お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

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鬼交譚1

【29150文字】
ジノザキデーですね(呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン)。MEMOでも書きましたが以前書いてた中編?を今日から連載していきます。はい、まだ全然終わっていないんです。
鬼とか出てきますがオカルトというよりファンタジー寄りの転生ものです。環境は原作のものを使っていますがほぼ創作に近いくらい特殊・虚偽・ねつ造です。ご留意ください。

20200923
投稿単位を考え直しある程度まとめて再UPしてみました。これまでの投稿文は赤崎幼児期~再会、ジーノ幼児期~、新規分が初エチシーン含む今現在

 それは物心ついた頃から、時々起きる現象だった。
(君、誰?)
僕に喋りかけるそれの姿は、今まで見えた試しがない。それでもはっきり聞こえる声は、現世のものと変わらなく思える。
(こんなに大きな声なのに。やっぱり僕以外には聞こえないみたい)
例えば美しい空を見て思わず紙に写し取った時。素敵な歌を覚えた時。心がぐらりと惹かれた瞬間、大概、声は来て僕を叱る。
『服に興味が沸いたからって、モデルとかそういうの駄目ッスよ?』
「駄目って何故?みんなが僕を見て振り返る。あの人は‟きっと天職だ”って僕に言っ」
『はっ!』
「日々変化していく僕の姿を残しておきたいだなんて、とても光栄な話だと思うんだけどな」
『自分に自信があれば尚更そうでしょうね!?でもあんたは』
中途半端に会話は途切れて、本当にそれはよくある話で、僕はなんだかやがてそれに慣れて、すっかり気にならないようになっていった。
「やれやれ、またか」

*

「っていうか、また来たんだね。忘れていたよ、君の存在」
『でしょうね。王子って昔からそうでしたから』
「ねぇ、なんで僕のことをそう呼ぶの?もしかして僕はどこかの国の王子なのかい?」
『さぁ、どうでしょうね、知りません』
「知らない?じゃあなんでそんな風に」
『ともかく!音楽が好きでダンスが上手なのもわかりますけど』
(また文句……)
声は僕の生き方を阻害する。そういうことに不慣れな僕は、声の存在が不思議だった。
『そりゃあ、あんたは色々才能があるんでしょうけど、でも』
「ねぇ、たまには顔を見て話したいよ」
声の正体が知りたかった。
『そ、そんな可愛い言い方しても駄目。つか無理……ッス、から』
「何故?」
『言わせないでくださいよ』
「何故?教えて?」
『あーっ!そこまで力がないからッスよ!俺はあんたとは違うんで!』
意味もわからない文句を言って、出てくるたびに不快にさせられ、でも来ると何故かソワソワ、もどかしく、どことなくそれが楽しかった。
(また力とかわけのわからないことを)
『いや、だからね?こっちは申請とか審査とか順番待ちとか、そうそう簡単にはいかない身分なの!」
「何それ、全然意味不明」
『だから!あーもう、ともかくあんたは勝手な人でね!?ったく!前みたいになったら意味ないでしょう?』
「前?」
『今、絶対そういう言うと思いました!えぇ!どうせまた忘れるって思ってたら案の定!あんたのそういうところ、毎回マジで疲れ』
「あ、ねぇ、行かないでよ。まだ話の途中じゃないか」
僕の日々は楽しいことばかりで、目まぐるしいくらいに幸せだ。奇妙な声はスパイスで、なくてもいいけどあるといい。
(勝手なのはどっちだい?っていうか前って一体何の話?)
声は僕を王子と呼んで、いつも何かしら怒っている。でもその声色はずっと聞いていたくなるような、とても聞き心地のいいものだった。
(まぁ、どうせこんな今の気持ちもすぐに忘れてしまうんだけどね)
忘れがちな性質であることについては自覚的で、けれどそれを気にしたこともなかった。

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 心も体も自由になる。そんな気にさせるカルチョが好きだ。
(今度はチームの司令塔?ふふ、10番でなきゃやらないよ?)
僕には可能性が溢れていて、いろんなことに目移りする。それでもチームプレイのままならなさは、僕にとってとても魅力的だ。
(ああ、いいなぁこういうの)
阻害されること、出し抜くこと。なかなか上手くいかないこと。見えないものを感じること。伝わりにくいものを繋げていくこと。久しぶりに心が震える。心がこれを求めている。
(なんだろう?こういう気分の時、何かが起きる気がするのに)
声は何故か訪れなくて、そのことにさえ気付けなくて、ただ思うさま曲がる軌道を見つめて、当然のゴールに血が沸き、踊った。

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 女性はすべからく魅力的だ。
(温かくて、柔らかくて、優しくて、とても心地よくて、でもなんだか……)
彼女達にとっての僕も、きっと似たような存在だ。群がられることにも十分慣れて、扱う方法も身につけた。賛美、崇拝、見上げるように。まるで傅く奴隷のように。
(ふふ、これじゃあまるで本物の王子様だ)
気付けばすっかり定着していた、おかしなあだ名。誰が最初にそう呼んだものか、もはや記憶の欠片もない。
(こういうの、嫌いじゃないよ。でもなんだか、なんていうか……なんだろう?……強いて言えば……)
僕はなんでもそこそこやれて、それを自分でもわかっていた。
(不満?何故?不幸なことなど起きてはいない。全然意味がわからない)
すべて満ち足りて生きているはずが、漠然とした欠乏がある。
(教えて。僕はどこに行けばいい?)
誰に答えを求めているのか。知っていた何かを忘れている気がする。心に穴が開いている。
(わからない……やめた。考えるのは苦手だ)
ただゴールと勝利だけが僕を満たす。この時こそ生きているのを感じられた。

*

『あんた、何考えてんスか!』
誰かが僕に話しかける。
「誰?」
知っている声にも思えるし、得体が知れないような気もする。僕は大概視野が広くて、気配を見落とすわけもない。
「失礼だよ。僕と話したいなら姿をみせて」
『……そのやり取りいい加減うんざりです。あんたマジ諦め悪過ぎ』
少しずつ記憶が掘り起こされる。これは、そう、僕を阻害するあの懐かしい尖った声だ。
「ああ、そうか。そうだったね。君には力がないんだった」
『チッ、毎回毎回……わざとッスか?それ』
今日は何を阻害しに来たのか、僕には心当たりが一つあった。
「言っておくけど、日本には行かないよ?」
『はぁ!?』
「やっぱりそれか」
父は仕事で日本とイタリアを往復していたが、配属が日本に固定になり、家族ごと定住する話の流れになっていたのだ。
「イタリアを離れるつもりはない」
カルチョがあるからこそ、ましな人生。それをいきなり日本へだなどと。
『駄目ッスよ、そんなこと!そもそもあんたまだ一人で暮らせる年齢なんかじゃ』
「大丈夫さ。親の説得に苦労をしたおぼえもないし、身の回りのことにしたって適当になんとか出来るだろうし」
『女引き込んだりしたら後から絶対大変ッスよ?』
「ふ、馬鹿だな。それこそヘマなんてするわけがない」
『……』
「何?」
『いや……本当に王子はそれでいいんスか?』
聞き慣れないとても疲れた声に、なんだかザワリと不快になる。
「どういう意味?」
『俺に出会いたい、大丈夫だって、あんなに自信満々で……でも毎回そうやってすっかり忘れて、俺達は結局いっつもそうだ』
水の中にいるように、声がぼやけて聞き取れない。重大な何かだとわかるのに、頭が急に締め付けられて眩暈がする。
『今度も全然駄目かもしれない。俺達が思うほどこの繋がりは』
(痛い、何?息苦しい……)
消えていく今の存在価値。失われていく僕の核たる意義。
『せっかく追ってきたというのに、あんたに来る気がないんだったら』
(駄目、立っていられな……一体、何がどうなって……?)
そのまま意識を失い気付いた時、僕は病院のベッドの上にいた。
「?」
定かではない記憶をたどるのにも飽きて、
「ま、いいさ」
と二度寝を決め込んだ。

*

 起きて、寝て、また起きて、看護師が僕に優しく微笑む。この次の点滴が終わりさえすれば、晴れて退院出来るらしい。
(熱中症、かぁ。随分と季節外れでマヌケな感じ)
窓の外には青い空。母の心配顔が思い浮かぶ。自己管理には自信があるほうだったので、失態には舌打ちせざるを得なかった。これでは計画が困難になる。
(こんなはずでは……ああ、倒れたタイミングがあまりにも悪い)
鉛のように体が重い。とても嫌な夢を見たせいだろう。
(あれ、誰だったのかな。随分と泣いて……可哀想に)
暗がりで膝を抱えて身じろぎもせず、歯を食いしばり一人で耐えていた。
(一体何があったんだろう?折れそうな心で、あんなに震えて。無理だよ、あんなに自分を追い込んで、あれではきっと壊れてしまう)
引きずり込まれるような睡魔の前に、なすすべもなく、僕はまた意識が薄れる。
(もう少し前向きに考えれば楽になれるのに。大概のことは大丈夫なもんだよ?心配ばかりしていないで、どうか泣き止ん……)
もう一度あの子を夢の中で励ましたいと思う。
(ほら、君はカルチョを知っているかい?楽しいんだ。たったワンプレイで簡単に、嫌なことなんて全部吹っ飛……)