お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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君に僕を教えてあげる

【11626文字】
ジノザキデーおめでとうございます!ここ最近再び完全犬調教ジノザキにはまっておりまして、結局今回はそれ(の健全版?)になりました。タイトルが先日の本と無配に似ていますが、完全に別作品となっております、ややこしくてごめんなさい。このよくわかんない二人の他愛無いお話も色々と考えているのが楽しいので、もう少し長くかけたらいいななんて考えています。

        ジノザキ

「そういえばご褒美の話だけど」
「は?」
「この前のお礼の話だよ。いつがいい?」
あれからいくらか経ったある日のことだった。王子にあらためて恋に落ちてしまった俺だったので、ますます態度が不自然になってしまう。
(『幸せ』を反芻するだけで精一杯なのに、王子に王子の攻略法色々教えてもらうとか完全にキャパ超えるって)
あれこれ苦しい言い訳をしながら、そして陰で疚しく妄想もしながら、王子の申し出を何回かお断りした。
「遠慮しなくてもいいのに」
無邪気に笑う顔からネガティブな考えが浮かんでは消える。
(どうせ、俺をからかって遊ぶつもりなんだ)
王子が王子の心の仕組みを俺に伝授するとして、それをそのまま踏襲したところできっと笑われる。これはただの新しいコマンドの訓練なだけで、ああ、なのに頭がどうにも混乱を重ねる。
 混乱しているのは頭だけではなくて、プレイも乱れていて毎日居残った。セットプレイの練習は俺の心を整えるための手段で、昔から自分を取り戻す大切な時間である。
「……」
色んな選手のフリーキックの動画を見るのが趣味だったが、こういう時に一番イメージに浮かぶのは王子の姿。腰に手をあて、涼し気な目線で、少し未来の世界を眺めている。俺の大好きな一場面だ。
「熱心だよね」
「ひっ!?」
背後から突然声を掛けられて飛び上がってしまった。
「お、王子、なんで……あんた帰ったんじゃなかったンスか?」
「違うよ?今日は練習後に雑誌の取材があってね。さっき撮影が終わったところなんだ」
身綺麗な王子からはいい匂いがする。練習後わざわざもう一度着替えて取材を受けていたのだろう。帰ろうとロッカールームに戻った時、俺の荷物に気付いてそのままこちらに来てみたらしい。
「……状況はまあ理解出来ました。で、なんであんたそのまま帰らないンスか?」
好きな人とは一緒にいたいものだが、ちょうど王子になりきっていたところだったのでそれがまたどうしようもなく恥ずかしい。今はともかく一人の時間が欲しいというのに、こうしてガン見されては気が休まらない。
「いい機会だなって思ったからだよ」
「いい機会?」
「うん、いい機会」
「なんの」
「いつも君忙しい忙しいってそればっかりじゃない?でも今日はとてもいいご褒美日和だなって」
「は?」
頓狂な返事をした俺の腰にするりと王子が手を回し、ドギマギしているうちにくるりと反転させられた。
「僕としたことが。もっと早くに忙しい理由を聞いておくべきだったね」
背後から王子の声がする。
「いや、王子一体何言ってンスか?今俺練習中ッスよ?」
「見りゃわかるよ」
「だったら」
「前見て。ちゃんと集中する」
何が何だかわからない俺の耳元で王子が囁く。
「今想定していたのはどういう軌道?」
腰に添えられたままの手が気にはなったが、真面目な口調に息を飲んだ。まるで試合中のような緊張感が全身を覆い、見えない壁やキーパーがしっかりとそこにいるような気さえした。俺は促されるがままに、脳内にあった王子のプレイを説明する。
「OK、なるほどそういう感じね」
ボールをセットしろと指示されて、大人しくそれに従う。
「僕なら大体あの辺かな」
そこからスタスタと後ろに歩きながら、俺に一緒に来いと手招きをする。
(え?ここ?)
気持ち、俺の思う立ち位置よりも遠かった。蹴るまでの歩数は同じはずなのにだ。利き足が逆な分、模倣するのに脳内で反転させながらイメージしていたとしても、このずれには結構傷ついた。それでも。
(このポジション取りで王子と並んで立つのって、ヤベェくらい、めっちゃ滾る)
涼し気な表情で枠を見つめる、その横顔に見惚れてしまう。下の睫毛の印象が強いが、横から見ると色濃い上の睫毛が魅力的だ。そしてそこに潜む特徴的な目の輝き。見えないものを見ている目。
 そんな次の瞬間だった。王子は流れるような美しいフォームで、ゆっくり、そして途中から段々と速度を上げて、最後に残酷なほど鋭い一撃を放ったのだった。
「んー、やっぱり思ったより落ちなかったな」
遠くで大げさに両手を挙げて肩を竦めて、はーっと溜息をついて王子が振り返った時、俺はもちろん馬鹿みたいに、ぽかんと口を開けて佇んでいた。
「もう、ザッキー、何?その顔。ちゃんと今の見てくれてた?」
「王子……」
「何」
「あんた、右でも蹴れるンスか……」
「蹴れないよ」
「いや、いや、だって今」
「こんなの蹴れたうちには……まあ、でも参考にくらいならなるでしょ多分」
その後あれこれ王子が俺に喋りかけていたが、なんだかさっぱりわからなかった。歩調のリズムがなんたらって音楽に合わせているとか、なんとなくこんな、とか、適当な感じで、とか。一番気持ちいいタイミングで思いっきり蹴るとか。ああ、王子、あんたのその説明はあまりにも王子らし過ぎて、俺が万が一冷静だったとしても、きっと理解出来るわけもなかっただろう。
「って色々言ったけれど、結局『こんな感じになればいいなぁ』って思いながら蹴るのが一番の秘訣かな。僕はいつでもそうしている」
だから天才の言うことは苦手だ。そんなもの、この世の数ある凡庸な選手すべてがやっている。
「わかった?」
なのに、そんな風に笑うから俺は、王子の出鱈目にまた絆されてしまう。言われたとおりにやってみろと言われて、勢いに負けて頷いてしまう。
(プレッシャーがヤバい……ぜってぇヘマ出来ない流れだけど、何一つ上手く蹴れる気がない……)
ボールをセットしている間にも、王子の口ずさんだ変な調子のメロディが、俺の頭の中でグルグル回っている。そんな中で勇気を振り絞って助走の一歩目を踏みしめた。
(わ、蹴りにくぅ……)
体が王子のリズムに強制されつつ、ぎこちなさの中で無理矢理足を振り上げる。すると、インパクトの瞬間。
「ブラボ、ザッキー」
遠くからの王子の歓声を耳にしながら、興奮のあまり体が熱くなった。何故なら二人とも同じタイミングで、今から起きることがわかったからだ。そして、当然のごとくそれは切望し続けていたイメージ通りに、鋭い弧を描きながら枠に吸い込まれたのだった。
「今のその感覚、忘れないで」
ふつふつと何かが沸騰しているかのように、足元からそれが駆け巡ってみなぎっていく。言葉に表せないそれを王子は『その感覚』といい『忘れないで』と俺に刻んだ。
(なんだ……これ……)
王子はとっくにこれのことを理解していて、そうして今俺は意味も分からず、聞いても分からない世界に連れて行かれたのだった。
(これが王子のいる世界……)
不可思議に体が小さく震え、でもその充実に恍然とする。ボールに気持ちが乗るというのはこういうことなのかもしれない。今までもそれに近い思いを持ったことはあったが、違いはあまりにも歴然としていた。これを取り逃がしたくない俺は慌てて、もう一度ボールをセットする。すると王子が笑いながら俺に言った。
「良かったよ。先延ばし先延ばしでずっと気になっていたからね」
「?」
何の話かさっぱりわからないながらも、話を合わせて礼を言う。すると礼を言うのは僕の方さなんて返される。
「君が左利きならもう少し上手にアドバイス出来たんだろうけどね。まあ、役に立てて何よりだよ」
「はあ……」
「ね。僕は君のことちゃんとわかっているだろう?」
自慢げな王子の笑みに俺は愛想笑い。
「こういうコツを他人に教えるなんて生まれて初めてだ。僕も君には甘いなぁ」
「……」
「僕みたいに落ちるボールを君がバンバン蹴れるようになったら、ふふ、みんなの驚く顔が目に浮かぶよ」
「!?」
「じゃ、練習頑張って」
俺が目を白黒させていることなど気にもしないで、王子は手を振って去って行った。その姿は凛と涼やかで、そう、あの日の澄んだ目をして俺を誇った王子とよく似ていた。
「そ……そういう、こと……?」
羞恥に何もかもが吹っ飛んでしまった。むしゃくしゃして何度もボールを蹴ったが、もう二度とそれが美しい弧を描くことはなかった。

 あの日、確かに王子はこう言った。
「僕が落ちる方法を教えてあげる」
と。
「随分君悩んでるものね」
と。

「ばっかやろお!辻褄全部あってんじゃねぇか!くそが!」

あれがわざとなのか天然なのか、そんなものやっぱり俺にはわからない。ただ、そんな掴みどころのない王子だからこそ好きだということと、俺のどうしようもない間抜けさが、今すぐ芝生で転がりまくりたいくらいに痛切に感じられるばかりなのだった。

      ジノザキ