ジノザキDay2014赤崎編
【69956文字】
両片思いの赤崎目線ジノザキ。少々ポエム調?乙女崎寄り。
ジーノ月間突入!ジノザキデー間近!という事で1日1追記を目標に15日まで30お題消化しました。10/1~10/15連載。お題の順番はバラバラ、無理強いな消化もアリ。ジーノの捏造彼女、赤崎の捏造仲間など出てきます注意。
9. Hanging out with friends/友達と遊ぶ
仲間は次々にふるい落とされいくもの。それがジュニアの頃からの俺の日常だった。
選抜の過酷とでもいうのだろうか、あの壮絶な狭き門であるユース組からでもETUのトップに上がれる人間は極僅か、本当に一握りの存在だ。そうなれなかったメンバーは良くて2部か大学リーグ、悪くて引退。だから俺達仲間がユース時代が終わった後に、こうして集まるという事はそもそものチームワーク上の仲良さも相俟って、ナカナカ難しい問題があったりもする。
あいつらの分まで、とそんな思いを勝手に背負う俺は自分なりの高い高いハードルがあって、時々開かれていたこの手の会合にこうして顔を出せたのは、実は入団直後以来のことだった。俺が個別には会っても全体で集まる時にほぼ参加しない、いや参加出来ない理由は最早周知の事実であり、今日は開始早々、気は良くても口の悪い仲間達がこぞって悪態をつくような屈折した歓迎の言葉を俺に投げ続けている。
「やー、このままお前がベンチ温め隊のままだったらどうなることかと思ってたぜ」
「そうそう、ビブス似合わねぇもんなぁ赤崎は」
「お前いっつも大風呂敷ばっかで」
「どうせ恥ずかしくて顔出せなかったんだろ?」
「馬鹿だなぁ」
「なんにせよ良かったよ。俺達世代がクソ扱いされずに済んでさ」
「うっせ!」
偉そうな事しか言えない俺の災いの口はこれまで彼らを沢山傷つけてきたけれど。それでも今でも変わらず彼らの眼は俺を見続けている。初めてカップ戦でベンチ入りした日、そして先日のリーグ戦デビューの日。日頃その存在すら忘れる程遠くにいながら、みんな示し合わせたように突然の電話の嵐。本当に彼らは想像していた以上に俺をよく見ていた。
昔と全く変わらない彼らの態度は、俺にとってかけがえのない喜びでありパワーの源であり、そしてある種のプレッシャーでもあった。ユースの仲間は仲間でありながら敵でもあったからだ。俺は仲間の彼らを蹴落として先に進んだというのが現実であり、中には他チームに入団する事になった奴らもいて、そこがサッカーという団体競技の、難しい一面だと思っている。
俺達は翌朝のことも考えずに早速浴びるように酒を食らったわけだが、話しかけてきた本日の主役であるこの男はその中でも周りに酒を注がれ注がれてかなりご機嫌の様子だった。
「赤崎、お前なんか最近いい事あったのか?」
「何が」
「珍しくここんとこ調子も機嫌良さそうだからさ」
「機嫌良いのはお前だろ。まさかお前が第一号だなんてな」
「ハハ、そうだな。でも我ながら全然実感ないわ」
「ま、頑張れよ」
「ん……お互いこれでしっかり稼がにゃあな~。なぁ~?あかさきぃ~」
これで、といいながら利き足を持ち上げ、バンバン叩きながら豪快に笑う。こいつがこんなに酒に酔ってヘラヘラと楽しそうにしているなんてと実に驚いた。
「ちょ!おい!あぶね、やめろって」
一番印象に残っているこいつの姿は、トップに上がれないことが決まった前後にいつにも増して無茶苦茶やっていた頃のこと。地頭の良いこいつはそれなりに沢山の将来に向けての選択肢を持っていて、その分大学へ進む際にどこにすべきかとても悩んでいた。らしい。らしいというのは、俺達二人の間では一切そういう話題が出たことがなかったからだ。こいつなりの意地だったんだと思う。
最終的にこいつが選んだ学力優先の超エリート大学はサッカー的な意味では弱小系であり、悩み、荒れたあの時期には当然女関係もかなり乱れていた。風の噂でいつか刺されるんじゃないのかなんて揶揄交じりの心配の声が飛ぶほどに。己を掛けた道が閉ざされた傷を負い、あのまま立ち直れないまま生きていたなら?見た目どれだけ勝ち組のような人生を送ることになったとしても、人として大きく何かが破綻した人生を過ごすことになりかねなかっただろう。俺だったらとか、考えただけで耐えられそうになくてゾッとする。
今日はこいつの結婚祝いの男だらけのプチ会合。荒れた時期に出会った女と結婚することが決まったのは、こいつが諦めかけたサッカーへの道がもう一度開いたことがキッカケだ。強豪大学の練習相手として監督同士繋がりのあるこいつの所属するサッカーチームが呼ばれた際に、たまたま視察に来ていた2部のスカウトの目に留まったらしい。情熱の後片付けにてこずっていたこいつが再びその扉が開いていく瞬間を迎えた時、前にも増して憤懣遣る方ない思いがその身を襲ったことだろう。寄りよって、何故今更、と。
一度選んだ名門大学の、その中退の再選択に関してはおそらく、自分自身とも、そして両親達の思いとも強い軋轢を生んだに違いない。そんな中でこいつを支えたのが彼女だったようだ。人生の迷子になった男が、この場所さえあれば自分は大丈夫だと思った、などと、さっきからこのノロケ話は何度繰り返されている事か。ともあれ、男の夢への一時停止と、夢への再出発に際して、彼女は重要な役割を果たしたのは確かだ。これからの人生に必要不可欠な存在だと、遠い引っ越し先に連れていくことを決めたことはもはや必然としか言いようがない。
「どうせお前女いねぇんだろ?早く落ち着いた方がいいぜ?ホント」
「ハイハイ御馳走さん、お前のノロケはもう十分。腹一杯だからあっちいってろ」
「なぁ、赤崎」
「んー?」
声のトーンが落ちて、クッと肩を組まれて男の声が耳元に。
「男なんて弱いよ。肩意地張って、偉そうにしか出来なくて」
「んだよ突然」
「お前なんて特にそういうタイプじゃん?でも、そんなのを全部ゆるめてダラーンって出来る場所がさ、必要なんだよ。特にこういう商売やってこうって人間はね」
「……」
「お前……世界目指してるって本気なんだろ?」
「ったりめぇだ」
「ならさ。あった方が絶対いいって。家族。お前も俺も、なんつーか無駄に張り詰め過ぎちゃうとこあんじゃん?だからさ、なんか心配なんだよ」
「余計なお世話だよ」
「……ははは、そう言うな。お前は俺に似てるけど優しいとこあっからさぁ?八つ当たりも、甘えんのも、なんかまともに出来そうにないし。ストイックもいいけど、人は一人じゃ生きていけない」
こんなことを言う奴じゃなかった。男同士の仲間としては本当にいい奴だったけれど、女なんて道具みたいに不実の限りを尽くしてた。こいつの母親との軋轢による女性不信の深い傷跡の話がさっき酔いに任せて零れ落ちたのは、つがいを見つけて治癒にむかい全てが過去のものになったからだ。家族が邪魔でしょうがないと目を吊り上げていた男は今、両親に感謝しながら家族が必要だと頬を緩めている。
「……ま、なんにせよ幸せそうで何よりだよ」
「ああ、俺はラッキーだ」
「結婚は墓場だってよく言うけどな」
「腐すなよ!それもまたよし!人生は色んなことがあったほうが楽しいじゃん?ハハハ」
こんなことも言う奴じゃなかった。運なんて信じない男だった。実力主義で、結果が出ないのは運は関係なく努力と信念の不足といい、トップ入り出来なかったあの日にこいつは、お前は勝組、惨めな俺を踏みつけて傲慢に笑え、と俺を怒鳴りつけた。
俺はこいつに選手として勝ったと思った事は殆どなく、自身がチームに選ばれた喜びの影に人には言えない戸惑いもあった。こいつも自分のことを俺よりも上だと思っていたに違いない。でも素直に喜びきれない俺のモヤモヤを感じてかこいつは、お前の実力が俺に勝ったんだ、俺が負けたんだ、それが結論だ、笑え!笑えっつってんだろ!と悲鳴のように叫んでいた。
だから、あの日もらったこいつの言葉を、今の俺はこんな風に素直に返した。
「お前の幸せは運じゃなくて、努力と信念の賜物だろ。女が出来ねぇのはそれが俺の実力ってことだ」
それを聞いたあいつは、
「お前、そんなこと言う奴じゃなかったのになぁ。変わったわ」
と言い、そして、
「こりゃ、やべぇな。今度行くチーム俺が1部にあげて、そのうちお前らのことボコってやろうと思ってたけど、ハハハ」
と笑い、
「見くびってたな、一筋縄ではいかないってことか。お前があそこでスタメン張ってるうちに上にあがんねぇとな?ちょっとは俺のことも考えて、あんま早く海外逃亡決め込むなよ?」
と俺の頭を小突いたのだった。
帰りがけ。
「女じゃなくてもさ、家族でも、俺らでも。あんまアテにならねぇかもしんないけど、頼りにされたいって思ってる奴はお前の周りに沢山いるってことは心にとめとけよ」
別れの駄賃に呟いたあいつの言葉で、ふと思い浮かんだ顔があった。それは思いがけない人物だった。誰をも蕩かす魅力の人の。
「何考えてんだ俺。そんなわけねぇっつーの」
王子が俺に、いや誰かから頼りにされたがっているのかもしれないなどと。あまりにも現実とかけ離れ過ぎで万に一つもあり得ない。これは想像でもなんでもなく、妄想、もっと言うなら俺の中に知らずに存在していた惨めな願望だ。思わず鼻で笑って、その拍子に笑いが止まらなくなってしまう。そして呆れて、虚しくなって。最終的に、随分と深酒をしてしまったらしい自分を感じながら、フラフラと一人、家路についたのだった。
