鬼交譚1
【29150文字】
ジノザキデーですね(呼ばれてなくてもジャジャジャジャーン)。MEMOでも書きましたが以前書いてた中編?を今日から連載していきます。はい、まだ全然終わっていないんです。
鬼とか出てきますがオカルトというよりファンタジー寄りの転生ものです。環境は原作のものを使っていますがほぼ創作に近いくらい特殊・虚偽・ねつ造です。ご留意ください。
20200923
投稿単位を考え直しある程度まとめて再UPしてみました。これまでの投稿文は赤崎幼児期~再会、ジーノ幼児期~、新規分が初エチシーン含む今現在
「面白かったね、昨日のテレビ」
今日はオフで予定もないので、朝食の後はソファで寛ぐ。先ほどからジーノは実録怪談の話をしていて、変な趣味だと赤崎は思う。
「そんなに気に入りました?あの特番」
「だってなんだか笑っちゃって」
なるほど、と赤崎は改めて思う。ジーノは決して変ではなく、単に悪趣味なだけなのだ。
「笑うとか、大概いい性格してますね」
「だって、周りが自分を無視するんだ。普通はおかしいって気付かない?」
そう、テレビで言っていた。地縛霊は霊である自覚がないと。クスクスと楽し気なその笑顔に、赤崎はドキリとしてしまう。
(いや、まさか流石にそれは……)
辻褄はあうのだ。地縛霊に自覚がなくても。記憶が朧気だからこそ、成仏できずに下界を彷徨う。そういう羽目になるのだろう。だがその屈託のない笑顔。人の名前も覚えぬ無頓着。得体の知れなさ。悪びれなさ。
「ごめんね?お化けの話、怖かった?」
異変に気付いたジーノが言う。
「は?」
「だって唇が真っ青で」
「べ、別にそういう意味じゃ」
「じゃあ、どういう意味?」
大袈裟に同情するその表情には、うっすらと笑いが浮かんでいて、赤崎は思わずイラっとする。
「別に幽霊なんて怖くねぇッス。つか、俺少し霊感もあるから慣れてるし」
「そうなんだ?」
「……いや、まぁちょびっとだけ」
「ふぅん」
うっかり変なことを口走って、ジーノが引かないかハラハラした。だが、特にその様子もなくひっそりと胸を撫でおろす。
「だからか。君が変な顔をしていたのは」
「え?」
「僕に似た知り合いのあの話。あれ、人じゃなかったんだね」
突然の物言いに身が竦んだ。
「なるほどね」
(なんだよ、この変な勘の良さ……)
「ねぇザッキー」
「っ!」
久しぶりに見るガラスを思わせる不思議な目の色。赤崎を戸惑わせる生気のない目。
「もしかして僕も……霊じゃないかって?」
「……」
「ほら、ザッキー教えてよ。ちょびっと霊感あるんだろう?」
人を模した人形のように、その目にはなんら感情がない。
「だって、自分自身じゃ気付けない……そういうものらしいじゃない」
*
「……だったらどうします?」
「え?」
「半分はそういう気がしてます」
「僕が?はは、ザッキー何言って」
「茶化さないで真面目に」
「……何?すごい剣幕だね」
「いいから。王子はそういうのどう思います?」
「僕が霊……だったらかい?」
聞く前からわかるような気はしていた。
「んー……そんなのどうでも……いい、かな?」
鬼が自身を忘れてしまえば、こんな風になるかもしれない。
「ザッキー?」
ぎゅっと強く抱き締めてみる。実体があるようにしか思えない。だが古くからの強い怨霊は、具現化や記憶操作が出来るという。念を強く持つ亡霊は、己にも術をかけるやもしれない。
「ねぇ、変だよ。なんだか今日は朝から」
「なら、あんたは常に変ッスね」
「もう、またそんなことを言う」
明けていく朝は続いていて、思考は未だに止まりがち。いや、これは判断を拒む脳のせいかもしれない。
「……ところで、俺の名字、おぼえました?」
「ザッキーのかい?んー、そうだねぇ……なんだっけ」
わからないのか、とぼけているのか、クスクスと楽しそうに笑っている。
「……マジでどうでもいいンスね」
「おぼえてなくてもわかるもの」
「そういうところ、どうかと思う」
「そんなに気にしてないくせに」
抱きつく赤崎に腕を絡めて、静かにソファに倒れ込む。
「君は君。わかるから別にいいじゃない」
「王子、そういうことばっかしてたら唇が腫れちまいます」
「じゃあ、そうならないよう気を付けよう」
吸うというよりキャンディのように、ジーノは赤崎の唇を舐めた。擽ったくて、気持ちがよくて、力が抜けて、そうなれば舌先がするりと入ってくる。昂ぶらせるようなキスではなかった。ただじゃれて遊んでいるだけらしい。
(おう……じ)
見ればうっとりと目を潤ませて、ジーノが鼻や頬を擦り寄せている。幸せな朝は疲労も重くて、甘えたい気持ちが大きくなる。
「ねぇ、ベッド行こう」
「買い物は?」
「ん、また今度」
「先週もそう言って」
「いいから行こう?なんだか眠い」
*
ベッドに戻って横になるなり、ジーノがうっとり赤崎に言う。
「大丈夫?」
「?」
「昨日、君……だったから」
明瞭でなく聴き取れなくて首を傾げる。そんな赤崎を気怠く笑い、おいで、なんて手で招く。
「ん、いいんだ。ザッキー」
気にせずに、と言いながら、ジーノはうとうとし始めた。赤崎のぬくもりを確かめながらの甘い吐息が艶めかしい。
(なんだろう、してないのに……これ……もしかして、食べて、る?)
そう思うのはまたジーノがぼんやりと光って見えるからだ。ジーノがじわじわ染み込んできて、甘く犯されているような気もする。
(……今日はずっと感覚が続いているような気分だけど、そうか、こんな風にも出来るんだ)
まるで危険な薬を摂取したように、五感が拡張されていく。解像度が上がる視界、揺れる髪の音まで聞こえる聴力、呼気は産毛を嬲る愛撫、全身が麻痺して自由が利かない。接する面積を増やしたくて、二人で試行錯誤する。ジーノはうっとりと微笑を浮かべながら、ひくりと時々息を飲んだ。
(えっろ……)
それを眺めているだけで、赤崎もゾクリと時折震えて、その度体は逆に緩んで、思考もどんどん鈍くなる。まるで危険な薬を摂取したように、五感が拡張されていく。明度彩度の上がる視界、揺れる髪の音まで聞こえる聴力、呼気は産毛を嬲る愛撫、知覚するだけで精一杯で体の自由が全く利かない。
猫のように甘えて頬ずりをして、寝言のように赤崎に呟く。
「あのね、ザッキー」
それは、本当によくある言葉。
「……あれ、何言おうとしたんだっけ?ふふ、まぁ、いいか」
問いは問いのまま放置されて、答えも空気に溶けてしまった。でも繰り返すこんな日常が幸せ過ぎて、頭の中で返事をする。
(いいな、ずっと王子とこうしていたい……このままで、どうでもいい……)
全身の体重を互いに預けて、抱き合い二人はもう動けない。瞼も体も重怠く、気を失うように眠ってしまった。
(あげたい……王子に俺の全部を……もう王子、それでいい)
