない。
だから、互いが互いに想定外の瞬間を迎え、そのショックに息を飲んだまま二人見つめ合う。明らかに双方同じくらいの大きな驚愕だった。
身を捩り振り向く形となった俺の背中と、半身に振り返る形となった王子のその顔に、生暖かい風が吹く。愛撫で生じる湿度を帯びた呼気のように、とても場違いなエロティシズムさえ感じてしまう。
彼の髪がサラサラと後ろに靡いて露わになったその額と首筋が印象的。そして、目を見開いたままはっきりと俺を見据える王子の姿。正面から、しかもこんな近くからまともにこの人と視線を交し合うことは初めてで、そのあまりの強烈さに俺は目が離せなくなってしまう。困惑と歓喜の混沌、目が眩んで危険を感じた。だって、呆けた王子の半開きの渇いた唇の影に整然と並ぶ美しい歯列。その隙間からチラリと見え隠れする舌先までが物言いたげに俺に迫ってくるように感じてしまうから。なんて赤いんだろう?海生生物のようにつややかに濡れてる。
(ヤバい、俺、今、何考えてる?王子は?今、何考えてる?)
ともあれ、後から思えばこれが俺と王子との始まりの瞬間だったという事だろう。この身もこの心も彼にさらわれてしまうまであと少し。けれど、肝心の当事者であるこの俺と彼自身、そんな事など知る由もない時期の話。
