お花結び

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ジノザキDay2014赤崎編

【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。

13. Eating ice-cream/アイスを食べる

「ハハハ、ゴメンゴメン」

 そう言いながら笑う王子が奢ってくれたアイスは美味しかった。

「でもさ?そうやってやたらと面白い反応するから、尚更周りはキミのことをからかいたくなっちゃうんだよ」

 いたたまれなくなってしまった俺を気遣って、王子が素直に店員の人に謝罪して店を出たのは30分前。俺達は今、1駅離れた同じチェーンの別店舗に移動する途中で、王子行きつけのカフェテリアに立ち寄っていた。仏頂面のままノシノシ歩き続けている俺のご機嫌取りに、

「ちょっと休もう?御馳走するから」

と彼が提案したのだ。

「もう言わないよ、わかったから」
「……二度と、をつけといてください、念のため」
「もう二度と言わないよ。これでいいかい?」

 そう言ったそばから、でもアレすっごく可愛かっ、と言いかける王子をギロリと一瞥。あ、と首を竦める王子はやはり悪びれるでもなくクスクスと楽しげだ。
 俺も今、不機嫌な顔をしているけれどそれほど不機嫌ってわけじゃない。平身低頭のパフォーマンスを繰り出す王子のあまりにらしくないその姿と、にこやかに笑顔絶やさぬその表情が、俺の心をまた奇妙にしていくからだ。全く変な感覚だった。だが、それとこれとは話が別だ。もう二度と俺のつけ耳&ミニスカ的着ぐるみの話はさせやしない。

「なんだろこれ、黒い……砂?」
「まさか!ここのアイス、エッセンスじゃなくてバニラビーンズを使ってるんだよ。ほら、香りが全然違わない?」
「なんかそういうのよくわかんねぇけど、美味しいですね、確かに」
「よかった」

 何故か今日は彼がつきあい深い旧友のように話が弾む。いつもは気後れするせいか必要以上にかしこまったり不自然に反抗する様なことしか言えない、そんなぎこちなさの塊の俺なのに。あんまりにも王子が楽しそうに笑っているので、なんだかつい俺もそれにつられて肩の力が抜けたのかもしれない。

「暑い日には冷たいものがいいけれど、本当はここのお店の一番のおすすめってスフレなんだ」
「スフレ?聞いたことあるけど食べたことねぇッス俺」
「寒くて手がかじかむような日に、こう、カップに入ったアツアツのをね?スプーンでプスッて穴を開けたら生地の奥からフワッて甘い蒸気が……」

 尽きない会話の影に彼の過ごす見えない日常が見え隠れ。誰と?何回この店に来てるんですか?そんなことも気になる瞬間がないとは言わないけれど。でもこういったプライベートな話については隠しこそすれ自らこうして語り出すなんて滅多にない事で、俺にとってはどんな些細な事でもその全てが今は大変興味深い事柄に思えた。

「というわけなんだ。ね、ところでキミはどんなデザートが一番好き?」
「俺?俺は……うーん、急に言われてもなんか思いつかねぇっつーか……」
「デザートっていうか、あれだね、キミの場合は魚肉ソーセージとか似合いそうな感じだけど」
「王子……俺のこと馬鹿にしてんスか?」
「ああ、違うよそんなんじゃなくて」
「ま、好きですけどね」
「なんだ、やっぱり好きなのか、ハハハ」
「甘いもんも結構食いますよ?」
「そうなの?」
「例えば」

 他愛無い、話した傍から忘れてしまいそうな、そんな気軽な会話が続く。そして、やがて王子はデミタスカップの中の琥珀をキュッと飲み干してこう言った。

「この時間帯ってさ、こんな風に極甘のエスプレッソを飲んだ後に」
「はぁ」
「ゆっくりシエスタっていうのが一番いい過ごし方だけど」
「ああ、スペインだけじゃなくてイタリアとかもそうなんスか」
「ま、全部が全部じゃないけどね、南欧の方は全体的に結構そんな感じかな」
「へー」
「でも」
「でも?」
「こういう、会話を楽しむスタイルもいいものだね」

 彼がそう言ったことで俺は、自分の心の中に湧きあがるこの感覚が楽しさだった事を実感する。王子と過ごすこの時間は、王子が楽しいだけでなく、俺にとってもかなり楽しいものだったのだ。興味深く観察するとかなんとかじゃなくて、ただ、楽しい。そんな単純なことすら気が付かないでいた。だって俺と王子とではあまりにもキャラクターや生きてる世界観が違い過ぎて、こんなことを楽しめる関係性にある自分達を今まで全くイメージ出来なかったから。そして、

「もう、それ、いいのかな?」

王子に示唆されて初めて、俺のアイスの大部分が器の中でだらしなくとけ始めていることに気が付いた。最初は美味くてなんだか食べ終えるのが勿体なくて、でも途中からそんなことどうでもよくなっていた。つまり、アイスがとけるのも忘れるくらい、俺は王子との会話に夢中になっていたらしい。間が持たず、言葉に詰まる日常とは大違いだ。全く意外。
 時計を見れば、一人で買いに出掛けていたとしたらもうとっくに終わって帰路についてるような遅い時間。王子の言うシエスタにふさわしい時間をとっくに過ぎても、未だ俺達の買い物は終わる気配がなかった。
 もう半ばミルクソースのようになってしまったバニラアイスを急いでさらえるように口に運ぶ俺。冷気が抜け出しアイスもスプーンも冷たさをあまり感じない。多分、さっき彼の飲み干したエスプレッソも同じように、その熱の半分はカップから逃げ出し温いものになっていたことだろう。

 食べ終えてペーパーナプキンで口を拭う際にふと顔を上げると、目の前で王子が、

「美味しかったね、じゃ、行こうか」

と、微笑んでいた。熱いものは熱いうちに、冷たいものは冷たいうちに。そんなポリシーを持つ男が発するにふさわしくない、これまた全く彼らしくない意外な言葉だった。

 自分が何故ここで彼とこうしているのか、そんな不思議が湧きあがる。それと同時にいつもと違うこの彼と過ごす不思議な時間がいつ終わるのか、そんなおぼろげな不安も生じ始めていた。ホワホワとまるで現実味のない夢の中にいるみたいなあやふやなこの時間。なのに俺には日常なのか、非日常なのか、イマイチよくわからなかった。だってこの全身を覆う、もうずっと二人こうして当たり前のように過ごしてきたようなしっくり感はなんだろう?明らかにあと数時間で消え失せてしまう一過性の。そんな明快な現実が待っている事が、寂しかった。

「言っとくけど王子。次の店では絶対に」
「ハハハ、わかってるよ、はしゃがない」
「どうだか」
「やだな、ボクのこと信じてよ」
「全ッ然、アテになんねぇッス」
「ん?それって、あれなの?信じらんないけどちゃんと一緒に連れてってくれるって事?つまり、騒いじゃっていいっていう……」
「ちがッ」
「ハハハ」
「ったく」

 王子があんなに無邪気に笑う人だとは知らなかった。そして、それは王子も同じ事を感じていたらしい。俺が彼とのやり取りの中で

「はー、苦しい!王子、もう勘弁してくださいよ、笑いすぎて腹痛ぇ」

と、ヒイヒイいいながら笑っていると、

「キミもそんな顔する事があるんだね」

と、さも珍しいものを見たかのような顔をしながら彼はそう言ったから。

 その時浮かべた彼の柔らかな表情はまるで今日食べたバニラアイスのようで、香り立つような甘さと忘れ得ない濃厚さを伴ったそれは、気付かぬままに深く深く俺の記憶の中に刻み付けられてしまったのだった。

19. In formal wear/正装姿で

 &

14. Gender swapped/性転換

「やあ、おはよ、ザッキー」
「おはようございます、王子」

 あの日からなんとなく、王子と俺との距離感が変わった気がする。必要以上に緊張することも減ったし、まともに目を合わせられないような気後れも減った。普通とは違う感覚の持ち主ではあるけれど、ああして一緒に街を歩いて彼の素の姿を見ることで王子を身近に感じたからかもしれない。
 あちらこちらでキャーキャー言われるシーンもゼロではなかった。寧ろ思っていた以上に世間的な認知度が高くて面食らった部分もある。けれど、その割に有無を言わせない王子のオーラに抑制されてか、さほど大変さは感じなかった。サインに応じない王子の姿勢は、快適な生活を保持するために必要だ、と自然に彼の中で定着していったルールだったのかもしれない。

「どこで売ってるんだろうって思ってたけどあんなところにあるんだね」
「ああ、宴会用の仮装のグッズとかですか?」
「そうそう、でっかいラメ入りの蝶ネクタイ付きのタキシードとかさ、パジャマみたいな被り物のぬいぐるみとか。女の子が着たがるようなキラッキラのスパンコールなミニスカートが男性用のものだったのは傑作だった」
「魔法少女系のグッズは笑えるから結構人気なんですよ。町内でやる忘年会とか新年会とか、そんなとこでよく使われる」
「へー、そうなんだ?ボクはああいうのってトランスジェンダーな人が着てるのしか見たことなかったから、普通にお店に売っててしかも普通に女装を楽しむ商品が好評だなんて凄く驚いたよ」
「まあ、お遊びグッズは高いと売れませんから全体的にチャチいですけどね」
「なんちゃってで十分だからね、ああいうのは。使い捨てでしょう?」
「まあ、基本的にはそうですね。うちのチームみたいに使い回すとこもあるけど」
「そうなの?」
「ファンサービスの一環だからそのまま使えないし素材に使って作り直したりね。去年のナツさんが着た鬼のパンツは元々アニメキャラの着ぐるみを切って油性マジックで世良さんが虎縞にしたやつだし」
「へー」
「あ、クリスマスシーズンになるとあの店、男性用のミニスカサンタのコス衣装とかも置いてあるんですよ」
「何それ!見たことない。いいなぁ、そういうクリスマス。なんだか日本っぽくて?不謹慎紙一重っていうか馬鹿げた楽しさがあってさ、なんかすっごく面白そう」

 大袋入りのパーティ用のクラッカーに目を輝かせたり、三角くじセットなんかに興奮してみたり。あの店にいる王子はまるで世間を知らない小さい子どものようで、周りの人間が言うように、休日にアン王女を連れ歩くジョーの気分はこんなだったろうか、と俺もつい思ってしまった。あのローマのある日の物語は別れで終わるけれど、俺のアン王女は何故か毎日こうして、キラッキラの笑顔を見せながら俺の日常の中をうろつき続けている。

「頼まれ事はゴメンだけど、ホント買い出し、楽しかったなー」
「楽しいなら買い出し係王子が立候補するとフロントも喜びますよ」
「そっかー、それもいいかもね?ザッキー。冬はあのお店で一緒にスフレを食べようよ」
「はぁ?俺は別にやるとは」
「え?なんで?ボクだけでなんて無理に決まってるでしょ?」
「いや、あの、まあ確かに……」
「フランボワースとチーズを頼んでシェアしようよ」
「買い出しとスフレになんの関係が」
「だって、あれ、すっごく美味しいんだよ?」
「ハイハイ、それは良かったッスね」
「もう!あ、でも色んな種類があるから、その日のおすすめでもいいかもね」
「……そッスね」
「楽しみだな、冬のオフ。早くこないかな?」
「まだ夏のファン感終わってねぇけど」
「そっか、じゃ、あれだよ。あそこの傍にはナンが美味しいお店があってさ、そこのラッシーは……」

 話の尽きない不思議な時間は、あのまま一過性で消えてなくなることもなく、時折こうして俺達二人の間でフワフワと漂い始める。そのおかげかどうなのか、最近練習時に王子からのパスをトラップミスすることも減ってきた。

「前に比べて随分固さが取れてきたね、今日は結構良かったよ」
「今日は、ってなんスか!今日はって!」
「ハハ」

 通りすがり。ポンと俺の右肩に乗る王子の左手。その瞬間の彼の表情は子どものようでなく王子然としたものでもなく、やっぱり意味深で艶やかなものだったりするので。ああ、今日もふいに俺の心臓が跳ね上がる。触れられた箇所がやっぱり今日も熱帯びる。

 飲み心地の良い甘く危険な王子のお酒。そんなものを日々たっぷりと彼に注がれ、少しずつ足元がおぼつかなくなっていく。けれどそんな自分自身の危うさについて、俺は全く気付くことがなかった。

 遠く憧れの人の中に小さな親近感が芽生え始めていることを感じて浮かれる俺。自身の危険性を優しい笑顔で覆い隠す王子。一口目に意識する強い苦みを忘れさせる極甘のエスプレッソ。カップの底にとけ残る甘味、後を引く余韻。彼の苦さはとても甘い。王子はそんな錯覚を生む事が随分上手な人だった。

 けれど。そう、けれど。結局のところ蕩かす甘さを身に持つ王子は、やはり本質的には手酷い程に苦い男なんだと俺は思う。