お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

ジノザキDay2014赤崎編

【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。

18. Doing something together/一緒に何かをする

 そよぐ黒髪。見慣れない色の虹彩を持つ不思議な瞳。体が火照る。

 一体どれだけ経ったろう?我に返った時、いつの間にか全身を撫で付ける様な艶めかしいあの風がやんでいた。そのことに気が付いたのは、ふと流れた王子の視線が彼の右上腕部に食い込む俺の指先にとまった時の事だった。
 その姿に不自然な何かがゾクリと体を駆け上がるので、慌てて俺は手をどける。けれど王子は掴まれていた場所に自身の左手を寄せて、そのままボンヤリ何も言わず自身の手の甲を眺めるだけだった。そんな王子の些細な仕草もまた俺の心を奇妙なものにしてしまう。
 見ているだけなのに何故か顔までカッと熱くなる。全身に嫌な汗をかいている。ついさっきまでそこにあった俺の手の上に彼のそれが添えられたみたいに感じてしまったせいだ。触れた事のない彼の指先。知らないはずの彼の手のひら。そして唇が、そこから見えた彼の舌先が、吐息が。知ってしまった彼の腕の体温のおかげで妄想が一気に生々しくなっていく。

(静まれ、うるさい、俺の心臓。一体何がどうなったっていうんだ)

 その時の王子の屋外に似合わぬ匂い立つような美しさといったら筆舌に尽くしがたく、そしてこの段になってようやく俺は自身に起きた事実を知る。性的に興奮しかけていたのだ。俺は王子に。

 戸惑いの中、また時が流れる。
 経過したのがたった数秒なのか数分なのか、考えることすらままならない。

 女性を思わせる“柔らかさ”や“か弱さ”など、勿論、彼のどこにもない。露出が激しいわけでもない服から覗く肌の質感や鍛え上げられた筋肉の筋の隅々までとても硬質。一見優しげに見える目は実は熾烈なまでの鋭さがあり、見れば見る程、どこもかしこも、激しく戦闘的な獲物を狩る男そのものな目の前の王子。

 それが何故今俺は?彼の何にそれほど興奮を覚えてしまうのか。毎日顔を合せているのに、いつまで経っても俺はこのルイジ吉田という人間に慣れることがない。彼の周りは常に歪んで見えてしまうし、周りのものが消し飛んでしまう。
 艶めかしいのは、あの愛撫に似た頬撫でるぬる風でなく、やはり彼の存在そのものの問題なのだ。男の俺でさえ惑わせるその魅力に世の女どもが耐えられるわけがないと、この時俺は初めて実感した。男性的だから、女性的だから、そんな小さな話ではない。つまり王子そのものの在り方が。だからこうしてどうしようもなく周りが巻き込まれるように浮き足立ってしまうのかもしれない。俺だけじゃない、皆、皆。良くも悪くも人を煽る。そういう意味も含め、彼の虜にならない者などこの世のどこにもいない気がする。

 ほら、自身の右腕を不思議そうに見つめる、その密に並んだ濃く長い特徴的なあの睫。あまりに整然と並ぶそれらはとても律儀で、ただそれだけで俺はまた瞬くことすら忘れてしまう。まるで毒にあてられたように体が麻痺する。
 そして捕獲したはずの彼から手を離してしまった今、触れ得た事そのものが次第に幻想と化していく。彼のこの異様な存在感が、逆説的にその存在そのものを不自然にするので、目の前の王子が本当にそこに立っているのかすら定かではなくなっていく。

 そんな風に、なんの言葉も紡げなくなってしまった俺に向かって、王子はやはり風のような囁きでこう言った。

「じゃ、お言葉に甘えて、少しだけ」

(え?お言葉に甘えて?)

 俺は、彼に何を言ったのか?もはや記憶すら定かでなく、けれどなんとか彼を思いとどまらせることが出来たのか、とホッと胸を撫で下ろす。
 この時、俺の方に体ごと向き直って真っ直ぐに俺を見据えた王子のその瞳は春の空のように穏やかで、

「さあ、行こう?」

と階段からデッキに上がるよう促すように、そっと俺の右肩に添えた彼の左手もまた、春だった。

 右肩から右腕にかけて流れるように舞う王子の左手。ずっと遠くで眺めるばかりだった憧れの。実際に触れてみればそれは彼の中の明快なまでの“生”と“血”を感じさせる極々普通の手であった。ああ、王子はここに実在する。そんな馬鹿げた実感で俺は、

(そうか、やっぱりこの人はこの世の他の人と同じ、“人間”なのか)

と至極当然の事を、ようやく身をもって知ったのだった。

 ギクシャクとぎこちない俺の足が躓くように前に出るので、人間の王子は、

「大丈夫かい?」

と、また穏やかな春のように笑った。

30. Doing something hot/熱いことをする

 鉄柵。デッキにたどり着いた俺は、いつものように両肘かけてぼんやりと空を眺め始めた。王子は俺の右横だ。鉄柵に背中で寄り掛かりやんわりと両肘付いて、ぼんやりと建物のを眺めていた。俺と王子、その距離大体2m。傍に並んで同じものを見ようとしないのは、その方が二人っぽくないからか?俺達が欲したのはボーっと過ごす一人の時間。そんなものを二人で過ごす、彼の作り出した優しい矛盾。悪くなかった。細やかな彼特有の配慮を感じさせた。

 そよそよと風が心地良い。何を語るでなく時が過ぎていき、ようやく気持ちが落ち着いてきた俺は、ふと王子を見やり、そしてある事に気が付いた。加減を知らない俺の指、あの時の不作法が王子の綺麗な上腕に指の痕を残していたとしてもおかしくはないという事に。

(もしかして、王子結構痛かったんじゃ)

 その時俺は彼の腕を気にするあの気になるそぶりを思い出す。考えた事もない邪まな本能が暴れ出す程、あの時の王子は魅惑的だった。暴れる本能とは反対に、寧ろ息詰めて見惚れる程、綺麗だった。

 するとその瞬間、王子がクスリと楽しそうに笑った。だから俺は思わず問うた。

「なんスか?」
「ん?……いや、別に」
「別にって……何か思い出し笑いッスか?気になるんスけど」

 空には雲がのんびりと漂い、遠くに見える駐車場からは一台、また一台と車が去っていく。そんな事で、随分時間が経ってたんだな、というどうでもいい事を考えていた。

 そして、気になる、という俺の言葉に王子が答える事もないままでいるので、けっきょくそのままただぼんやりと、もう一台、更にもう一台と、次々に皆帰っていくのを何となく眺めていた。エンジン音は遠く、鳥のさえずりはあまりにささやか、そんな静かな沈黙の時間だ。俺はその時間すら愛おしいまでに美しく感じたが、一方で、俺を歯牙にもかけずに簡単にスルーしてしまう相変わらずの王子の軽やかさが小憎らしくも思えた。だから。

「そんなに……」

 聞こえなくてもイイや、離れてるし。そんな感じで小さく。

「何を考えてるか……そんなに他人に知られたくないんスか?」

 すると俺がそう言った途端、馬耳東風のような状態だった王子がまるで早回しのようにいきなりクルリとこちらに顔を向けた。だから俺はまた吃驚してしまう。ああ、困る、この人のこういうところ。だって、そのさりげない仕草、他愛無い言動が全て俺を驚かすものになっているから。

(スルーしていたんじゃなかったのか?今のは聞こえてなくてもいいと思って言った言葉だったのに)

 全く以って心臓に悪い。

「ハ……」
「王子?」

 ハハハ、ハハハ。突然声を上げ、腹を抱えるように笑う王子。意味がわからない。

「あの、なんか俺の言ったこと、おかしかったですか?」

 ギュッと眉をしかめる俺に向かって、彼は

「笑い過ぎて汗をかいてしまった」

と額に浮かぶ汗を拭う真似をして、そうして続けてこう言った。

「丁度ボクもキミに同じ事を考えていたところだったんだ」
「?」
「さっきあんなに……食ってかかる犬の咆哮のようにボクの腕を捉えた割には、そうして立ってるキミは随分無口なままだったからね。てっきりボクに何か言いたい事でもあるのかと……ねぇ?フフフ」

 この一言で、彼が俺の言葉を待つために寄り添うように傍に立っていたのだという事に気が付いた。でも何を?

「ねぇ。キミの、その溢れんばかりのそれらの始末を、一体どうするつもりでいるんだい?」
「始末?どうって……何が?」
「ま、こういうのも面白いからいいけどね」
「は?」
「そう、それそれ。ホント、キミって面白い」

 彼は満面の笑みを浮かべながら面白い面白いと繰り返し、ふいに歩み寄ってはポンポンと俺の肩を叩いた。ソフトな2度の接触が終わった次の瞬間、王子はやはり吹き抜ける風のように取り留めもない姿に戻っていく。そして挨拶も何もないままに、意味深な表情を残してサラサラと流れるように立ち去ってしまった。

 それでも当たり前のことだが風のようにフワフワな存在であっても実際の彼の体はさすがに人のそれなので、階段を下りて去る足が小さくタンタンとリズミカルな音を鳴らす。

「なんなんだ?一体……意味わかんねぇ……」

 タン、タン、タン、タン、耳を擽る心地よい響き。ドキドキうるさい俺の踊る心臓。彼のゆったりとした一歩は俺の二拍。いつまでも続くのではと思わせる様な絡み合う二人の音楽。俺だけが知るそんなものに心奪われ、俺は彼が何を聞きたがっていたのか、一体俺は何を彼に言うべきだったのかとうとう欠片も結論付けることが出来なかった。混乱していた。

 気が付くと彼に触れられた右肩がとても熱く感じて、彼がやったように俺はそうっと自身の右手をその箇所に添えてみたりしたのだった。