お花結び

GIANTKILLING二次創作小説同人サイト

*

鬼交譚2

【7368文字】
続きです。どんどん長くなって手に負えないです!とりあえずハロウィーンなんでUPせねば!せっかくのプチオカルトものですから!

20200923
長いので投稿単位修正。ジーノと赤崎が生まれる前の過去生?の話。私の実年齢的な意味でさすがに転生もの?とか書くのはきつ過ぎました。でもちょっと挑戦してみたかったんだと思います当時。ルイジwithとかも書いてたし、そういう系のMyブームがあったんでしょう。それにしても盛大に滑っている感じで羞恥とても投稿しづらいし読み返せません((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃

 存在そのままの在り方で、下界に降りるのが趣味だった。空間を舞い、歌を歌い、存在の遊ぶその姿は人には見えなない。
「何だ?あんたは一体……」
(!?)
 確かに視線は感じていたのに、声を掛けられるまでわからなかった。思わず真顔で口を閉じると、少年は意味不明なことを言いだす。
「あぁ、そうか!あんた、街で噂の『王子』様だな。だってそんな服装見たことないし、高貴な人間は眩しいって聞いたことが」
(……)
「城ではやっぱり旨いものばっかり食べてンスか?そうやって働きもしないで毎日遊んで?」
もしも存在が本物の国の王子なら、このぶしつけな言葉をどうやって受け止めるだろう。
(なんだろう……とっても失礼なのに、悪気がないのがよくわかる)
「すごいなぁ、真っ白でヒラヒラ、キラキラで、でっかいガチョウかニワトリみたい」
その時、遠くから声がして、少年は行かなくちゃとため息をついた。
――忙しそうだね?
「ま、そうッスね。あんたみたいに暇じゃねぇッス」
――また会える?
そう問う存在に肩を竦めて、少年は足早に駆けていった。

*

 翌日。
「雨……かぁ」
 天気の悪い日は家で母の手伝い。少年は出掛けられなくて残念に思う。
(あの場所にまた行ったら会えるかもって思ってたのに……世の中上手くいかねぇな)
長い睫毛、綺麗な指先。作り物のような不思議な人間。
(ふふ、楽しそうでいいなぁ、王族は。自由で、笑ってて、めっちゃ優雅で)
その姿を何度も思い浮かべた。それだけで心がウキウキとした。

*

 随分と久しぶりに雨が上がり、そうなると畑作業が大忙しだ。なかなか時間の取れない日々の中でも、あの場所に行くことを楽しみにする。
(明日には行けるかなぁ?)

*

(いた!)
 大樹の高枝に凭れ掛かって、少年の待つ者はうたた寝していた。
「おーい、おーい」
――!
二人は再会を喜んで、今年は発芽が悪いだとか、秘密の美味しい果樹の生え場所だとか、様々な話を楽しんだ。
「凄いなぁ、王族となると空まで飛べるとか」
その目はキラキラと光っていて、少年の想像が手に取るように存在に伝わる。
――君も飛んでみたいのかい?
「そりゃあ」
――じゃあ、飛んでみる?
「!?」
存在は、コツがあるのだとニッコリ笑った。
――まずはその木の根元に座って寄りかかって
素直に少年は言うことを聞く。
――気持ち悪い感じがするけど、ちょっとの間だけだから
存在が少年の手を握る。いや、握っているようでそうではない。
「あ……!?」
ずるりと引き上げられる感触に、思わず呻き声をあげてしまう。だが、言われた通り一瞬のことで、急に重力を感じなくなった。
――ね、出来た
これが王族の王族たる所以だろうかと、少年はぽかんと口を開けた。
――さぁ、今からどこへ行く?
手を引かれ簡単に宙に浮いて、そのまま二人で空の散歩。興奮してはしゃぐ少年に存在は言う。
――手を放してはいけないよ。帰れなくなってしまう
それは鳥の世界だった。行ったこともない遠くが見えて、見たこともない世界が広がる。いつも世話をしている畑、さっき教えてもらった果樹の場所、果てしなく思える広大な海、弧を描く不思議な大地と空の境目と。
(すごい……これが王族のいる世界……)
沢山遊んで、日が暮れて、慌てて帰って、怒られた。
「また会えるといいな」
と少年は思う。明日も晴れればいいなと願う。

*

 遊ぶ時間を確保するために、
――手伝ってあげようか?
と存在は言う。頷く暇もなく魔法のように、今日の仕事が終わってしまう。
「王子!」
――さぁ、一緒に遊ぼうよ
少年は真面目な気性なので、元に戻せと文句を言う。
――何故?
「自分でやらなくちゃ意味がない。土の具合とか水の過不足、あんたにやられるとわからなくなる」
――そう……
遊びたいのは少年も同じで、でも存在は従った。

 存在はそのかわり涼やかな風を吹かせてみたり、土の中の石を砕いたり、作業が滞りなく進むように影に日向に力を貸した。
「おわり!さぁ、今日は昨日より長く遊べる」
日々はとても幸福だった。少年が青年に成長しても、二人は時々会って遊んだ。

*

 快活だったのは最初だけで、様子は少しずつおかしくなった。
「大丈夫ッスか?」
――あぁ。よかった、久しぶりに会えた……ね
「最近俺も忙しくて」
存在は姿を現す回数も減り始めており、見かけても今日のようにへたり込んでぼんやりとしていることが多くなった。他愛無い話を少ししたのち、青年は意を決して存在に言う。
「俺ね、近いうちに街に出ていい働きをして、そのうち正式に城に上がれたらなって」
――何?いきなり
政情は不穏になる一方であり、心労と過労が体調不良の原因だろうと青年は考えたのだ。
「隠さなくてもいいッスよ。色々あんたも忙しいだろうし、俺も俺で頑張るってことです」
晴れて一緒にいられる立場で、二人で世界を変えようと。
――言っていることがわからない。ごめんね、なんだか最近ボーっと
「疲れてるんですよ。休んでください」
――休んでいるよ?ここでこうして
「いや、そういうことじゃなくて」
そう言いながらも、青年は隣に腰を降ろし、ぽつぽつと人の不幸や無為に死んでいく話を存在にした。
「国が疲弊し生活が荒れ……みんなが下を向いている」
――それは仕方がないことだ。生まれたら死ぬように出来ている。じゃないと色々大変だしね
「ったく……本気でそう思ってるんならそんな顔になんないでしょうに」
――顔?……よくわからない
「人が死ぬの、嫌でしょう?」
――嫌……?この僕が?
「大丈夫。なんとかしましょう。手立てはきっとあるはずだから。王子にも色々教えてもらいましたし」
飛ぶ人がいるなんて知らなかった。あんな美味しい実、初めて食べた。空は高く飛ぶととても寒く、海は潜ると黒くなった。世界は広くて愉快だった。
「体験を通じて俺は変わった。だからきっと世界も変えられます。たとえばあの川の治水は」
存在は返事をしなかった。そのかわり悲し気な微笑を浮かべる。
「日々に疲れているみんなの心に可能性を地道に植え付けて、それで」
聞いているのかいないのか、どこかしら遠い目をしながら、存在は、
――そうだね……君なら
変えられるかも、と目を伏せた。
「だから俺達二人で変えるんですよ」
どこかしら自嘲的な笑みを浮かべる。
「とりあえず、帰ってゆっくり休んでください。もう無理して来なくていいですから」
――え?どういうこと?
「だから、さっき街に行くんだって話を……だからここに来ても無駄ですし」
――そう……もう来ないんだ?
「まあ、つか行くんです」
蒼白な顔色は空気に透けるが如き清らかさで、長居をさせてはいけないと思い、わざと明るい口調でこう言った。
「さ、立って。帰りましょう」
立とうとしないその人を、待ってはみたが動かない。溜息をついてもう一度隣に座り、しばらく静かに二人で過ごした。日は傾いて景色が赤い。鳥は鳴き寝床へ飛んでいく。
「さすがにそろそろ帰らなきゃ。もう日がないのに支度、全然してなくて」
力になりたくて、仕方がなくて、それでもなんだか今が寂しい。
「まあ、ここではもうこれが最後だけど、またすぐに会える日が来ますから。俺、めっちゃ頑張りますし、あんたもともかく体調に……」
ふと顔を見るとドキリとする。はっきりとその目が青年を見ていたのだ。
――うん、待ってる、よ
なんでも不可能はないような、無限の力を得た気がした。立ち上がり、会釈をして踵を返す。少しは元気づけられた実感があって、会うための今のこの惜別を悲しむ気持ちも和らいだ。
(……はい、待っていてください。俺、うんと頑張ります)
 存在は思わず見えてしまって、けれど黙って飲み込んだ。だからこれが最後になることなど、青年はわかっていなかった。

*

 誠実にがむしゃらに頑張って、人々の信頼を自ら掴んだ。異例の速度で念願叶う。小躍りしながら城に上がった。
「王子?貴方がこの国の?」
だが、肝心のかの人はいなかった。豪奢な椅子に座る男は、似ても似つかぬ見知らぬ人で、本物の王族は空など飛べない、綺麗な格好をしているだけのただの普通の人間だった。
(嘘だろ?これ……なんの冗談……だって、待ってるって……あの日、俺に……)
そして会いたかった人の名を呼ぶに呼べない自分に気付く。素性も年齢も住む場所も、かの人のことを知らなかった。

*

――君なら変えられるかも、この世界を

 青年はそのまま城に残り、国を助けるべく働き続けた。地形、知識、そして採算、構想。すべては人の発想を超えたもので、二人で夢見た未来であった。平和的な協定も数多く結び、恵みと幸福が溢れ、世界は再び安定を迎える。人々は大いに感謝した。
(ありがとう。でもその言葉はあの人にこそ捧げるべきだ。やったのは確かにこの俺でも、思いを俺に植えたのは……)
青年に笑顔が戻ることはなかった。漠然と空を見つめるあの姿が、頭にこびりついていたからだ。
(少しはほっとしましたか?全然、関係ないですか?)
歌うような声、オーロラのような優雅さ。何がいけなかったのかも理解出来ず、時間を見つけてはあの場所に行き、また手掛かりもないままにあちこち探しまわった。存在は地上の者ではなくて、見つかるわけもなかったのに。
(王子、王子……、一体どこに……?)
追い求め、見つからず、絶望し、やがて青年は世界をも変えられるその力を、放浪に消費することとなった。ある日簡単に命は尽きて、それでもかの人を見つけたかった。
(おう、じ……、ド、コ?……お……じ……)
亡者はやがて亡霊となり、ついには『鬼』と呼ばれる存在と化した。求め彷徨い祟って殺す、血塗られた餓鬼になったのだ。似た者を見かければ恋しさで寄り添い、それだけで餓えた身が勝手に命を吸って、皆、病で床伏せた。失う恐怖が鬼を苛み、また別の者を探し、更に彷徨い。穢れでぼろぼろになった思い出はどれだけ抱き締めても崩れていく。その後、時は経て追う姿をも忘却の彼方、鬼は寄る辺ない暗闇で一人泣いた。
(会いたい、王子……なのに貴方がもう思い出せない……)
もう糧も得られぬ鬼は身動きも出来ず、ただ思いは募り、涙と化し、無限となって滴り落ちる。
(さようなら、会いたい、もう会えない……誰に?何に?もうわからない……)
壊れた機械のようにただただひたすら、想いと悲しみは層を重ねた。

*

 すべてが尽きかけたそんなある日、ぼんやりとしたものが暗がりに浮かぶ。もう自我もない小さな願いのひとかけに、何もわかるはずがなかった。